一般社団法人日本MOT振興協会

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第6回政策首脳懇談会を開催(2012年8月28日)

世界の中で日本の存在感を高めたい
  林 芳正 参議院議員・自民党政務調査会長代理
GNIの最大化と「太平洋の世紀」の外交安保を強く提唱

 当協会では、本年8月28日(火)午前8時、東京・内幸町の帝国ホテル「扇の間」で参議院議員・自由民主党政務調査会会長代理の林芳正氏を招き、「歴史大転換の時、日本政治は新時代を拓けるか」との演題で、第6回政策首脳懇談会を開催した。林議員は、現在50歳で、自民党政権の時に2つの大臣経験を持つ、次代の日本政治を担うエースと目されるひとりである。世界が激動のうねりを高める時に、混迷する日本政治の中にあって、その世代感覚からしても、どのような政策ビジョンを持ち、どのように現実を切り開こうとしているのか−−。
 林議員は、まず「科学技術立国と日本経済再建」が最重要な大前提とした上で、「世界の中で日本の存在感が薄れている。これを打開するには、5年、10年の大きな方向で、GNI(国民総所得)の最大化と、『太平洋の世紀』という新概念を導入した外交安保を強力に提唱したい」として自らの構想の内容を詳細に説明し、協会幹部との質疑応答にも丁寧に応じた。政策首脳懇談会は有馬朗人会長の主催で進行し、後半は橋田忠明専務理事が代行した。また、このほど連携強化で合意した日本MOT学会から代表者が出席したほか、林芳正事務所の学生3名が見学のために出席した。


左から、冒頭挨拶を述べる有馬会長、来賓・講師の林議員、鶴田最高顧問、岡村日商会頭

林議員の講演

 皆様、おはようございます。今日はお招き頂いてありがとうございます。
 私も日本MOT振興協会の発起人の一人として、MOTの意義を強く感じている。先ほど有馬先生からお話があったように、領土問題等は今に始まったことではないが、特にこの3年間、日本の存在感が薄れている。我々自民党に責任が全くないと言うつもりはないが、大事なことは今からどうするかということである。今日は、我が党の政策の網羅的な話より、私が個人的に考えている、経済についてはGNIの最大化、外交安保については「太平洋の世紀」という新しい概念をお話する。今日、明日、来年、再来年どうするかということも大事だが、5年から10年のスパンを取って、「こういう大きな方向を目指して行こう、そのために今年はどうするか」という議論が、昔に比べても欠けている。今日はそういう話ができればと思う。

GNI大国を目指す

 まず、GNI大国を目指すという点。今まではGDPで経済を見てきたが、これからはGNI、国民総所得で見るべきだ。ProductionよりもIncomeという概念を使う。GDPに所得収支(海外から入ってくる配当や利子)を足したものだ。1993年頃は、GDPとGNIの差が1%しかなかった。その後21世紀に入る直前くらいから、だんだん乖離が大きくなってきて、2010年には乖離率3%、GNIの方が15兆円位多い状態になってきた。これは企業がどんどん海外展開しているためで、輸出はGDPに入るが、海外で生産した部分はGDPに反映されないことになる。例えば海外で作ったトヨタ車が海外で売れても、日本のGDPには入らない。むしろ輸出が減った分、数字としては落ちてしまう。これでは、日本経済の全体像が反映されない。トヨタの車が海外で売れれば、当然親会社のトヨタにも配当や金利が入って来る。これを足したGNIを、指標とするべきだ。

「産業投資立国」の推進

 貿易が遂に赤字になったというニュースが、去年から出ている。これは何も3.11後の原発停止に伴うエネルギー輸入の増加から急に起こったわけではない。日本の経常収支はほとんどが貿易と収入であり、後は桁数が2つほど小さい。貿易収支は1996年から10兆円程度の黒字で推移し、所得収支は5兆円程度だったが、2005年位から貿易収支が所得収支を下回ってきた。3.11大震災がなかったとしても、貿易収支はゼロに近づくと推計されていた。これからは貿易立国というより、投資立国にしていく方が現実的。我が国はモノ作りに非常に強いので、投資立国というだけではなく、「産業投資立国」すなわちモノづくりを中心とした投資立国という新しい姿を目指すべきだ。例えば自動車を作る時に、まずデザインし、それに基づいて設計をして、部品を調達して、組み立てる。この最初のデザインからプロトタイプを作るまでの、「マザー工場」と呼ぶべき付加価値の高い仕事を国内に残し、量産は市場に近い海外の工場で行う。このような産業投資立国を推進すべきである。

 当然、そのためには国内に科学技術への投資をしっかり行う。科学技術の投資をする司令塔は総合学術会議だが、もっとパワーアップしなければいけないし、民間のニーズを十分踏まえた基本的な判断を、政府と民間で連携して行う必要がある。設備投資や研究開発投資、減税といった政策により、付加価値の高い分野を日本に集めるようにする。言うまでもないことだが、民間のニーズと国家の橋渡しを行うのが、MOTの大きな役割となる。

