一般社団法人日本MOT振興協会

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第8回政策首脳懇談会を開催(2015年3月9日)

長谷川閑史 経済同友会代表幹事・武田製薬工業(株)取締会長
持続的経済成長に向けた日本の課題

 当協会は、2015年3月9日(月)午前8時〜9時半、東京・内幸町の帝国ホテル『鶴の間』にて、第8回政策首脳懇談会を開催した。今回の来賓・講師は、公益社団法人経済同友会の長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業且謦役会長)で、長谷川氏は2011年4月に代表幹事に就任、任期4年の余すところ1カ月という、文字通り最も政財界に精通した時点での講演だった。演題は「持続的経済成長に向けた日本の課題」で、長谷川氏のオリジナルの提言が中心だったが、まずグローバルメガトレンドとして@人口動態が、先進国における急速な高齢化から新興国における人口増大へA世界経済のドライバーが、先進国から新興国へBITによる情報化「何もしない」ことは、日本及び日本企業にとって最大のリスクとなると警告した。そして、持続的経済成長への日本の課題として、2020年度から2040年度を目標にして、日本再生に必要な取り組みをマクロ経済とミクロ経済両面から取り上げ、ドイツの改革を参考にした構造改革の断行とエコシステムの構築を挙げ、最後に、素晴らしい製品、サービスを生み出すが、ルールづくりや規模の経済に遅れを取ったり、部分最適を追及するが、グランドデザイン・パッケージ化が得意でない、「技術で勝って事業で負ける」日本の通弊を改善する必要があると強調した。懇談会は、いつものように有馬朗人会長が主宰し、講演の後、出席した協会役員などとの意見交換を行った。


