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第7回政策首脳懇談会を開催(2013年8月26日)

下村博文 文部科学大臣
教育・科学技術の主な政策38項目は、必ず達成へ

 当協会は、本日8月26日(月)午前8時〜10時、東京・内幸町の帝国ホテル「鶴の間」にて、下村博文文部科学大臣を招き、「文部科学新行政と今後の課題」との演題で、第7回政策首脳懇談会を開催した。下村大臣は、「2020東京オリンピック招致」の最高責任者でもあり、9月のIOC総会直前に、懇談会に臨んだ。「安倍政権の3つの最重要政策である経済再生、教育再生、科学技術・イノベーションと成長戦略のうち二つを、私が担当しており、大臣就任の直後に、トータルな政策推進のために『戦略室』を新設した」と語りかけ、この懇談会のために作成した『主な文部科学行政施策38項目』の資料を配布し、詳細かつ丹念に説明した。安倍政権発足後の初の政策首脳懇談会だけに、出席した協会幹部から多様で、熱心な質問や意見が相次いだ。最後に、下村大臣は「今日頂いた皆様のご意見は一つ、一つ、今後の政策に反映していきたい。説明した38項目は必ず達成するし、特に科学技術は政府全体、オール・ジャパンで取り組みたい」と答えた。懇談会は、いつものように有馬朗人会長が主宰し、「来年の今頃、もう一度、下村大臣をお招きし、政策の実現と課題の解決の進捗状況をお聞きしたい」と結んだ。


左から、有馬会長、下村大臣、鶴田最高顧問

主な文部科学行政施策(38項目)

    【教育再生関係】

  1. 高校無償化の見直し
  2. 幼児教育無償化
  3. 教科書検定・採択の見直し
  4. 教育委員会改革
  5. 土曜授業の導入
  6. 道徳の教科化
  7. 大学ガバナンス改革
  8. 国立大学のイノベーション機能強化
  9. 社会人の学び直志
  10. 学生への経済的支援
  11. 教職員定数改善等
  12. ICT活用
  13. 特別支援教育の充実
  14. 学校耐震化
  15. 国立大学施設整備
  16. 大学入試改革
  17. 学制改革
  18. 教育公務員の政治的行為の制限
  19. 【グローバル人材育成関係】

  20. 日本人留学生の海外留学支援
  21. 外国人留学生の受入れ
  22. 初等中等教育におけるグローバル人材育成
  23. 高等教育におけるグローバル人材育成
  1. 科学技術イノベーションを担う人材育成
  2. 国際バカロレア
  3. ESD(持続可能な開発のための教育)
  4. 【スポーツ・文化関係】

  5. オリンピック・パラリンピック招致等
  6. 文化芸術立国中期プラン
  7. 電子書籍に対応した出版権の法整備
  8. 【科学技術関係】

  9. 科学技術イノベーションの司令塔機能の強化
  10. 研究開発法人の整備
  11. 日本版NIHの創設
  12. 国際リニアコライダー計画
  13. ハイリスク・廃インパクトの革新的技術開発の推進、大型プロジェクト開発
  14. 革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)の推進
  15. 原子力損害賠償
  16. 研究不正対応
  17. 【行政改革等関係】

  18. 独立行政法人改革
  19. その他 教育財源確保策(教育目的税等)を広く検討。

下村文部科学大臣の講演

皆様、おはようございます。今日は政策首脳懇談会にお招き頂いて誠にありがとうございます。今日はお手元に、「主な文部科学行政施策38項目」を用意させて頂いた。これを中心にお話をさせて頂きたい。
今日は日頃から敬愛している有馬会長のもと、また日頃からご指導頂いている皆様方のもとで、このような機会を作って頂いたことを感謝申し上げたい。基本認識は全く同じだと承知しているが、我が国の危機の中で、安倍内閣は経済再生と教育再生を内閣の最重要課題として取り組んでいる。アベノミクスの3本目の矢がこれから問われる中で、10月から始まる臨時国会は経済成長戦略のための国会として、特に3本目の矢は科学技術イノベーションによって、すべての民間企業が活力を持ってもらえるようなイノベーションをどう政府が先頭に立ってやるかどうかが問われている。しっかりと成し遂げていきたい。また、科学技術イノベーションを支えるための人材育成が必要である。今までの20年間を見ると、各国ともに経済発展をしてきた国は必ず高度の教育について力を入れる。大学進学率が一つの象徴だが、進学率がアップしたところが結果的に経済成長を成し遂げている。これから教育再生、再生と言っても昔の教育に戻ることではない。本来1人1人が持っている潜在的な能力をどう引き出すことによって、多様な社会の中で、それぞれ1人1人の可能性をどう引き出すか、ということが問われているのではないかと思う。
そういう中で、今日は理論、理念よりは、いかにそれを1つ1つ実践、実行していくかということが問われていると思うし、皆様から具体的に実行するに当たってのご助言、アドバイス、政策提言を頂けるとありがたい。

縦割りを超えた教育行政へ

この38項目は、昨年の暮れ、文部科学大臣に就かせて頂いて、今取り組むべきことについて網羅した。文部科学省も縦割り行政的なところが多々あって、それぞれの局によってトータル的な文部行政ができていないという部分があった。私が大臣に就任して、文部科学省の中に初めて戦略室を作り、今はトータルに取り組んでいる。
今まで文部科学関係は、通常国会などでは、来年は10本位出すが、先の国会でもせいぜい1本くらいであって、毎年2本程度であった。この秋の臨時国会や来年の通常国会では、10本以上の法律改正を準備している。それだけ意欲的に、我が国の教育、文化、スポーツ、科学技術の分野において、日本を立て直す政策の実現をしていきたい。
今日は38項目の一つ一つお話をさせて頂くだけでも2時間くらいかかるが、30分以内ということで、特にこの会のご関心のある科学技術関係を中心として、お話を申し上げたい。項目だけ申し上げると、教育再生関係であるが、1つは高校無償化の見直し、2つ目は幼児教育の無償化、これは3歳から5歳までを無償にする。その第一歩として、来年の4月からスタートする。

地域密着型で土曜授業の導入を

3つ目が教科書検定採択の見直し。我々は一言で言うと“自虐史観”であると考えていて、日本の負の部分だけでなく、歴史は光と影があるわけで、子供たちが自信と誇りを持てるような歴史と内容を教えるべきではないかということから、教科書検定採択の見直しを行う。
4つ目は教育委員会改革である。昨年の大津のいじめによる自殺の問題などから、教育委員会が形骸化、形式化している中で、責任範囲の明確化の観点から見直す。教育委員会や教育長の基本的政策について、抜本的な改革をするということで、今、中教審で審議して頂いていて、来年の通常国会に提出する。
5つ目は、土曜授業の導入である。ゆとり教育は理念的には良かったが、なかなかそれに対応できる学校現場の教師は1割くらいしかいないと言われている。ゆとり教育によって、あらゆる面で問題点が出てきてしまった。土曜授業の導入を来年4月から図りたい。ただしこれは組合の反対がものすごくあるので、現職の教員を配置するのではなく、土曜は是非ここにいらっしゃる企業の方々のOB、また勤めている方々でそれぞれの教科について、特に英語等は実践的な能力を持っている企業の方がたくさんいるのでそういう方々に入って頂いて、土曜は地域ぐるみで、地域の中から先生になってもらうという取り組みを是非していきたいと考えている。6つ目は道徳の教科化である。我々は日本の子供達に世界でトップレベルの学力と、そして規範意識を持ってもらえるような教育をしていきたいと思っている。民主党政権において、道徳の教材がなくなってしまった。9月からやっと1冊間に合って配布することになったが、それだけでは十分でないと思っていて、全面改定版の教材を来年4月から使うことになっている。それぞれの発達段階に応じた道徳をきちんと教えられるような体制を作っていきたい。

