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トレンドを読む(加納 信吾)

草の根イノベーションと日本文明  (2013.1.17)

日本の覚醒が始まっている。時代の行き詰まりの中での自覚的な履歴の再確認と言ってもよいし、人類に貢献すべき役割の探索と言ってもよい。古来より日本にはルソーが理想とし実現不可能と諦めていた「キミ・トミ・タミ」による君民共治が根幹にあり、いかなる政体を取ろうとも、王朝の交代を起こさず不動の連続性を維持してきた。この連続性が安定した社会秩序と相互信頼を生み、個人と共同体の間にある紐帯が独自の文明を育んできた。ハンチントンは日本文明を孤立型と定義したが、ここから発生する技術や製品も合理性とともにある種の特殊さを併せ持っており、この特殊性が日本製品の特性に影響しているとの観点での分析はあまりなされていない。
日本には、味噌・醤油・納豆などの発酵技術、日本刀・鉄砲の製鉄技術、和紙、漆加工、古墳・平安京・城、果ては玉川上水に至る高度な土木水利技術、世界初の米先物取引など、工人国家にふさわしい履歴がある。これらの技術発展は時代の要請を捉えた天才的な職人の貢献もあったであろうが、社会が安定的であることで職人に創意工夫の余裕を与えられたことが、身近な生活の質を向上させる製品を多数発生させてきた要因ではないだろうか。さらには職人を尊ぶ社会風土も重要であったと思われるが、閉鎖的な共同体の中でユーザーと切磋琢磨されることで製品を進化させてきた。現代風には、オープンでもなく、システム思考でもないが、ボトムアップで高品質を実現したという説明になってしまうのだが、
この解釈だけでは説明しきれない何かがある。現代においても内向的な切磋琢磨を主とし、世界的にも受け入れられることはあるが、元来海外市場を想定していなかったものは多い。アニメが代表例だが、この他にも意外な日本製品が世界の支持を得ている。例えば、マヨネーズ、保温型弁当箱、レトルトカレー、紙おむつ、ウォシュレット、シュークリーム、蚊取り線香、針無しホッチキス、使い捨てカイロ、消せるボールペン、消しゴム、包丁、軍手、洗濯ばさみなどがある。これらの製品群は海外市場を前提としない内向的な競争と創意工夫の結果であるのだが、世界の消費者にも文化を超えて受容されている。生活必需品ですら、日本のガラパゴス的競争を経ると海外にも通用するという事実を軽く見るべきではない。自動車・家電ではなく、日常品の中に価格や生活習慣を超えて展開可能な製品群がこの他にも多数存在している可能性を我々は真剣に再点検すべきである。日本文明は日本独自か海外由来かであるに関係なく、一旦取り入れた製品に対して改善型のイノベーションを随所に生み出しており、その特殊性と芸術性は時に普遍性を持つという観点から全分野で再評価すべきと思われる。日本文明は日常生活を不断に改善しており、その成果を世界に供給することで人類に貢献できるとするのは言い過ぎだろうか。

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