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トレンドを読む(吉川 和輝)

ポスト3・11 MOTにも変革迫る (2011.3.25)


 「3・11」つまり3月11日の東日本大震災に日本が見舞われるまでと、その後とでは、この国を取り巻くあらゆることがらが大きく変わらざるを得ないと思われる。それは企業戦略やMOT(技術経営)においても例外ではない。
 戦後最大の自然災害となった震災の影響の広がりは、この文章を書いている時点でも見極めるのが難しい。津波で押し流された膨大な国富を回復するのにどれほどの歳月を要するのか。 廃止が決定的な東京電力・福島第1原子力発電所だが、エネルギー需給の穴をどう埋めるのか。

適切なビジネスモデルとスピーディーな経営、MOTが大きな役割を担う

 影響は、日本国内だけにとどまらない。日本企業による素材・部材・部品の供給が滞ることで、グローバルなサプライチェーンが損なわれ、海外のものづくりが影響を受ける。海外企業が調達先を日本から切り替えることで、部品などのシェア低下という形で損失が日本にかえってくる。
 半面、国内では震災復興のための数兆円規模の新規需要が発生するとみられる。また、企業立地の再配置が進む。物流やインフラの整備などを含め、要は新たな均衡点をもとめて産業構造が変化していく。
 企業は今後の急速な経営環境の変化に対応しつつ、適切なビジネスモデルを構築し、スピーディーな意思決定のもとに経営することが求められる。そこでMOTが大きな役割を担うのは言うまでもない。

長らく培ったものづくりの実力を高め、究めていく

 戦後の復興期から高度成長期、日本のハイテク企業が世界市場を席巻した1980年代を経て、バブル崩壊後の長い低迷期。曲折を経て、日本の産業界の進路は、それなりに定まりかけていたようにみえる。最大公約数的に言えば以下のようなことだ。
 長らく培ったものづくりの実力を高め、究めていく。研究開発に積極投資し、かつ投資効率を高める。さらには新興国の成長を取り込む。高速鉄道や原発、水処理などのプラントを官民で進めるのは、それを象徴する動きだった。

新たな時代に対応したMOTが試される

 MOTのあり方も、業界や個別企業で違いはあるが、大きな方向性が見えていた。オープン・イノベーションによって技術情報の流れを良くし、スピーディーな技術開発を進める。知的財産戦略を駆使して、技術開発の生産性を高める。個別の技術開発に目を奪われるのではなく、ビジネスモデルとの整合性を意識する。

 「ポスト3・11 」でもこうした基本は変わらない。変わるのは、経営環境の変化のスピードが一層速まることと、社会の目指す方向性が見直されることだ。明示的ではなくとも、多くの議論が国のあり方を模索する方向に収斂していくだろう。  例えばエネルギー問題。これまでは、地球温暖化防止の国際交渉とのつじつまを合わせたり、一種流行に乗った再生可能エネルギーへの投資機運があった。  これを日本の再建との関係でどう位置付けるのか。膨大なリスクがあらわになった原発をどうするのか。これまでにない真剣な議論が交わされるだろう。

 そこで念頭に置かれるキーワードは、安全・安心であり、それを実現するステディネス(堅実さ)と、ロバストネス(強じん性)ではないだろうか。社会のレベルでは、災害や危機に強いまちづくりやインフラの整備が課題になる。  新たな時代に対応したMOTが、試されようとしている。

© Kazuki Yoshikawa,2011

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