「ルール作りで負けるな」と長谷川閑史経済同友会代表幹事

まずグローバルメガトレンドの話である。この中で最も大きな変化は、ICTのテクノロジーの進化に伴う社会の劇的変化と、それが個人や仕事や生活に与える影響かもしれない。
この点に関して書かれた著書2冊を挙げてみた。一つは2005年にトーマス・フリットマンが書いて結構話題にもなった”The world is flat”という本で、もう1冊は昨年マサチューセッツ工科大学の2人の教授が著した”The Second Machine Age”という本である。後者については後ほど触れる予定である。もう一点だけ強調しておきたいのは、このような劇的な変化が起こっている中で、「何もしない」でいることは日本および日本企業にとって、あるいはあらゆる組織にとって最大のリスクテイキングになってしまいかねない。というのが私の強い思いである。国家であれ企業であれ、その他どんな組織であれ、生き残り続けるためには、環境の変化に適応し、変革を続けなければならないということだと思う。世界の人口は、 1950年には25億人程度だったが、その後中国、インド・アジアなどで急速に増加し、1987年に50億人に達し、2011年には70億人を突破した。2050年頃にはアジアの人口もピークを迎えるが、アフリカの人口はさらに増え続ける。そして2061年には100億人を突破する見込みである。ということは、2011年に70億人を越えた人口があと50年くらいで100億人になるということで30億人増えることになるが、その増える人口のほとんどが、結果としてみればアフリカで増えるということになるわけである。ちなみにアフリカの面積は3000万平方キロメートルと言われていて、中国やアメリカがおよそ900万平方キロ メートルであるから、それの3倍、3.5倍くらいあるということで、乾燥・水の問題を除けば土地としては充分な広さがあると言える。わずか100年ちょっとの間に人類史上経験したことのない、25億人から4倍の100億人に人口が爆発的に増加するわけで、我々はその真只中にいるが、ただし、人口そのものは100億人を越えた段階ではほぼ横ばいで推移するようになるのではないかと予測されている。またさらに長い目でみると、世界人口は減少していくものであると思われる。爆発的に増加する人口を支える資源・エネルギー・食料・水・環境問題等が深刻化しているが、2100年までを無事に乗り切ればその後はこれらの深刻化は軽減していくものと思われるし、その間の科学技術の進歩が問題の深刻化を緩和してくれる可能性も大いにある。一方で世界的に高齢化問題が深刻化していくが、中でも日本がその先頭を走っているのはご承知の通りだと思う。これまで多くの国や地域で人口の増加と経済の成長は常時並行的に起こってきた。このセオリーが今後も適応できるとすれば、目下世界の経済成長を牽引している中国からいずれインドへ、そしてアフリカへ成長の中心がシフトしていくことも考えておく必要がある。アフリカについては「まさか」と言う人も多いかと思うが、政治学者であるイアン・ブレマーなんかはそういう時代が来るだろうと言っているので、どれが正しいかは分からない。
経済成長の5割以上は新興国からもたらされている、ということであるが、21世紀に入ってからの20年間で世界の経済は33兆ドルから101兆ドルへと約3倍に成長「Sick man in the EU」と呼ばれていたのが「Strong man in the EU」として復活した。そのきっかけはシュレイダー改革によるものであるという認識が大方一致したものであり2015年度予算案では財政均衡を果たし、46年ぶりに赤字国債を発行しなくても済むという見通しが立つまでになった。このドイツに学ぶことは多いかと思う。
日本にはいわゆるスタートアップイノベーションを創出するエコシステムが構築できていないように思う。イノベーションそのものは多くの企業でなされているが、ここではいわゆるスタートアップイノベーションにフォーカスしている。シリコンバレーや中東のシリコンバレーとして注目されるイスラエルに学ぶべきことは多々あると思う。イスラエルのイノベーションエコシステムについてお知りになりたい時は、Dan SenorとSaul Singerが書いた「Start-up Nation」という本があるのでこれはまさに一読の価値があると思う。イスラエルの人口は700万強であるが1人当たりのベンチャー投資額は米国の2.5倍、ヨーロッパの30倍で人口1800人程度につき創業1社で、具体的には年間1000社以上の創業がなされておりアメリカ以外の国では断トツの140社がナスダックに上場されている。福岡市のように国家戦略トップに起業として認められて、高島市長を中心としたイニシアチブを取っていて、例えば広島県知事や宮城県知事など8自治体超が集まってスタートアップ推進都市協議会というのを作りそういった動きを加速させようとしているのは大変心強いと思う。
また、見て頂きたいのがGAFAと呼ばれるアメリカのIT企業としての勝ち組企業、Google、Apple、Facebook、Amazonである。これらの企業の市場価値の総合計は150兆円と記したが、最近Appleが80兆円を越えたようなので現在は160〜170兆くらいになっていると思う。日本最大のトヨタさんは確か27か28兆円くらいだったのでそれの6倍くらいの市場価値になる。もちろん4社と1社では比較の対象として良くないが。Apple1社を取ってもトヨタさんの3倍程のヘッドキャップがある。最も早いAppleで設立は1976年でFacebookは2004年。Appleを除いては10年〜20年で0から何十兆円もの市場価値を創造する企業を創出したということになる。先に述べたThe Second Machine Ageが進行している今ITの遅れがハンディキャップとならないよう、国家も企業もよくよく考えて自国や自社に無いもので必要なIT技術は取り込まなければならない。 技術で勝って事業で負けるということだが、川上製品よりも川下製品の方にたくさんの付加価値が付くというのが実態である。例えばiPhoneのファースト・ジェネレーションについては部品の多くが日本製であったけれど、部品の価値は全体の3分の1以下で、グランドデザイン・パッケージ化で勝ったAppleがほとんどの利益を持っていた。一方で国際スタンダードであるDe fact standardもDe jure standardもこれは自国に巨大なマーケットを用意してパッケージ化グランドデザインの得意なアメリカ及び、アメリカに匹敵する市場規模に加えて国の数も多いEUはいずれのスタンダード作りにもしのぎを削っている。
また中国は巨大なマーケットが他の追随を許さないスピードで成長していることを最大限に活用してスタンダード作りに割り込んできている。そんな中で日本はいつもアウェーな戦いを強いられているということもあり、せっかく持った技術が必ずしも十分な利益に結びついていないということが言える。これは、スポーツの世界においても同様であり、日本は一定のルール下で努力と工夫を重ね、力をつけるが、ルール作りに参加できず、勝ち取った地位を失ってしまうことが大いにある。ノルディックの複合がその典型的な例であるが、日本発祥のスポーツである柔道や東京オリンピックで追加協議候補となっている空手でも、国際ルール作りの意思決定ボードに日本人がいない事態である。国際空手連盟はスペイン人が会長で理事には6人か7人いる中で、日本人は1人もいない。国際柔道連盟も上村さんがメンバーになっておられるけれど、任期がもうすぐ来て降りてしまうと日本人はいなくなる。
最後に、先日2月13日、国務副長官にこの1月からなられたアントニー・ブリンケンという方が同友会に来てスピーチとQ&Aをされたのだが、その時の言葉の中で印象的だったのは「国家の富の定義を50年、100年前に人に聞いたら人口の規模、国土の広さ、軍事力、豊富な天然資源等を挙げたことであろうと。これらは今でも重要だが21世紀においては人材が持つポテンシャルを最大化するために国家がいかにして自由で創造性と革新性を存分に発揮させることができるかが、その国家の能力の最大の評価に繋がる」という言葉。アメリカですらこのように認識しているのだから日本はなおのこと、世界中から色々な人材を惹きつけるような魅力ある国家・企業を作り上げると同時に、国家戦略として人財の育成を再優先目標とし教育制度の抜本的立て直しを行うべきだろうと思う。私の個人的な意見ではあるが、今すぐにでも小学校から英語を中心とした語学教育とコンピューター教育、中学からは論理的思考と批判的思考、交渉力、説得力を身につけるためのグループ・ディスカッションやディベート。そして高校からは異文化交流のための留学や留学生の受け入れなどを実施する、くらいのことはすぐに実行されるべきであり、OECDの中で教育に振り分ける予算の比率が最低レベルという実態は、いい加減返上しなければならないと思う。

長谷川閑史代表幹事 略歴
1946年 6月19日生まれ(山口県)
1970年 早稲田大学 政治経済学部卒業
武田薬品工業 社歴:
1970年 武田薬品工業株式会社入社
1984年 国際事業部、ドイツ武田、武田ヨーロッパに出向
1993年 TAPファーマシューティカルズ梶@代表取締役社長就任
1995年 TAPホールディングス梶@代表取締役社長
1998年 武田薬品工業(株) 医薬国際本部長
1999年 武田薬品工業(株) 取締役就任
2001年 取締役 経営企画部長
2003年 代表取締役社長
2014年 代表取締役 取締役会長
経済同友会歴:
2004年11月 入会
2006年4月 副代表幹事
2011年4月 代表幹事就任
主な公職:
2007年5月〜2011年5月 日本経済団体連合会 評議員副議長
2009年10月〜2012年12月 国土交通省成長戦略会議 座長
2010年5月〜2011年5月 日本製薬工業協会 会長
2011年5月〜2011年10月 成長戦略実現会議 議員
2011年10月〜2012年12月 国家戦略会議 議員
2013年1月〜2014年8月 日本経済再生本部・産業競争力会議 議員

