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トレンドを読む(加納 信吾)

資源大国のシナリオプランニング  (2013.5.31)

 日本がトップを独走するメタンハイドレート開発が佳境に入ってきた。東部東海トラフ海域の「砂層型」に対する減圧法での試験生産の成功、日本海側での「表層型」の調査開始のニュースは朗報であり、推定で国内消費量100年分を超える埋蔵量とされ、課題は多いとされつつも日本はエネルギー自給へ一歩近づいた。一方で南鳥島近海では、海底下3メートルに中国鉱山の32倍の濃度でレアメタルが国内消費量数百年分存在していることが判明し、日本は海底資源大国であることが再確認された。これに未開発の海底熱水鉱床も加味されることから、日本の国富に新たな資源が裏打ちされ、円は量的緩和に十分耐えうる実物資産を有するに至った。
 日本はこの莫大な海底資源に周辺国が介入する事態を何としても回避しなければならない。ジョセフ・ナイが2008年に上院下院の200名以上の国会議員を集めて作成した「対日超党派報告書」では、東シナ海・日本海の石油天然ガスはサウジアラビア以上の規模があり、これを入手するために、自衛隊が海外で軍事活動が出来る状況を形成することを前提として、中台間の紛争に集団自衛権によって日本を介入させた後に徐々に手を引き、日中間の紛争に転換し激化したところで米国による日本海・東シナ海のPKOを実施し、秩序維持の主導権を掌握した上で資源メジャーが開発の中心となるシナリオが描かれていたとされる。真偽は別としても、昨今の情勢はこのシナリオに若干の修正を要していよう。複雑な手続きを経ずとも尖閣を巡り最初から日中間の紛争も想定できること、北の核恫喝が本格化したことから今年の3月には上院外交委員会で日本の核武装が主要な議題となっていること、米国のシェールガス革命が世界のエネルギー事情を一変させたことから採掘権確保に時間的な余裕が生じたことなどが主な修正要因であろう。いずれにしても、当事者間の紛争を限定的にするための日本独自の抑止力が必要という判断は大きな変更であるに違いない。
 日本は未来を想定するシナリオプランニングの領域では専門家を育成してこなかった。米国では、古くは「オレンジ計画」で対日戦争を占領政策まで想定し、戦後は民間企業においても主に石油メジャーや大手ゼネコン内で専門部署を設け、経済、政治、技術開発、軍事、社会情勢などを複合的にハンドリングする専門家を育成し、政府機関や軍と連動して活動してきた。資源大国として歩み始める日本は、相手の予想を上回る技術開発で周辺国のシナリオを打ち破るといった産業技術一点突破主義ではなく、主体的に未来をデザインすべき時期に来ている。MOT教育においても、資源エネルギー問題はその目標設定の妥当性を担保する必要から地政学的な要素との融合が求められており、複合的な視野でのシナリオプランニング教育はカリキュラム開発上も必須となりつつある。

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