一般社団法人日本MOT振興協会

米国ボストン報告 アメリカから見た世界(植田 麻記子)

オバマ離れする若者たち?:アメリカの若者と選挙を考える  (2014.12.5)

 すっかり秋深くなったボストンから、ご報告します。11月4日に現在のオバマ政権の今後を占う重要な中間選挙が行われました。同盟関係にあるアメリカの政治の将来は日本にとって非常に重要であり、国内でも今回の選挙についてはさまざまな報道、解説が行われているかと思います。このコラムでは、学園都市であり、学生が集まっているボストンの土地柄に考慮して、今回の選挙、それから政治全般における若者たちの感覚をお伝えします。
 今回の選挙結果の報道では、オバマ大統領への支持低下と共和党の勝利が強調される傾向が見られます。実際に、上下両院において、共和党が過半数を獲得し、元来民主党の支持率が高く、オバマ大統領と民主党の支持層である若者の投票率も高いいくつかの州でも共和党が勝利しました。その一つのマサチューセッツでも、共和党の州知事が誕生し、そのことは米国でも驚きを持って受け止められました。オバマ大統領誕生に沸いた2008年、そして蓋を開ければ大差の勝利で再選が決まった2012年から、米国国内の空気はたった2年で様変わりしてしまったのかと、大統領制と二大政党制を柱にするアメリカ民主主義政治の振れ幅の激しさに、少し怖くすら感じられました。しかし、現実はそれほど簡単ではないようです。2008年と2012年にオバマ氏を大統領にしたのは若者たちだったといわれてきました。その若者たちは今回どのように行動したのでしょうか。
 オバマ大統領の支持率を考える上で若者(18歳〜29歳)は常に重要な層であり続けています。今回の中間選挙以前の昨年2013年から、オバマ大統領は最大の支持者であった若者を失っていると指摘されてきました。ワシントンポストも繰り返し、2014年中間選挙での若者の民主党支持の低下を見通した記事を掲載しました。最大の要因は、若者層に広がるオバマ・ケア、いわゆる国民皆保険制度実現に向けた医療保険制度改革への幻滅と政治離れと言われてきました。
 2012年の再選も支え、もはやオバマ氏を大統領にするという仕事を終えた若者たちの視線はオバマ・ケアの実施が順当に機能しておらず、将来的に自分たちの負担増が見込まれる現実に向かい、同時に政治そのものへの関心の低下も進んでいると分析されてきました。オバマ・ケアは加入者数を伸ばしてはいるものの、それは同時に費用増大を予測させます。しかし、オバマ大統領は富裕層の理解を得られず、税率の引き上げの調整も亀裂を生みつづけています。
 保守系のジャーナル、Breitbartは今年の7月の記事で、オバマ大統領の経済政策を批判し、景気の向上と雇用創出の実態は、非正規雇用の増幅と正規雇用の縮小で、それによって若者が家を買えず、家族を持つこともできていないと指摘しています。同記事では、オバマ大統領の支持層低下を象徴的づけるためアフリカ系アメリカ人の若者が求人広告を見ている写真を掲載しました。
 International Business Timesの9月の記事では、オバマ大統領の仕事への評価が、大統領を最も強く支持してきた女性、ヒスパニック系、そして若者の間で下降し、もはやオバマ氏にはアフリカ系アメリカ人の支持基盤しか残されていないと辛辣でした。
 一方でしかし、注意深く見ると、単純に若者の支持が共和党に移っているわけではありません。前出のワシントンポストの記事でも強調されているように、若者はオバマ大統領への評価を下げながらも、依然として民主党を支持してきました。そこで今回の11月の選挙で要となったのは、若者の政治離れ、つまり投票率でした。
 ハーバード大学の研究機関IOPは、18歳から29歳を対象とした調査の2014年春版の分析として、11月の選挙の投票率は低下し、保守系が熱心に投票所に向かうだろうとまとめました。実際に、2008年、2012年の大統領選挙との比較では確かに投票率が低下しています。しかし、ここで重要なのは、2010年比較ではほぼ同じで、むしろ少し上がっている点です。選挙直後11月5日掲載のタフツ大学の研究機関、CIRCLEによる分析では、若者の2010年と今回の両中間選挙における投票数の一貫性が指摘されています。オバマ大統領を国のリーダーにすることに関心のある民主党支持の若者たちにとって、直接大統領を選ぶ大統領選に比べて、中間選挙には足が向かないのは、自然な行動と理解できます。
 同じ観点からPolicy. Micの記事でも、共和党支持者の投票への動機の強さとオバマ大統領及び民主党支持の若者層の棄権の背景が分析されています。若者は日々の生活に忙しく、変革の必要性を認識しない民主党支持者は特に投票所から足が遠のく環境にあったと考えられます。一方で、共和党支持者は世代を超えて現状変更への動機づけが強く、投票に向かう傾向が強く出たと言えます。一概に若者層の投票率を見ても、常に同じ人間が投票しているわけでないという点が重要です。とりわけ若者層は強いモチベーションがなければ棄権する率が高まると考えられます。今回の選挙は、若者の観点からは、共和党支持者により強い投票理由があったとも見ることがきるかもしれません。それゆえに、同記事では、 2016年の大統領選挙を見据え、ミレニアム世代(millennials)と呼ばれる1993年以降出生の若者層の、実際の投票につながる支持をとりつける努力が、民主共和両党ともに、一層必要であると結論づけています。
