一般社団法人日本MOT振興協会

ホーム事業内容研究・人材育成事業›人材育成フォーラム

人材育成フォーラム

第1回 人材育成フォーラム(平成23年10月24日(月))

【統一テーマ】 グローバル時代に必要な人材とその育成法 (詳細議事録メモ〔PDF〕

 座長の安西祐一郎(副会長・日本学術振興会理事長)から「日本MOT振興協会は、有馬朗人会長のもとで、色々な事業をやってきている。特に人材育成は、震災後の日本、これからの日本にとって最も大事な根幹の1つだということで、このフォーラムを立ち上げた」との開会に先立ち挨拶があった。
 講師に黒川清氏、坂東眞理子氏、田村哲夫氏の3名の先生方、パネリストには、さらに林芳正氏、藤末健三氏の2名の先生方を加え、平成23年(2011年)10月24日(月)の午後1時30分から5時まで、日本記者クラブ(東京・千代田区)にて、第1回人材育成フォーラムを開催した。

写真
パネル討論が始まる
正面左から安西座長、講師の林氏、藤末氏、黒川氏、坂東氏、田村氏

写真

「人材育成は最も大事な根幹の1つ」と話す安西座長


座長・安西祐一郎:日本MOT振興協会は、有馬朗人会長のもとで、色々な事業をやってきている。
特に人材育成は、震災後の日本、これからの日本にとって最も大事な根幹の1つだということで、このフォーラムを立ち上げた。後でご紹介するが3名の先生方、パネリストにはさらに2名の先生方を加え、今日はストレートにお話をして頂き、会場からも忌憚のない意見を頂きたい。

有馬朗人会長が冒頭挨拶
「21世紀は人づくりが急務である」

有馬会長:本年の3月11日の東日本大震災と、福島原子力発電所の事故で、大きな被害を日本は受けた。その際、主に津波であるが、死者が15,822人、行方不明が3,926人、10月7日現在の数値である。大変な被害を被った。お亡くなりになられた方に対して、深く哀悼の意を表したいと思う。
 この大地震、大津波を1つの契機として、我々はさらに新しい時代を作るべく、復旧、復興、そしてさらに新しい時代を作るべく努力をしなければならない。私はこの大震災を「大震災・大津波」と言うべきであると主張している。この大震災と原発事故の最大の課題は、21世紀における世界を、日本がどのようにリードしていくかということである。その時に最も重要なことは、若い世代の教育、人材育成である。急激なグローバル化の進展の中で、日本は、20世紀において「モノづくり」という点で大変成功したが、21世紀は「ヒトづくり」が急務であると、我々は認識している。
 日本は教育にかなりの額を投入しているが、OECDによるGDPで測ると、日本は世界最低だと発表された。小・中教育は2.7%、高等教育は0.5%。フィンランドの教育が良いというが、昔からフィンランドは日本の真似をしようとしてきて、ようやく追いついた。なぜ追いついたかというと、GDPで4%近いお金を注いで、小・中高校の先生は皆、修士を取っている。こういうことをやれば、日本でも良い教育が行われるようになる。日本の人材育成で最も大切なことは、「米百俵」の精神で教育費を増すべきである。

小・中校の基礎力、理科力は国際的に非常に高い
 小・中教育では、基礎力、理科力、この辺の小・中学校の生徒の力は、国際的に非常に高い。決して理科の学力は低下していない。小・中教育の義務教育における学力は、昭和40年頃の教育を受けた方達に比べて、はるかに今の方が良いことをご認識頂きたい。昭和37、8年、そして現在まで、15題ほど共通の問題が全国学力調査で出されているが、全部今の方が良くできている。字も読めるように、書けるようになっている。算数もできるようになっている。そして、数学、科学、物理、化学、生物、地学など、高校の生徒を中心にした学力の国際オリンピックでも、日本が極めて高い地位を保つようになっている。

写真
「英語教育では情報技術を活用すべきだ」と語る有馬会長

 日本人は英語ができることに自信を持って欲しい。都市から離れた山の中に行っても、人々は辞書を与えれば英語が読める。こんな国はない。
ただし、ヒアリングが弱い。そういう意味で小学校から英語をと言ってきたが、進んでいない。そして、小学校の英語を指導できる先生が足りない。情報技術が進んでいる時代に、技術の活用をしていない。
英語教育の初期において人間はいらない。テレビなどの映像を見せて、ヒアリングを徹底的にやればよい。ヒアリングができれば話せるようになる。そして、高等教育では、教養や科学技術の知識、特に外国語を強化し、専門教育を徹底的に行う。

雇用の柔軟化と多様化、そしてまた再挑戦を可能に
 雇用・労働では、雇用の柔軟化と多様化、そしてまた再挑戦を可能にするセーフティネットの整備や、様々な工夫をしていく。ある程度の年齢の人たちに対して再教育や、訓練をする。そして、若者に対しては徹底的にモノづくりの教育をもう一度する。挑戦の精神、チャレンジの精神を徹底的に教え込む。
 外国へ行かなくなったという話があり、心配している。例えば、大学の教授になるためには、外国に2年位行って勉強することを必須の条件にすれば良い。アメリカなど先進国だけでなくても良い。中国の素晴らしい伸び方、韓国、シンガポールの勢い、インドのあの大変な熱意、ブラジルなどの現場を見てきて頂きたい。見てきた方を大学の助教、准教授、教授にすれば、日本の大学は国際化する。4分の1位は中国人、韓国人、アメリカ人、ヨーロッパ人、アフリカ人、外国人を大学の先生にする。これを徹底すれば、大学は国際化する。

【有馬朗人会長挨拶の要点】
・国、地方自治体は、教育費を上げるべきだ
・小・中・高の基礎力、理科力は国際的に非常に高い
・英語のヒアリングの向上に映像を使って学習する
・雇用の柔軟化と多様化、そしてまた再挑戦を可能に
・4分の1位は、外国人を先生にすることで、大学の国際化は日を見るより明らか

安西座長:今日は有馬会長を皮切りに、黒川先生、坂東先生、田村先生、林先生、藤末先生と、誠に豪華キャストで、こういうメンバーは、まず得られない。それぞれの方がトップの方というだけではなく、色々なバックグラウンドを持ち、こういうメンバーが一緒になってフォーラムが出来るということは稀有の機会だと思う。