<質疑応答・意見交換>
相磯秀夫氏:英才教育の実現を

私がいつも経済同友会のホームページを見ていてその中で非常に気に入っているのは、経済同友会が非常に教育に熱心で教育に関する活動が大変素晴らしいということだ。そこで私が一つだけ経済同友会にお願いしたいのは、質の高い英才教育を何とか実現させてほしいということ。試験などにも関係するから問題があるのだろうが。これだけ世の中が変化するのだから、私は英才教育が非常に重要だと思っている。
私は慶應義塾大学の環境情報学部初代学部長を務めたということもあり、設立の場にも立ち会って英才教育に関してもよくディスカッションをした。実例をあげると私共の教授の中に冨田勝さんという方がいるのだが、彼はシンセサイザーの冨田勲さんのご長男ということで素晴らしいセンスのある有能な方で、この方にはバイオサイエンスの分野を築いて頂き、山形県の鶴岡に慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパスというのを作り、そこでバイオサイエンスの研究をして頂いている。ここが素晴らしい成果を出しているのだ。少し古いが5年ほど前に富田先生が書いた資料をご覧頂ければ分かると思うのだが、若くして国際的な場で一流の仕事をしている人がどんどん続出しているのである。経済同友会にはぜひ英才教育の導入に力を入れて頂きたいと思っている。

荒井寿光氏:「産業は学問の道場」をもっと

長谷川氏のお話しに感動した。教育改革が大事、それから人材育成が大事。その関係で経済界、産業界がもっとこういう分野に力を入れて頂くと良いのではないか。産学連携も正直言って少し前に比べて産業界の関心が少し下がってしまっているように感じるのが心配である。「産業は学問の道場なり」と言われているのだから、産学連携をしなければ。またインターンの受け入れももう少し本格的にやって、お話しされたような国際人を育てるあるいはスタートアップを指導するなど、こういうことがまさに日本の産業界の方々が持っている実力を活かす場ではないかと思うので、一段と力を入れて頂きたいというお願いをさせて頂く。

柘植綾夫氏:“一石三鳥”の政策運営を

私自身も産業と科学技術政策を大学の教育で携わったもので、今の長谷川氏のお話しの全体の大事さと同時に最後、パワーポイントには書かれていなかったお話しが特に重たさを感じた。その中でも英才教育の大事さというのが今日本の中で学術界と産業界で議論をした時に少し噛み合わなくなってしまうことが問題であると思っており、学術の最先端を引っ張ってくれるような英才教育は割と今力を入れていると思うのだが、産業界で活躍してくれる博士課程修了者が本当の意味で英才教育になっていない。つまり世界のリーダーシップを取れる教育も英才教育の1つではないかと思う。この二つの命題をごちゃごちゃにして産学官の連携の中で議論すると英才教育の実行の中ですれ違いが生じてしまう。
今私の中でのポイントとなっているのは人材育成・教育と科学技術振興と最近力を入れているイノベーションで国力を戻す、という3つを三位一体的に、あるいは一石三鳥のような政策で回していく工夫をしていくことが、今の日本にとって非常に大事なことではないかということである。

薬師寺泰蔵氏:MITには多くのユダヤ人の先生が

私はアメリカで教育を受けたのだが、どこの馬の骨だか分からない、というのは日本の社会の中ではだめとされている。しかしアメリカではどこの馬の骨でもどこかキラっと光るものがあれば先生がよく助けてくれる。ユダヤ人の先生の中で育って、恐らくハーバードでは通じないのかもしれないが、MITはユダヤ人の先生がたくさんいた。

長田豊氏:英語教育には一貫性を

長谷川氏の非常に参考になるご講義を伺い、まずは最後のところの教育の問題で英語に関して。やはりこれが一貫性を持った形の中で実施できたら良いと思う。私の3番目の孫が今年中で幼稚園から英語をやっているのだが、日本語を覚えるのと同じくらい英語もやるためかなりネイティブに近いような発音で喋る。一方でその兄の方は小学校では一切英語をやっておらず、せっかく幼稚園で英語をやっていても途切れてしまっている。やはり英語教育は一貫性を持った形でやるべきだし、教育体系もそうであると思う。
 もう一点、女性の社会進出の問題で当社も他のJRもそうだが乗務員の運転手で女性が増えた。それ以上に管理的な仕事に対して女性は力を持っている。一番問題なのはいかに女性に長く勤めてもらうかということ。民主党政権の時にその手当の問題を話されていたが、実は手当の問題ではなくて、女性が子どもを産んでも安心して仕事をできる状況が作れるかどうかが問題なのである。

林明夫氏:地方でもMOTや大学の活性化を

私は開倫塾という学習塾をやっているのだが、栃木県、茨城県で宇都宮大学と作新学院大学と白鴎大学大学院が協同してMOT講座を私が関わっているので本日この場に来させて頂いたのだが、地方でもMOTや大学の活性化は非常に大事だと思っている。長谷川代表幹事の経済同友会でも活動させて頂いているのだが、経済同友会には学校と経営者の交流活動推進委員会というものがあり、高校や中学に経済同友会の経営者の方を派遣するプログラムがある。結構熱心に毎回200名以上の方が行っているので附属高校や附属中学をお持ちの方はぜひ経済同友会の経営者を無料で派遣するプログラムをご活用頂ければと思う。また大学にも先生として行っている方がたくさんいらっしゃるので、ぜひ代表幹事とご相談の上そういったことを進めて頂きたい。