日本同様、若者の票の流れが政局を左右するというのはつまり、この点に起因します。比較的、特定の政党への支持が固く、安定的に投票を行う年配層に対し、若者層は強い動機づけがない限り、投票に行かない傾向が指摘されています。いかに若者の政治参加、投票率を上げるかは日本にも通じる課題です。最後に、若者を投票所に向かわせるVlogBrothersの取り組みを紹介します。
 Youtube上のビデオ・ブログチャンネル、VlogBrothersは、ジョンとハンクのグリーン兄弟が運営する教育チャンネルです。同チャンネルは“オタク戦士(nerdfighters)”と呼ばれるティーン(ヤング・アダルト)世代の絶大な支持を受けています。歴史に文学、生物学に心理学まで多岐にわたって行われる彼らの講義は、アニメーション付きで分かりやすく、大好きなことを楽しそうにとことん語る“オタク”で“ヤング・アダルト”な心を忘れないジョンとハンクの言葉は、偉そうでつまらない学校の先生の言葉よりも、時に10代の子どもたちの心を掴んでいるようです。ジョンとハンクの講義は、Youtubeを開くだけでいつでも無料で受けることができます。
 この教育チャンネルは、なんらかの理由で学校に行けない子どもたちを含め、親を介さずに、子どもたちが教育を受けることを可能にしています。また、VlogBrotersでは、ジョンとハンクによる講義チャンネル以外にも、さまざまなチャンネルとリンクされており、十代の子どもたちが親や教師には聞きにくい、性やいじめについても扱っています。そのVlogBrothersで、今回の中間選挙の直前に「選挙に行かない10のダサい理由」というハンクのビデオが投稿されていました。そこでハンクは、「住民票の登録がどうなっているのか分からない?」「そんなの理由にならないよ、こんなにすぐに解決できる!」と実際の住民票の確認方法などの説明を添えて、若者たちに話しかけています。
 世代間の分断も指摘されるアメリカですが、来週にはサンクス・ギビングを迎えます。宗教に関係のない感謝祭は多くの国民にとって一年でもっとも大切な行事です。おそらく、この感謝祭が、日本のお正月にもっとも近い習慣ではないかと思います。世代を超えて家族や友人がシチメンチョウを囲んで集まり、テレビから日長一日、アメリカンフットボールの試合が流れていると、私はいつもおせち料理と箱根駅伝を思い出します。テレビでアメフトの他にもう一つ、毎年必ず放送されているのが、日本でも『スヌーピー』としておなじみのチャールズ・モンロー・シュルツによるアメリカの国民的な漫画“Peanuts“の“A Charlie Brown: Thanksgiving” (邦題:『スヌーピーの感謝祭』)です。人々が集まる感謝祭の大切さを伝える内容になっています。

【参考資料】
・Harvard University, Institute of Politics (IOP) “Low Midterm Turnout Likely, Conservatives More Enthusiastic, Harvard Youth Poll Finds, Spring 2014:

・The Washington Post “Young people loved Obama in 2008 and 2012. But they might not love him enough in 2014.” by Aaron Blake, April 25, 2014 :

・Breitbart “Young People Hit Especially Hard by Bad Obama Economy” by Warner Todd Huston, Jul 4, 2014:

・The International Business Times “Obama Job Approval Ratings: President Losing Support Among Women, Hispanics, Young People” by Howard Koplowitz, Sep 12, 2014:

・Tuft University The Center for Information and Research on Civic Learning and Engagement (CIRCLE), Nov 5, 2014:

・Policy.Mic “Young People Barely Voted in the Midterms, and Democrats Paid the Price byBecca Stanek, Nov 5, 2014:

・Slate The “Disunited States of America” by By Jamelle Boule Nov.6, 2014:

・VlogBrothers YouTube チャンネル:

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