1.基調講演(1) 「3.11で見えた日本の強さ・弱さ」
     講師 黒川 清 政策研究大学院大学教授

黒川氏:「3.11」とは何だったのか。津波、原発という世界中が注目する大惨劇と大事故が起こった。世界が注目しているにもかかわらず、毎日、政府の正式の見解は、枝野官房長官(当時)が発表する。日本語でしゃべるのを直ぐに世界中が訳し、各国大使館は本国に報告していた。明らかに日本の強さは現場にあるということが分かった。リスク、危機に対して1番力を発揮したのが現場の人達であった。
 2番目に見えたのは日本の政府や社会的にリーダーと言われるポストにいる人たちの、ひ弱さである。政府の見解を毎日やると、もともと日本語はロジカルでない上に、訳してみても内容が無いということが出てくる。これが日本の弱さ。この20年ヨーロッパとアメリカに先行されて、ファイナンシャル・クライシスの後、何も根本的な対応ができず、経済成長をしなかった。

日本が変われない理由は何なのか
 この20年間、日本はGDPが増えていないし、1人当たりGDPも増えていない。他のOECD諸国は増えているのだが、日本だけ増えていない。1人当たりのGDPが現在は世界18位か19位で、この20年下がりっぱなしである。
 世界は大きく変わっている。今年は冷戦の正式な終了、ソ連邦がなくなって20年。同じ年にワールド・ワイド・ウェブ(www)が入ってきて、コンピューター端末がつながり始めて20年。20年間に大きく変わった。その間に日本は経済成長をしなかった。1990年から税収が減ったままで横ばいなのだが、国家予算は毎年右肩上がりといういい加減さである。
 皆そのことを知っているのだから、何かアクションを起こして欲しい。人のせいにしないで、自分で出来ることをして欲しいというのが社会の期待である。

写真
「何かアクションを起こして欲しい。人のせいにしないで、
自分で出来ることをして欲しいというのが社会の期待」と語る黒川氏


タテ型の社会でうまくいったと思われ、転換ができない
 毎日400万台ほどの携帯電話が世界で売られ、去年からそのうち60%がスマートフォンである。例えば、ケニアの人口は4,000万人だが、そのうちの2,000万人が携帯電話を持っている。大人はたいてい携帯電話を持っている。スマートフォンで、皆が外の世界のことを知り始める。今年はアフリカ全体で、大体6%の経済成長をする。ガーナなどは8%。国によって違うが、これから成長する地域に対して企業として、自分たちをどうブランディングしていくかということが大事である。
 第2の問題は、人間が増え過ぎたこと。2000年前の世界の人口は3億人。倍の6億人になったのは1700年。1700年かけて人間は知恵を出し、貧困や病気に打ち勝って人口を倍増させた。1900年に人口は16億人。現在は70億人。100年で4倍。この人口増は科学技術の進歩の結果である。
 ライト兄弟の飛行は1904年。10年後、第一次世界大戦で多くの戦闘機が飛んでいる。リンドバーグが大西洋を横断したのは1926年だが、現在は世界中を飛行機で便利に往来できる。この100年で、とんでもない進歩をしている。20年前に冷戦が終結し、インターネットがつながり始めた。つながってから10年後、21世紀の入り口になると、ほとんどがパソコンも、アクセスも、モジュラーからモバイルになり、ワイヤレスになった。日本が製造業をしている1993年から1994年にかけてAmazon, E-bay, Yahooが現れた。
 常に「出る杭」が新しい時代を先取りしていく。1990年までの冷戦構造の中と、日米安保の中で日本はタテ型の社会、組織構造でうまくいっていたと思われていることで転換できない。これが1番の問題。
 20年前にインターネットが生まれ、10年前にネットへのアクセスが容易になった。2001年に9.11が発生し、世界が一気に変わった。その後10年間でウィキペディア、Facebook、グーグル、Twitterなどインターネットの上に乗るビジネスが出てきて、世界中の人々が、誰でも、どこでも、自分で発信もし、情報を取れるようになった。

弱さを認識していないことが日本の1番の弱さ
 アップルがiPhoneを出し、iPadを出し、スティーブ・ジョブスが、最後の5年間で米国で1番時価総額のあるエクソンモービルを超えるような会社にした。そんな会社が日本にあるのか。自分達の強さは皆認識するが、弱さを認識していないことが日本の1番の弱さである。ウィキリークスの問題など、いかに透明性が大事であるかなのに、日本の災害に対する政府、大企業の対応、それを報道しない日本のビジネスリーダーとメディアも、専門家という学者も同類である。
 アラブの春も起こった。昨年の12月17日から始まった。その直前の12月10日にチュニジアへ、「日本・中東のエコノミック・フォーラム」に出かけた。財界からは奥田元日本経団連会長を代表に200社ほどが参加、前原外務大臣と大畠経済産業大臣も参加した。その1週間後に、反政府運動が起こり、エジプトに広がり、バーレーン、イエメン、シリア、リビアと急速に広がる。そういうことが起こり得るのである。なぜ日本は福島の後、全くそんな運動が起こらないのがちょっと不思議である。

トップに行くには東大法学部に入ることと決まっていた
 世界では、一般的に組織でも、社会でも、適材適所で配置しようとする。入省年次、入社年次が人事に関係あるわけがない。しかし、日本のシステムのトップに行くには、東大法学部に入ることと決まっていた。東大法学部に入るための教育が、中学、高校の教育であった。
 これが日本特有の価値観。つまりMOTを担っているエンジニアが良くても、マネージできる人がいない。グローバルな市場経済パラダイムの激変を理解できない。企業の製品をインドに出すにはどうすればいいのか。インドに友人がいるのか。中学、高校、大学などで一緒に過ごした友達と連絡を取れる人がどれだけいるのか。つながりを持つことが力になる。
 終身雇用、年功序列を入口としてきた人が、今の日本の変化を1番拒んでいる人達である。その立場にいる人たちは出来ない理由でなく、少しでも若者たちに出来ることはないかをそれぞれ考えて頂きたい。
 中東のカタールは40年前に独立。貧乏だったカタールに天然ガスを買いに来たのが日本。今は豊かな小国に日本人が来ないことが不満になっている。アブダビもそうだ。現地に行かない限り、匂いや暑さや人柄は分からない。コラボレーションも人脈も出来ない。