積極的な海外投資が必要

 新興国、途上国に対する貸し付け額は、ヨーロッパの銀行は3兆6,000億ドルと圧倒的で、日本は3,000億ドル、米国は8,000億ドルと少ない。例えば中南米を見ても、米国より欧州銀行の方が貸付高が高い。日本の銀行もアジア向け投資のトップではない。これは、歴史的に見ればラテンアメリカの金融危機の時に、米国の投資がヨーロッパへ移り、アジア危機が起こった時に日本の銀行から欧州の銀行にアジア向け投資が移ったためだ。現在、欧州の国際危機が騒がれているが、この機会にもう少しアジア向け投資を日本に移し、中南米向けの投資を米国に移してバランスを取っておくと、例えばギリシャやスペインに貸し込んでいるヨーロッパの銀行が何かの影響で倒れた時に、その影響を軽減できる。欧州危機に対する保険だけでなく、GNIの観点から、日本の銀行がアジアに貸し出していることは、日本の大企業や中小企業の海外展開にとっても重要である。

日本企業の海外展開を推進

 東大の戸堂康之教授という中小企業のデータをずっと分析されている先生の、「臥龍企業」という言葉がある。三国志の諸葛孔明は、劉備玄徳に仕えて、赤壁の戦いで大活躍をする前までずっと寝て暮らしていた。場を与えられれば大活躍をする、このような中小企業が日本には数千社あるというのが戸堂先生の分析である。3年ほど前まで、海外展開すれば売れそうな事業を持っている企業に対し、なぜ海外展開をしないか聞くと、一番多い答えは「必要無い、国内で間に合う」であった。しかし現在は、企業の考え方もかなり変わり、JETROや銀行に相談に来る件数も相当増えていると聞いている。大企業の海外進出支援と同時に、中小企業の海外展開戦略をどのように政策として後押しするかが課題となる。現在経産省に考えてもらっているのは、工業団地ごと海外に出ていく方法。例えばベトナム等へ大企業と中小企業が同時に出ていくと、言葉やインフラ等にまとまって対処できる。また、自分の企業がどのようなマーケットに向いているかという最初のコンサルティングのために、商社やJETROを退職した方に海外支援コンサルティングのような資格を取ってもらうことも考えている。その時に注意しなければいけないのは、日本の企業が根こそぎ出ていくと、産業投資立国にならないということ。必要な部分を日本に残してもらえば、雇用が減らないという例が出てきている。例えばピジョンという哺乳瓶メーカーがあるが、工場を中国に移して、一時的に数十人程度の雇用が失われたが、5年程度で取り戻した。中国向けのヘッ ドクォーター用の雇用が増えているためだ。当然売り上げも増える。トータルとして、工場で減った雇用を上回る雇用が本社で実現している。

 国内で人口が減少するが、日本はインド、中国の30億人程度、ASEAN10億人程度の40億人のマーケットに一番近い。アジアはホームグラウンドであるという感覚で、「東京本店、九州支店」という感覚と同じように、「名古屋本店、マレーシア支店」という感覚が重要だと思っている。その時には、ヘッドクォーターやマザー工場で働ける高いスキルを持つ人材が必要になる。中間層をどのように維持するかが、一つの課題となる。サービス産業、農林水産業の6次産業化等で補う必要がある。

民間を活用した医療・介護分野の活性化を

 推計によると、75歳人口は2010年の1422万人から2030年には2236万人まで増えるという。この高齢者人口の推移にもとづいて、医療福祉分野の人材が、2010年現在の605万人から1040万人まで増えるという推計もある。現在の医療・介護分野は、需要供給より、ファイナンスの問題が重要。お金さえあれば施設を作ろうと言う人もいる。ただ、税金と保険料をどうつけるかがボトルネックになっている。公的保険の充実や、介護の診療報酬向上が課題だが、税金だけですべてを賄うと、かなりの消費税が必要だ。もう一歩工夫しなければならない。公的保険の外に、民間のサービスが考えられないだろうか。実際にあった例だが、介護保険の中で出る食事はメニューを標準化して、自己負担で数100円上乗せすると、自分でメニューを選べるようにするサービスがある。84歳の男性で、貯金が1億円というお金持ちの方に、このサービスを勧めてみたが断られた。理由を聞いて見ると、「老後が不安だ」と答えたという。彼が120歳まで生きた場合、自己負担は辛いが、そのために保険がある。例えば食事の自己負担分を保険で賄うシステムは、月に1000円くらいで入れる。全額一括で払っても200〜300万円だ。1億円の貯金を持っていればそれほど抵抗がないと思う。他にも、医療施設への通院の付き添いサービスや入浴サービスなど、単品での保険を組み合わせることで、保険に入りやすくする。介護を受けている人のQOLを上げると同時に、介護を提供している側の収入が増える。民間の保険を「2階」の部分として増やしていくことが非常に大きな意味を持つだろう。

農林水産業の6次産業化

 例えば私の故郷の下関ではフグが有名である。これは伊藤博文公の時代に「下関のフグ」としてブランド化された。単に1次産業として、魚を取って築地に出すだけでなく、2次産業(加工)である刺身にする、3次産業としてお店に出荷するというところまでやると、消費者価格が10倍位になる。1+2+3=6次産業化することで、地元に落ちるお金が10倍になる。また、観光客がフグを食べる、旅館に泊まる、お土産を買うということで、地元に回る金が増える。このようにブランド化を進めていくことで、農林水産業にもチャンスがあるはず。そういうことができるファンドを国と地方自治体に置くことを政策として進めていく。
GNIの観点からは、介護のノウハウ、また農林水産業の6次産業は、インバウンド、アウトバウンド、両方の可能性がある。高所得者層は質の高い介護サービスを受けにくるし、美味しいフグの刺身を食べに行くというインバウンドがある。また、介護のシステムは日本が最先端なので、中国など外国でも需要がある。また寿司や日本酒という食文化も海外に展開できる。熊本の「味千」とい豚骨ラーメンのお店があるが、中国ではすでに500店舗展開している。この前にシンガポールに行ったら、そこにもあった。そのような日本のブランドをアウトバウンドしていく。従って、最後は人材ということになる。グローバルな人材育成を進めているアジア6大学というと、北京、清華、上海、香港、シンガポール辺りが当確で、東大はソウルや台湾と6番目を争っていると聞いた。秋入学も重要で日本MOT振興協会では本日お見えの安西副会長を中心に進めておられるが、とにかくグローバル化が重要になっている。

