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知的財産委員会報告

第8回 知的財産委員会報告

平成22年9月3日、日本記者クラブにて、委員の秋元浩知的財産戦略ネットワーク社長から「新ライフサイエンス分野の新知的財産戦略」について報告を聞き、意見交換を行った。

■第8回 知的財産委員会での報告

 2010年9月3日、委員の秋元浩知的財産戦略ネットワーク社長を講師に、荒井寿光委員長、石田正泰副委員長、加藤幹之インテレクチュアル・ベンチャーズ米国上席副社長兼日本総代表、鮫島正洋弁護士・弁理士、秋元浩知的財産戦略ネットワーク社長、橋田忠明専務理事、小平和一朗事務局長が参加して第8回知的財産委員会を開催した。

 会議の冒頭、荒井委員長から「転職のカリキュラムの作成など、知財人の人材育成に本格的に取り組む必要がある。産業別に、例えば、自動車メーカー各社、IT:富士通、パナソニック、繊維・サービス:ユニクロ、東レ、医薬品:武田薬品、アステラス製薬、第一三共、印刷:大日本印刷、凸版印刷といった具合いに、代表的な50社の知財トップに、現時点における経営戦略や国際戦略など多面的に取材して、『知財人のケースブック』を制作できないか検討したい」との提案があった。知財人脈に詳しい石田教授、加藤総代表、秋元社長らから、著名な知財人の名前が挙がり、今後、検討することになった。

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秋元氏(左)は「産業革新機構と知財戦略ネットワークが共同で
ライフサイエンス分野の知財戦略計画について発表した」と報告した。
荒井委員長(右)、橋田専務理事(右中)、石田副委員長(左中)


 本日の講師の秋元社長は、テーマの「新ライフサイエンス分野の知財戦略〜IPSN−LSIPについて〜」について、パワーポイントを使って説明した。その冒頭で、秋元社長は、「8月6日に産業革新機構と知財戦略ネットワークが共同でライフサイエンス分野の知財戦略計画について発表した。8月7日朝、NHKでも放映され、2数社から問い合わせがあり、特許庁や、WI P0, 県議会などから反響があった。その前の8月4日に朝日新聞が報道し、追随してロイター通信が世界に配信し、8月6日の発表の後、 夕刊各紙に掲載された」と最近の話題になった事情を説明した。

 橋田忠明専務理事が「5月13日の荒井委員長とスウェーデンのチャルマースエ科大学のグランストランド教授の面談(すべて英語)の翻訳作業を進めており、完成すれば会報『MOT活動報告』と協会ホームページに掲載する予定である」と報告した。

【秋元氏の講演】
権利、情報、ライセンス等の一元管理を行うコンソーシアムの設立を提言

 秋元社長は、パワーボイントと配布資料に忠実に沿って、詳細に説明した。
 「製薬協提言のプロトタイプ(国家プロジェクトとして)」では、2008年4月24日に、文科省、厚労省、経産省など4省の大臣と製薬協が直接対話により、京都大学のiPS細胞知財戦略コンソーシアム体制に関する緊急提言を行った。
 実用化・産業化へのスピードアップを図るため、大学・研究機関、産業界、弁理士・弁護士などの支援による、権利、情報、ライセンス等の一元管理を行う知財に関する総合プロデュース機能を持つコンソーシアムを可及的速やかに設立すべきだと提言した。
 しかし、5月に、当時の福田首相、渡海大臣、長谷川武田薬品社長が会談したが、資金面とインフラ面の理由により、実現しなかった。
 京都大学が中心となり、三井住友銀行ほか4行や、東京大学、慶応大学、理研などが参画した「iPSアカデミアジャパン」計画に対して、武田薬品の長谷川社長は「京大中心より、オールジャパンでやるべきだ」と主張した。
 立ち上げまでは参加して進むが、さらに具体的になるとバラバラでまとまらず、うまくいかなかった。