米国では大学学部学科の区別はなく、入口は一つ
 アメリカの大学は世界でも一番引力があるが、4年間の学部教育はリベラルアーツから始める。学部学科の区別などなく、入口は1つである。100年前にチャールズ・エリオットというハーバード大学の学長が苦労しながら作り上げた。
 社会に1番求められる人達を作ろうと、そして、1人ひとりやりたいことは違うのだから、自分のやりたいこと、情熱を感じることを見つけさせる「場」が学部教育だ。出口の専門は違うのに、最初から入口で○○大学工学部○○科というのでは時代の要請に応えていない。むしろ、大学は学生がやりたいことを見つける場所だということが100年前に考えられ、実行されているのが今の米国の大学の原型だ。

休学し、1、2年間、海外へ留学する
 企業が新卒にこだわるのであれば、学生に休学を薦める。4年間の授業料で5年間の独自のカリキュラムを作れば良い。交換留学もすれば良い。慶応義塾は安西先生は前塾長の時、休学中に授業料を取らないことを置土産にした。
 大学も、企業も休学を支援するようにすれば良い。1つはTeach for America、アメリカの学部卒の希望就職先の1番の人気だが、恵まれない地域の中学校や高等学校の教員として2年間派遣される。ゴールドマン・サックスに就職が決まっている学生でも、この組織に行くと言うと「ぜひやってきなさい」と支援してもらえると聞く。貧しく問題のある環境を経験すると、社会に出ても組織でのリーダーシップ力も付き、社会的地位が高くなっても、貧しい、弱い人々のことを意識し、会社で出来ることを常に考えるようになる。原体験の無い人は、頭で分かっても、身体と心がついてこない。

【黒川清氏講演の要点】
・知っていて行動しないのは一番良くない
・携帯電話で貧富の差が見えるようになった
・トップに行くには東大法学部に入ると決まっていた
・戦後パラダイムがうまくいったと、変わろうとしない
・米国の大学の入口は学部の区別は無く、1つだ
2.基調講演(2) 「大学教育のグローバル化 −実践のポイント−」
     講師 坂東眞理子 昭和女子大学学長

坂東氏:3.11の後日本にリーダーが不在である。グローバルな人材をゼロから養成しなければならない。私の問題意識は、強かった現場、中堅が、今後持ちこたえることができるのか。今のままの大学教育、今のままの日本では、強かったはずの現場や中堅が崩壊していく。大学進学は世界で標準化している。その標準化した大学教育の中身で何を教え、どのように鍛え、育てるのかが課題。

大学院は「高学歴専門職フリーター」養成機関になっている
 大学院がリーダーを養成するのであれば、単に研究者が徒弟養成のようなスタイルで、弟子を育てるという教育で良いのか。今の大学院は高学歴専門職フリーター養成機関になっているという話がある。研究者を、大学の教員を養成したいという大学院が多過ぎるからだ。

勉強をしなくても大学に入れる時代
 1955年頃の日本の大学は、需要は多いが供給が足りなかった。私どもベビーブーム世代は、受験戦争、受験地獄という言葉があったが、今や死語。勉強しなければ大学に入れないということが、大きなモチベーションとして働いていたが、リーディング・ユニバーシティに入りたいという一握りの学生達は、勉強しなければならないが、どこでも良いと達観すればどこでも行ける。入学試験がない。文科省は「入学者のうち、入試を経ない入学者を半分以下にするように」というお達しを出している。
 その中で、自分たちの大学の教育力、どういう学生を教育して、どういう学生を送り出そうとしているのか。これを明確にアピールすることが、生き残る上でも1番重要だ。昭和女子大だけでなく、多くの女子大が良妻賢母を養成することを標榜していた。今はそういう時代ではない。自力でグローバルな競争の中で生き残れる、自立できることを標榜するようになっている。

写真
「グローバルに通用できる人材を育成しなければ」と語る坂東氏


 大学教育の中で改めて問われているのは、基礎学力が足りない学生が多過ぎること。四則計算や分数計算ができないというレベルの学生。あるいは、挨拶が出来ない、返事が出来ない、居眠りをする。45分間座っていることが出来ないといった、小学生の能力が身についていない学生も増えている。そういった学生を1から鍛える。これも大学の重要な機能になり始めている。
 競争は子供にトラウマを残すなどと言ってねじ込んでくる親もいる。卒業の論文の出来が悪かったので落としたところ、指導が悪いと文科省に電話をした親御さんがいた。日本人としてまともに生きていく、まともに仕事ができる、現場力を発揮するようなワーカーになるということが、大学教育で求められている役割になっている。

大学はサラリーマン養成機関
 大学が、職業人、社会人を養成するためのサラリーマン養成機関であることに関しては、コンセンサスができている。あの大学に行くと就職率が高い、あそこに行くと良い会社に入れるということが、セールスポイントになり始めている。あの大学に行くと人格が高まる。倫理観が叩きこまれるとか、社会貢献の志を伸ばすことができるから子供をその大学にやろうと言うことを考えている方はほとんどいない。我々はグローバル化する中で、グローバル人材を養成しなければならないわけだが、大学生を全員グローバルに通用する人材とすると言っても、色々なレベルがある。
 Global Employee, Global Professional, Global Leader、それぞれ少しレベルが違う。グローバル・プロフェッショナルとして、専門家として、通用する人材になる必要性であった。同時に、私はグローバル・エンプロイーという、世界のどこでも働くことができるワーカビリティを持っている人材の養成も、重要になっていると思う。

留学させるのだったら、英語を上手にして欲しい
 昭和女子大は、1987年にボストンの郊外に17万m2の土地を買い、寮(宿泊施設)、カフェテリア、ラウンジ、教室などを取り揃えた施設を持っている。留学させるのだったら英語を上手にして欲しいというリクエストが段々強くなってきた。これまでは駐在員の奥さんになるのが目的であったが、そうではなく自分が英語で仕事ができるような力を身に付けなければいけなくなっている。
 国際学科では英語だけでなく、英語プラス、アジア言語。上海交通大学に45人行ってアジア語と英語の両方を勉強しようという風に、グローバルに仕事をしようと思ったら、英語だけではいけない。アジアに目を向けなければいけないという風に変わってきている。そして、昭和女子大のプログラムは、例外を除いて全員がアメリカに行く。一定水準以上のスコアを取れば、さらに別の大学で勉強ができる、奨学金が取れるなど、選択の多様性を提供している。
 今後は、もっともっと1人で生き延びなさいという風に学生を変えるとともに、ボストンのキャンパスを昭和女子大の学生だけではなく、色々な大学の方、色々な国の方、色々な立場の方に活用して頂くことが、新たなステージとして必要になってくる。
 プロフェッショナルなリーダーをグローバル人材として育てると同時に、普通の人たちも、グローバルに通用できるようにしなければいけない。あなたの会社がいつ中国に買収されるか分からない。シンガポールに本社が移るのか分からない。それを前提とした大学教育が必要になる。

