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トレンドを読む(加納 信吾)

スマートフォン特許紛争の本質  (2012.2.20)

 スマートフォンを巡る特許紛争が本格化している。欧州、米国でのアップル・サムソン間の訴訟は、デザイン・技術の両面から知的財産権とは何かという本質的な問題を提起しており、プロパテント政策を掲げるわが国においてこの問題がどう決着するかは、日本市場における知的財産権の取扱いを世界に提示する上でも極めて重要な案件となっている。
 着目点は、係争中の製品が責任あるコメントが発せられることなく堂々と販売されていることであり、提訴に対して逆提訴がなされ製品の世代交代の中で知的財産権がどこまで有効なのか、ビジネスとしてはどう決着し、消費者にどう影響するかである。妥当な決着がなされない場合は、知的財産権に対する秩序に負の影響を与えることが予想される。
そもそも特許戦略は業種によって著しく異なっている。医薬品の場合、数千億円の単一製品の売上の裏打ちとなる特許はたかだか数本の特許で構成されており、また重要特許は必ず主要国に国際出願される。一方、エレクトロニクスにおいてはひとつの製品は数百本規模の特許群に支えられており、技術標準化に貢献する特許群はパテントプールに供されることもあり、知的財産権の活用法は極めて多様である。製品寿命が年々短くなっていることから、必ずしも国際出願されているとも限らない。このことがエレクトロニクス産業における特許紛争を複雑化させており、企業間のクロスライセンスによるパッケージ提携が妥当な取引であったか否かの判定を難しくしている。
一方ではシャープが液晶で採用したようにノウハウ流出を防ぐために意図的に特許出願を控えるという考え方もあり、他方にはインテルのようにインターフェイスのみを公開するオープンポリシーを保持しつつ、意図的にクローズ部分を構築して外部にはライセンスせずコードも非公開とするというプロテクションも存在する。複雑な選択肢が交差する中でオープン・クローズの境界線をどこに引くか、どの部分で標準化を狙うのか、どこで収益を上げるか、中核的な要素に対する侵害にどう立ち向かうかについては、トップダウン的な技術戦略構築のリーダーシップが求められている。
提訴に対する逆提訴を受けてクロスライセンスで決着するという対応は一見妥当な決着に見えるが、それがトータルな戦略上の許容範囲にあるのか否かが判定できるのは、全体戦略が構築されている場合に限られている。
 ガラパゴス携帯が発達した日本で日本の端末メーカーがスマートフォンで劣勢である原因をキャリア特性に求める説もあるが、フォローワーによる知的財産権侵害がどう処理されるかは、日本メーカーの今後の展開余地を考える上でも、「特許で優位・ビジネスで劣勢」といった最悪なパターンを避ける上でも、重要な観察対象となっている。

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