国立大学のイノベーション機能強化へ

7つ目は大学ガバナンス改革である。科学技術イノベーションともつながってくるが、教授会の役割明確化などを含む大学のガバナンス改革について、中教審において審議をして頂いて、法案を来年の通常国会に出していきたいと思っている。企業も社員の投票によって社長を決めるところが生き残っていけるわけはないので、民主主義的な選挙は一見理想的であるが、大学においてそれが果たして改革につながるのかということについて、今は大きな転換期に来ていると思う。そもそも、優れた経営能力を持っている方が大学の経営をされているのかということの中で、大学のガバナンス、そして教授会の役割も限定的にすることによって、大学の運営などにはタッチさせないということのメリハリをつけた改革を、これは北城恪太郎先生(日本IBM相談役)が中教審でやられているが、是非行うべき時に来ていると思っているので、来年の通常国会に法案を出したい。
8つ目は、今日のテーマの1つでもあると思うが、産業界の皆様方との対話を進めることによって、理工系人材教育・育成戦略を策定し、産学官円卓会議の設置を進める戦略を推進する。産業界、また特に大学・大学院などの学界、また政府もそうだが、オールジャパン体制で、国家戦略としてどんな人材が必要か、また社会で求められる新たな産業の中で必要な人材は何なのかということを、マッチングする中で考えていく時代に来ているのではないか。
国立大学のイノベーション機能の強化だが、国立大学の改革プランを策定する、これは社会的な役割を一層果たすための機能強化、そのための各専門分野の振興の観点や具体的な改革工程を整理する。またイノベーション強化のための取り組みを推進するため、法案を秋の臨時国会に提出する予定である。これは大学に対して、ベンチャー支援ファンドへの出資を可能にすることを支援する。私立大学は既に出来ることになっているので、国立大学もベンチャー支援ファンドをすることによって、大学から始まるベンチャー起業を活性化させることで、世の中に貢献できるようなバックアップ体制を作る。
9つ目は、社会人の学び直しである。大学、専門学校などが産業界と共同して、高度人材や中核的人材を育成できるオーダーメイドプログラムの開発である。私が基本的に考えているのは、田中真紀子前文科大臣との大きな違いは、日本の大学は多過ぎる、もっと整理する必要があるという問題提起があった。事実、4割近くの大学が定員割れしている中で、もっともだという国民の声があった。私は逆だと思っている。大学教育の質と量を充実させるための教育政策をしていく必要がある。高度な人材育成をしていくことによって、高度な産業界における人材育成をしていかなければ、日本は生き残っていけない。一人一人の付加価値を高めることが教育には求められている。日本の今後の人口動態を見ると少子高齢化が進む一方、労働可能人口が減っていく中で経済成長をさせていくためには一人一人優れた付加価値を持った人材育成をしていく、それは教育でしかなされない。
そのために、有馬会長からもお話があったが、我が国は公的支援がOECD諸国の中で、高等教育は最下位である。対GDP比はわずか0.5%である。OECD平均は1%であり、0.5%アップするということは、2.5兆円アップするということである。大学や大学院に対して2.5兆円アップするということになれば、経済的な格差によって大学に行けない、あるいは大学院や海外留学ができないということがないような形を取ることによって、授業料軽減、つまりできるだけ無償化に近い政策を取る、また有為な人材をさらに鍛え上げるということを求めていく必要がある。そもそも、大学においても25歳以上の在学生は我が国では2%もないが、ヨーロッパ先進国では20%以上いるところもたくさんある。つまり社会人の学び直しがシステム的に可能である。
我が国で企業を辞めて、さらに違うところに行こうと思っても、結果的にはどんどんドロップダウンしてしまうという中で再チャレンジするためには、いったん学び直しをして、スキルを磨くことで、もう一度社会に送り出すシステムを作っていく必要がある。それは今申し上げたような授業料の軽減措置をすることで教育費に負担がかからない受け皿を作っていく必要がある。また、社会における、産業界における学び直しができるような社会環境づくり、これは政府のバックアップも必要だと思うが、これをすることで、40,50,60歳になってももう一度大学や大学院に入り直して勉強をして、スキルアップすることによって、社会の中で活躍して頂けるようなフィールドを作っていく必要がある。
10番目は学生の経済的支援である。残念ながら奨学金と言っても、事実上我が国は学生ローンに近い状況である。つまり、金利があって、返済しなければいけない。そもそも奨学金で金利があるのもおかしなことだが、来年から有利子から無利子奨学金の拡充に大きくシフトしていきたいと思っている。実際には、有利子奨学金が学生の数としては圧倒的に多い。

