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トレンドを読む(加納 信吾)

スマートビエラの快挙 (2013.7.31) 

 Panasonicが発売した新型TV「スマートビエラ」は、従来のTVと異なりTV放送とインターネットの受信を同列に扱う。視聴者は既存の番組や報道に辟易している一方で、「家族で時間と場所を共有して見る」だけの価値のある優れたコンテンツはYoutube等ネット側に多いと実感しており、テレビ感覚でネット動画が見れることが売りである。Suicaの普及が定期券を介したのと同様、行動様式を変更することなく新たな機能や情報に誘導することが可能となる。この製品は放送と通信の融合がもたらす必然的な産物であると同時にテレビの未来、ひいては情報収集の未来を変える可能性を秘めている。今後はネットを通じたオンデマンドストリーミングが主流となり、番組表に沿って一方的に放送するスタイルは廃れていく。既に映画やドラマではオンデマンドでのネット配信が実現しているが、録画機器の自動CMカット機能も簡易編集機能という名のもとに強化されていくことになる。こうしたテレビとネットの融合による新たな製品進化軌道の出現は重大なパラダイムシフトを含んでいる。
 これに対し民放全局は「放送番組とインターネットのサイトなどが画面に一緒に表示されるのは、関係業界で定めた技術ルールに違反する」として、スマートビエラのCMを拒否した。独禁法抵触を疑うべき事態である。ニュース配信会社と視聴率調査会社を関連会社とし、情報のインプットと最終アウトプットをコントロールして広告で稼ぐ垂直統合型のビジネスモデルを主とする広告代理店は、受け身な視聴者がこの種の製品を通じて彼らの情報統制の枠を外れて「情報の選択の自由」を手にすることを防ぎたいのであろう。しかしながら、多様なソースの情報が投稿され視聴率が再生回数でカウントされるパラレルワールドが出現することはもはや止めようがない。情報カルテルがヒステリックに反応したこと自体がパラダイムシフトの存在を示唆しているが、ユーザー選択が自由度の拡大に向かうのは自然な流れである。
 民放とはビジネスモデルが異なるが、NHKはインターネット接続に対してNHK受信契約を義務付ける放送法改正を目指しているとされる。近年、公共性・中立性を放棄した偏向報道が問題視され、純粋に公共性が担保される部分を残してNHKを解体すべきとの世論がある中で、税金に準じた料金徴収システムを持たせることに疑問の声が上がっている。選択の自由という観点から、NHKを見ない人向けに緊急放送を除いてNHKがインターネットでも放送でも受信できない機能が付いたテレビのニーズがあるのもこの理由による。
 「スマートビエラ」は「全局CM拒否事件」を通じて周知され始めており、「見る・見ない」を含めた選択の自由を視聴者に与える第一歩として、また民主化された情報提供システムのツールとして消費者に歓迎されていることを我々は重視すべきであろう。

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