第9回 知的財産委員会報告
平成22年11月4日、學士會館にて、委員の加藤幹之インテレクチュアル・ベンチャーズ米国上席副社長兼日本総代表から「米IV社の経営戦略とオープンイノベーションの将来」について報告を聞き、意見交換を行った。
富士通総研専務だった加藤幹之氏が世界最大の知財ファンドである米国のインテレクチュアル・ベンチャーズ米国上席副社長兼日本総代表に就任した。
当協会は、加藤氏に引き続き、知的財産委員を継続してもらうよう要請し、加藤氏も承諾した。この日が就任後初の委員会で、加藤日本総代表を講師として、「米IV社の経営戦略とオープンイノベーションの将来」とのテーマで講演した。
加藤総代表は、就任後のテレビ東京番組、早稲田大学との共催シンポジウムなどの活動を披露した後、「米IV社は、ファンド業務のほかに、色々な独自研究にも取り組んでおり、例えば、マラリア対策のための蚊をレーザー光線で殺す研究をしており、研究倉庫にも多数の電子顕微鏡を設置しているが、中古品を使いこなしている。ビル・ゲイツの原子力投資の劣化ウラン装置の研究や台風を未然に防ぐ研究などもある」と紹介した。
そして、パワーポイントの資料に従って、詳細に説明した。
加藤氏(右から3人目)は「米IV社の経営戦略とオープンイノベーションの将来」とのテーマで講演した。荒井委員長(右)、鮫島氏(右2人目)、妹尾氏(左)、秋元氏(左2人目)
インテレクチュアル・ベンチャーズ(IV)社は、マイクロソフトの元最高技術責任者、CTOのネイサン・ミアボルド(CEO)と同社の元チーフ・ソフトウエアアーキテクトのエドワード・ジュング(CTO)両名が2000年に設立した。
本社はワシントン州ベルビューで、投資管理、ファンドを主業務にしており、従業員数は650人以上、運用資産は5,000億円以上となっている。
IVのコミットメントは、(1)グローバルなイノベーションを展開し、人類及び経済の発展を促進するための発明市場を構築・維持する、(2)世界の最も革新的な企業及び個人にとって、最高の発明の協力者となる、(3)協業及びライセンス・プログラムを通じて、現在及び将来の発明に対する効率的なアクセスを提供する−−などである。
米IV社は、発明は進歩の重要なドライバーと考えており、発明プロセスをより効率的にし、発明者と企業を支援し、発明を連やかにマーケットに届けるために、発明のライフサイクルが異なる3つのファンドを運用している。
そのゴールは、発明を再発明することである。また、米IV社は、発明者と企業の間のギャップ、つまり企業は必要とするすべての発明をそろえることに苦労し、発明者は発明が企業に使用されるようにすることに苦労している。
発明者と企業の両者との連携を通じて、このギャップを埋めるものが、米IV社のビジネスである。
さらに、知財のギャップを埋め、過去・現在・未来の知財ソリューションの提供を行っている。
米IV社のサービスの例は、(1)スポンサー付き発明、(2)Expandプログラム、(3)Field of useライセンス、(4)協働購入、(5)知財収益化サービス、(6)知財訴訟の防衛戦略−−であり、(3)〜(6)は、これまでの「技術」に関するものである。
「スポンサー付き発明」では、お客様は、研究開発をスポンサーすることにより、IV資金を提供し、より少ない資金と、有利な条件で、特許使用の便などのメリットを得られる。
IVはお客様と将来の発明についての共通した関心分野を特定し、IV専門スタッフが分析を行ってカスタマイズしたRFI(Request for Invention, 課題提案者)を作成、RFIをIVのグローバルな発明家ネットワークに配布し、研究を促し、成果としての知財の権利を保持し、権利化手続きを管理し、お客様は、その知財について排他的または非排他的なライセンスを取得する。
RFIは、現在、200件程度ある。
「Expandプログラム」では、外部資源による試作や実証実験等を通して技術を具体化・深化させ、その過程に発生した特許発明への有利なライセンス権を得ることを可能とするものである。
IVは、