知財支援プロジェクトを立ち上げ活動し、知財戦略サポート体制の必要性を認識

 製薬協13社の「知財支援プロジェクト」を2008年11月1日に期間1年で、発足した。
 秋元浩リーダーのもと、iPS細胞関連研究を行っている30大学・研究機関、4拠点の全施設を訪問した。研究者と知財担当の人達が意見交換した。東大、京大、日医大では、知財の中にライフサイエンス研究を導入していたが、総じて、iPSの戦略研究に取り組んでいる者は誰もいなかった。

 「知財支援プロジェクトのまとめ」では、
(1)日本の大学・研究機関の研究内容は欧米に劣らない。
(2)ほとんどか日本での知財化のみを考え、グローバルな、特に米国への知財戦略の意識がない。
(3)しかし、多くの施設が、知財支援プロジェクトが提案したグローバルな知財の考え方に強い興味を示した。
(4)ほぼすべての施設から、終了後のフォローに対して強い要望を受けた。
−−などの結果を得た。
 広範な先端医療技術の知財戦略をサポートする支援体制への強い要望を再確認した。
 知的財産戦略ネットワーク(株)は、下記(図.1)の理念を挙げている。野口照久氏の「創業」という造語をヒントに、日本発の「創知産業」の実現を目指している。中国では「知識産研」、台湾では「知恵産研」と言っている。

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図.1 知的財産戦略ネットワーク株式会社の経営理念


 知財に関する産官学オールジャパン体制による“知の結集”と“事業化“を目標に、2009年7月に 「IPSN,lnc.」を設立した。文科省、厚労省、経産省が連携、投資を行い、当社は技術、知財、事業化、財務(コンサルテーション、インキュベーション、人材育成・確保、新アジアNW)を主力業務にする。
TLO、VC、TL社など官民の出資者に配当、配分する。
 IPSNの支援体制としては、政府・公的機関、業界団体、外部専門家などから成っている。産総研、神戸・先端医療研、JST、産業革新機構などがシップファンドとなっており、黒川清氏や米国のスカイラインベンチャーズに経営顧問、冨山、小宮山両氏に技術顧問を頼んでいる。

 「事業対象技術分野」は図.2の通りだが、技術が分かり、知財が分かり、経営が分かり、事業が分かる人材がいない。
 国研、連携機関などは50以上だが、会費は無料にしている。
 アジアでは、中国、台湾、韓国を対象にしており、来年はシンガポール、インドなどに拡大する。
 グローバルネットワーク会員のイメージの報告とともに、アカデミアに向けたコンサル費は無料にしている。日本の知財レベルの向上が狙いである。
 製薬メーカーの会費により、大学と企業の結び付けを進める。企業から、10〜20%の手数料をもらう。
アカデミア・ベンチャーを中心とした技術の評価では、「グローバル戦略知財人材の決定的な不足」を指摘したい。

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図.2 事業対象技術分野


 ベンチャー等への事業では、一定期間資金を出し、ライセンス交渉権などは自主出願とする。権利は大学が持つ。
 Bio Ventureの成功確率向上への貢献では、IPSNは大学の立場で企業と交渉する。
 新たな産業革新モデルの構築では、IPSNの貢献により成功確率が上がった。
 オールジャパン体制の知財人材では、研究開発・知財戦略・事業戦略の三位一体を担う人材を育成して、確保する  米国メルク社は1891年設立、米国デュポン社は1802年設立、米国ロッシュ社は1905年設立、米国ファイザー社は1849年設立である。
 これに対して、武田薬品は、1993年に対アストラ社との米・欧・日世界知財大戦があった。日本製薬工業協会の68社の中で、米国で戦った経験のある企業は、武田、アステラス、第一三共、大塚、エーザイ、塩野義、田辺三菱である。