大学入試改革を教育再生実行会議で審議

時間の関係で、資料3ページ目に移らせて頂く。16番目の大学入試改革だが、教育再生実行会議において、高大接続、大学入試のあり方を審議して頂いている途中である。この教育再生実行会議は、今年1月からスタートした。第1次安倍内閣、6年前は教育再生会議であった。この時は、私は官房副長官をしていて、教育再生会議の担当をしていたが、今から考えるとその時にほとんど今やるべき提案は既にされていた。残念ながら1年ちょっとで頓挫したことで、現段階で、教育再生会議で提言をして頂いて、実行したのは1割程度でしかない。9割は、その後の自民党政権や民主党政権でもできていなかった。いつまでも議論をしている時ではない。何がこの国の危機で、何を変えなければいけないかというのは明確な中で、教育再生実行会議という風に「実行」という名前を新たに付けることで、着実に実行するための提言を作って頂いている。第1次提言がいじめ対策法という提言をして頂いて、先の国会で超党派の議員立法でいじめ対策法ができた。その時に道徳の教科化もして頂いて、先ほど述べたようなことを既にやっている。第2次提言は教育委員会の抜本改革案だが、これも中教審に諮問して頂いている。第3次提言は、大学教育のグローバル化で、既に着手している。第4次提言は、大学入学試験のあり方について議論して頂いている。
今後、一般受験における意欲、能力、適性等の多面的な評価、AO、推薦入試における確実な学力把握の取り組みの検討ということだが、端的に言えば一発勝負の学力一辺倒の入学試験で、本当に社会の中で優位な人材を図れるのかということを考えると、そうではないのではないか。もちろん学力は必要だが、学力だけでなく、困難な時代の中で、多様な意見や価値観を1つにまとめ上げていって、まとめていくような強いリーダーシップ、これは国際社会の中でも、日本社会、また企業、色々な組織においても、リーダー能力が問われている中で、そういう能力を創生する。あるいは、コンピューターやロボット等ができないクリエイティブな企画、創造的な能力をさらに伸ばすような力、そして3つ目には人に対する思いやり、慈しみの心、人間的な感性、感覚をもっと育むような教育をしていく必要があるのではないか。それをトータル的に、高校以下の時代で反映し、多面的な能力を大学入試で問うような試験のあり方に抜本的に変えていく時代に来ているのではないか。入試のあり方を変えるということは、大学教育そのものを変えるということになるし、また高校以下の教育も変えることになる。
先ほど申し上げた大学教育の質と量を高めるということは、大学において3割の学生がついていけないということは、高校教育以下に問題もあるわけで、こういうことを含めて学生達を鍛え上げていくような教育にシフトしていかなければ、大学進学率だけ上げても成果、効果が望めない。こういうことも含めて、大学入試のあり方を抜本的に変えていく。大学入試を変えるということは、当然高校以下の教育もすべて変わることにもつながってくる。それだけ大きな影響力があるが、今の高校生から変えるということではなく、国民的な理解や賛同も必要であり、真に社会で必要な人間は何なのかということでは、産業界の皆様の意見も聞く必要がある。実際に着手して実行に移すのは、4年前後の話だと思うが、しかし方向性だけは明確にする必要がある。 17番目が学制改革だが、6・3・3・4制、大学院まで考えるとプラス2か5、このトータル的な明治の学制を21世紀の時代に合った、社会の変化や成長に合った学制改革に取り組んでいく必要がある。教育再生実行会議で、大学入学改革について提言を頂いた後は、学制改革について議論をして頂く予定である。

グローバル人材の育成で留学キャンペーン

19番目はグローバル人材の育成関係だが、これは日本人の海外留学支援をしていきたいと考えている。意欲と能力のある若者全員に留学機会を付与するため、学生の経済負担を軽減するための新たな仕組みづくりの検討をする。官民一体で留学キャンペーンを推進する。
2020年までに、大学生と高校生の留学生数を倍増したい。これは奨学金のような形で、希望すれば留学できる。合わせて大学の国際標準に合わせるために9月入学をシフトする大学についてバックアップしていきたい。9月入学だと半年間のギャップタームを、例えば海外に留学する学生については、できるだけ全額支援をすることで応援をしたい。このために、特に若手のベンチャー上場企業30社くらいにお願いをしたら、資金を出して協力してもらえる。つまり企業にとっても国際感覚、語学だけではないが国際感覚を持ってたくましく生き抜く能力がなければ使い物にならない。民間が出資する制度を組み合わせることで、官民ファンドでの支援をしていくところも増えていく。是非ご出席されている皆様のところでも、海外留学の支援をして頂きたい。
20番目は、外国人留学生の受け入れ、これも現在14万人だが、2020年には30万人に倍増することを検討していきたい。先日有馬先生が文科省に来られて、特にアジア地区の小中高、大学生の科学技術関係の短期・長期含めた留学生の受け入れを新たな枠組みとして作ったらどうかという提言を頂いた。早速来年から実行させて頂くことにした。
21番目は、初等中等教育におけるグローバル人材育成だが、スーパー・グローバル・ハイスクールを100校、来年から作りたい。また英語教育の強化に向けて、小学校5,6年生における外国語活動の成果検証とあるが、平成23年から週1回小学校の5,6年生で英語が実施されているが、英会話はほとんどお遊び程度である。これは中学校の英語とはほとんど連動していない。これを小中高の系統的な英語教育に変えていく。そして小学校での実施学年も、例えば3年生から週3回という形で、中学、高校の英語にもつながる形で強化をしていきたい。そのためには小学校における英語教員の育成をしていく必要があるが、しっかりとした英語教育をしていきたい。同時に英語教育をしていくということは、真に日本人としてのアイデンティティである日本語教育、そして文化歴史も含めた日本人として教育していかなければ、真の国際人として通用しない。小学校の3年生から英語教育を始める。同時に、小学校レベルからの日本人としてのアイデンティティ教育も強化していく必要があるのではないか。22番目は、高等教育におけるグローバル人材育成である。先ほどもお話し頂いたが、今後10年間で世界大学ランキングのトップ100に我が国の大学が10以上入る、トップ10に2校は入るということを目指して、スーパーグローバル大学30校を支援していきたいと考えている。これは来年の予算の中で計上しているが、こういう形で世界に通用する人材育成を図る大学を30校支援していきたい。23番目は科学技術イノベーションを担う人材育成ということである。
24番目は国際バカロレアである。これはゼミ形式の授業などディベート重視で、課題解決型の教育内容とする国際バカロレア、国際社会ではすでに3000校が加盟しており、一定の成績を取れば世界中どこの大学でも入れる、世界標準システムである。日本では現在18校があるが、これは言語が英語、フランス語等に限定されているので、実際日本ではインターナショナルスクールしか国際バカロレアコースを取っている学校はない。国際バカロレア機関に話をし、日本語コースの設定も、かなりの部分ではないが可能となった。是非2018年までに認定校を日本国内で200校、手を挙げて頂いて支援をする。国際バカロレアの資格を取れば、日本の大学ではなく世界のどこの大学でも日本国内の勉強で進学することができるシステムで、まさにグローバル化そのものである。ターゲットは日本国内ではなく、世界がフィールドだということを、名実ともに200校作ることによって、促進をしていきたい。

オリンピック・パラリンピック招致をテコとした教育改革

26番目は直接関係ないが、いよいよオリンピック、パラリンピックが決定する。安倍内閣の実績というよりは、国民の期待感というか市場マーケットの期待感だと思うが、株価が上がった。アベノミクスの大胆な金融政策や積極的な財政政策によって市場マーケットが先取りし、株価上昇につながっているが、本当の勝負は3番目の矢、科学技術イノベーションによる民間企業が実感するような景気浮揚を図っていくということだ。民主党政権の時の閉塞感の中で、この国に未来はないのではないかという意識が蔓延していたが、同時にオリンピック招致をすることによってすべての国民に夢と希望を提供できるような突破口を作っていくという意味では、オリンピックは有意義なイベントとして位置付けられるのではないかと思っている。数日前に文科省が調べた調査においても、世界的なスポーツ開催においては国民の支持率は95%である。1年半前は47%であったが、昨年ロンドンオリンピック等で日本選手が活躍し、そしてちょうど1年前だが銀座でパレードをした時に50万人を超える人達が集まった中で、ムードが   変わってきた。是非7年後にオリンピックを決めることによって、逆算していく中でスポーツだけではないが、我が国の魅力ある、そして活力のある政策を目標設定していくということで、2020年はターゲットとしてふさわしいのではないかと思っている。私もロビー活動を積極的にして、必ず形にしていきたいと考えている。
27番目は、それに合わせて2020年オリンピック・パラリンピック招致が決まることを前提で、予算も倍増することによって、世界中の人々が日本を訪れてみたい、日本の文化伝統やおもてなしの心、日本の素晴らしい四季、これを一度見てみたい、新たなジパングへの世界中からの憧れとなるようなものを文化芸術が作る、ということをしていきたい。