【坂東眞理子氏講演の要点】
・大学院は高学歴専門職フリーター養成機関
・勉強しなくても大学に入れる時代
・小学生の能力が身に付いていない学生も増えている
・大学はサラリーマン養成機関
・英語で仕事が出来るような力を身に付けなければ
3.基調講演(3) 「教育改革・初等中等教育と3.11」
     講師 田村哲夫 学校法人渋谷教育学園理事長

田村氏:グローバル人材は、高等教育の仕上げのところでの大きな問題である。初中等教育はこのままでいいのかというと、そうでもないことを実感している。日本が国際化、グローバル化に対応できないのは、70年代、80年代の成功体験である。今まで皆が一緒にやるというやり方でうまくいっていた。例えば国際会議で紛糾すると、中・高生でも直ちに皆が集まって、その対策を相談して決める。この姿は、ヨーロッパや中国では全く見られない。何かあるとすぐ集まってやる。これは強みでもあるが、これからの国際化の時代では、変な人間と見られる。かつては、この方法でうまくいっていたから抜け出せない。

英語教育とIT教育の取り組みが遅れている
 20世紀から21世紀にかけて、世界的に初中等教育もグローバル化する必要があるとの議論がされた。舞台はドイツのケルンのサミット。その議論の内容を知っている日本人は、ほとんどいない。次の沖縄のサミットでも同じ議論がされ、結論は同じだった。これからの教育の中心は英語だということ。フランスやドイツは抵抗したが、最終的には認めた。
 安西先生と一緒に、教員の養成、質の向上という議論を文部科学省でやっている。目標を2つ設定していて、1つが国際化。教員が全く国際化されていない。
 外国の人から学校に電話があると、小学校、中学校の先生はその電話に出ない。教室にいないようにするという話が出ている。
 それからIT教育がほとんどされていない。機械も入っていない。かなり遅れてしまった。かつてフランス人は知っていても英語を話さないと言われたが、現在は違う。ケルンサミット以降、EUは、積極的に英語教育に取り組んだ。私は長い間、小学校1年からでも良いから英語をやらなければいけないと言ってきたが、成功体験があるから変えることはない。来年から、小学校5年から週1で英語の授業をすることになった。何の意味があるのかという気がする。

東大に合格してから海外有名校に留学する生徒もいる
 自分のところの学校は中高一貫校で、東京と千葉にある。卒業生の1割から多い時は2割近くが東京大学に入る。これを言わないと日本ではダメ。
 同時にうちの学校の特徴は、アメリカの大学に直接、学部に進学する。多い時は、10人以上行く。少なくても4,5人は行く。今年もハーバード、スタンフォード、エール、プリンストン、ペンシルバニアに学部から行く。こういうところは、基本的に全寮制である。成績が良ければ、奨学金が出るから、それほど負担がかからない。
 プリンストンに行った子とぺンにいった子は、同時に東大も受けた。「行くのであれば東大を受けなくても良いのではないか」と言ったら、「日本社会はおかしなところで、東京大学に入学したというパスを持っていないとだめ」という。卒業しなくても良い。入学したということが重要というわけだ。

写真
「日本にいてもイノベーションの刺激にならないと言われた」と語る田村氏。


国際的に通用する教育という基準を守るべきだ
 国際化を最初に言い出したのは、ブレア英首相である。当時、サッチャーも教育改革で有名だが、ブレアも思い切った教育改革を提言して英国の教育を良くした。そのブレアがケルン・サミットにイギリス代表で登場して言ったのは、初等中等教育の国際化。それを世界的に認めた。サミット参加国を中心に世界中に教育改革が進んだ。残念ながらわが国では、文科省を中心にしてその準備に取り組んだものの、現実にはなかなか進まない。小学校でようやく始まった状況。コンピューターに関しては、お金を理由にして各学校に配備してくれない。文科省はやりたいのだが、文句を言う人がいて、ダメになってしまう。これを繰り返している。20世紀から21世紀に入る時に、人間は初等中等教育からグローバル化された、国際的に通用する教育という基準をどの国でも、小・中でも守るべきだ。初中等教育の段階でも、そういう事を意識して教育すると、私は必ず意味があるのではないかと思う。

英語を身に付けるということが基本
 私どもの学校では、高校生でも色々な交流を外国としている。この前、中国の学生と教科書問題と歴史問題、靖国神社問題をインターネットでやり取りをした。ここで使われるのは英語。中国人も英語でやる。面白いテーマで議論すると効果があるが、英語ができないと全然できない。とにかく英語はやらなくては駄目である。これからの小・中教育で英語は、ちゃんと身に付ける。
 昨年の11月に事件が起きた。世界最大の家庭用品メーカーP&G(プロクター・アンド・ギャブルシステム)の商品研究所が、神戸からシンガポールに移った。これは、大変大きな問題である。阪神淡路大震災があっても移らなかった。それは日本にいると、色々な刺激を受けて商品に対する研究に非常に良い場所であったからという理由で移らなかった。しかし、今は日本にいても良くないと言われてしまった。P&Gの関係の人に会う機会があったので、なぜ日本はダメなのか聞いたら、1つは英語が通じない。2点目はイノベーションが全くない社会になっている。日本にいても刺激がないという。

日本の教員は優秀だが国際化がされていない
 教員の意識改革が大事になる。日本の教員は、ある面では優秀だが、ある面ではどうしようもない。国際化が全くされていない。英語が出てきたら逃げ出す。これはまずい。英語を日常的に使うという人が、小学校の先生としていれば、ずいぶん変わると思う。教員養成の段階で英語はない。英語の試験もない。出来るわけがない。今回改訂で、何とか英語を入れようとしている。