三森義隆氏:建設業では人材の確保を

長谷川氏の講演はまさに日本の建設業が直面している問題が含まれていると思う。特に建設業への従事者の減少、人手不足が言われている。我々は二方向から対応をしているところだ。人手を必要としない省力化や熟練技術が必要でないやり方を工夫することと、もう一つは人財の確保である。人財の確保でいくと外国人の採用、あるいは女性の活用ということになるが、私は女性の活用は非常に重要なポイントになってきていると思う。特に女性の活用に関しては女性が働きやすいように産休あるいは産休後の復帰などといった会社のルールを作る環境を整備することと、建設現場が男性の職場であるという観念を払拭すること。そして最後に企業のトップが本気で考えて取り組まないとなかなかそういう制度にならないということ。この点をちょうど社内でも話し合っているところである。

前野隆司氏:グローバルな全体最適の視点で

私のいる慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科というのは2008年に安西祐一郎先生が塾長だった時に作った大学院であり、日本に足りない人材育成、部分最適でなくて全体最適の視点から、しかも協力してグローバルに打ち勝てるものを作ることを目指している。過半数は社会人学生でMOT的なものも含んでいるのだが、いかに新しい教育を作っていくかということを頑張ってやっている積りである。実際、会社からの派遣学生、若い学生、文系・理系、起業した人、起業したい人、大企業の方、官僚の方など色々な方が学んで切磋琢磨して日本を本当にシリコンバレーに負けないようにしたいと、まだ小さいけれど頑張っている。他にも東大、早稲田など色々な大学でMOTとか同じようなことを始めている大学院も出始めているので、ぜひ色々なところで協力、活発化して産学連携を通じて日本が本当に勝っていけるストーリーを作っていきたい。

児玉文雄氏:日本はIoTでは非常に強い

本日のお話しは非常に感銘を受けた。ほとんどパーフェクトに近くどこも隙が無いように思えるが、1つIoTのところで。私は自動車産業と電機産業を比べてきて両方ともが二本柱であったのだが、自動車産業は成長しているのに電機産業はどんどん見えなくなっていった。色々考えてみてITは日本に向いてないが、IoTは重機とチップ等ITを持っている企業もあって非常に強いのではないかと思う。事実、実績も現れてきている。社会インフラの海外輸出の競争力など。だからといって安心しているとドイツからインドまで日本がかつてやっていた産業政策を引っ張っていこうというような動きがある。それに対して日本は余りそういった声がない。それはそれぞれの大きな電機企業が、全部自分が持っているから大丈夫だよと、認識してしまっているということなのかもしれない。そうするとどこかにぬかりがあって将来大きな問題になるのではないだろうか。だから日本の特性を活かした産業政策が必要であると思うのだが、全然そういった声が聞こえてこないのでぜひ同友会等で音頭をとって頂いて原案を作って頂きたいと思う。

小島明氏:企業の内部留保に動意を

「何もしないことが一番のリスクだ」ということを徹底して経済界に定着させてほしいと思う。例えば品のない大臣が品のない言い方で「内部留保を抱えたまま何もしない企業は守銭奴だ」と言っていたが、まさに恐らくそういった要素があると思う。IMFのレポートでも日本の企業が抱えている内部留保ないし手元資金がマーケットキャップに対する比率はG7の国の中でも突出している。これを何とかしなければどうしようもないのだ。金融の目詰り、つまり産業を通じた資金、資本のもとの流れが止まっていることが日本の一番の閉塞であって、ピケティは日本の資本の生産性だとか資本の収益が低過ぎる、資本が利益を上げられないと言っていた。法人税の議論があったが、法人税を払っているのが28%しか無いということは、何もしないからそうなってしまうのであって、何かすることが必要。コンプリートガバナンスが最近言われるが、制度・実績・何のためにやるのかということをしっかり挙げながら、その制度をどんな形で入れるにしても、運用を徹底して頂きたいという思いがある。

井川康夫氏:合理的、論理的な意思決定が重要

今、大学では先ほどの議論のように社会人に対する教育が非常に大事であると思い、我々の大学でも増やす方向で考えている。ここからは個人的見解であるが、イノベーション論的に申すと意思決定というのは、色々な人の言葉を聞くがトップが1人で民主的・多数決ではない形で決めなければならない。人間社会、世界中どこでもそういう要素があるのだが、日本では特に合理的な議論ではなくて感情が支配していることが問題なのではないかと思う。今のお話の中で人口が増えていくとあったが、当然のことながらエネルギーの問題、食糧の問題、水の問題、環境の問題と問題は明らかになっている。その中で地域として感情が支配する意思決定をしているのではないかというのが非常に危惧される。このことをどう論理的に、合理的に結論を求めるか、日本としての意思決定ができるかということを考えなければ後に大きな禍根を残すことになる、と思っている。技術経営というのは科学技術が支配する原理に従って、論理的、合理的に意思決定をすることだと思っているので、こういうふうに日本が動いてくれるよう考えているところである。

水野雄氏氏:望ましい製造業の国内回帰

まず個人的な話をさせて頂く。最初に長谷川氏にご挨拶したのは確か3年前になると思うが東京北京フォーラムというのが北京で開催された時に、パネリストとして長谷川氏のお話しをお聞きした。その後北京大使館で、当時はまだ丹羽宇一郎大使の時であるが、そこで初めてご挨拶をさせて頂いた。今日のお話の中にも多少出てきたが、製造業の国内回帰というのが色々なところで取り上げられるようになった。これは日本の社会が非常に悩んでいた空洞化の問題に歯止めを掛ける動きであるし、今の政府の地方再生という点もかなりプラスであるのでぜひこの歩みが進むといいなと思っている。ただ世界的なグローバルトレンドというのは長谷川氏がお話しされた通りであるし、製造拠点も現地化であるし、そういう流れは地産地消であると言われているのに変わりはない。しかし最後に頼れるのは日本国である。Made In Japanの心棒はまだ根強く残っている。またチャイナ・プラス・ワンなど色々なリスク壁も考えると、全体的にはグローバル化は変わらないが、その一部でも日本に戻ってくるといいなと、国内回帰の動きが本格化するといいなと願っているところだ。

