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トレンドを読む(加納 信吾)

中韓からの戦略的撤退  (2012.10.5)

対中進出の危険性を理解するには2つの法律「技術輸出入管理条例」と「民事訴訟法231条」を知っていれば十分である。法律事務所が主催する「中国進出セミナー」では必ずこの2つは説明されている。知らずに工場進出や技術導出を決定した経営者はスタッフの質を疑う必要があるし、知りつつ進めた経営者は目先の実績のために副作用については目をつぶったと解釈せざるを得ない。
高速鉄道技術に関する中国側の海外大量特許出願を後押ししているのが「技術輸出入管理条例」である。国際的な契約常識では、技術導入した元の技術に対する改良発明の特許出願には導入元の権利が波及しかつ特許出願にも導入元の許諾を必要とする。しかしながら、同条例では改良発明は全て中国企業に帰属しその海外出願を阻止することはできないとする。対中技術供与を行う企業は技術導出にあたり国際常識に沿って作成された契約を締結するが、契約法と同条例の関係が不明確なため、この条例によりいつでも無効化される。つまり、対中技術導出は相手先に技術基盤を無償で供与するのと同じ行為となる。それ故、高速鉄道技術のような問題が起きるが、現在のところこれを回避する手段はない。ライセンス交渉の経験者にはこの条例のリスクを十分に理解できるが、中国や韓国のように知的財産権が正当に保護されない国のカントリーリスクに疎い経営者は安易な技術導出や工場進出がその後の企業活動に与える深刻な影響を理解できていない。最近では造船、鉄鋼、半導体、家電での経験から学習できず、最新鋭の炭素繊維工場を韓国に設立した企業の例もあるが、合法・非合法を問わず技術流出のリスクを理解できない経営者につける薬はないようである。
一方の民事訴訟法231条は、「民事上の債務を負った場合、その企業の関係者は債務完了まで出国制限を受ける」という法律であり、現在100名以上の日本人がこの法律により出国制限を受けている。危険なのはでっちあげの商標法違反でも、現地の裁判官の采配次第で法外な賠償金を支払うまでは出国できないという点にある。進出した日系企業が、中国から他国へ移転しようとしても、民事上の債務問題を理由に関係者が出国停止を命じられるリスクは高く、かつてのゼネコン社員のように国家間紛争解決の手駒とされる危険も高い。
幼少期からの徹底した反日教育が日系企業への訴訟を誘発する状況下において、通常の法治を逸脱したこれらの法律は合理的な企業活動を不可能にしており、企業はトラブルを最小化して速やかに撤退を開始すべきである。同時に日本政府は、知的財産保護が不十分でビジネスルールが不公正な国家に対しては一定の制裁措置を講じるとともに、日本企業とその従業員の安全確保を積極的に図るべきであり、それができないのであれば渡航制限をかけるのが筋というものであろう。

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