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米国のビジネス・知財最新情報

【第1回】 ベンチャーを創出する米国のイノベーション・エコシステム(2009.12)

 昨年夏から、1年近くシリコンバレーに駐在し、久しぶりに米国の風に触れる機会を得た。1987年から15年間のサンフランシスコ、ワシントンDC勤務時代に、米国経済が80年代前半のどん底から、90年代にITを武器に復興した時と比べ、今回の駐在は、リーマンショック以降の米国経済の変化を目の当たりにする良い機会であった。

求められる技術やビジネスに強い弁護士や会計士、
技術の目利きができるコンサルタント

未曾有の不況の中、シリコンバレーは決して研究開発を止めないことは印象的だった。オバマ政権誕生が決まると、スマートグリッドや代替エネルギーを切り口とした財政出動への期待もあり、米国のイノベーションへの意欲は極めて旺盛である。今回さらに痛感したことは、米国ではベンチャーを生む外部環境が整備されているということだ。


シリコンバレーにあるコンピュータ歴史博物館(米国、カルフォルニア州、マウンテンビュー)内の世界初のコンピュー ターの前で筆者

 シリコンバレーの生みの親でもあるスタンフォード大学から南西に続くサンド・ヒル・ロードの周囲は、木々に隠れるように低層のオフィスビルが続く。そこにはベンチャーキャピタルの事務所が多く点在する。このあたりには、弁護士事務所や会計士事務所も多いが、それらの事務所は、技術やビジネスに強い弁護士や会計士を多く抱えている。さらに、この辺りには、金融やマーケティングの専門家や、技術の目利きができるコンサルタントも多く存在する。 これらの人々がチームを組んで、新しいベンチャーを立ち上げる仕組みがあることが、シリコンバレーが多くのベンチャーを生み出してきた最大の理由ではないかと感じている。

日本では技術にお金をかけても、ビジネスで勝てないのはなぜ

7月になって日本に帰ると早速、「日本では技術にお金をかけ、特許の数も多いが、ビジネスで勝てない。グローバルビジネスにつながる研究開発投資をどうやって行うか」という議論が聞こえてくる。日本でも、もう一度MOTの重要性を認識し、国をあげて技術をビジネスに結びつける仕組みに取り組むべきだと思う。

 シリコンバレーの投資家たちは、独自のネットワークを持ち、分野ごとに専門的技術を持った人々に相談し、投資するかどうかの判断をする仕組みもある。日本では、身近に相談できる弁護士等の専門家が少なく、個人の発明者や企業の場合であっても、新しいビジネスに挑戦するリスクの程度が測りきれない結果、躊躇してしまう事例も多いのではないか。
 すべて米国式が良いと主張する訳では無いが、日米の違いを参考にして、日本でも改善できることはしていくべきだと思う。例えば、日本の法律家の業務は、法律分野に限られ、技術やビジネスの中に入る度合いが少ないように思われる。法律家に業務を依頼するユーザーという立場から考えると、法律の知識をベースに、こうやれば合法的に新しいビジネスが可能となるとか、最近こういう制度ができたからそれを活用するともっとビジネスがやりやすくなるといったような、実務的なアドバイスが貴重である。

イノベーション・エコシステムを作ることが急務

シリコンバレーの「イノベーション・エコシステム」は決して1日でできたものではない。40年以上のシリコンバレーの歴史を通じて築かれてきたものだ。日本でも同じようにイノベーションをビジネスにつなげて成功させるためには、イノベーション・エコシステムを作ることが急務であるが、それは一朝一夕には実現できるものではない。エコシステムを使う側はもっとエコシステムを活用して広く専門家の知見を求めるべきだし、提供する側も広い知見と経験を積んで、国際的なビジネスに貢献していただきたい。


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