退きつつも攻めるMOTを (2011.6.15)
東日本大震災のショックが日本経済の減速をもたらしている。
輸出減が響いて4月の貿易収支(速報)は4,637 億円の赤字。電力の逼迫が、国内生産の立て直しの足を引っ張ることも懸念されている。震災直後からある程度予想されていたことだが、経済はじりじりと締め上げられている感が強い。
問題は「退きつつ攻める動き」が今後どれだけ出てくるか
こうした中、企業の技術経営(MOT)もサバイバル競争の様相を強める。電力不足や製品の風評被害を見越して生産拠点を海外含め再配置するなど、生き残りにきゅうきゅうとするのも仕方がない。問題は、危機下に新たなビジネスチャンスを見い出し、成長分野への布石を打つといった「退きつつ攻める」動きが今後どれだけ出てくるかだ。
気になるのは、震災ショックを境に、一部に退嬰的な価値観が台頭しつつあるように見えることだ。
いわく、日本は既に十分に豊かになった。
原発が止まって電力が足りなくなるのは贅沢な生活を見直す良い機会だ。
20〜30 年前のつましい暮らしに戻っても構わない――。
高度成長期以来の右肩上がりの時代を経験し、いま第一線を退きつつある世代からこんな達観≠聞かされることが多い。
転換期には、政府主導で将来ビジョンを打ち出すことが重要
だが、物分かりの良くなった団塊の世代がリタイアするのと同じような感覚で、日本の産業界が国際競争の舞台からやすやすと退場するとなっては困る。振り返れば、エレクトロニクス業界にせよ、自動車業界にせよ、日本の産業界は時代ごとに、最前線の競争の中心に身を置き、多くは勝ちパターンを残してきた。部品・素材産業に代表されるように、企業群が独特のネットワークを作り、切磋琢磨しつつ共栄するという一種のエコシステムを作り上げてきた。このエコシステムは、今回の震災のようなショックで再編を余儀なくされる。
過去にも幾度か経験した転換期だが、企業や個人が目先の対応に追われざるを得ない中では、政府主導で将来ビジョンを打ち出すことが重要だ。例えば、再生可能エネルギーを重視するというのであれば、その将来を描き、その開発・普及の呼び水となるような事業を立ち上げることが求められる。
政府主導でしかできないことも多い
一例は風力発電。技術が進みコストもかなり安くなっているが、立地や電力系統接続に伴う課題から導入ペースは鈍い。
しかし、立地を洋上に求めて大規模なウインドファームを造り、揚水発電と組み合わせることで有望な大型電源となる。民間が事業主体になるとしても、海上への立地確保のようなことは政府主導でしかできない。
ほかにも、原子力で頓挫したプラント輸出戦略の新規巻き直しや、今回の震災でその強さを世界に再認識させた部品・部材産業をさらに強くするための研究開発など、成長戦略を練り直すべきことはいくらでもある。
幸い4〜6月期の機械受注見通しは前期比10%増と好調だという。震災の先を見越した企業の投資への意欲は旺盛と見ていい。
これに応えるため、日本経済・産業が次はどのような勝ちパターンを模索するかの見通しを示す必要がある。