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トレンドを読む(加納 信吾)

日本版エクソンフロリオ条項  (2012.8.31)

MOTにおける「需要表現」では、目標設定を最重要概念として取り扱っている。戦後日本は、目標設定から入る戦略思考を始めようとすると、国家生存の基本権を否定した憲法第9条と最終的に衝突し常に「論理エラー」で思考停止に陥ってきた。目標設定の最上位概念は人間の基本欲求である生存にあり、この部分における思考停止は、食糧、エネルギー、資源、環境、医療などMOTが取り扱おうとしている重要課題を議論する際にも深刻な論理的・心理的影響を与えている。プランナーには自由な発想に基づく戦略思考が求められており、中核部分での論理エラーが派生概念での合理性担保を阻害している状態を我々は積極的に治癒すべき時期にきている。何故ならばこれらは本質的に連動しているからである。
安全保障問題を議論する際の格好の素材として外資規制法がある。米国ではエクソンフロリオ条項、日本では外為法27条が相当し、近年ではUnocal-CNOCC事件(中国の石油会社が米国の石油会社の買収を断念した件)、Jパワー事件(日本政府による英国投資家の出資中止命令)などが知られている。両国ともに個別業法と包括法の2段構えだが、安全保障を具体的には定義せず、日本ではその背景となる「国の安全」(主に防衛産業)、「公的秩序」の維持(社会インフラ)、「公衆の安全の保護」(警備と医療)の3類型について業種を定めているのに対して、米国では業種を定めず安全保障上考慮しなければならない11の要素を定めて、企業投資だけでなく土地取引も含めて広範囲に規制できるようになっている。
米国は事後介入型、日本は事前届出型とされるが実質的には両者ともに事前審査、事後介入ともにあり得るとされる。米国における審査体制ではCFIUS(対米外国投資委員会)を構成する国防長官、国家情報長官、司法長官、国土安全保障長官、財務長官等のうち国防長官が主な役割を担うのに対して、日本では財務大臣及び事業所管大臣が審査するが最も重要な防衛大臣が関与できないこと、水源地や基地隣接地などの個人による土地取引を安全保障上の理由で阻止できるようになっていないこと等が問題点として指摘されている。
日本での発動事例は現在1件だが、審査体制の欠陥を修正すること、規制対象への運用を強化するだけでなく土地取引にも拡大すること、調査・審査のための組織及びチェック機能を強化することが求められる。今後でてくる多くのケースは安全保障とは何かを考える格好の教材を提供するはずである。そして我々が現在陥っている中核部分での思考停止状態の解除が戦略思考の出発点となり、資源、エネルギー、食糧などの重要課題で地政学的な目標設定とMOT的な発想との融合が開始されることを私は期待する。国民の関心が領土防衛と資源確保に向かっている現在、MOTにおける戦略的発想の自由度と目標設定の妥当性が今程求められている時期はない。

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