太平洋の世紀と3つの戦略的フェーズ

 次に「太平洋の世紀」ということだが、日米関係を堅固なものにして中国とどう向き合うかが重要である。「3つの戦略的フェーズ」があり、2011年〜2017年を第1フェーズ、2017年〜2025年を第2フェーズ、それ以降を第3フェーズと考えている。まず第1フェーズは、日米と中国のパワーバランスが現状のまま、すなわち日米側が優勢な期間だ。中国が仕掛けるのは難しい。第2フェーズは早ければ2017年から始まる。中国は経済成長と共に、一定の比率で軍事費を予算計上している。この時期には経済及び軍事の両面で中国が日本を超え、パワーバランスが変わってくる可能性がある。第3フェーズの2025年は、高齢化等の影響により、中国の経済成長も屈折もしくは安定期に入る時期。この頃には中国の対外行動も穏健化し、市民社会が成熟していることが考えられる。
 基本的には第2フェーズが危ないと考えている。この頃の中国は、身体は大きいが頭が未熟な、思春期のような状況。従って、第1フェーズの間に、中国に対し共通ルールの重要性を示すことが重要である。日本でも集団的自衛権と同時に、海上保安庁を含めた防衛予算について確保する必要がある。

日米同盟の強化が必須

 昨今の竹島、尖閣諸島、北方領土の問題は、結局は日米同盟がギクシャクし、日米間に隙間風が吹いていることを見て、中露が協働し、それを見ながら韓国が動いているのではないか。韓国の背景には、米韓関係が好調なので、日本にちょっかいを出しても大丈夫という思惑があるのではないか。以前の中国は、北方領土が日本の領土であることを明確に支持していたが、近年では中露が北方領土と尖閣諸島に対するそれぞれの姿勢を黙認しているように見える。
 日米関係を強固なものにした上で、韓国と3国で北朝鮮に対峙することが必要である。それを中国に示して北朝鮮に抑制をかけさせる。そこまで行けば、ロシアも日本と対話するための土壌ができる。シベリアも過疎化しており、西に人口が移動している。ロシアには資源があり、日本にはお金と技術がある。メドベージェフ大統領が強硬姿勢を取って、プーチン首相が交渉する姿勢を見せているのには、そのような背景がある。
 日米関係では沖縄の問題は避けて通れない。これまでずっと沖縄自民党県連が名護市長を支えてきた。沖縄県と中央政府、アメリカの間に太い信頼のパイプが通らないと、沖縄問題は歯車が噛み合わない。この点をきちんとすれば、日米関係は再び強固なものになる。同じ方向に向けて協力するための努力をすることが大事であり、そのために、しっかりした政権を作らなければいけない。

中国との「大国間の大人の関係」を構築

 日中関係が「戦略的互恵関係」になってかなり時間が過ぎた。次は大国間の大人の関係を目指すべきだ。お互いが良ければ良いのではなく、アジア太平洋に対してお互い責任を持つということ。そのためには、専門家がしっかりと外交をしていくことが重要。当たり前のことを当たり前にやっていく。
 会場の皆様から、中長期的な経済と外交安保のビジョンについて、ご議論賜りたい。

【林 芳正氏 略歴】
(2012年10月現在)
1961年生。1984年東京大学法学部卒、三井物産に入社、91年ハーバード大学政治学大学院特別研究生、94年ハーバード大学ケネデイ行政大学院卒業、95年参議院議員(現在3期目)。2008年 防 衛 大 臣。09年内閣府 経済財政政策特命担当大臣。
現在、自民党シャドウ・キャビネット官房副長官、自民党政務調査会長代理。

協会幹部との意見交換
野依良治氏 STIの統合とSTIを担う人材育成

 日本は物作り立国だと仰ったが、物作りに関しても、整合的に基礎科学からイノベーションまでをつなげなければいけない。今は第4期の科学基本計画が走っているが、従来のサイエンス(S)とテクノロジー(T)に加えてイノベーション(I)が入った。このSTIをどのようにマネージしていくかが大事だ。大学、独立法人、産業界をいかにつなぐかだ。鍵になるのは独法の改革だ。独法を国立研究開発法人のようなものにしていく計画が進んでいるが、依然として省庁縦割りで、これでは元の木阿弥になる。STIの中で、例えば理研はSやTが強い。産業技術総合研究所はIが強い。これをつないぐことが非常に大事だ。それぞれが別々にSTIと唱えていても進まない。それぞれの得意なところをうまくオーガナイズ、コーディネートしていく。そのためには司令塔が大事になる。もし政権が自民党に戻ったら、もう一度その辺りを根本からご検討頂き、迅速に独法改革をして頂ければと思う。
 また、R&Dを進めることと、STIを担う人材をどう養成するかが重要。大学は非常に基礎的な、Sができる人材は養成できるが、TあるいはIができる人材は誰が養成するのか。例えば、今の原発を維持するにしても、廃炉にするにしても、一体誰がやるのか。これは大学では恐らく人材養成できない。また、アマゾンや深海の資源を開発するための人材養成も出来ない。その意味で、これから新しい国立研究開発法人ができれば、STIをうまくR&Dしていくことに加え、人材をいかにうまく持続的に養成していくかということが大きな役割になるかと思う。