集団の教育から、個人の能力を伸ばす教育
 もう1つは、教育の個別化である。日本の教育は基本的に明治の頃の「追いつき追い越せ」で、集団の教育に特化している。教員養成の科目を調べて見ると、集団の力を付けることしか教えていない。個人個人を教育するというのは教員の仕事ではないと思われている。しかし、これからは個人が基本になる。少子化していくので、大事に持っているものをしっかり育ててやる。この仕組みが、日本中のあらゆるところで実行される。こういうことが、日本の国際化の1つである。もちろん国際化の中では、日本人のアイデンティティ、日本の特徴、日本の文化的歴史がしっかりと身に付いている、分かっていることが大事になる。例えば、減点式でなく、加点主義でないと競争はできない。
 日本の大学生は、他の国の大学生と比較すると問題がある。勉強をしない。これは学生の質の問題ではなく、大学の構造的な問題。もっと勉強させないといけない。講義だけでは分からないから、講義で分からないところをちゃんと勉強させる。そのためにはちゃんと落とさなければいけない。丁寧に指導すればするほど勉強しなくなる。6割近くが1日1時間位しか勉強しない。アメリカでは4時間位している。進学の時に受験勉強を1日に30分程度という学生が3割。これでも受かってしまう。工夫して欲しい。

【田村哲夫氏講演の要点】
・英語教育とIT教育の取り組みが遅れている
・東大に入学したことがブランドになる
・国際的に通用する教育という基準を守る
・日本の教員は優秀だが国際化への対応が出来ない
・集団の教育から個人の能力を伸ばす教育を

この20年間世界は変わったが日本は変われなかった
安西座長:この20年の間に、世界は変わったにもかかわらず、日本の構造自体がなかなか変わらない。日本の構造を作ってきた人達が変わらなければ、日本はダメだというのは、おっしゃる通りだと思う。坂東先生は、大学教育のグローバル化、実践のポイントということで、50%以上の高校生が大学に進学している時代で、中堅層の大学生の教育をどうするかという問題は、これは日本にとって非常に大きな課題だということと、それがグローバル化とどうつながっているかを話した。そして田村先生が、初中等教育の面から見ても、国際化や英語の問題は必須であり、大学生が勉強しないというデータもあったが、勉強しなくても大学に入れる時代で、しかも大学でも勉強しないということになれば、日本の若い人は全く勉強しないで社会に出ることになる。

  −− <休憩> −−

安西座長:有馬会長の「教育費の大幅増を」などのご挨拶の後、黒川先生、坂東先生、田村先生にそれぞれ30分ほどお話を頂き、それぞれつながった全体として深刻でもあり、時代を象徴する話だった。今からは、政治家の林芳正先生と藤末健三先生に加わって頂き、グローバル人材育成の実践をどうしていったら良いのかのお話を頂き、その後質疑に入る。

4.パネリストの講演(1)
     林芳正参議院議員

林氏:教育で人材を作る時のアウトプットはどういうイメージか。どういう風に日本が食っていくというか、過ごしていくかがあり、そこにどういう人材を持っていくかの視点がある。これが1点目。2点目は、もう少しテクニカルというか、戦術論になるが、英語をどうするかということ。好きか嫌いかは別として、英語がデファクトの国際語であって、グローバルとなると避けては通れない。

中期的に日本はどうやって食べていくのか
 日本が中期的にどうやって食べていくかを、答えを出した訳ではないが、党としては来年の衆議院選の公約までには出さないといけないと思っている。全部詰め切った話ではないが、その辺りの研究をしている。
 グローバルに外でガンガンやることの1つのキーワードにGNIがある。70〜80年代、GDP、GNPがあった。当時は国際化が進んでおらず、違いがそれほどなかった。外に出て行くようになって、現在はGDPが経済指標で、国際統計上、GNPよりもGNIが一般的に使われている。
 GDPとGNPの違いは、ざっくり言うと、海外の会社を買って、そこの株式から配当があった時、それは日本に入る。特許を持っていて、ライセンスをした時、特許使用料が日本に入る。AKB48やSMAPがアジアで大ヒットし、CDやポスターが売れる。中国がちゃんとやれば著作権料が入る。

写真
「世の中の答えは1つではない。その場でどう答えを作り上げるかが大事」と語る林氏


 このような、モノを売って代金が入ってくるというような貿易収支ではないお金を組み込んだのがGNIもしくはGNPであって、GDPは国境の中で生産されたお金になるので、そこに足して計算するとGNPになるというものである。そういった意味合いで見た時、GNIを増やしていくということを考えなければいけない。GDPとGNPの今の乖離がだいたい3%位ということで、GDPが500兆とすると、15兆程度がGNIとして入ってきているということだ。諸外国を調べると、いずれも2%以下である。支払いで出ていくというのもあるだろうが、少なくとも日本は、断トツである。外に出ていくものを戻すという税制もあるかも知れないが、もっと目利きがきくと、この数字ももっと伸びる余地がある。
 投資大国になるということは、海外で稼ぐということ。その後、これを国内に還流させるということであるので、そこの知恵が必要になる。政策としては、入ってきたお金も活用しながら、雇用をどうするか。外でお金を稼ぐと国内の雇用が直接増えるというわけではない。ある人に話を聞いたら、世界で今の日本の規模が10倍になったら、国内の雇用が10分の1になっても雇用を維持できると言っていた。北京の床屋の方が安いから、北京の床屋に行くという人もいないだろうから、そういうところを国内で増やしていく。サービス産業、介護、医療、教育といった、公的な部分が関わるところを、どうやっていくかが3点目。

課題を自分で見つけ、自分で対処できる能力がある人材
 経済を考えた場合に、どういう人材が必要になるか。課題が最初から与えられ、それをどう与えられた時間で解くかという人材よりも、課題を自分で見つけ、今まで無かったことが起きた時に、対処する能力がある人材だろう。
 欧米で作っていたものを少しずつキャッチアップして、次は自動車、次はITというように速く習得する。中国はもっと速くキャッチアップしている訳だが。この時に、相手とのコミュニケーション能力が必要になる。私がケネディスクールにいた時は、100ページ位の英文のケースを読まされて、1時間半位徹底的にディベートをして、最後に教授が「今日は○○君の意見は良かった」「答えはこうです」と言ってもらえると思って一生懸命やっていたら「今日は大変良い議論でした。また頑張って下さい」で終わりである。相手にも理屈があるし、こう言ったら相手はこう言うというプロセスが大事だということをどうやって教えるのかが重要。正義とは何か。ネゴシエーションとは何か。世の中、答えは1つではない。その場でどう答えを作り上げるかが大事となる。

