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トレンドを読む(加納 信吾)

経済報道とWEB2.0  (2012.5.21)

日本の消費者行動に変化が見られる。元々品質に厳しいが、購入前に情報検索し、多様な意見を比較検討した上で購入を決定することは既に常態化しており、所謂ステルスマーケティングに対する抵抗性も日々上昇している。情報の裏をとることは情報判断の基本であり、成長した消費者達の購入決定要因はグリーン消費等だけでなく、自らの購買行動を公益や国益と連動させて考えるように変化し始めている。例えば、昨年から始まった花王に対する不買運動は国内外における反日番組へのスポンサーシップが起点となり一般消費者によるデモに発展したが、経営陣は有効な対策を講じていないため、不買運動は沈静化していない。これに対して広告代理店の統制下にあるマスメディアはこの事態を報道しない自由を行使したが、ネットが常態化した現在では、それすら大々的に暴かれて全く逆効果となり、不買運動の強化に作用している。
経済ニュースの消費においても同様の事態が起きている。経済記事は、一旦発信されるとブログで取り上げられてコメントされるかスレッドが立てられると同時にこれに対する国内外の関連情報がソースともにコメントされ(中には専門家によるものも非常に多い)、2次・3次的な集約加工が施されて「集合知」が出来上がり、消費者に判断情報として提供されている。特にプロパガンダが疑われる報道に対しては集合知による「フィルター効果」を消費者は期待しており、消費者が参加者となって情報が集積する。例えば、TPPや消費税では、経済紙の徹底したプロパガンダ報道に対しては集合知による徹底的な吟味が試みられ、新聞報道の信頼性は今や地に堕ちている。共にデフレ促進策であるだけでなく、減収覚悟の増税や交渉条件不明の条約締結など論外とされ、様々な角度から検証が実施された。プロパガンダの枠組みに拘束されたサラリーマン記者とプロから素人までが多数集い自由に発想する集合知とでは最初から勝負は決まっており、科学論文における「査読」と同じ作用がネットではラフな形ではあるが働いたのである。情報を操作する側と集合知を構築する側のせめぎ合いに終わりはなく、操作側の集合知への介入も頻発しているが、玉石混合ではあるものの集合知の発生自体を止めることはもはや不可能になっている。
WEB2.0の提唱者オライリーは、7原則のひとつである「集合知」の成立には、意見の多様性、独立性、分散性、集約性を要し、消費者の貢献がもたらすネットワーク効果が市場優位を獲得するカギとなるとしたが、現在の消費行動を見事に言い当てたと言えよう。
団塊の世代が「情報弱者」と揶揄されるのは、集合知の実態を知らず利用スキルが低いため、依然としてマスメディアの洗脳下にあると疑われているためだが、情報判断をマスメディアにのみ依存し集合知の利用を怠っているようでは「失格」とMOTでは教えている。

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