科学技術イノベーションの司令塔機能強化

最後に、科学技術関係だが、1つは科学技術イノベーションの司令塔機能を強化していく。総合科学技術会議の司令塔機能強化、これを国家的重要課題を解決するための府省横断の研究開発プログラムの推進を法案として国会に出して、バラバラでない形で、トータル的な科学技術イノベーションの司令塔を作る。
同じように30番目、研究開発法人の創設だが、研究開発の特性を踏まえた世界最高水準の新たな法人運営の創設を検討している。これは現行の研究者の給与とか調達とか自己収入の扱いを改善して、より柔軟な形で研究開発法人が対応できる仕組み、これも法案を来年の通常国会に出していく。
31番目が、日本版NIHの構想である。革新的な医療技術の実用化を加速するための、医療分野の司令塔機能の創設である。特に山中伸弥教授のiPS再生医療をはじめ、我が国の強みとなるような分野について、これも法案を通常国会に提出したい。
32番目の国際リニアコライダー計画については、先日専門家会議の中で、北上山地が適切だという提言があった。今、日本学術会議でも、学術界全体として議論をして頂いて、慎重に考えていく必要があるのではないかということだが、今すぐだと予算が限定されるが、民間シンクタンクによると1兆円の投資に対して20兆円以上の経済的な波及効果があるということで、我が国の科学技術の発展という視点から、前向きに取り組んでいきたいと思っている。34番目、革新的イノベーション創出プログラム、COIの推進だが、大規模産学連携研究開発拠点を構築し、企業と大学等研究機関がアンダー・ワンルーフで研究開発・事業化を推進する。社会的、経済的インパクトが大きいテーマについて、チャレンジング、ハイリスクな研究開発を実施する。これは目利きをしっかり考えて、民間の方々にもご参加頂きながら革新的イノベーション創出プログラムも推進していきたい。
最後に38番目、教育財源の確保策だが、先ほど申し上げたようにこれから本当に日本が甦る国にするためには、教育に力を入れ、未来に対する先行投資が必要である。そのためにはしっかり財源を確保する必要がある。高等教育だけでも、2.5兆円だが、トータルな日本の教育における公的投資額はGDP比3.8%で、OECD平均が5.8%であり、2%アップするということだけでも、10兆円足りないということである。今の文科省の予算が科学技術合わせて5.4兆円なので、プラス10兆円というのは相当野心的な数字である。この野心的な数字を実は第2次教育振興基本計画に入れ込もうとしたが、財務省がOKをしなかった。
確かに、5年後にプラス10兆円というのは、財源をどうするのか、赤字国債を発行して教育拡充するのかということは、確かに国民の理解を得られないと思っている。省内に、また外部の有識者の方々に入って頂きながら、教育財源について、教育を目的とした財源があれば教育についてこれだけ使う、それによってすべての国民にチャンスを広げる、こういうものを出来るだけ早く作ることによって、是非国民の皆様方の理解を得ながら、教育投資額を飛躍的に増やすことで、他の国以上にチャンス、可能性が広がっているというものを作ることによって、これからの日本の教育再生を行う、これが同時に甦る日本になってくると思う。
まだまだお話したいことはたくさんあるが、私の方からご報告をさせて頂き、また、皆様方から色々なお話をして頂きながら、政策の中に一つ一つ実践をさせて頂きたい。ご指導頂きながら、ご協力を頂ければと思う。ありがとうございます。

下村博文 文部科学大臣 略歴
(2013年10月現在)
1954年 5月23日生まれ(群馬県)
1978年 早稲田大学教育学部卒
1989年 東京都議会議員選挙初当選
1996年 衆議院議員初当選(現在6期目)
2002年 法務大臣政務官
2003年 自民党副幹事長
2004年 文部科学大臣政務官
2005年 国会対策委員会・副委員長
2006年 内閣官房副長官
2007年 法務委員長
2008年 国会対策委員会・副委員長
2009年 自民党政務調査会副会長
2010年 自民党 シャドウ・キャビネット 
文部科学大臣兼特命担当大臣(科学技術)
2012年 自民党 教育再生実行本部長
同年12月 文部科学大臣 教育再生担当
2013年 東京オリンピック・パラリンピック担当

その他は、あしなが育英会副会長、創生『日本』副会長。主な著書は、『教育激変』(明成社)、『学校を変える「教育特区」子供と日本の将来を担えるか』(大村書店)、『サッチャー改革に学ぶ教育正常化への道』(PHP研究所)、『下村博文の教育立国論』(河出書房新社)

協会幹部との意見交換
鶴田卓彦氏 38項目の重点は?

下村大臣は、政治家として教育分野を得意とされているだけに、これまでの大臣に見られない、網羅的で、非常に意欲的な政策のお話だった。ただ、先行き消費増税や景気好転による税収増が期待できるものの、財政確保に困難がつきまとう。主な38項目の中で、大臣として10項目位に重点を絞るとすると、どのあたりになるのかお聞きしたい。

渡辺修氏 産業の競争力強化へ警鐘を

日本MOT振興協会の有馬先生以下に一言お願いしたいのは、シェールガス革命がアメリカ、カナダ中心に起こっているが、これは相当のインパクトを持つのではないかと思う。エネルギー分野で特に感じるのは、アメリカのエネルギーコストが下がって、アメリカへの製造業の再投資が急速に進んでいる。それに伴ってアメリカの産業が復活していくと思うが、特に素材関係、あるいは石油化学関係といった分野の国際競争力が相当変わってくるのではないかという気がする。そういう意味で、幅広い日本の製造業への競争力の問題をどこかでしっかり勉強して、もちろん動くのは民間企業だが、そこへの影響をどこかでMOTの委員会等でも体系的に勉強して頂いて、警鐘を鳴らして頂くと民間企業の動きの方向性を示す上で良いかと思う。

白井克彦氏 生涯学習の評価向上と原子力問題 解決のための取り組みを

社会人の学び直しということで、生涯学習に注力されていてありがたいが、これを進めるのに日本社会あるいは企業は、学び直しをほとんど評価していない。今でこそ専門職大学院等があるが、制度的に整備されていない、職業協力に対する資格の認定を体系的に作る必要がある。また、言わずもがなだが、原子力の問題。我々は事故後色々なことでお願いをしてきた経緯があるが、残念ながらうまくいっていない。これは長い時間がかかるので、徹底的に人材育成、そして優秀な人を集めて、まともに取り組んで頂かないと、日本全体に非常に深刻な問題を抱えている。長い計画で徹底的な取り組みをお願いしたい。

