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トレンドを読む(鳥井 弘之)

「報償」ルールにも相互感謝を  (2014.12.5)


 パナソニックが基礎研究を担ってきた本社直轄の研究開発部門の人員を約1000人から約500人に半減するという報道が6月にあった。大学や研究機関と連携するオープンイノベーションの流れを受けて、本社が大きな基礎研究部門を抱える必要がないと判断したという。
 研究という知的活動は、その動機によって大きく二つに分けることができる。例えば超電導である。一つは、何らかのきっかけで新しい超電導物質を見つけて、超電導が起こる仕組みを徹底的に調べる、といった具合に進む研究である。
 もう一つに、送電線のロスを減らすといった動機で始まる研究もある。電気抵抗の小さい物質という観点から超電導も候補の一つになる。超電導を採用するなら、どうやって長い線を作るか、どうやって超電導状態を維持するか考えることになる。
 前者は、物質や現象についてもっと知りたいという研究者の好奇心が駆動する。もっと知りたいと思えば、対象を分析することでより細部までを追求することになる。従ってこのタイプは、好奇心駆動型研究とか分析的研究と呼んでもいいだろう。
 後者は、それまでに蓄積された知識をまとめ上げ、社会的に必要とされる課題にチャレンジする。これを課題解決型の研究とか、知識統合型の研究と呼びたい。
 課題解決型の研究だけでは、何時までも陳腐な知識に頼らざるを得ず、ブレークスルーは起こりにくい。好奇心駆動型の研究だけでは社会の革新には結びつきにくい。
 好奇心駆動型の研究があるからこそ多様な知識が生まれる。また、課題に挑戦することで、新たな知識に対する期待が起こり、新たな好奇心を刺激する。筆者は、二種類の研究が互いに刺激し合うダイナミズムを「知の循環」と呼んでいる。「知の循環」こそが科学技術を発展させる鍵である。
 1995年に科学技術基本法が制定されて以来、日本は研究開発に対し大きな国費を投じてきた。議論の過程で大学の研究者が中心になったためか、主に好奇心駆動型研究が重点投資の対象になった。結果として、社会の革新に繋がる成果は多くなかった。
 円滑な「知の循環」を設計するのは極めて難しい。好奇心駆動型の研究は、論文という形で評価する仕組みが確立している。一方、著しい社会革新に繋がった場合はともかく、課題解決型の研究に対する評価の仕組みは定着していない。研究者の関心が論文の方に向かうのはや やむを得ないかもしれない。
 国、大学、企業によって比重の置き方は違うと思われるが、いかに「知の循環」を加速するかが重要である。パナソニックの組織改革はが何を意図したのかは不明だが、単なる研究のアウトソーシングであれば面白味に欠ける。是非、強烈な「知の循環」を実現するという意気込みが欲しい。

© Shingo Kano, 2011

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