石田正泰氏:決め手は知財制度の運用

今日のお話の中で私が最も勉強させて頂いたキーワードは、大局観である。我々日本は今、技術では勝つが事業で負ける、ということになっているのだがやはりそこでは大局観が必要であると思うのだ。
私は企業で専務をやっていてその後東京理科大、そして現在青山学院大学で社会人を中心に教育の一環を担当している。今日のお話でも人材育成、あるいは教育というものが重要である、と伺いその通りだと感じた。しからば、どういう人材を育てるかということが大局観的に非常に重要であると思っている。
そして一つだけ今日のお話の中の技術で勝って事業で負けているということに関して、私個人の意見なのでキーワードだけ申すが3点ある。1つ目のキーワードはビジネスモデルの作り方。2点目は日本の9割前後、あるいはそれ以上を占める中小企業の位置づけ。3点目は、日本全体の知的財産制度運営の、技術それ自体では勝っているが、ビジネスモデルを含め知財制度の作り方、運営の仕方。特に知的財産は権利を行使する。すなわち訴訟。ところが勝訴率が今日本全体で2割くらいしか無い。企業側は知財の目的が訴訟だと思っているが勝てないのである。そういうことで知財は訴訟ではなくてライセンスも含めたことである、と国を上げて指導していく必要があると思うのだ。

木村節氏:貧困・失業がイスラム問題の本質

感銘を受けたのは、昨今のテロ問題とイスラム問題は分けて考えなければいけないのだということ。はっきり経営のトップの方がイスラムの件をきちんと認識されているというのが分かり安心した。先ほどおっしゃったように人口が増大し特に中近東、アフリカ、アジアを含めたところが増えているということは、イスラムというものと日本はどうしてもこれからきちんと向き合っていかなければいけない。そこで一つ、最近安部総理のおっしゃる難民対策も大事であるのだが、私はその前にああいったことになった原因を理解するべきであると思う。要するに貧困、失業対策である。この貧困対策であるとか、失業対策に関して、私は日本の技術が非常に役立つと考えている。単に勇ましいUC団体、UC連盟とかいう話だけではなくてむしろ貧困対策ということに日本は力を入れるべき。そのために大事なのはインフラ整備など。これは日本が得意な分野である。特にアフリカの貧困地区でのインフラ整備は必要だろう。それから人材育成、教育にも関係があるが技術移転に関してMOTもご活躍を頂いて日本が積極的に技術移転に取り組むようにすると良い。

小竹暢隆氏:現代のリベラルアーツを考えるべき

大きな意味で課題というのは構想と実行の乖離あるいはマクロとミクロの乖離というのをよく感じている。政策であれ企業の経営であれ大学の運営であれどうしてもマクロ的なことと実際のオペレーションにおいてかなり乖離が生じている。そこでオープンイノベーションというのが標榜されてはいるが実際にはまだ秘密主義である。あるいは産学連携においてもピンポイントではなくてもう少しエージェンシーをどう育てるかということを考えていくべきであると思う。それから大学のエンジニアリング教育というのは本当にエンジニアリングをやっているのかと内部にいて感じており、一度議論して頂きたいと思う。また、イスラムの話もあったが、リベラルアーツは非常に大事だが、特にうちの大学は工学系ということもあり、どうしても軽視されてしまう。だからシェイクスビアを教えることがリベラルアーツなのではなくて、現代のリベラルアーツというものをもう少し考えていけたらと思う。

西村正幸氏:受験・入試制度など社会改革が必要

本日の長谷川氏のお話の最後の方で教育の問題があった。昨今、私共の会社に入ってくる若い世代を見ていて内向き志向、指示待ちの姿勢である人間が増えているような気がしている。これはただ大学の教育の問題ではなくてより若い小学校、中学校からの長年に渡る問題が関係しているのではないかなと思う。学校での教育もさることながら私自身の子どもを育てた経験から言うと、少し気になるのが学習塾である。小学校、中学校と受験のために学習塾に通い、そこで塾の先生が1から10まで、全てああしろこうしろと言われた通りにやれば点数は良くなる、といったことを何年も続けてそれが人格の形成にどう影響しているのか気になるところである。それについては受験制度、入試制度を含めた社会の仕組みの改革も必要なのではないかという感じがしている。もう一点、科学技術に投入する国家予算の件であるが、GDP対比で比率は低いというような議論もある。やはり日本が技術に立脚して国を興していくということであるならば、国家予算の投入を一層増やしていくべきだと思っている。

溝口剛氏:教育、構造改革に金融提案で対応

教育について。銀行という金融機関は学校も企業も皆様お客様であり、企業様に学校の教壇に立って頂いてお話をしてもらうというのを行う最近専門チームを作り加速しているので、今後さらに力を入れていくべきだと思っている。もう1つは、アベノミクス関連が目指している経済の好循環を作っていくためには、やはり足元の好調な企業業績の継続、向上に加えて個人消費をさらに伸ばしていく必要があると思う。昨今国においても法人税の減税だとか教育資金贈与など、構造改革支援やさらに地方再生等の政策を打ち出しているが、私共民間の金融機関としてもやはりお客様のニーズ、これは教育も含めて伺い金融ソリューションの提案を通じて資金需要にしっかり対応していくということが大切であると思っているので、経済活性化に向けて期待される役割を果たしていきたいと思う。