英語は学問ではなくコミュニケーションをするための道具
 残りで英語の話をする。どれくらいできる人をどのくらい必要とするのかを議論して、ある程度の共通認識を持つことが大事である。国際会議に出て、安全保障の議論をガンガンやるような能力と、最初のキーノートはやるけれど、Q&Aは通訳を入れてやるとか、色々な度合いがある。
 野球で言えば日本シリーズに出るか、二軍選手で終わるか、高校野球か、小・中学校で野球をやっていたというか。みんな野球はやっていてもレベルは違う。最後まで行こうと思った時に、中・高だけの、もしくは大学だけの英語の教育で英語のレベルを上げるのは、学校の体育の授業で野球をやっただけで甲子園を目指すようなもの。やはりクラブ活動で毎日夕方までやって、とにかく好きでいくらでもやることで高いところに行くのかと思う。しかし、裾野が広くないと山は高くならないので、裾野をどうするのか。先まで行けばシンガポールやマレーシアのように公用語ということを検討することがあるのかと思う。
 英語は、英文学や文法でPh.Dを取るということであれば、それはそれで違うのだろうが、学問ではなく道具なので、いかにコミュニケーションをするかというだけの話で、アメリカに行けば小学校に行く前の子供もしゃべっている。そういうふうな目で英語を捕らえてピラミッドをどう作るか、そのピラミッドが皆さんの頭の中に出来てくれば、そのためにどういう政策を打ってくるのかという、まずは問題提起で終わらせて頂く。

【林芳正氏講演の要点】
・答えは、1つでないという教育も必要になる
・大学だけの教育で英語レベルを上げるのは難しい
・先に行けばシンガポールのように英語を公用語ということを検討することがあり得る

安西座長:前半の3人の先生方のお話と結びつけて思い浮かべて頂けると、非常に立体的な像が浮かぶ。英語の問題、課題を自分で見つける話もおっしゃる通りだ。

5.パネリストの講演(2)
     藤末健三参議院議員

藤末氏:林さんのハーバードの後輩で、色々な勉強会を超党派で立ち上げており、基本的な認識は一緒である。今日は個人的な思いをお話ししたい。先月東大工学部の学生に講義した話の抜き出しである。林先生からもGNIという話があったが、一番重要なことは、日本のエネルギー年間輸入額は20兆円、食糧は6兆円、時々30兆円になる。エネルギーと食糧を外国に依存しており、外貨がなくなれば死んでしまう。外貨が足りなくなる時代はあり得ると私は考える。それに備えるのが政治の役割ではないかと思う。外貨を稼げる産業と、外貨を稼げる人材がなければ、我が国は持たない。
 韓国は、FTAをガンガン結んでいる。私は民主党でTPP、FTAを担当しており、韓国政府の人と話すと、彼らは1997年の通貨危機、皆で金を出し合って皆で外貨を出し合ってしのいだという記憶が残っているから政府の人間、サムスンの人、一般市民と話をしても、あの危機はもうしたくないと始めから彼らは一致している。政府の人間と民間の意見と、企業の意見が一致している。だからあのスピードで議論が進む。私たちは、この危機感、外貨がなくなれば電気もつかないし、飯も食えなくなる。原発を止めるという議論も正直言ってびっくりしている。あれは危機感がないからだと思う。

サプライチェーン安定化のため小さな企業が海外でM&A
 グローバリゼーション『フラット化する世界』というトーマス・フリードマンの本がある。世界がフラット化し国境がなくなる。何が必要なのか、どう学ぶのか、どう全体を仕切るのか、どう人に好奇心や熱意を伝えるのかというのが、この本の総括。この本に、理科教育がダメ、基礎学力がない、成功願望がない、お金がない子供の教育が出来ない、教員が足りない、ネットインフラが足りないなどと書いてあり、どこの国の問題かといえば、アメリカの問題である。アメリカも同じ悩みを持つ。
 企業の海外進出、海外投資が増えている。バレットのモデルだが、トランスナショナル、地域に適応しながらも中央集権を強めるという企業体系に我が国もなっている。震災後の円高の中で、サプライチェーンを安定化のために、小さな企業までが海外でM&Aをどんどん仕掛けている。社長さんに電話をすると、海外に出られている方が多い。何で行っているかと聞くと「いや、ちょっと…」と言わないが、これは間違いなくM&Aである。かつ、政府がM&Aを支えるような仕組みをもっと作ろうという話は、超党派でやっている。

写真
「語学力は当り前、日本の古典を読むことが外国人との
コミュニケーションに役立つ」と話す藤末氏


TOEIC 800点以上は取って欲しい
 サムスンの新入社員はTOEIC最低点が900点という。だから、英語教育などはしない。NTTコミュニケーションズの管理職のTOEIC必要点数が850点、ソフトバンク730点、マックが800点だ。これで良いのだろうか。800点は取って欲しい。大学生にもっと英語を勉強しろということも、企業の人達が「英語が必要だ」という明らかなメッセージを、学生に送ることの方がはるかに重要だ。
 英タイム誌の2011年大学ランキング。日本のトップが東大で30位。はっきり言って低いと思う。世界で第3位の国がこれで良いのか。ポイントは、工学部だけを引き出すと東大は7位である。別の統計なので一概には言えないが。タイムの評価は、教育、研究内容であるが、英語でないと評価していない。日本語の論文はカウントがゼロである。何が悪いかというと日本の経済学であり、法学など、文系の学問がグローバリゼーション対応が出来ていないのではないかという仮説がある。これは非常に大きな問題で、国際競争力を考えた時、東大の学生が外貨を稼げないなら税金を使ってはいけない。

