新エネルギー開発の優先課題 (2014.2.30)
小泉元首相が「原発即時ゼロ」を訴えている。核のゴミの終処分場がなく、足元を見られながら高価なガスを輸入して巨額の貿易赤字を続けながらも、現状では原発稼働なしで社会が維持されているのは事実である。だが、即時ゼロは最終解決に至る正しいパスであろうか?誰しも長期的に原発に頼り続ける未来を予想していないのだが、実現可能な代替案なしに即時停止を訴えるのでは無責任極まりない。使用済み核燃料(およそ2万 t)を再処理せずに最終処分することは不可能であり、スローガンのみで「脱原発の目標達成までの技術的プロセス」を提示しない稚拙な主張は MOT 的にも容認できない。
日本は高齢化社会の到来による医療費の高騰に耐えうる財源を確保する必要があり、輸入エネルギー購入による国富の流出を小限に抑制しつつ、安全なエネルギー源を模索することが求められている。MOT 的観点からはこのためのいくつかの選択肢が存在する。
まずは財源の確保である。現状の電気料金維持を容認しつつ、今後 20 年間に限定して原発を可能な限りフル稼働させるという選択肢は極めて現実的である。年間 2 兆円程度のガス代を節約しつつ、40 兆円の財源が捻出される。日本経済だからこそできる荒業である。この財源を新エネルギー開発、除染、廃炉の原資に振り向ける。加えて収奪的かつ悪質なレントシーキングである固定価格買取制度を現状受付分までで廃止し、これ以上の電力料金値上げを防いでおく必要がある。なお、輸入太陽光パネルは 10 年後には粗大ゴミとして社会問題化することは今から予想されている。
次に新エネルギーの研究開発に集中的に資金を投入することである。40 兆円を国民の納得する形で拠出・分配するためには特別立法も必要となろう。メタンハイドレート、地熱、洋上風力、高効率な発電機、マグネシウムによるエネルギー貯蔵技術などは加速開発の優先ターゲットであり、対応する社会インフラの構想も含めたプラットフォームをデザインしていくことも求められよう。
もうひとつの選択肢は、新しいパラダイムに基づくエネルギー源の追及を始めることである。その萌芽は既にある。三菱重工は、常温・常圧の重水素ガスを、Pd と CaO を添加した独自の反応膜に流し元素変換を実現している。例えば、Cs133 が Pr141 に変換される。この技術は他の元素にも展開可能であり、複数の研究機関で再現性が確認されている。戦略的に貴重な元素の生成、有害元素の変換処理、新エネルギー源獲得などの応用が期待される。原理の解明には時間を要するが、常温型の元素変換は、現代文明の在り様を根本的に変えるパラダイムチェンジの筆頭候補と言えよう。
今国民が求めているのは、解決策とセットになった持続可能なエネルギー供給のシナリオであり、こうした提言は MOT の存在意義でもあるが故に関係者の奮起に期待したい。