渡辺修氏 国際公共財としての原子力発電

 アジア全体が言わばホームだという考え方はその通りだと思う。特に私は、究極の地場産業は農業ということになるのだと思う。日本の農業はコメ以外の分野はかなり強くなっているので、TPPに入ることでショック療法が必要だ。
 エネルギーについては、当面大変な時期が続くだろう。私が一番心配しているのは、LNGや石油ではなく、原子力である。特にこの数週間に、民主党政権が急速に原子力ゼロの方向に進んでいる。今世紀末には、世界全体の人口が90億人を超え、そのほとんどが貧しい人々になるといわれる。人類が少しでも豊かになっていこうと思うと、エネルギーが不可欠で、当然ながら中国もロシアもインドも産油国も、原子力発電を進めていかないと成長に必要なエネルギーは得られない。
 原子力発電は、一種の『国際公共財』になる。原子力発電を安全に使える国際標準と、それを管理する機関やスキームが必要になる。そのことを一番提案しやすいのが、事故を経験した日本であり、それをアメリカがサポートするという体制を作ることが重要。しかし全くそのような議論が行われず、原発ゼロという議論だけが進んでいる。中国が原発を何百基と作ろうとしているが、その中の1基でも事故が起これば、その影響は全部日本に来る。日本の原発再稼働に猛反対していても、中国で原発事故が起これば無意味である。この点がほとんど議論されないし、議論してもジャーナリズムに無視される。
 世界全体の石油エネルギー、LNGが高騰していて心配しているが、一番太い根っこは、公共財である原発ではないか。世界全体のスキームを早く作らないと間に合わないのではないか。最近見ていると、自民党も原子力に対する発言が、選挙を前にして小さくなっているように見えるが、正面から正攻法でお願いしたい。

安西祐一郎氏  大学改革と高等教育による人材育成

 日本MOT振興協会の「人材育成フォーラム」では林先生にアドバイザーになって頂いており、この間はGNIについても色々とお話を頂いた。改めて感謝申し上げたい。今の大学教育が、これからの日本のあり方とかけ離れた内容で行われていることは、極めて大きな課題である。今日林先生がお話されたような、包括的でしかも合理的な考え方をすることのできる人材を育てなければいけない。特にこれからの時代、大きな目標を持って大学改革や教育が行われなければいけないということを、持続的に話し続けて頂きたい。やはり教育は国の根幹であるので、どのような方向へ教育が進むべきかということは、国の指導者が語り続けていくべきことだと思う。

國井秀子氏  さらなる女性の活躍推進

 ご存知の通り、日本は女性の活躍が先進国最下位。
色々な努力がなされているが、成果が上がっていない。初等中等教育も、ジェンダーバイアスの再生産をしていると言われている。まず根本的に、教育から意識を変えていかないといけない。企業も女性管理職を増やすなど、色々な活動をしているが、やはり政治家の方に長期的な観点で、根本的なところから取り組んで頂きたい。他国を見ても、20年、30年かけて女性活躍の問題に取り組んでいる。現在の色々な活動と共に、教育評価も極めて重要だ。以前有馬先生からは、理科の女性の先生をもっと増やしていこうというお話があったが、こういう地道な活動を一つずつ重ねないと、何十年、何百年にわたって存在してきたバイアスは変わらない。そういう観点からの取り組みも、是非進めて頂ければと思う。
 もう一つ申し上げたい。先ほど「臥龍企業」のお話があったが、日本国内ではベンチャー企業が成長しないことが大きな問題。IT系は比較的投資金額が少なくても活動しているが、やはりグローバルに日本の産業が伸びていくためには、ITとハード系のモノ作りがもっと連携・連動して、アジア市場に対して進出していく必要がある。鉄道と一緒に予約システム等を売り込むように、日本の強い技術をサービスとして海外に売り込んでいく必要がある。技術だけのを売り込みでは、米国や中国、インドに対してポジションの確保が厳しい。日本の技術を統合していけるように、政治の力で推進して頂きたい。

林裕子 氏 STIの視点で変わる

素晴らしい方々に夫の話をきいて頂き、ありがとうございます。STIの視点を入れると色々変わって来ると思う。インバウンド、アウトバウンドも、例えば「悪」とみなされている公共事業も、輸出する時には、日本の技術であり、その技術開発、技術輸出のための公共事業ができる。この会は様々な視点からのヒントを頂ける機会になっていると思う。よろしくお願い致します。

鶴田卓彦 農地法の再改正を

先ほどの話の中で欠けていたのは農業だと思う。日本の農業は非常に大事だと思う。これがあまり大きな議論にならないのが残念だ。農地法の再改正が大事だと思う。再改正というか大改正をやってもらいたい。