荒井寿光氏 NIHに医療総合知財センターを

日本MOT振興協会で知的財産委員会のトップを務めているので、知的財産に大変期待しているわけだが、日本では医療の関係は特許や知財がタブーになっていて、非常に弱い。産業界に協力してもらい、海外に出ていくためには、どうしても特許や知財について本格的に取り組み、アメリカでも乳がんの遺伝子について特許にするかどうか議論しているが、倫理の問題も日本ではほとんど議論していない。NIHで医療総合知財センターを作って、総合戦略を作って頂きたい。

柘植綾夫氏 教育政策と科学技術イノベーション政策の一体推進のための司令塔を

まさに科学技術イノベーション政策の司令塔強化は日本復興、再興に不可欠である。その中にも人材育成が入っているが、高等教育政策との軸合わせに困っている。初等中等教育では様々な改革が実行されて、これからの大臣のリーダーシップで改革がされようとしているが、科学技術イノベーション政策となかなか結びついていないという欠陥がある。初等中等も入れた教育政策と科学技術イノベーション政策の三位一体的な推進をする司令塔機能を強化することは日本再興を10年、20年持続可能な力とするためにも必須であると思う。これは局長クラスではできないので、大臣のリーダーシップでなければできない。教育再生実行会議だけでも難しい。是非とも教育政策と科学技術イノベーション政策との一体推進の司令塔を、大臣のもとで作って頂きたい。

片山卓也氏 大学間に人材の開かれた流動性を

イノベーションを起こせる人材を育成するためには、学生がなるべく多様な環境で多様な研究をすることが大変重要である。現在わが国では理工系の学部卒業後、7割の学生が修士課程へ進んでいるが、残念ながらわが国では1つの大学に閉じて学んでいる。これに対して米国ではほとんどの学生が学部から大学院へ移る時に大学を変えることによって、新しい経験や人物に出会うことで新しいアイデアを得る。これがある意味で米国のイノベーションを起こす能力の源泉になっている。我が国でも、大学院進学時に人材のシャッフルを行うような施策を取って頂きたい。難しいが、例えば大学を変えた人間に奨学金を出すということでインセンティブを付けられると思う。

相亰重信氏 ハングリー精神の低下に懸念

先般新入社員400人位と話す機会があり、アンケートを取って、海外に行って活躍したい人がどのくらいいるのかということを聞くと、半分以下になる。それから会社の中で偉くなりたいということを希望する人がどのくらいいるのか聞くと、これも半分いない。良い意味でのハングリー精神が大事だなということを強く感じるので、そういった意味での教育、家庭の教育かもしれないが、この大事さを痛感する。

水野雄氏氏 ノーベル賞受賞者数の国家目標の公表へ

国の創造力の指標の1つに、ノーベル賞がある。昨年の田中先生の受賞で、日本で19人になった。2000年頃から減ってきている。その中で自然科学の分野で16人ということで、日本も強いが、これを徹底するということで大臣にお願いしたいのは、国の政策で50年間でノーベル賞を30人にしようというような計画を考えながら、公表されていない。ロビー活動も含めて若い世代の創造性を高めるという意味では、そういうものはオープンにして頂いた方が良くて、ノーベル賞を受賞しているのは20代から50代の業績の結果で、かなり遅れて受賞しているという実績もある。きちんと公表して頂いても良いのではないかと思う。

加藤幹之氏 社会科学、人文科学の知恵も統合した技術経営を

グローバル人材も非常に重要だと思う。それと、もう少し社会科学系の研究と、人文科学系の研究をうまく交流して、これからの社会に何が本当に求められるのか、かつ、こういうことをすれば世の中が変わるから、制度もこうやって変えていくということを頭に入れながら技術を開発する、そういう人材を是非育てて欲しい。企業から見ると、技術とビジネスの両方が分かって初めて成功できる。そういう人材を作るためには、若いうちから世界がどうあるべきか、社会科学や比較文化論や社会学をずっとやってきた人が技術を開発するとか、そういう社会にして頂きたい。

守屋朋子氏 技術の分かる経営者、女性技術者を増やす努力を

「科学」と「技術」は、今やかなり開きがあり、科学技術と一言で言ってしまうと、ブレークダウンした時に研究者や、学生に目が向きがちだが、今加藤先生がおっしゃったように、やはりこれから技術が非常に重要な局面になっていて、社会インフラを支えているが、例えば原発やITや道路、トンネルなど、これからそういうものをきちんと維持していくということはやはり社会インフラを支える技術者育成、技術の分かる経営者育成が非常に重要だと思う。技術の分かる経営者を育成する観点からも考えて頂きたい。また私は女性技術者としてやってきたので、是非統計情報で、女性技術者の管理者が何人いるという情報も取り上げて頂ければと思う。

清水喜彦氏(代理 菊地正樹氏) インターンシップ等を通じた若手の即戦力化を

三井住友銀行は毎年インターンシップを実施している。今月は100名程度の学生を1週間研修している。インターンシップを通じて考えることは、今の日本の産業界は若手の即戦力化が必要な状況である。これを踏まえると、産業界の皆様の協力が前提であるが、大学改革でも、インターンシップ等でその点を強化していただきたい。

木村節氏 基礎教育における留学生の受入れを

外国人留学生の受け入れは日本が置かれている立場から非常に重要なことは認識しているが、私どもが現場から見て、日々思うのは、後進国が追い付きたいというのは日本の生産システムであって、これは高等教育ではなくて、もっと初中等教育で出てくる整理整頓、清掃が身に付いていないところに、今の後進国の問題があるのではないかと思う。したがって、高等教育もそうだが、幼児、初等教育の留学生受入れが重要ではないか。

則久芳行氏(代理 三森義隆氏) オーダーメイド型の教育プログラムの開発を

社会人の学び直しということで、我々建設業界でも社員不足に苦労しており、少子高齢化による人口減少に伴う付加価値を持った人材の育成ということに興味がある。新入社員等も募集しているが、なかなか集まらない。どんな会社に入りたいかということを聞くと、自分のスキル、知識を伸ばせる会社だという回答が多く出てきているので、オーダーメイド型の教育プログラム開発も建設会社の魅力開発の一助にできるのではないか。

秋元浩氏 高収益部門での重点的人材育成を継続的に

安倍内閣がライフイノベーション、グリーンイノベーションと言っている。今納税額が1番多いのはライフサイエンス、医薬品産業である。そういう意味では予算や国に非常に貢献しているが、ひとたび大学の産学連携、経産省の関連分野の個々のトップの方で、ライフサイエンスの人間は1人もいない。非常に少ない。かつ、知財をやっている人間も非常に少ない。当面、教育に10年かけても間に合わない。そういう意味では、産業界の教育やアウトソーシングや、場合によっては待遇、処遇も踏まえて海外の人を呼んで、5年、10年位、当面、日本人を実践的に教育してもらう。これは韓国も中国もシンガポールもやっている。そういう施策を打ちながら、10年、20年、30年かけて人材育成をして欲しい。特にライフサイエンスに関しては早急にやって欲しい。

