科学イノベーションが必要なわけ (2011.11.25)
新しいテクノロジー(技術)はどのようにして生まれ、発展していくのか。そしてイノベーションにどうつながっていくのか――。この問いへの1つの答えを示しているのが、最近邦訳が出た「テクノロジーとイノベーション 進化/生成の理論」(ブライアン・アー サー著、みすず書房刊)である。著者は複雑系研究で有名な米サンタフェ研究所の経済学者で、ハイテク産業を特徴付ける収穫逓増理論を定式化したことで知られる。
結論はシンプルだ。テクノロジーは過去のテクノロジーが組み合わせられることによって自然に発展し、それがイノベーションにつながるのだという。自然に発展するといっても、もちろん人間の関与が前提だが、テクノロジーには様々な目的のために、過去のテクノロジーを組み合わせるメカニズムが内蔵されているとする。
1つのテクノロジーが成立すると、これらが次代の新しいテクノロジーを創出する構成要素になり、自己創出的にテクノロジーは進化していく。そのダイナミックな仕組みは、たとえばエンジンのような機械が単純なものから複雑なものへと変化していく様子をみれば直感的にも理解できる。また、ペットボトルのような一見単純に見えるものであっても、その材料の開発や製造法には過去のテクノロジーの組み合わせが反映されていると考えられるのである。
さらに著者はテクノロジーの概念を、通常いわれるものよりは広くとらえ、アルゴリズムなどはもちろん、法律や制度など「目的を持つもの」をすべて含める。そして経済そのものが進化したテクノロジーが表現されたものであると論じる。
ここまでは一般論だが、テクノロジーのこうした本質を踏まえ、日本など国単位で技術開発やイノベーションを効果的に進めるにはどうすればいいのか。1つのポイントは著者も言及しているが、「技術の組み合わせ」が進む場が、かつてとは違い、先端的な科学研究によるところが大きくなっているということ。爆発的に膨らむ科学的知識を組み合わせるエキスパートの存在が必要だという。これは日本でもよく言われる「科学が主導するイノベーション」の必要性を裏付けていると言えるだろう。
もう一つは技術開発の下流あるいは出口部分の重要性である。技術を製品につなげる手法や優位性の確保といったことも、著者流に言えばテクノロジーということになる。上流部分とは別の意味で「目利き」の存在がカギを握る。それが企業などの技術経営(MOT)の重要な部分であることにほかならない。