岡村正氏 「攻め」の中小企業育成戦略を

 私は商工会議所にいるので、その観点から申し上げたい。中小企業にとって一番大事なことは、海外進出とIT化だ。IT化の方は色々プロジェクトを組んでいるが、海外進出となると、マーケティング能力が不足している。マーケティングに秀でた人材をいかに育成して、海外進出のアドバイザーとしていくかというのが非常に大きな問題。もう少し大きな観点から考えると、中小企業政策は今まで金融や税制等、守りの、弱いものを助けてあげるという政策だった。中小企業を育成するための攻めの政策が欠落していた。中小企業戦略は国家戦略の中心にならなければいけない。中小企業の労働人口は全体の7割を占める。この7割の労働人口が太くならなければ、日本の成長はあり得ない。

白井克彦氏 根本的な改革と人材育成が重要

 将来のためには日本のシステムを根本的にを変えていく必要がある。そのために、それにふさわしい人材育成と、それが可能な教育体系を作っていくことが重要だ。もう一つは、科学技術が非常に重要で、司令塔や全体のマネジメントが必要だが、政策や全体的な流れが見えない。ここをしっかりしなければいけないと痛感している。

石田寛人氏 理科系の総合的人材の育成が不可欠

 原子力については、渡辺氏のおっしゃる通りだと思う。人材育成に関しては、理科系の総合的人材の育成が不可欠。秋入学が始まった際には、ギャップタームを利用した、歴史の徹底的な研究が不可欠となるだろう。

野口一彦氏 国際的な貿易圏を通じて世界の市場で戦う

 キヤノンは製品の8割が海外で販売されている。先ほどトヨタの例があったが、キヤノンも生産は外に出し、マザー工場と研究開発は日本に残している。研究開発税制の税額控除上限が2割から3割に戻った。これにより、研究開発も外に出ざるを得ない状況。これから日本に雇用を確保する意味でも、この点をお願いしたい。
 もう一つはTPP。御手洗キヤノン会長がTPPを推進しているのは、中国を見ているためだ。中国はTPPに加盟していないが、これからのASEAN+6やFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)をにらんで、参加していかなければいけない。その意味で、GNIは世界を市場に戦っていく観点からも重要だと思う。

水野雄氏 産業界の声が政界に届かなくなっている

 今年7月に野田政権が日本再生戦略を発表したが、14名の構成員の中、民間が4名しかいない。岡村会頭すらメンバーに入っていない。今後の成長は民間の活力をいかに引き出すかということが重要なのにもかかわらず、そのような状況であり、産業界の声が届きにくくなっている。その点でも自民党には是非頑張って頂きたい。

木村節氏 新しい東洋的な領土問題の解決法を探って

 私は中近東、アフリカに長く駐在した。最近日本の存在感、あるいは地位が日に日に下がっているように感じる。中近東、アフリカという地域は18〜20世紀にかけて、西洋文明の植民地主義に徹底的に略奪され現在貧困にあえいでいる。そこで特に科学技術の支援を日本に求めてきている。そのことについて中近東、アフリカの人たちが言うことは、西洋から、右から左への受け渡しは聞ききたくないということに尽きる。それならば西洋から聞けば良い。彼らは、東洋の君主国としての日本、信義を重んじる日本というものに期待している。もう西洋的な見方はこりごりだというのが彼らの意見だ。この観点から見ると今の領土問題はすべて西洋的なナショナリズムだ。ここは、東洋の叡知をもって何か他の新しい、世界の尊敬を受ける解決法を目指してほしい。

菊池正樹氏 海外進出の支援に尽力する

 三井住友銀行は、中堅小中企業の海外進出支援を背景とした、アジア・新興国向けののエクスポージャーの増強や医療介護分やのファイナンスに力を入れている。来年3月の金融円滑化法の期限の到来等、頭の痛い問題はあるが、資本産業立国日本の企業を支えていくために商用銀行としてしっかりとした金融を実施していきたい。

西河洋一氏 デフレ・スパイラルの脱却を

 私の子供が今、高校に通っている。昔、私が高校生の頃はアルバイトはすぐ見つかったものだが、最近、社会経験をさせたいと思っても働かせてもらうところがない。 教育の問題もあるが、全体的な日本の環境が相当昔と違う。私の若い頃はずっとインフレで来たが、ここへ来てデフレで、どんどん物の値段が下がっている。何故物の値段が下がるのかというと、所得が減っている。所得が減れば物が買えない。デフレの悪循環に陥ってしまっているのではないか。日本の技術で作られた製品を少しずつ高く買おうと発言し、発展する日本に導いて欲しい。

唐沢範行氏 関税障壁という問題は大きい

 アサヒフードアンドヘルスケアもアジア、オセアニアは国内と同じ、というスタンスで取り組んでいる。しかし、海外進出を進める上で関税障壁の問題は大きい。やはりTPPに限らずASEAN+6あるいは+3の連携の枠組みを速度をもって進めることが重要だと感じている。

斉藤潔氏 MOTのコンセンサス作りを

 富士ゼロックスも生産の90%以上を海外で行っている。デザインからプロトモデルまでを国内で作り生産は海外で行う産業投資立国、という話だが、税制の問題だけでなく、マーケットに合わせた設計が重要だ。そのためには、海外に行ってそこに合わせて設計することも必要になる。その時に重要になるような特許、人材の問題をきちんと取り上げるべきだ。MOTとしてのルール、コンセンサスを得ておくことが今後重要になると思っている。