秋元浩氏:緊急避難と一貫教育で人材を確保

お話に出てきたように技術で勝って事業で負けるということ。これはグランドデザインができる人がいない、あるいは知財を支えるような人もいないということが要因の内であり、結局すべての根幹は人材に帰するのではないかと感じた。そこで長谷川氏のご提案で小中高、そして大学と一貫した教育をするべきであるとあり、これはもちろんのことであると思う。しかしこれをやっていると10年先のことになってしまうだろう。そういうことで中国、韓国、シンガポールは一体どうやっているのかというと、緊急避難的に本当に世界で戦える人材をグローバルスタンダードできちんと5年くらい確保しているのだ。本当に優秀な人材を賃金制度、あるいは終身雇用制度から脱却して雇えるかどうか、これは産業界であろうとスポーツ界であろうと、また武田薬品さんでもやっておられるのだ。こういうことを日本国家としてやらなくてはならないだろう。同時にそういうような方たちを日本で当面確保し、そして10年サイクルで本当に素晴らしい人材ができた時に、それを日本にキープ・確保するようなシステムが無いとせっかく育った人材が外国に行ってしまう。逆に確保システムがあれば日本にやって来るということになるので、やはり一貫した教育をやると同時に緊急避難的にどういうことをやれば良いのか、どういった人材を確保したら良いのか、同時に将来的にそういう人材を日本に確保する、こういう社会システムをどう構築したら良いのか、という点を考えるべきだ。

橋田忠明氏:知的財産で稼ぐ時代に早く転換を

日本が未曾有の災害に見舞われた、東日本大震災と福島原子力発電所事故が起きた2011年(平成23年)は、歴史的に大きな転換期になるだろう。資源のない日本は原材料を輸入し加工した高度製品を輸出して発展してきた。いわゆる「貿易立国」である。それが、2011年を境に貿易収支は赤字基調となり、第一次所得収支の大幅黒字による経常収支を黒字に保つ時代が始まったのだ。知的財産収支は2011年に7091億円と対前年比13.7%増を示し、2012年9569億円、同21.2%増、2013年1兆3422億円、同40.2%増となり、2014年も1兆8000億円、同38%増と増加基調である。日本は知識社会に突入しており、「知的財産」を厳密化して、海外や国内でも「知的財産で稼ぐ」対策を第一義にする、いわば、「技術で勝って、事業でも勝つ時代」の政策論議を高めるべき時にあると思う。(誌上参加)

石田寛人氏:原子力事故で大切な合理的判断力

本日のお話で感銘を受けたのは、感性の重要性に関して触れられた部分である。私としては、なるべく感情に流されず合理的に判断することが大事、とのことであるが福島第一原子力発電所の事故が我が国で起こり、どうなったかというと感情に基づく判断をした方が正しかったのではないか、と言いたいような風潮が出てきてしまった。原子力を進めてきた者としては非常に申し訳無かったと反省している。ぜひこのような風潮については合理的判断が大事であるということを多くの人に認識して頂きたいと思っている。その罪滅ぼしではないが、私の田舎は石川県の小松であるのでまさにグローバル企業のコマツさんのもとで石川県におけるエンジニアリング教育に力を注いでいる。たまたま北陸先端大学もあれば金沢工業大学、金沢大学というエンジニアリング教育に関して好適な環境があるので新しい観点のエンジニアを育てていくような努力をしたいと思っている。

渡辺修氏:もっと必要な政産学官の連携

結局これらの問題に取り組んでいくには産学官、もっと言うと政も含めてそれぞれが連携・コミュニケーションをより強化して、それぞれの分野で自分に何ができるかということを考えて前を向いて走って行くことが一番重要である。それは日本が最も得意としていた分野だと思うのだ。それがグローバライゼーションが起こって諸外国がますますそうなっている時に逆に日本は産学官民政の交流を自ら崩壊させるというか、弱まっているというような印象を受けている。さらに競争力会議などトップレベルも必要だろうが、中堅管理層もっと言うと役所で言えば課長補佐とか企業で言うともっと低いレベルの若手の連中が常時デイリーベースで交流をして、それぞれの問題の所在をしっかり分かって一緒に走る、ということの必要性がますます強まっているのではないかと思う。そこをもう一度国民の総意を結集するような形で取り組まないと環境が悪くなった時に大変ではないかなと思っている。特に最後のルール作りでは、産学官の連携での良かった時代でも日本がやや劣っていた点だと思う。