薬師寺泰蔵氏 独創的な人材を伸ばす奨学金制度を

下村先生はあしなが育英など、奨学金事業に貢献されてこられた。私は総合科学技術会議にいる時に、若い東大の准教授にインタビューした時に、君たちよりもっと独創的な人間がいるかどうかと聞くと、お金をもらうためにはきちんと応募を書かないと、もらえない。しかし本当に特徴的な人達は、そんなことよりも実験等をやりたいと言っている。また、ハンディキャップを負っているが独創的な人達に予算を付けてほしい。財務省は、きちんとした説明能力がないとお金を出さない。しかし、それでは、本当に独創的な人材が、はじき出されることになる。大学の学長につても、私はMIT出身だが、アメリカの大学では学内外問わず、人材を探す。有馬先生も、俳人で独創的な面をお持ちだ。そういう異端の方達をガバナンスの中に入れなければいけない。

村上雅人氏 教育におけるミッションの共有を

大学のガバナンスを考える時に重要なのは、大学のミッションを共有することだと思う。それは教育と研究と人だと思う。世界水準の教育の変換が起こっていて、大学が学生に何を教えたかではなく、学生が4年間、6年間で何を学んだかということにシフトするのが世界的な動きである。これは教育の質保証に関して非常に重要な転換期である。これをいかに進めていくかがこれから大学にとって重要だと考えている。その中で、私立大学等の場合には、教員の数も少ない中で、皆で教育しよう、教員だけでなく、職員や産業界も皆で教育していく体制を作っていくというのが大学にとって非常に重要だと考えている。

小島明氏 エンジニア、研究者経験者を教育の現場へ

若者、とりわけ子供を含めた世代に、理科系に対する改善と夢を早く与えることが大事だと思う。小中学校、高校生に理科を教えている先生が、理科がつまらなそうな顔をしている。本人が興味を持たないので、実験をやっても、本人の目が輝いていない。そこで、日本の雇用制度の下で、20年、30年も働けるような意欲と能力のあるエンジニアとか研究者も定年でクビになってしまう。働きたいが仕事がないので、日本の技術の海外移転や流出の原因になっている。そういう人達が組織を離れた後、柔軟な形で小学校、中学校、高校等の理科の活動、組合の問題もあるが、土曜日の授業などから始めて、彼らは技術系や理科系の研究の分野で、現場の体験を含めて情熱とロマンを持っている。それは教育の現場で若い子供たちの共感、感銘を受けると思う。それによって日本の技術立国の社会の創造をしっかり広められるのではないかと思う。

坂東眞理子氏 人文科学に高度職業人養成の大学院教育を

社会とつながるということを教育の基本として教えている。マスコミ等も含めて、社会的な経験を持っている方たちに、現代ビジネス研究所の研究員という形で大勢参加して頂いて、学生の教育、プロジェクト学習を行っている。また、女性たちのロールモデルを示すためにも、色々な分野で活躍されている女性たちに社会人メンターとなって頂いて、学生達に面談をしてアドバイスをして頂いている。ボランティア活動の推奨もその一環である。またグローバル人材育成推進事業に採択して頂き、ボストンキャンパスの国際交流の拠点を進めている。提言としては、学生がこれだけの学力、研究力、人間力を身につけているか、それを身につけている人に奨学金を出そうという方向に変えて頂ければ、学生達の勉学に対するモチベーションももう少し上がるのではないか。人材養成で、理工系は修士教育がスタンダードになっているし、一方、人文科学、あるいは社会科学の方には、研究者養成ではなく体系的な高度職業人養成のための大学院教育も必要とされているのではないかと思う。

井川康夫氏 民主主義の中でいかに科学的ロジックによる科学技術政策決定を行うか

イノベーション論の中で重要なのは、エベレット・ロジャース教授の『イノベーションの普及』という本があるが、その中のポイントの1つが、「イノベーションに関する意思決定は多数決では行えないということである。起業家のチャレンジ精神の重要性がここにあるし、規制改革の重要性の本質もここにある。リスクに対する過度な警戒は、イノベーションにとっては障害になる。したがって、民間で取れないリスクを国家で取るという視点がここから出てくるのではないか。こと国家のイノベーションに関わる科学技術政策は、ある確率で失敗を許すと言わないといけない。この確率を設定して、コントロールするのが、政策のあり方だと常々思っている。
このように民主主義的意思決定は、経済成長をもたらすためのイノベーション創出とは相いれないものがある。したがって、一般の国民が感情的ではない、科学的なロジックに基づいて議論ができる素地を、教育という視点で根気よく整備していく必要があると考える。
その上で、感情的な見解での意思決定で支配されることのないように、政策推進をすることが国家の経済成長にとって必要だろうと思う 。英国の元首相チャーチルは、「民主主義は最悪の政治形態ということができる、これまで試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けばだが」と言っている。民主主義を守りながら、人類がより豊かになるための科学技術政策については、こうした軸を持つ必要があるだろうと思う。

児玉文雄氏 安全保障の観点から科学技術を考える必要

組織として重要なのはやはり流動性をいかに増すかということがバックグラウンドにある。それから若者のエネルギーというか、活力だが、実は私自身も経験しているが、専門を変える、組織を移るというのはすごいエネルギーがかかる。そういう視点も必要である。それから政策については、アメリカではやはり防衛が問題になる。例えばインターネットやヒトゲノム、これは全部Defenseからアイデアが出発している。
そういうことから言うと、防衛を日本が持つということに忙しいが、国家安全保障というか、そういう非常に大きな概念を設けて、そこから体系的に科学技術政策をやっていくことが、Defenseがあればできる。日本の場合それが明確になる。そのためには先ほど旭リサーチセンターの水野氏が言われていたように、社会科学的な知見など、アメリカではDefense Policyにおいて科学技術との関係で大変な蓄積がある。日本もそういうことを蓄積し、政策立案の合意化を図っていくことが必要ではないか。

高橋実氏(代理 仁科健氏) 文科省と経産省の連携強化を

「アジア人材資金構想」という事業をやっていて、文科省、経産省のジョイント事業だったが、必ずしも2つの省庁の連携がうまくいっていなかったのではないかと思う。特にモノづくり系の人材育成事業は、文科省と経産省のジョイントが重要ではないか。是非とも連携をうまくやって頂けたらと思う。

森村勉氏(代理 石川俊二氏) 日本の組織力を伸ばす道徳教育強化を

組織力が日本の技術の売りだと紹介されたことがある。そういう意味で、道徳教育、幼児教育からのしつけが非常に人間力に影響すると思っている。先日あるお坊さんから聞いたが、幼児教育に禅や説法を導入して、メリハリをつけることによって人間の質を高めていくことにチャレンジしていると聞いた。厳しくしつけをして、徹底的に遊ばせる、メリハリをつけることで人間がどう育つか見たいということで、かなり長い目で色々なチャレンジをされている。長い目で見て日本の技術というものが組織力で上がっていくのであれば、現状の教育は上向きに向いているのかどうかということに強く関心を持っている。

