ヒット商品欠乏症 一から出直し創意再生 (2012.5.21)
テレビを主力製品にしてきたパナソニック、ソニー、シャープの先行きが危ぶまれている。2012年3月期の連結決算で巨額の最終赤字を計上し、海外のライバル企業に大きく水をあけられた。
かつて日本の消費者向けエレクトロニクス製品は世界で圧倒的な強さを誇った。テレビやビデオテープレコーダーなどで、外国メーカーを駆逐したのは、そう遠い昔の話ではない。ところが今や米国のアップルや韓国のサムスン電子、台湾のEMS(電子機器の受託生産サービス)企業などとの競争で、完敗である。
原因は一つではないが、巨額赤字の主因は結果的にいえば、薄型テレビへの投資判断の誤りとの見方が多い。基幹部品の液晶パネルやプラズマパネルから最終製品まで一貫生産する、いわゆる垂直統合モデルへの膨大な設備投資が、製品の急激な値下がりや国内市場の縮小によって裏目に出たというわけである。
これには当然、経営者に結果責任がある。しかしリスクを取って不確実性に挑むのが企業の役割なのだから、経営判断に失敗はつきものである。ブラウン管から液晶やプラズマへの転換で日本メーカーが先陣を切った功績を忘れて、やらなければよかった式の批判をするのはフェアとはいえないだろう。
これからを考えるとき、最も気がかりなのは各社から画期的な新製品が出なくなっている点だ。今までテレビのシェア競争への対応に追われて、大量の液晶パネルやプラズマパネルをいかに安定的に調達するかに精力を割きすぎたようだ。このため肝心の商品作りが疎かになっていたのではないか。
ソニーの再建を託されて4月1日に就任した平井一夫社長は、「ソニーは世の中に無い物を次々と生み出して、世界中の人々の好奇心を刺激し新しい時代を作ってきた会社です」と記者会見で述べた。今は残念ながら、時代に取り残されている。
4月18日にシャープの新型テレビの発表を取材して、重症だなと改めて思った。目玉は「国内最大の80型液晶テレビ」である。
見るからに大きく畳一枚分はゆうにある。大迫力は結構だが、何畳の部屋で見たらよいのか。当然、質問が出た。「何畳に合うかはまだ提案できませんが、適切な視聴距離は2.4〜3メートルです」という答に首をかしげた。一般の家に運びこめるのかとの質問には「引っ越し業者と相談したい」と頼りない。どのくらいの重さなのか資料を見ると「未定」となっていた。
誰に売るつもりなのか。大きくて奇麗な画面のテレビができたので売りますというのでは、全くのプロダクトアウトである。パナソニックにも、消費者をわくわくさせるような商品を見かけない。
なぜ深刻なヒット商品欠乏症に陥ったのか。6月下旬に社長になるパナソニックの津賀一宏専務は「他社より早く面白い物を作ろうと冒険する風土が希薄になった」と言う。企業体質の官僚化によって、いつの間にか商品開発も決まりきったやり方でよしとするようになったのだろう。一から出直して創意を再生させることが、3社のトップに課せられた最大の責務だ。