白井克彦氏:環境・外部条件を変えるべきだ

教育面が改革されなくてはいけない、という指摘はある程度当たっていると思う。実際私も放送大学というところに関係しており、そこでのミッションを考えると、地方創生の話でもあるが地方私大などは定員割れだのなんだのという状況にある。こういうところの教育をどうするのか、という問題は地方創生にも結びついている。それから一般の社会人の再教育をどんどんやらなくてはいけないという要請も非常に強い。またこれまでにも多くの方がおっしゃった英才教育について、エリートが重要なのだ、ということに関して実際それはそうだと思う。ただ今申し上げたようなことに正直お金が回っていない。これは幼稚園や保育園から始まって大学に至るまで努力はもちろんだが、やはりもう少し教育にお金を投資しないと無理があるという気がする。それからそのお金の回し方だが、学校へ回すというのもあるが先ほど秋元氏もおっしゃったが、エリート自体は出ており、そのエリートがどこへ行くかが重要で、そういったエリートたちが日本の企業に行くのはある意味ガラパゴス就職のようなものである。安全だしエリートは割と簡単に入れてしまう。そうすると余り勉強しなくなってしまうのだ。もし給料がプロ野球選手のように実力次第で好きなところへ行ける、などならば全然違った形で学生たちは努力するだろう。そういう人たちも若干いるが彼らは外資系に行く。本当に凄い人間は外へどんどん出て行ってしまっているのだ。そういうことも考えると、やはり環境、外部条件を変えていかないと無理なのではないかと思っている。

佐々木則夫氏:ユーザーと共にデファクト競争に勝つ

長谷川氏のお話からいくつか意見を。まずメガトレンドの中でどうやってシフトしていくかという件について。これは人口だったりGDPのシフトだったり、それからローリングがどのように起こっていくのかというのがあるわけだが、これの中でエネルギー、食糧、環境などといったものの中でのバランスが全体のローリングの中でどういった歪を持っていくかというのが非常に重要だ。ただそれ以上の問題があり、実際には新興国の中ですら高齢化が起こっている。
またThe Second Machine Ageについては全くこの通りだと思うのだが、頭脳を機械に代替化していくのもやはりそれなりの順番がある。まずは記憶力、次にロジックのしっかりした思考力、その後想像力というのはなかなか新しい価値なので難しいと思う。
次に日本にはITの関係の委員会が無いというお話があったが、一応私も内閣官房の方のIT総合戦略本部に入っており、その中のITSの会議で自動運転に関してやっている。私が感じているのは、国が主導するこういうような推進会議、戦略会議はなかなか同床異夢というか呉越同舟であるような、余りうまく行っている感じがしない。
特に女性の話だが、私は厚生労働省の女性の活躍促進協議会の座長もやっており、我々メーカーみたいに日本が技術開発立国とか輸出立国とかそういう立国をしていく時に、女性の理工系率が非常に少ない大学より前に中学や小学校から指向性を持たせなければならないと思うのでご協力頂ければと思う。
それから事業では負けるというお話も頂いたが、メーカー間がなかなかうまく行かず、お互い孤立している。成功した例としては高圧送電か何かでヨーロッパの規格を取る時に日本の企業だけで頑張っていたらだめであったところ、中国の顧客の大きいところを取ると非常にうまくデファクトを取れるような形で規格が作れたということがあった。いかにお客さんと協力をしながら大きなマスを持ったものになる可能性を示した上でやっていけば、デファクト競争に勝てるということが分かっているので我々はそういう方向でやっていきたいと思っている。

有馬朗人会長:科学技術を中心に産官学の再構築を

長谷川氏が教育に注目してくださったこと大変ありがたく感じた。やはり非常に心配しているのは、若い人の世代がかなり減ってきていること。具体的に教育費をGDPで比べると日本の初中教育にGDP当たり2.7%と世界でも極めて低く、ビリから3番目くらいなのである。フィンランドの教育が良いと言っていた時代があったが、当たり前で日本の2.7%に対してフィンランドは約4%のGDPを使って教育をしているからだ。それから特に問題なのは大学である。大学に関して言うと世界最低でGDP当たり0.5%だ。先進諸国は1.0%。アメリカ、ドイツは1.0あるいは1.2%くらいある。それで日本の教育を良くしろと盛んに言うが、金が無いのにどうやって良くするのだろう、というのが私の疑問である。こう言うと財務省の人は高等教育すなわち大学の教育は義務教育でないのだから受益者負担でやれと言う。2000年までは大変ありがたいことに科学技術基本法ができ、科学技術基本計画で相当研究費が増えたので、2000年までは科学技術の論文が非常に増えた。世界第2位になったのが、その2000年頃。アメリカに次いで第2位であり、特許もうんと増えた。ところが現在は2位が5、6位にまで下がってしまった。優秀な論文の数も減ってきている。このことをどうしたら良いかと考えたところに教育費の問題がある。教育費の一部が、国立大学で言えば運営費交付金というものがあり、それが1%ずつ毎年減らされている。10年経てば10%減っているわけだ。その10%のかなりの部分が人件費であり、しかもその人件費がどこにいっていたかというと、かつては若手を契約雇用でなくて終身雇用に持っていくところに使われた。それにも関わらず今若手を終身雇用に雇う金が無いのだ。すでに国立大学の一部では教授助教授の首を斬る運動が起こっている。論文の数、いい特許を作る大部分の人は若手で、その若手が契約雇用以外にきちんとした内容で雇えないことに問題があるのだ。
それからもう1つ、非常に重要だと思うのは、産官学が協力をすること。これはとてもうまくいっていた。しかし1990年代頃から官が離れてきている。なぜかというと、橋本行革の失敗である。まず工業技術院を潰してしまったのだ。工業技術院が産官学の柱の1つになっていたのに、それがなくなってしまった。それから科学技術庁も潰してしまったのだ。科学技術庁を潰したことで良いこともあった。文部科学省になったことによってそこが非常に積極的に理科教育をやるようになったことだ。スーパーサイエンスハイスクールが良い例である。ではどこが問題か。原子力をやるところがなくなってしまったのだ。科学技術庁というのはもともと原子力を中心としていたのだが、それがなくなってしまって局にすらなっていない。1つの課がやっている状況。。だから新しい原子力を作ろうとしてもなかなか元気が出ない。