玄場公規氏 イノベーションのマネジメントにプロの参画を

イノベーションのマネジメントもやはりプロの方が是非参画してやっていったら良い。今までのイノベーション政策と言うと、研究開発の方を中心に支援の重点が置かれていたかと思う。イノベーションのマネジメント面も是非参画を促すなり、支援をして頂くことは、日本MOT振興協会として前面に出しているので、MOTを支援策に入れ込んで頂きたい。

石塚利博氏 知財教育の充実と歴史を知るグローバル人材育成を

中国、韓国は国家戦略で、知財に関して力を入れている。中国は200万件出願している。中国の工科系の大学、韓国も、既に知財の発明者、創出者教育は必修になっている。一方、弊社の新入社員も一応有名大学の人間ばかりだが、延べ数百名に新入社員教育を受けさせたが、知財教育を受けた者はゼロであった。知財人材教育の裾野を広げて、研究者、エンジニアのレベルを上げるということが非常に大事だと思う。
例えば母校の工学部に企業知財部の弁理士がボランティアで安く行く、そういうことをぜひ進めてやれば、産学連携も自動的に進むし、ベンチャー起業支援もできるし、共同研究も進むと個人では思っている。また、グローバル化人材では、運用上の問題が非常に多い。私の部下で有名大学の博士で東京都出身だが、後藤新平のことを知らなかった。若い人でも、ニュージーランドと第2次世界大戦で戦争をしたことを知っている人はほとんどいない。私も最近知ったが、イギリスは現在から歴史を教えている。過去からではなく現在から。そういう運用上の問題も非常にある。試験に出ない、高校の先生も教えない、近現代についてはほとんど若い人が知らない。そういうことも是非ご検討頂きたい。

松本正義氏(代理 吉海正憲氏) 大学自身に変革意識を、そして具体的な目標を持った人材を求む

大学改革は是非実現して頂きたいと思うが、会社であれば、自己改革のできない会社は消えていく。ところが大学の場合には、外から言われて、当事者は変わりたがらない。それでは、制度上変わっても実体が変化しないのではないかという懸念が残る。また、人材だが、特に工学系はそうだが、何を自分が実現しようと思うのかという、そこが非常に捉え難い、曖昧な気がする。会社に入ることが自分の目的になっている。会社に入って実現するということもあるが、工学系として自分が何を実現するか、そこが見えてこないと、なかなか新しいイノベーションがうまくいかない。特に業を起こすという意識、企業意識が工学系の学生に極めて希薄だと思う。これを変えていかないと、イノベーションという言葉の意味もなかなか実感できないという状況におかれているのではないかと思う。

森裕子氏 現場に根付いた理科教育を、新聞や論語を教材に

理科教育、小学校からの理科教育に始まって、基本的なところを学ぶというか、体感してくるという基本教育の場、個人の企業で学校を作るとか、社内やあるいは業界でやっていくこともあるが、是非現場に基づいた基礎教育を。また、ハーバード大学の学長が、教養の源とは新聞が読めることと話していたということで、大学生や企業の人が集まって日経新聞の読み方の勉強会やセミナーを開催している。そういうものも入れてみてはどうか。もう1つは、中国の戦争の真っただ中で作られた論語の考え方は日本の私たちの暮らしの中にも相当たくさん浸透していると思う。この辺を見直して、教育改革の中に盛り込んではと考えた。

石田正泰氏 産学の連携強化で革新的イノベーションを

革新的イノベーション創出プログラム、COIの件だが、大変期待している。今文科省ではイノベーションに関する、特に大学のシーズを企業化していくことについて色々な事業をやっている。一言だけお願いだが、是非シーズ、大学は基礎的なところで良いが、ビジネスモデル的な、具体的な出口思考を持ったイノベーション対応の色々な事業をさらに進めて頂きたい。大学の社会貢献機能は学から産につなげるところで革新的イノベーションが実行できる。

橋田忠明氏 文部科学省の発展的分離と政府における位置づけの向上を

21世紀の日本は、20世紀に成し遂げた、世界一の「モノづくり」大国の上層部に、「ヒトづくり」による「ソフトパワー大国」を築き上げるべきである。先ほど、下村博文大臣から、外国訪問をすると、一人の文科大臣に対して、向こうは3〜4人の関係大臣が対応に出てくるとの話があった。日本はかつて省庁統合により文部科学省1省となり、結果的に、教育費や科学技術費をはじめ予算総額が極端に押さえられている。
私は、国と国民の時代的なニーズから判断すると、現在の文科省を「教育省」「科学技術省」「文化・芸術・スポーツ省」「知的財産(著作権)省」「国際人材交流省」などに発展的に分離し、国際比較上、他国に負けない予算総額を確保して、ホールディング・カンパニー方式のように、それらを新たに「文部科学省」として、政策的に束ねることを提案したい。省庁予算と官僚能力の順番は、現在のように財務省が一番でも良いが、2番目は文科省が位置すべきだと思う。そうしたソフトパワー重点の体制を、中央の政府とともに、全国の地域社会の草の根からも徹底させて構築するべきであり、地域はもともとそのように成り立っている。
20世紀に、日本は「モノづくり」大国として、自国の繁栄だけでなく、軍事力に頼らず、経済力を背景にして、米国など先進各国と連携しながら、国連や発展途上国の向上に貢献してきたが、21世紀には、これまでの経済力に加え、世界の中で、私達が誇るべき日本の歴史、文化・芸術、習慣などの「日本的資産」を基盤に、少子高齢化、原子力問題、東日本大震災などの難題を解決し、そうした最先端ノウハウを活用して、地球上の人類が究極の目的としている「貧困」や「難病」、「宗教的対立」などを先導的に解決する努力をして、世界の先導国としての地位を確立していくべきだと考えている。

榊原定征氏(代理 前田一郎氏) 項目実現に向けて是非協力したい

既に昨年12月にまとめられて、私どもの榊原は1月から産業競争力会議に参加させて頂いて、6月まで12回、その中で、大臣が既に考えられた重要な政策は相当盛り込んで頂いた。議員としても大いにベクトルがあって、是非推進して頂きたいと申し上げたところ、6月14日の閣議決定でも盛り込まれている。これからの制度設計について、相当精緻な理論の詰め、法案も10本と仰られたので、実現に向けて秋の臨時国会、成長戦戦略実行国会と言われているようだが、是非協力させて頂きたい。