(1) 試作や実証実験が必要な技術を特定、
(2) グローバル・ネットワーク・メンバーが試作、実証実験を実施、
(3) 過程において創出された発明を適宜特許出願
−−などを行う。
また、「Field of use 期限付きライセンス」では、
IVは、
(1) 知財の対象の技術分野、地域、製品の特定を手伝う、
(2) ロイヤリティ料率は、お客様のビジネス範囲、IVのポートフォリオの強さや範囲、産業の標準など多くの要素を考慮して決定、
(3) 固定のライセンス料により、ライセンスされるIV所有のホートフォリオについて予測可能なものとなる、
(4) 更新することも、特許権存続期間ライセンスにアップグレードすることも可能である
−−などである。
米IV社の保有特許は、現在、3万2000件l程度で、その過半数が米国のものである。
加藤氏の説明では、例えば、富士通の保有特許・は9万2000‘件で、半分以上が出願中のものである
加藤氏は「グローバルなイノベーションを展開し、人類及び経済の発展を促進するための発明市場を構築・維持する」というIVの経営目標とその具体的な取り組みを説明した。
「協働購入」では、
(1) お客様とIVが協働で、将来の重要で価値のある技術分野を決定、
(2) IVは詳細な特許価値及びデューデリジェンスを行い、相互に利益となる特許を特定、
(3) IVは、グローバルなネットワークを使い、コスト効率が良く、その特許を追及、
(4) お客様は、購入した資産について特許権存続期間ライセンスを獲得
−−などである。
また、「知財収益化サービス」では、
(1) お客様は知財ポートフォリオの評価をIVに依頼、
(2) IVは、そのポートフォリオを評価し、その査定額、潜在的な購入者、交渉についての指導を行う、
(3) その資産について、交渉された額でIVが購入することを希望する場合もある
−−などである。
加藤氏の説明によると、日本企業が特許売却を申し込む事例は多く、日本企業は特許を十分に活用していないので、日本企業は「宝の山」と言え、米IV社を通じると、収益最大化の仕組みが作れるとしている。
今後、シンガポールや中国など、社会インフラの活発化にも活用されると見ている。
「知財訴訟の防衛戦略」では、
(1) IVは、IIFの膨大なポートフォリオから攻撃者に関連する資産を特定、
(2) お客様は、会費を支払うことにより、これらの特許へのアクセスが可能となり、共同のプレスレリースを発表できる。これにより、潜在的な攻撃者に対して抑止力を与えられる、
(3) 法的主張を受けた際には、防衛のため、様々な方法で特許にアクセスができる、
(4) このプログラムの会員になり、その権利を行使するためには、会費を支払う必要がある
−−などである。
これまですでにこのために200数10億円の予算を用い、米ベライゾンが活用した例などがある。
米IV社のファンドとしては、3つある。
戦略は、BUY:特許の購入、ポートフォリオの構築及び管理、ライセンス活動であり、役割は、過去、現在の発明に関するものである。 すでにある「技術」の活用に過している。
戦略では、BUILD:IV研究所及び世界有数の科学者・発明者たちによる社内の発明への投資、役割は未来。これは、自分で技術開発する場合である。
戦略では、PARTNER(発明者及び企業のグローバル・ネッ トワークとの協業、役割は未来)。
米IV社は、全世界4,000の大学、ベンチャー企業などと専属契約を結んでおり、特許を取る手伝いをしている。ビル・ゲイツは数千億円の投資をコミットしている。NHKの11月10日放映の「クローズアップ現代」で取り上げられた、|未来の原子力発電や、気象を変える技術などもある。
鍵を握るのは、Ph.D.など人材の確保である。現在、4,000人の人材のうち、日本人は数百人である。
米IV社では、設立3年目で6,000件以上の発明を調達し、そのうち100件が成立した。
加藤総代表の資料では、このほか、IDFの現状、IDFのプロセス、スポンサー付き発明プログラム、発明者へのメリット、企業へのメリット、などが続いている。