柘植綾夫氏 持続可能なイノベーションの創出

 GNI大国を目指す、あるいは太平洋の世紀を作るというのは、包括的に見ると日本のイノベーションの能力をいかに強く、持続可能にするかということだ。産業も行政も、個別に一生懸命にやっていることは確かだが、それが持続可能なイノベーションの創出につながっていない。私は問題解決へのセンターピンは二つあると考えている。一つは、司令塔のトップの能力が欠けていること。総理大臣も含めて、グローバルな視点も含めたいわゆるマネージメントオブイノベーション能力が政治家に見えない。次のリーダーを選ぶ時には、国民が自信を持って選べるように、それが見えるようにして頂きたい。
 二つ目のセンターピンは、イノベーションと科学技術革新の橋渡し機能だ。SITという第4期科学技術計画を立てた。これは難しいが絶対にやらなければならない。しかし、文部科学省内の議論では、教育という言葉が入って来ない。人材育成という言葉で逃げてしまっている。科学技術とイノベーションと教育という三位一体で進めなければ生きた教育も出来ないし、科学技術革新がイノベーションまで結びつかない。STIにeducationのEを加えて一体的に推進する司令塔を、総合開発会議の改組の中に入れて頂きたい。

小島明氏 持続可能なイノベーションの創出

 重要だと思う点が二点ある。一つはアジア全体を国内市場のように考える視点である。まだ日本の企業、産業界の意識改革は十分ではない。国内市場は豊かで大きいという意識がまだある。しかし日本は韓国と比べても、一社当りの国内市場はどんどん小さくなっている。自動車を例に取れば、日本には多くの自動車メーカーがあるが、韓国は1社だ。日本の一社当りの国内市場はグローバルに見て、どんどん小さくなっている。将来の発展を考えれば、アジア全体を取り込むという意識で経営しなければならない。
 もう一つは、自助をどう刺激するか、という点だ。個人や企業、民間部門の工夫をいかに引き出し、応援するかということだ。これからは法人税以上にR&D減税で税額控除をするべきだ。R&Dをやらないところにはメリットが行かない。やろうとしているところは、将来大きな付加価値を生み出す可能性がある。そこで徹底的に税額控除をやって、民間の創意工夫を刺激する政策に絞るべきだ。創意工夫を引き出すためにはR&Dだと思う。

荒井寿光氏 国際的な産学連携を進めるべきだ

 今、アップルとサムスンで国際的な特許戦争をやっているが、お互いの切磋琢磨になっている。大学とか研究法人も国内の特許は取るようになったが、これからは国際的な特許取得や、産学連携を進めるべきだ。色々なイノベーションをリードする段階へ進まなければならない。
 もう一点、日本は物作りが強みだと、ついこだわってしまっていないか。「この携帯電話のこのチップは日本で作っている」ではなく、全体のシステムを作る必要がある。そういう意味で、物作りに強いだけではなく、知恵作りにも強い、知恵作り大国を目指す必要があると思う。

伊賀健一氏 パッケージ化して売りに行く

 GNIを使うというの非常に大事な視点だと思う。林先生の話の中で、貿易収支の統計が出ているが、私は収入と支出を分離しないと正しく理解できない。これだけ見ると、貿易がほとんどすたれているように見える。しかし、輸出も輸入もあって、均衡して0に近くなっているだけだ。いいところを伸ばすには輸出を見るべきだし、何を買う必要があるのかを考えるなら輸入を見るべきだ。例えばエネルギーは5%しか自分のところで持っていないので買うしかない。こう見ると、日本はこれから外国からお金を稼がなければグローバル経済としてはやっていけない。理工系大学の一つとして、そういう風なマインドを持った人材を育てようと改革を進めている。その中で、ライフにしてもエネルギーにしても部分品ではなく、パッケージ化して売りにいくことが大事だ。そういうところを行政として応援して欲しい。
 人材養成に関しては、デザインからプロトタイプ作り、マザー工事までをできる人を養成しようと今教育改革を進めている。
 原子力について、我が大学は文部科学省のリーディング大学で唯一原子力を取りに行き、進めている。私は学長になって5年だが、その間総理大臣が6人変わった。7人になるかもしれないところだが、少なくとも4年はやらないと周りの国から足下を見られるのは明らかだ。安定な政権を望みたい。

児玉文雄氏 ビジネスモデルを考えた政策立案が必要

 貿易よりも投資、ということだが、物作り技術や部品を海外へ持って行き、ビジネスモデルは向こうで使われてほとんどの儲けを海外に吸い取られるというケースがアメリカでも起こっている。アップルがいい例だ。そのあたりを政策的に考えていくことが必要だ。STIにビジネルモデルのBも必要だ。昔のイノベーションサイクルという議論には、生産、R&D、マニュファクチュアリング、それにディストリビューションまで入っていた。それら全部を考えて政策立案することが必要だと思う。

中田章 氏 日本に残す部分の支援も重要

 私も産業界におり、海外展開を進めている。外へ出るための支援も重要だけれど、日本に残った部分のイノベーションをどう強化していくかも問題だ。今まで国内で物を作ってきたが、それが外へ出て行った後、どうするのか。雇用の問題なども含めて非常に重要な問題だと思っている。我々が力を持ってイノベーションを進めていくための支援をスピード感を持ってお願いしたい。

