第7回 知的財産委員会報告
平成22年6月17日、学士会館にて、委員の富士通総研の加藤幹之専務取締役から「クラウド時代の知的財産問題」について、米国をはじめとする現況を聞き意見交換を行うとともに、妹尾堅一郎東京大学特任教授から前回報告が途中で時間切れに終わった「国際産業力のからくり 多様化する技術経営と知的マネジメント:知を使う知の時代へ」と題する報告の残りを聞き、意見交換を行った。
2010年6月17日、委員の加藤幹之富士通総研専務取締役を講師に、荒井委員長、石田副委員長、鮫島正洋弁護士・弁理士、秋元浩知的財産戦略ネットワーク社長、妹尾堅一郎東京大学特任教授、橋田忠明専務理事、小平和一朗事務局長が参加して第7回知的財産委員会を開催した。
最初に前回議事録(2010年4月5日)を確認した後、荒井委員長から「当委員会では、現在、3つの企画の準備を進めている」との説明があった。
第1は、今春、皆様から出して頂いた『MOT新知財戦略10項目提言』に修正や肉付けをして頂いて、7月15日締切で再提出してほじい。出稿の順番に、1~2週間置きに、協会のホームページに名前入りで掲載していきたい。
第2に、秋元社長に依頼しているが、ライフサイエンスの新知財戦略について、日経本紙「経済教室面」に寄稿すると同時に、協会ホームページに連載をする。
第3は、加藤専務から推薦のあった富士通総研のセミナーで、今秋にも、当委員会メンバーが講師陣となって、新しい知的財産戦略の提言を一般の人達にPRしていきたい。
橋田専務理事が「5月13日の荒井委員長とスウェーデンのチャルマースエ科大学のグランストランド教授の面談(すべて英語)の翻訳作業を進めており、完成すれば会報『MOT活動報告』と協会ホームページに掲載する予定である」と報告した。
本日は、加藤専務の「クラウド時代の知的財産問題」の講演の後、残った時間に、妹尾教授の前回の講演「知財マネージメントのイノベーション」の積み残しを説明してもらった。
加藤氏がパワーポイントと配布資料に沿って、忠実に講演した。
「クラウドコンューティング」という言葉は、グーグルのエリック・シュミットが講演で最初に使った言葉と言われており、「雲(ネットワーク)の向こう側に存在するI Tソースをネーットワーク経一由でオンデマンドで利用する-ITサービスの形」であり、自分でコンピューターを持たなくても利用できる仕組みのことである。
加藤氏は「人類、社会が変わる、価値のあるクラウドを
創り上げ、利用することが大事である」と報告した。
リアルワールドとITワールドをつなげる仕組みについて説明した。「クラウド」には、「パブリッククラウド」(インターネット)、「プライベートクラウド」(専用線・イントラネット)がベンダーサイトとしてあり、お客様サイトとして「ハイブリッドクラウド」と、既存システムにクラウド技術を適用した、企業ごとの「エンタープライズクラウド」がある。
「サービスの提供形態」では、NaaS、laaS/HaaS、PaaS、DaaS、SaaSについて、それぞれ説明し、このうちSaaSの業務プロセスは自分の業務だけで、後のアプリケーション、デスクトップ環境、ミドルウエア、OS、ハードウエア、ネットワークはベンダーがやってくれる。
また、主なクラウドサービスベンダーとして、グーグルは「世界4位のコンピューターメーカー」とさえ言われる。セールスフォースは、米国サンフランシスコに本社があり、ここ数年、急成長している。他に注目すべきは、マイクロソフトである。こうしたベンダーでは、1センター当たり20万台以上のコンューターを連結するものがあり、故障してもお互いにカバーできる仕組みになっている。
クラウドの特質として、社会に対して、(1)フレキシブル、安価に、簡単にコンピューティングパワーを利用できる環境(2)ブラックボックス化、情報偏在の加速(例:グーグル・ブックス)(3)プログラムや情報の相互利用可能性の加速(例:ウエブサービスのマッシュアップ)(4)仮想技術の利用による資源の効率的活用=環境貢献も−−などのインパクトを持つと考えられている。 具体例として、マッシュアップの技術=クラウドの画面を説明した。
グーグル・マップとWeb Serviceのマッシュアップ技術について、詳しく説明した。
加藤氏は「情報通信の技術は、グーグルとアップルの2社がリードし、日本企業を含め、他の企業は競争相手になっていない。この2社は、互いに20兆円ほどの株式市場価値を持ち、対決している。梅田望夫氏は、キングキドラ対ゴジラと称された。グーグルが世の中の情報を皆に使えるようにすることを目標にするのに対し、アップルは閉じた社会で役立つことが目標である」と指摘した。
マッシュアップ技術の再利用可能性については、新しい機能を元のアプリに追加可能となる点の説明があった。
また、「疑問は?」として、(1)権利の所在と内容、当事者間の権利関係(2)オープンなライセンスを前提にしたビジネスモデル(3)知財侵害のリスク(4)国際私法の問題−−などを指摘した。
「考えられる知的財産権関連の問題」としては、(1)実施・利用行為の無国籍性(2)実施・利用行為の把握・認識の困難性(3)実施・利用行為主体の特定困難性、共同性拡大一一など、インターネット環境における問題として一般的に指摘されてきた問題がクラウドによって増幅される。
