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トレンドを読む(加納 信吾)

マグネシウム文明の予兆 (2014.12.5)

 燃料電池車と水素ステーション整備のニュースがメディアを賑わしている。東芝と川崎市が実験を始める太陽光発電設備、蓄電池、水素を製造する水電気分解装置、燃料電池などを組み合わせた自立型のエネルギー供給システムもひとつの可能性であろう。水素は新しいエネルギー媒体としてその先駆けとなりつつあるように見える。
 この中であまり騒がれていないが、古河電池と凸版印刷は2014年8月に、非常用マグネシウム空気電池「マグボックス」を共同開発したと発表した。紙でてきた容器に水や海水を入れて携帯電話を30回充電できる300Wの使い捨て電池で価格は1万円程度である。正極に酸素、負極にマグネシウム(Mg)を使う「空気電池」は酸化したMgの負極材を還元することで再利用が可能で、正極の構造を簡易にでき、負極のMgが放出する電子の量が多いため、同じ重量でリチウムイオン電池の10倍のエネルギー密度の電池となる。5年後に家庭の電力を賄える3kW、10年後に1000kW規模の小型発電所レベルの発電システムを目指しているという。Mgの資源量はNaについで多く海水中に1800兆トン存在し、単位体積当たりのエネルギー貯蔵量は水素の10倍である。また、重量当たりの反応熱は25MJ/kgで石炭の30MJ/kgとほぼ同等であり、火力発電所でリサイクル可能な石炭代替品として現在のインフラをそのまま活用できる利点がある。課題はMgの精錬と還元にあり、現在のところ太陽光励起レーザーによる方法が提案されている。
 水素とMgが既存のエネルギーインフラをどのようにシフトさせていくのか、また再生可能エネルギーの貯蔵という観点からどう競合していくかというテーマは実にMOT的であり、「Mg文明VS水素文明」という視点は未来をデザインするトレニーングとしても格好のMOTの教材である。
 2つの技術的な選択肢に想定されるメリットとデメリット、これ以外の技術的な選択肢との比較、技術開発課題と期待されるブレークスルー、実施されるべき政策誘導、国内立地と海外立地、アプリケーションや顧客セグメントの優先順位、2つの技術的選択肢は競合なのか棲み分けなのか、他のインフラとの補完性など論点はつきないが、これらを分解・統合して議論していくことで、未来のデザイン能力は向上していく。
 MOT系の専門職大学院を魅力的にするためには、基礎としての座学も必須だが、シミュレーション経験を積む演習系のカリキュラムの充実が求められている。エネルギー問題は参加者の共通課題として演習に適しており、さらには発表の機会として、エネルギーディベートキャンプといった企画で複数の大学院でアイデアを競う場を提供することも必要であろう。MOT振興の鍵は、未来への意志とアイデアを語る場を広く参加者に提供していくことではないかと筆者は考えている。

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