世界で通用する専門性を身に付けて欲しい
 TPP、FTAという議論もあるが、これは皮切りであり、究極的には国境をどこまで無くせるのかという話。国境が無くなった時、何が起きるのかというと、企業だけの戦いでなく、個人間の戦いが始まる。個人で付加価値を持てる人は、すさまじい高給をもらい、付加価値を生まない人は、海外の人たちと戦わなければならない。
 どういうバリアーを作るかが政治の話となる。学生に「あまり雑誌とか読まないで教養を付けて欲しい」「古典を読んでくれ」と話をした。私の反省もあるが、学生で古典の本を読んでいるという人がほとんどいない。今の若い人は、恐ろしいくらいに読まない。ネットしか見ない。古典を読んでおくことは、外国の人間とコミュニケーションをするターム、考え方を学ぶために不可欠である。
 古典を知っているかどうかで会話が違う。いくら言葉が上手でも中身がないと、何だということになる。きちんとした教養を身に付けて欲しい。そして世界で通用する専門性を身に付けて欲しいと学生に言った。私たち人間たるもの、新しいことにチャレンジする遺伝子が組み込まれているということを信じ、それをどんどん前に出せるようにしていきたい。
 私も、林先生も、新しいことをやりたいと思っている。日本の外にあるのは何があるのか。日本の外の方がきついのだが、きつくても行くという人間を作るのが、我々政治の役割だと思う。

【藤末健三氏講演の要点】
・日本は外貨が無くなれば死んでしまう
・「英語が必要」というメッセージを学生に送ることが重要
・世界で通用する専門性を身に付けて欲しい

安西座長:藤末先生からの「稼ぐ」ということは、前半の先生方も気持としてあったと思うが出ていない。林先生も海外投資のことを話して頂いて、日本の経済力を高めることが、外貨を稼ぐことが、ベースにないと、教育も立ち行かないという大事なポイントを指摘して頂いた。

坂東氏:稼げる力は、生き延びる上での必要条件だと思うが、それでプラス・アルファの十分条件、教育にはその部分のプラス・アルファがないと、本当に世の中を変えていけるのか。好奇心というのもプラス・アルファの部分だと思う。今の日本の大学教育は、その必要条件を身に付ける、専門知識、スキル、目利きも大事なのだが、その1つ上がないと、21世紀を生きていけない。ただ生き延びるためには稼がなければいけないというのも大前提だと思う。

黒川氏:100年前にチャールズ・エリオットが、今の大学の原型を作った時にも、教授を説得するのにものすごく時間がかかった。過去のパラダイムで教授になった人達だから、将来を見据えた教育改革は時間がかかる。特に日本では過去の成功体験があるからもっと大変である。若い人にもっと選択肢を見せることが大事。今の大学の先生達は、自分たちが良い教育を受けた経験がない。だからテクニカリティを教えるだけになる。学生の立場でどこまで考えられるか、これが教育なのだ。

坂東氏:皆を英語の使い手にする必要はない。でも親たちは子供を英語の使い手にしたいという人がたくさんいる。公立で、英語で教育をするという学校を作れば、そちらに学生は流れる。

林氏:藤末さんのスライドで、東大が30位というショッキングなスライドもあったが、アジアで6大学に入れるかどうかの瀬戸際だという話を聞いた。北京大学、復旦大学、上海交通大学、香港大学、シンガポール大学、東大とぎりぎりだ。今、他の所は標準化が進んでおり、入試の科目がGMATと論文など、タームも9月からと、基本的には英語でOKという。センター試験をやって、古典、漢文をやって英語も全部ヒアリングではない試験をやって、世界史、日本史を覚えないと入れない。西海岸も東海岸も、今競争が昔より激化している。中国、インド、韓国が競争に加わっている。アメリカが3億、中国とインドで30億だとすると、10倍の競争率になる。その一角を占めるということであれば、夏入学などを始めることや、誰と競い合っているのかを、もう1度考えることが大事である。

安西座長:本当にその通りだと思う。

田村氏:大学のランクというのは、世界中に120位ある。私は東大が3位のランクを見たこともある。最初に有馬先生がおっしゃったが日本は教育に余りお金をかけてくれない。サンデルの授業に自分の生徒が出て、夏休みに帰ってきたので聞いたら、あの教室に出る前に5人とか10人の単位で生徒をティーチング・アシスタントの先生がついて、懇切丁寧に議論をする。それを踏まえて、サンダース劇場と言われる講義に出る。ハーバードではサンデルとジョセフ・ナイの講義が有名だが、どちらが学生を集めるか競争させている。その手の工夫は日本の大学は全くしていない。日本の大学には競争がないからだ。東京大学は自分の母校だから悪く言いたくないが、やはり競争がない。東大もダメになる。そこはうまく工夫して、考えて、競争がなければ進化しない。外国から競争を挑まれている状況で競争が無い日本の大学は弱い。

有馬会長:韓国と日本ほど、国費および地方自治体の教育に対するお金を出さない国はない。・・日本の先生は部活はやる、生活指導をやる、夜遅くまでやる、立派な先生が日本に大勢いる。給料を上げろとは言わないが、教育費を上げて欲しい。日本の大学は東大を除いて教育費がないから、教養部を潰してしまった。アメリカの大学はリベラルアーツ&サイエンスを徹底的に教える。日本では、教養学部がないから、専門も教えられないくらい学力がないという問題が起こっている。日本のランクを上げるには、社会科学の論文、人文科学の論文を英訳すればよい。

荒井寿光氏:サービスとか教育とか専門職は、1995年にWTOが出来たときに自由化するものだという国際ルールが出来上がっている。TPPの議論でサービス産業が国際化するとか、医者、弁護士に及ぶとか言っているが、事態は国際化していて、科学技術に国境なし、人類の知識は皆で作り上げるというルールが1995年に出来ている。

写真
「1995年のWTO で人類の知識は皆で作り上げる国際ルールがある」と
述べる出席者の荒井寿光東京中小企業投資育成(株)社長


安西座長:WTOの教育の問題も、おっしゃる通りで、日本では全く知られていない状況である。

質問:大学において自らが考えて、自分の頭で考えられるような人達を作っていくにはどうしたら良いのか。

黒川氏:日本の若者は外へ行かないというが、それは間違いで「休学しても良い」というと突然外へ行き始める。

坂東氏:最近「コミュニティサービス・ラーニング」というのを作って、学生達を地域でボランティア活動をさせている。大学でやるべきだと考えているのは座学ではなくて、課題発見、解決型プロジェクト。現実の場で悪戦苦闘された方と大学の先生を組み合わせて、1つのプロジェクトを学生10人位でやることを計画している。