長谷川閑史代表幹事:競争に勝ち抜くには、トップの決断と責任

それでは最後に二点だけ。一体我々はあるいは自分の企業は国体で戦おうとしているのか、それともオリンピックで戦おうとしているのか、ということ。オリンピックはやはり優秀な人材を英才教育をして初めてある程度勝てる。それを企業の経営でもやる覚悟があるのかどうか、ということをよく問い詰める。それをやろうとすると抵抗が多くてできないのだけど、本当にその企業のサバイバルのために何をやろうか、というのをどこまで決断できるかが大事。また、イノベーションもそうだけれど最後のところはトップが決断して責任を持ってやる、そして結果責任も取る、というところまでいかないと物事はなかなか進まないと思うのでここがポイントの一つになると思う。結局は自由な社会だから、企業が今日本の大学では優秀な人が採れないと思ったら、佐々木氏のところも含めてうちもそうだが海外の企業も周辺国の優秀な人をどんどん採っている。ボストンのジョブフェアにも行ったりするし、直接インドやシンガポールに行ったりして採っている。だから日本の大学の皆さんは優秀な学生を育てない限りだんだん企業は採ってくれなくなるということを身にしみて感じられると思う。
もう一点は、優秀な学生は日本で機会がなければ出て行くということ。ただその比率は恐らくトップ1割か2割で、昔は大体6割は高度成長の幻想に騙された良い部分もあるが皆で御神輿を担いでいけば明日は今日よりも豊かになると思っていたがその時代は終わってしまった。そうすると現代は二極分化が起こるのは仕方ないこと。だからエリート教育というのをやらなくてはいけないし、エリートは育つけれどそれは先ほど紹介した「Start-up Nation」という本をぜひ読んで頂きたい。イスラエルがいかに凄まじいエリート教育をやっているか。全国の高校の生徒のスコアが全部分かるようにし、軍隊がそれを見て、優秀な人を特別なユニットに放り込みそこで徹底的に鍛えてネットワークを作らせるということまでやっているのだ。そういうことをやっている国と、シンガポールのようにEDPは周辺国の優秀な人を全部ピックアップして全部奨学金付きで欧米にてPHDを取らせるのだ。唯一の条件は5年間シンガポールで働いてくれたらそれでいい。あとは自由であるのだが、ほとんどの人が残ってくれるという。そんなことを各国一生懸命やっている時に、日本は日本人だけで従来のぬるま湯でやっていたら恐らくこのまま、徒花は少し咲くかもしれないがズルズルと行ってしまう。これから世界の競争が激化する中で日本が少子高齢化という不利な条件であるということ。ただこれを克服できたらモデルになって良い商売ができると思うが。そういった条件の中で戦っていくためには、先ほど申したように高齢者にも、女性もどんどん働いてもらおうじゃないかと、どこもやったことのないようなことをやっていかないといけない。これからはイノベーションの時代で、ITの分野なんかは完全に遅れているからIoTくらい何とかやらなくてはいけない時代であると思う。そういうことを考えて頂くきっかけとなれれば幸いである。

第8回政策首脳懇談会 出席者
来賓・講師 長谷川閑史 公益社団法人経済同友会代表幹事、武田薬品工業(株)取締役会長  
  随行者 岩下圭二 公益社団法人経済同友会、企画部マネージャー代表幹事補佐  
協会幹部  
会長 有馬朗人  武蔵学園学園長、静岡文化芸術大学理事長、科学技術館館長
次期会長 佐々木則夫 (株)東芝取締役副会長
最高顧問 相磯秀夫  東京工科大学理事、慶應義塾大学名誉教授
諮問委員 木村節   リビア国経済・社会開発基金顧問
小島明   政策研究大学院大学理事・客員教授、日本経済研究センター参与
前野隆司  慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授
副会長 長田豊   東海旅客鉄道(株)代表取締役副社長
児玉文雄  東京大学名誉教授、芝浦工業大学名誉教授
白井克彦  早稲田大学学事顧問(前総長)、放送大学学園理事長 松本正義  住友電気工業社長
(代理 西村正幸 同社 研究統轄部長)
薬師寺泰蔵 世界平和研究所理事・特任研究顧問
事務理事兼 橋田忠明  日本経済新聞社・社友
事務局長  
理事 秋元浩   知的財産戦略ネットワーク(株)代表取締役社長
荒井寿光  東京中小企業投資育成(株)相談役
石田寛人  金沢学院大学名誉学長、本田財団理事長
榊原定征  東レ(株)代表取締役会長
(代理 前田一郎 同社 総務・法務部門渉外企画室長・参事)
則久芳行  三井住友建設(株)代表取締役社長
(代理 三森義隆 同社 常務執行役員)
水野雄氏  (株)旭リサーチセンター代表取締役社長
監事 清水喜彦  (株)三井住友銀行副会長
(代理 溝口剛 同行 法人戦略部副部長)
提携学会 井川康夫  日本MOT学会会長、北陸先端科学技術大学院大学副学長・教授
設立発起人・
副委員長など
柘植綾夫  科学技術国際交流センター会長
渡辺修   石油資源開発(株)代表取締役社長
林明夫   (株)開倫塾代表取締役社長
鵜飼裕之  名古屋工業大学学長
(代理 小竹暢隆 同大学 教授)
石田正泰  知的財産委員会副委員長、青山学院大学法学部特別招聘教授
事務局 田中幸子  (社)日本MOT振興協会事務局員
菱沼弘香  慶應義塾大学環境情報学部小川克彦研究室
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