技術、知財、事業が分かる、「グローバル知財人材」が不足している 

  技術、知財、事業が分かる、 グローバル知財人材の決定的な不足を、ここでも強調したい。私の意見だが、産学連携本部やTLOは、今のような各大学に置くより、分野別に置いたほうが効果的だと思う。アジア各国でも、知財人材の強化が活発で、中国では、向こう7年間に、米国ファイザー社が上海薬業公司など5ヵ所に進出する。
 年俸50万ドル(4000〜5000万円)の2番手級を積極的に採用している。すでに、韓国、シンガポールでは、こうした年俸はザラである。
 ライフサイエンス分野における“知財戦略体制の構築”、つまり、知財人材の絶対的不足を補うためには、総合的な産業政策支援体制が必須である。「米国10対日本1」の格差である。

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「知財人材の絶対的不足を補うためには、総合的な
産業政策支援体制が必須である」と強調する秋元氏。

IPSNは、産業の発達や、ベンチャー育成に資金を使う。 

 アジアネットワーク構想、IPSNの概念との連携、知財ファンドの設立とその活動について報告するとともに、特に、産業革新機構との関係としての当面の投資の方向性、ライフサイエンス知財ファンドの構成についての報告があった。
 IPSNは、基本的に、国費での研究で、大学がいらない特許で、必要な特許や、1大学では無利な特許を対象に、産業革新機構から借りて、資金を提供する。
 産業の発達や、ベンチャー育成に資金を使う。

 医療・化学・農林水産業その他のバイオ産業への応用が期待されるRNAiを例に、基幹技術とその応用分野について、RNAiの米国ビジネスモデル、先端ライフサイエンス技術分野、ライフサイエンス知財ファンド構想について説明した。

 IPSNの事業内容は(1)知財サポートサービス(2)アジアネットワークの構築(3)人材育成と確保(4)バンドリング(5)インキュベーションー−などである。
 IPSNの100%子会社として、ひとつは、SPC(営業者)=ライフサイエンス知財ファンド(匿名組合)バンドリング、インキュベーション(4領域)と、4領域以外のインキュベーション(難病等)がある。
 4領域以外の例では、ある大学の老化防止化粧品の研究などが挙げられる。

 IPSNの社会的意義、IPSN創業時の支援会員と現在の連携会員(現在50機関)を、それぞれ説明した。

 講演の後、荒井委員長から、IPSNの具体的な事業について質問があった。
 現在は、役員・従業員15名に対し、人件費・固定費は年間2.5億円から3億円とすると、3年位は赤字である。資本金と会員の増加に加え、ハンドリングチャージ、産業革新機構、JST、理研、産総研のほか、知財評価やマッチングなどの営業収入が増えてくることが予想される。
 「日本での知財ビジネスを育てる上で、ぜひ頑張ってほしい」との激励があった。
 知財ファンドの構成の中の産業革新機構の役割についても質問があった。
 これに対し、秋元社長は、3月29日に第1回5〜6大学、250件のうちの10件、6月29日の第2回15〜16大学、1,000件のうちの23件を選出して、第1回の10件中、産業革新機構へ3件交渉中、7件のうち2ヵ月以降は5件外へ出す見込みである。また、第2回の23件中の2件は企業が次期研究テーマにする見込みである。 9月末に第3回を実施するなどと、詳しく答えた。

 また、荒井委員長の「なぜバイオベンチャーをやらないか」については、政府、業界に儲けに対する警戒感があることが大きい。ただ、産業革新機構が投資する2件はバイオ関連であり、IPSNは知財技術を担当する。実務は、弁理士事務所など外部に委託する。
 また、秋元社長と荒井委員長は、米国のレーダー判事がインフォーマルに、例えば、台湾地裁・高裁の地下1階にあるカラオケバーなどで、海外の裁判官連と友人関係を築いている。日本の判事達も、こうした努力を見習う必要があると強調した。

『技術経営(MOT)におけるオープンイノベーション論』 (石田正泰著、発明協会)発刊 

 最後に、石田教授が『金融財政ビジネス』誌への「プロイノベーションで持続的発展を 知的創造サイクルは逆に回せ」の寄稿記事のコピーを配布して、簡潔に説明した。
 また、発明協会からの新刊の「オープンイノベーション論」の本についても紹介した。


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