白井克彦氏:各大学がどんなことを努力するのか、どういうところを削って、どうやっていくのかということを、具体的に考えるべきである。日本の国が、グローバル人材がいなければ生きていけないのだと考えようとするならば、それをどうやって育成するかは、少し投資してやらなければならない。
 もちろん英語の問題もあるが、現地に行けば出来るようになる。少し背中を押してやる。大学との交流もあるが、インターンシップなんかも、国内ですらそんなに進んでいない。坂東先生も言われた通り、地域でもやるべきだが、もっと外まで開いてやらなければいけないことだと思う。そういう意味で海外インターンシップは、どんどんやらなければならない。インドの企業にアメリカからたくさんのインターンシップの学生が行っている。

写真
出席者の白井克彦放送大学理事長


安西座長:白井先生とは、一緒に色々なところで色々とやってきた間柄なもので、実感が良く分かる。

質問:小学校、中学校の先生は大学の教育学部とかで教員の資格を取ってそのまま学校に入り、ずっと先生をやっている。社会人を経験した人を何らかの形でもっと学校に入れるべきだ。これは高校、大学もそうだと思う。

林氏:今までは教育実習しかやっておらず、教育現場には実習で少し行く、しかし、工場で勤めていたとか、商社で勤めていたなど、別の仕事をしていた人が本当は一番良い。モンスター・ペアレンツもいるがサービスということでは、受けている方の評価も、どの程度入れるのかが、今の教育委員会の制度では全く詰まってしまっている。その辺りも政策論としてはあり得るのかと思う。

田村氏:10年以上前、免許状はなくて社会人が教員になれる仕組みを作ったが、実際に採用するのは国ではなく地方公共団体の教育委員会が決めるものだから全く動かない。ここ十年あたり増えていない。仕方ないので社会人になった後1年くらいで免許を取れるようにして、社会人経験者を増やすことが、今考えられている。

坂東氏:大学の教員は、教員免状がなくてもできるので、社会人経験者の方たちに教壇にずいぶん立って頂いている。学長になってから基本として公募・任期制を採用している。しかし任期制で良い方に入ってもらっても、早稲田大学や、慶應大学に移っていった。任期制は、強い大学からなされるべきで弱い大学からしてはいけないことを痛感した。流動化していくべきであるという理想と、現実の狭間で苦しんでいる。

安西座長:有馬先生も含め、講師の先生方、林先生、藤末先生に改めてお礼を申し上げたい。教育費の問題は、教育改革と車の両輪で、やるべきことは大学、学校側もやっていかなければいけないし、一方で教育費もある程度は増やして頂けなければならない。制度の問題、教員のあり方の問題も、初中等教育の公立学校の先生方は100万人以上いるが、今から10年間の間で30数%、30何万人がリタイヤで入れ替わる。入れ替わる先生方が、どういう先生方であるかは日本にとって重要な問題である。

写真
「総括というより、実践すべき時だ」とまとめの報告をする安西座長


 時代が変わったことを、黒川先生が初めにおっしゃって、これは共有化できる。グローバルな社会に日本が放り込まれて生きるために、社会を支える人材は、色々なところで必要になるわけで、それぞれが人材育成の大事さということも理解された。
 英語の問題、教養の問題、特に海外等での体験が大事だということも共有された。
 林先生から投資というか、計算力が付かないとどうしようもないという面もあり、税金を払える人間を育てなくてはならないことも事実である。
 多角的な面があるが、総括というよりは実際に実践していきたく、このフォーラムを提唱した。皆さんのご意見も含めて、出来ることから手を付けていく。

【安西祐一郎座長のまとめの要点】
・教育費の問題は、教育改革と車の両輪。教育費もある 程度は増やしていかなければならない
・今から10年間で30数万人の初中等教育の先生が入れ 替わる。入れ替わる先生がどんな先生かは重要な問題
・グローバルな社会を支える人材の育成が大事である
・経済を高め、税金を払える人間を育てないといけない
【座長略歴】 安西祐一郎 氏
 1974年慶應義塾大学大学院博士課程修了。カーネギーメロン大学客員助教授、慶応義塾大学理工学部教授を経て、93年〜2001年同学部長、01〜09年慶應義塾長。現在、日本学術振興会理事長、文部科学省中央教育審議会大学分科会長等。その間、日本私立大学連盟会長、環太平洋大学協会会長、情報処理学会会長、日本認知科学会会長等を歴任。
【講師略歴】 黒川 清 氏
 1968年東京大学医学部卒業、同大医学部助手。69年米ペンシルバニア大学医学部生化学助手などを経て、79年UCLA医学部内科教授。89年東京大学医学部教授。96年東海大学教授、医学部長。2003年日本学術会議会長、06年内閣特別顧問。06年より政策研究大学院大学教授(現在)
【講師略歴】 坂東眞理子氏
 1969年東京大学卒業、総理府入省。青少年対策本部、婦人問題担当室、内閣総理大臣官房参事官などを経て男女共同参画室長。95年埼玉県副知事。98年ブリスベン総領事。2001年〜2003年 内閣府男女共同参画局長。04年昭和女子大学大学院教授、女性文化研究所長、07年昭和女子大学学長(現在)
【講師略歴】 田村 哲夫 氏
 1958年東京大学法学部卒、住友銀行を経て渋谷教育学園理事長・校長、文科省中央教育審議会委員など各種審議会委員、日本私立中学高等学校連合会長を歴任。現在、東京医療保健大学・大学院理事長、文科省第6期中央教育審議会委員、日本ユネスコ国内委員会会長、政策研究大学院大学客員教授など。
【講師略歴】 林 芳正 氏
 1984年東京大学法学部卒、 三井物産に入社、91年ハーバード大学政治学大学院特別研究生、94年ハーバード大学ケネデイ行政大学院卒業、95年参議院議員(現在3期目)。2008年 防 衛 大 臣。09年内閣府 経済財政政策特命担当大臣。現在、自民党 政務調査会 会長代理 、シャドウ・キャビネット 財務大臣。
【講師略歴】 藤末 健三 氏
 1986年東京工業大学卒、通商産業省入省、94年米国マサチューセッツ工科大学修士、ハーバード大学修士、99年東京工業大学学術博士、東京大学へ転任(翌年助教授)、2004年参議院議員(現在2期目)、05年早稲田大学客員教授、中国北京・精華大学客員教授就任、11年参議院総務委員会委員長に就任。
Copyright © 2009 Japan MOT Association. All rights reserved.