石田寛人氏 国民と科学者を繋ぐ政治を

原子力に関して、福島原発の汚染水問題に対する的確な対応と、ステップを踏んだ廃炉に全力を傾けるべきである。そのためには、我が国と世界の原子力関係者の有するすべてのポテンシャルを活用すべきであり、文科省関係の専門家の果たす役割も極めて大きい。大臣のリーダーシップを期待したい。また、この事故によって、科学者・技術者全体に対する国民の信頼が大きく低下していることが憂慮される。科学者・技術者が、それぞれ自分の研究を大切にして、所説を主張することは当然である一方、その総体が、国民に対して、いわゆる「ユニーク・ボイス」の発出をいかに行っていくか、いかにその仕組みを創り上げるかは、よくよく検討すべき大きな課題である。この国民と科学の良好な接点の構築について、政治の側から大きな関心を寄せて頂くことが重要であるが、科学者・技術者がそのために力を尽くすことも不可欠であり、私は、理科系行政職員の経験者の立場で懸命に努力したい。

安西祐一郎氏 高校教育、大学入試、大学教育改革によって多様性と主体性を兼ね備えた人材育成を

イノベーションあるいは科学技術との協力の関係、人材育成、あらゆる面で、恐らく大学入試、高校教育、大学教育、この3つを同時改革することが決定的に重要である。高校教育は教養教育である。文化、歴史、人格をきちんと身につけることが、高校教育の一番根本的なところで、それにはやはり制度的にも学習指導要領、教員研修、そういったところをきちっと押さえていく必要がある。大学教育については、多様性を持って、社会人あるいは留学生あるいは海外に行く、これもセーフティネット、あらゆる人たちが大学に行こうと思えば行ける、こういう仕組みにしていく必要がある。特に多様性と主体性、イノベーションの根源になる大学1年生、初年時のところで、目標を持ってしっかり勉強していくようなことを身につけさせる、そういう教育内容にしていく必要があり、それにはやはり私学助成、運営交付金等々の、仕組みを作っていく必要がある。認証評価の仕組みから、根本的に変えていく必要がある。明治維新、戦後の時期、今は第3の時期で最も大事な時期である。

北城恪太郎氏 学長のリーダーシップによる大胆な大学ガバナンス改革を、そして大学入試に実用英語試験を入れるべきか

大学のガバナンス改革については、1つは国立大学の学長の方の意見を聞いて頂きたい。教員ではなく、学長の意見を聞いて頂きたい。学校教育法93条の「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」、法案の解釈で解決しようという意見もあるが、なかなか大学の意識が変わらないので、やはり法案を変える必要があるのではないか。大学試験では、英語の入試に関しては試験の点数を上から取るのではなく、TOEFLやTOEICが何点以上あったら英語は良いということにすれば、よく書けるだけでなく聞いたり、話したりする能力も高まると思う。

岡村正氏 理系の教育、歴史教育の強化、学生が早く職業観を持てるように

科学技術では、まず理系の教育、小中高大すべての教育と、やはり文化については歴史教育をしっかりしていくという話ではなかったかと思う。また、中小企業と学生との間での就職のアンマッチングが非常に大きい。有効求人倍率でみると、はるかに中小企業が高いという状況がある。学生が職業観をしっかり持っていないということではないかという気がしている。そういう意味で、大学時代にしっかりとした職業観を教え込むことが必要ではないか。秋入学の問題で、その期間に職業観を教え込むことが大事だと思う。

下村大臣 38項目は全部達成する

ありがとうございます。皆様方から貴重なご提言、意見をお聞かせ頂いた。すべてメモを取らせて頂いたので、これから1つ1つきちんと反映できるものについてはやっていきたい。1つ1つお答えしたいが、時間が相当オーバーしているので、38項目を全部やるつもりで、文部科学省の役員が、霞が関だけで2000人いるが、この時が勝負だと、文部科学省がこの時教育再生に取り組まなかったら100年無理だ、役人になったことを最大の天命と考えて、この時勝負できなかったら文科省は国民から評価されないということを、2000人総体制で、これは文科省だけでなく政府全体で取り組まなければいけない。
安倍総理はじめ他の大臣と連携をしながら、まさに政府全体、オールジャパン体制で取り組みたいと考えている。これは言いっぱなしには絶対終わらないようにするので、次の時は私が大臣をしているか分からないが、38項目の検証を、1年後にどれくらい進行状況がチェックされているかを、きちんと系統的にやれるように、人が変わるかは別として、政策そのものは変わらないようにして、皆さま方へのご報告がシステム的に出来るように、そしてこの国が希望のある、よみがえる国になっていくような意識改革につながる文部行政、政治をしてまいりたい。どうぞ宜しくお願い致します。ありがとうございました。

第7回政策首脳懇談会 出席者
来賓・講師 下村博文 文部科学大臣・衆議院議員  
  随行者 榮友里子 文部科学大臣秘書官  
最高顧問 鶴田卓彦 日本経済新聞社・元社長
諮問委員 木村節 リビア国経済・社会開発基金顧問
玄場公規 立命館大学MOT大学院テクノロジーネジメント研究科教授
小島明 政策研究大学院大学理事・客員教授、日本経済研究センター参与
副会長 安西祐一郎 日本学術振興課理事長、慶應義塾学事顧問(前塾長)
児玉文雄 東京大学名誉教授、芝浦工業大学名誉教授
白井克彦 早稲田大学学事顧問(前総長)、放送大学学園理事長
坂東眞理子 昭和女子大学学長
松本正義 住友電気工業社長(代理 吉海正憲 同社顧問)
森村勉 東海旅客鉄道(JR東海)副社長(代理 石川俊二 同社 技術企画部担当部長)
薬師寺泰蔵 世界平和研究所理事研究顧問、慶應義塾大学名誉教授
専務理事兼事務局長 橋田忠明 日本経済新聞社・社友
理  事 荒井寿光 東京中小企業投資育成相談役
石田寛人 金沢学院大学名誉学長、本田財団理事長
片山卓也 北陸先端科学技術大学院大学学長
加藤幹之 インテレクチュアル・ベンチャーズ米国上席副社長兼日本総代表
榊原定征 東レ会長(代理 前田一郎 同社経営企画室産業政策・調査グループ担当部長)
則久芳行 三井住友建設社長(代理 三森義隆 同社 常務執行役員建築経営本部副本部長)
三島良直 東京工業大学学長
水野雄氏 旭化成常務執行役員兼旭リサーチセンター社長
村上雅人 芝浦工業大学学長
監  事 清水喜彦 三井住友銀行副頭取(代理 菊地正樹 同行 法人業務推進部副部長)
経済団体 岡村正 日本商工会議所会頭、東芝相談役
提携学会 井川康夫 日本MOT学会会長、北陸先端科学技術大学院大学教授
設立発起人・一般会員・副委員長 相亰重信 SMBC日興証券会長
石田正泰 青山学院大学法学部特別招聘教授
石塚敏博 日立ハイテクノロジーズ知的財産部長
北城恪太郎 日本IBM最高顧問、国際基督教大学理事長
高橋実 名古屋工業大学学長(代理 仁科健 同大学 教授・産業戦略工学専攻長)
拓植綾夫 日本工学会会長
森裕子 ハチオウ社長
守屋朋子 金沢工業大学大学院工学研究科客員教授
渡辺修 石油資源開発社長
事務局 田中幸子 (社)日本MOT振興協会事務局員
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