さらに、想定されるクラウドの課題例としては、(1)データ預託先の管理(2)個人情報等重要データの管理(EUでは、個人情報の持ち出しが非常に瞰しい)(3)越境に伴う法の衝突、恐れ、不信感(4)裁判所、捜索・差押、国権発動等による開示要求(5)セキュリティトラブル等に対する責任分担(6)倒産、紛争、解約等に伴うデータ引上げ(7)データの二次利用に関する権利・責任関係(ライフログを含む)(8)Due diligence/監査の実施と受査側の負担(9)影響があり得る各種業法の洗い出し、適用の整理(10)内部統制(11)知的財産権(12)ユーザーの違法行為(13)クラウド利用契約の法的性質−−などを挙げている。
そして、最後に、加藤氏は「人類、社会が変わる、価値のあるクラウド」を創り上げ、利用することが大事であると結んだ。
続いて、妹尾教授が、前回のテーマ「知財マネージメントのイノベーション」の残りの部分について説明した。 別資料「国際競争力のからくり」の「スタンドアローンからネットワークヘ」では、10年ごとに価値形成が移行している。
20歳代はiPodで、メディア、プレイヤー、ストレージの3つの機能を持ち、デジタル携帯、音楽プレイヤーでもある。30歳代はMD、40歳代はCD(さらに消費者に)、50歳代はカセットテープ(さらにユーザーに)、60歳代はLP(制作者からクリエーターヘ)、70歳代はEP、図に示していないが、80歳代はSPと言える。
商品サービスシステムを俯瞰的に認識すべきで、「製品=商品」から「製品×サービス=サービスシステム」に移行する。 「モノとサービスの連動」と言え、ビジネスモデルが一気に変わる。つまり、これまでのMOT、知財が根本的に問われている。
妹尾氏(左)は「ビジネスの変容と多様化が
起きている」と荒井委員長(右)に報告した。
ビジネスモデルの変容と多様化が起きている。
それは
(1)テクノロジーによる「インサイド」モデル(基幹部品主導型)
(2)商品または価値形態全体の「アウトサイド」モデル(完成品主導型)
(3)「古典的」モデル(1製品1市場型)一脱「古典」化モデル。医療の「機器(内視鏡など)十薬十医師=三位一体。「薬」に、サービス情報、臨床データが付加
(4) 「プリンタビジネス」モデル(本体十消耗品)。ピストル・ビジネスとも言う
(5)「エレベータビジネス」モデル(本体×メインテナンス)−(A)脱「エレベータ」ビジネス: 「ソリューション」モデル、「オペレーション」モデル(B)脱「ブルドーザー」モデル−−などを挙げることができる。
米IBMのガースナーは「機器の使い方」を強調した。
こうした動向を俯瞰すると、
(1)マイクロソフト、アップル、インテルなど、各プレイヤーが対抗的に進展させた
(2)製品より、「コンテンツ・リソーシズ」が重要視され、グーグルが押さえようとしている
(3)ユニクロの昨夏の「e−トテック」は、サラサラ感のあるテクノロジー・インサイドで、インサイド・ブランドで「アウトサイド」を売る点で注目される−−などが指摘できる。
「新しい競争力」では、まず、モデルの変容を直視すべきである。
それは、
(1)ネットワーク社会が、顧客価値の在り方柴大きく変えている。価値の享受が起きており、例えば、ベストセラーの『フリー』
(2)従来の業界・業種・分野が陳腐化して、「イシュー志向」や「顧客価値志向」の再編が必至。自動車業界が危ない
(3)新興国市場を舞台に、欧米×新興国の「イノベーション共闘」との競争が激化。「米国デファクト、欧州デジュール、中国大ガラパゴスに対して、日本小ガラパゴス」で良いのか。中国は「Win Meの思想」、日本は「引き籠り」。
さらに、「知を活かす知」の開発をすべきである。
それは
(1)技術力だけでは勝てない。技術を活かすビジネスモデルと、それを可能とする(標準化を含む)知財マネジメントが勝負を左右する。「技術という知を活かす知」の時代
(2)技術開発競争に加えて、「ビジネスモデル開発競争」、「知財マネジメント開発競争」が起きている
(3)実践的で、本格的な 「三位一体」経営が求められ、それを司る「事業軍師」の育成が喫緊の課題等−−である。
日本でのMOTは、技術に偏り過ぎている。本来の「MOT」は、もっと大きい。
そして、求められている「三位一体」による競争力の本質は、
(1)製品特性(アーキテクチャ)に沿った急所技術
(2)独自技術の権利化・秘匿化、公開と条件付きライセンス、標準化オープン、契約への組み込み等を使い分けるマネジメント
(3)市場拡大と利益確保を同時に達成するビジネスモデル
−−を指摘したい。
ひと口に言えば、「知財マネジメント」の実行である。国際標準化も重要であり、「死の谷」を作らず、問題解決型から「問題解消型」を目指すべきである。
加藤氏と妹尾教授の講演を聞いて、荒井委員長は「両氏の、鋭く、素晴らしいお話から、はっきり断言できることは、今、我々には『新MOT、新知財』が求められている、ということだ」と締めくくった。
次回の第8回知的財産委員会は、9月3日(金)午後零時〜2時に開催し、秋元浩社長が「新ライフサイエンス分野の新知財戦略」のテーマで講演することになった。