角忠夫氏 無形資産の勝負が大事

 現在は大学でMOTをやっているが、それ以前は東芝で充電プラントを海外に販売していた。その頃の日本の製造業は大変輝いていて、Japan as No.1だった。何で勝負していたのかというと、有形資産での勝負だったと思う。現在の製造業の復権には、物作りはもちろん大切だが、無形資産の勝負が大事だ。特許、知的財産はもちろん大事だが、知的財産以外にもソフトウェア、サービス、あるいはブランド、ビジネスモデル、ソリューション、人材開発など、包括的にきちんとしていないと産業投資立国にはなれない。株価を見れば、昨日の東証第1部全銘柄の平均株価中資産倍率PBRは0.93だった。企業価値は有形資産プラス無形資産で構成されるが、PBRが0.93ということは純資産にも及んでいない。これは由々しき問題だと思っている。無形資産価値評価の仕方はMOTのこれからの非常に重要な問題だと思う。平成15年に知的財産戦略本部ができたが、現在は無形資産戦略というものを産官学が連携してやらなくてはならない。無形資産開発本部と改称してでも推進して欲しい。

三森義隆氏 競争力のある建設業へ

 三井住友建設も物作りをしているが、東南アジア、インドでの海外工事の受注が倍増している。特にインドで日本企業の工場の受注が昨年度の倍以上だ。日本の建設業も海外進出はしているが、欧米の建設会社と比較するとグローバル化は遅れている。マザー工場の概念を取り入れ、国内で技術、ノウハウ、施工管理手法を特徴ある物に磨き上げ、海外で競争に打ち勝てるような建設会社にしていきたい。

森裕子氏 化学系産業廃棄物処理の法整備を

 6月頃、ヘキサメチレンテトラミンというホルムアルデヒドの原因物質が河川に流れ出る事故があった。原因は排出業者と処理業者の間の確認不足という記事が出ていた。化学系廃棄物は他の廃棄物と異なり、少量ずつ多品目が混合されており、「想定外」の事故がいつも起こる。処分業者の知識とセンスに頼っているところが大きい。排出する大学、研究所の担当者も排気行程で起こる反応を熟知する必要がある。化学系廃棄物は、マテリアル的に開発するなど技術開発の余地は大きいと思うが法の関係でやりにくい。他の産業廃棄物として一括ではなく、省庁の横断的な法律を作って頂いて、技術開発、人材教育がやりやすいようにして欲しい。

前田一郎氏 国際的な立地競争力が重要

 東レは二分法で「日本でやれるか、海外しかないのか」という考え方はしていない。素材メーカーなので、物作りをともなう、先端材料の開発研究をやらなければどこへ行ってもやっていけない。それは日本でももちろんやる。産業空洞化の先兵になっているのではないかというような国会中継があったが、私どもの判断は国際的な立地競争力の問題だ。電力が日本の3〜4割というところがあれば、合理的な判断として出て行かざるを得ない。インフラの立地競争力というのは重要だ。自助努力でやるところはやる。しかし、インフラのイコールフィッティングだけはお願いしたい。

吉海正憲氏 若者が生き生きと活動できる環境を

 まず高齢化社会の話だが、それに合わせて介護医療等で新しい就業構造を作る、というのはその通りだと思う。若者がそれに従事すればある種の所得移転が循環構造として生まれる。それは確かだが、若者を対象とした思い切った政策が影が薄いと思う。高齢者は今人口が多く、ある意味票田であり、社会負担をやわらげるという大事な視点だ。しかし若者が生き生きと社会活動ができる環境を作るという点もバランスをとってやって欲しい。若年層の所得低下が問題になっている。彼らが年を取ったら所得や貯蓄水準の低い高齢者が増える。そういう長期軸で見て頂きたい。次にGNIについて。おっしゃる通りだと思うが、このGNI構想を実現するには二つの用件が必要だ。一つは流動性。もう一つはネットワークだ。流動性というのは、企業で言えば人材の流動性であり、事業部門のM&Aなど経営資源の流動性、それからグローバル的な意味での経営トップ層自信の流動性。それが実現できる社会の仕組みが無ければ難しい。ネットワークというのは、STIの脈絡を作る、領域を超えたネットワークのことだ。これが非常に重要なポイントだ。大学も苦労しているが、研究者のある種の性なのか、このネットワークが育たない。このネットワークをいかに築くかに政治の力をお願いしたい。

