一般社団法人日本MOT振興協会

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トレンドを読む(加納 信吾)

震災復興の需要表現  (2011.3.25)


 未曾有の国難である。経済活動、国民生活ともに再構築を迫られている現下の情勢にあって、我々は社会設計の前提を再検討すべきタイミングにきている。
 元よりMOTの最終目標は、食糧、エネルギー、医療・健康、安全保障などの人類普遍の欲求に応えていくことにあるが、今回の震災はこれらのテーマがグローバリズムでも、ローカリズムでもなく、国家レベルでの安全保障的観点の重要性を国民に広く再認識させたといえる。
 しかしながら、国旗・国歌に反対する議員が多数を占める現与党にあっては、国家観の欠如が著しく、震災後の対応を見るにつけ、遺憾ながら危機管理や安全保障の基礎知識すら不足していると解釈せざるを得ず、現政権下での政治的リーダーシップに多くは期待できない。
 一方、日本は世界に冠たる産業資材・部品の供給国家であり、日本の機能不全は世界の機能不全であることを図らずも証明しつつあるが、経済界は今回の事態を受けて、効率と安全保障のバランスをとる必要性を痛感している。

「需要表現」の観点から、各種課題を検討する

 このエッセイでは、MOTの課題としての震災復興を安全保障と関連づけて、その目標設定自体を重視する「需要表現」の観点から、各種課題を検討していくこととしたい。
 まずはエネルギー問題である。
 我々の目標の上位概念としては、「エネルギーを安定的に確保すること」から「エネルギーを安全にかつ安定的に確保すること」に再定義しなくてはならない。放射性物質拡散の事態を受けてこの定義に異論を挟むことは、もはや不可能である。政治的にも国内での原発増設は非現実的であり、一方で夏場の需給ギャップは、850万キロワットに達する。休止火力発電所の再稼動だけでは補いきれない。

消費するものが自ら原料を調達し、自ら生産するという「完全分散パラダイム」へ転換

 このギャップこそがイノベーションのドライビング・フォースであると捉えることからMOTは始まる。
 次世代のエネルギー供給システムを考える前提として、今回の震災は「大規模集中発電パラダイム」の破綻を意味していることをまずは指摘しておきたい。
 このことからは、極論すれば、エネルギーは利用可能な最終商品を購入するものではなく、消費するものが自ら原料を調達し、自ら生産するという「完全分散パラダイム」へと、今後は転換されていくシナリオすら想定される。

複数の技術の併用こそが、MOTの真髄

 100℃以下の低沸点媒体による温泉発電、洋上風力、海洋での藻によるエネルギー生産、海洋温度差発電、バイオマス、スターリング・エンジン等だけでなく、あらゆる技術的可能性を捨てることなく、再検討すべき時期がきている。
 我々が避けるべきは「技術軌道の固定化」であり、現在保有している技術的選択肢の高度化を図るだけでなく、新たなパラダイムの着想とその実現にむけた開発目標そのものを再定義することが求められている。
 旧パラダイムは、それまでの時間稼ぎとしての位置づけにおいてのみ許容されよう。複数の技術的選択肢の併用こそが、MOTの真髄である。

© Shingo Kano, 2011

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