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トレンドを読む(加納 信吾)

さあ、国益の議論を始めよう  (2011.11.25)

 TPPとは実質的に「新」日米構造協議である。関税だけでなく非関税障壁、すなわち日本の社会システムそのものがターゲットにされている。経済界は原則賛成と報道されているが、論点整理が不十分であり各業界レベルでの準備不足は明らかである。米国の目標はTPPで米国内に200万人の雇用を創出することにあり、日本の雇用創出に資するかについては情報が錯綜している。全ての物品・サービスが対象となる以上、農業・医療だけでなく日本の産業界全体が該当しており、各界が加盟決定前に早急に検討すべきは以下の点である。
 第1に、条約が国内法に優先されることの影響を評価することである。日本に進出した外国企業は、彼らに不都合な国内法についてISD条項を盾に日本政府を訴え、損害賠償を請求できる。その判定は世界銀行傘下の仲裁機関(実質アメリカ)が行う。審議は1回限りで非公開、上訴も出来ない。したがってISD条項をTPP域内の海外競合他社はどのように利用するかのシミュレーションを実施し、ISD条項に基づいた訴訟が起こされる結果、自社の競争条件がどう変化し得るのかを予測しなければならない。ISD条項の利用パターンは無限大にある。日本が独自に設定している安全基準、規格、社会慣行、条例、業法などの社会経済システムの差そのものが標的とされる。過去の日米構造協議や個別分野の日米交渉でリストアップされた論点は全てISD条項の標的であり、日本の主要輸出産業はISD条項適用シナリオに含まれていると想定しておくべきである。なお、ISD条項は、スーパー301条と同様に切り札として、行使しなくともブラフとしても利用される可能性が高い。
 第2に、自社や業界が変更したくない国内の事業環境と国益との接点を見出すことである。日本の産業界は日本の社会システムに適応した合理的な行動をとっている。グローバル企業は本来進出先のローカルな社会システムに適応すべきであるが、今回は日本と外国との社会システムの差がISD条項の標的となる以上、日本の現在の社会システムが日本の国益に資することを主張しなければ、国内での適応行動そのものが不合理とされてしまう。したがって、何が国益に資するのかを社会システムとセットにして自己主張することが求められている(もちろん、改善点の指摘も必要)。
 第3は、業界ごとの広報戦略の立案である。声をあげなければ原則、例外としては扱われない。業界にとっての死活的な問題点を自らの情報収集手段で洗い出し、論点整理を行うとともに情報発信を強化しなければならない。業界専門誌や業界新聞を通じて情報発信するとおもに、整理された論点を広く拡散し、国民に広く知らしめるための積極的な広報戦略を立案しなければならない。
TPP加盟は日本独自の優れた社会システムを破壊しかねない危険を伴っており、加盟のインパクトと国益を照合する作業は急を要する。

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