林議員からの解答

 大変多岐にわたるご指摘をありがとうございました。
 まず農業とTTP,FTAについてですが、日本は投資協定の数が中国、韓国に比べて非常に少ない。中国127、韓国90に対して日本は27だ。この理由は二つあると思っている。一つは日本は真面目にマルチを追求してきて、バイは例外だと考えていた点だ。私が大蔵政務次官の時、初めてシンガポールとの間に結んだが、やはりバイに抵抗があって出遅れた。また、包括的にやろうとすると、EPAが一番いいが、要旨協定だけ、社会保障協定だけというようなパーツで出来るところからやることも大事だ。農業とデリンクできる。中国、韓国はヨーロッパとそういうところをたくさんやっているから数が多い。もう一つは、中東、アフリカと結ぶことだ。資源、エネルギーを確保する戦略で最近中国が数を増やしている。この観点が一つ重要だ。
 TPPそのものについて、ご指摘通りASEAN+3、+6、EUとできれば同時並行的にやると我が国にもっとも有利になるように交渉できる。一つずつやると交渉力が弱まる。中国がASEAN+6でもいいと言い出したのだからここはチャンスが来たと思うべきだ。そのために農業の対策をきちんとやらなければならない。農地法と農協の改革が両輪になる。農地法については、石破茂農林大臣の時に平成の農地改革というのをやりかけていたが、あの方向でいく。農協には30万人職員がいる。「町のバンク」と自ら言っているが、これをいわゆる金融サービスをするところと、農業のアドバイスをするところに分ける。国鉄をJRにした時のように、きちんと対応していかなくてはならない。実は農協の内部でも検討はすでに始まっている。この時に大事なのは為替だ。アメリカと中国がペグをしているため、円高になると人民元に対しても円が強くなる。中国が大部緩めてきているが、急にやるとバブルになると、彼らもよく学びながらやっている。緩めた方が人民の購買力も上がるからあなたのためだ、と後押ししていくことが重要だ。
 科学技術の司令塔人材、トップの能力、総合開発会議、それから独法系の話については、法案の骨子はすでにある。自民党が与党の時に超党派で、研究開発力強化法を作り、ねじれを超えていきたいと思っている。総合開発会議の改組についても、文部省と科学技術庁を一緒にしたことによる問題だ。総合開発会議をかつての科学技術庁のように本当の司令塔としておき、文科省も厚労省も農水省も経産省もその下に同列にぶれ下がる形で作るのがいいだろう。
 エネルギーについて、まず規制庁が規制委員会というかなり独立性の高いものになった。ここが基準を作るのに6ヵ月、それから今残っている物にそれを当てはめて再稼働で2年程、全部で3年程かかる見通しだ。3年で省エネがどこまで現実的かなど見極めて結論を出したい。原発ゼロの選択肢を自民党も出しているが、あれはインチキだ。成長率1にして、省エネはみんなにただでやってもらうという前提だ。それはあり得ない。選挙目当てでゼロにシフトしている残念な傾向がある。これはきちんと対処していく必要がある。
 それから、科学廃棄物の話があったが、専門家の意見を政策とどうリンクさせるかというのは大事な問題だ。政治家は専門家ではないので、きちんとトランスレーションができ、それがスピード感を持って政策に生かされる仕組みを、総合技術会議と学術会議を両輪として強化する必要がある。
 貿易収支の話だが、GNIを大きくすることで、貿易赤字を黒字に転換していく政策が必要だと思っている。
 最後に政治のリーダーシップについてだが、これは政治家だけでは難しい。業績ベースで政策を評価することが必要だ。アカデミアとメディアに特にお願いしたい。アウトプットをPDCAのサイクルで評価することだと思う。例えばオランダではそれぞれの党のマニフェストを全部チェックしてこのマニフェストだと財政赤字がこういう風になるというのを第三者機関が出し、選挙の前にそれを見て投票する。こういうことを何年かやって財政健全化に成功したという例がある。こういう政治家版ミシュランを作って頂かないと、地元に帰って色々な所に顔を出した人、それからテレビで大げさなことを言う人が国会に残る。これでは悪循環は断ち切れない。我々も本格的な政策を打ち出して努力をしなければならないと思っているが、「政治は国全体のレベルを超えることはできない」という言葉がある。ここは全体的に取り組んでいく努力をしていかなければと思っている。

第6回政策首脳懇談会 出席者
来賓・講師    
  林  芳正 林 芳正(自民党政務調査会長代理・参議院議員)  
  随行者 林裕子(山口大学大学院技術経営研究科特命准教授)  
協会幹部  
会 長 有馬朗人(武蔵学園学園長)
最高顧問 鶴田卓彦(日本経済新聞社・元社長)
諮問委員 木村節 (リビア国経済・社会開発基金顧問)、小島 明(政策研究大学院大学理事・客員教授、日本経済研究センター参与)、角 忠夫(松蔭大学大学院教授)、副会長  安西祐一郎(日本学術振興会理事長)、國井秀子(リコーITソリューションズ会長)、児玉文雄(東京大学名誉教授)、小林陽太郎(富士ゼロックス元取締役会長)(代理 齋藤 潔 フェロー)、白井克彦(早稲田大学学事顧問・放送大学学園理事長)、野依良治(理化学研究所理事長)、松本正義(住友電気工業社長)(代理 吉海正憲 常務執行役員)、薬師寺泰蔵(世界平和研究所理事研究顧問)、
専務理事 橋田忠明(日本経済新聞社・社友)
理  事 秋元 浩(知的財産戦略ネットワーク社長)、荒井寿光(東京中小企業投資育成社長)、伊賀健一(東京工業大学学長)、石田寛人(金沢学院大学名誉学長)、唐澤範行(アサヒフードアンドヘルスケア社長)、榊原定征(東レ会長) (代理 前田一郎 経営企画室リーダー)、西河洋一(アーネストワン社長)、則久芳行(三井住友建設社長) (代理 三森義隆 執行役員)、水野雄氏(旭化成常務執行役員兼旭リサーチセンター社長)
監事 清水喜彦(三井住友銀行副頭取) (代理 菊池正樹 副部長)
設立発起人等 岡村 正(日本商工会議所会頭)、高橋 実(名古屋工業大学学長)(代理 小竹暢隆 教授)、柘植綾夫(日本工学会会長)、御手洗富士夫(キヤノン会長)(代理 野口一彦 執行役員)、森 裕子(ハチオウ社長)、渡辺 修(石油資源開発社長)
特別招待 中田 章(日本MOT学会副会長)
事務局 石川和伴(北海道新聞社・元論説委員)
インターン学生見学者 3名
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