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知的財産委員会報告

第10回 知的財産委員会報告

 平成23年1月6日、日本記者クラブにて、委員長の荒井寿光東京中小企業投資育成社長から「世界特許への道」と題する資料が配布され、資料に沿って説明がされ、意見交換を行った。

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荒井委員長から「世界特許への道」が提案され、活発に意見交換をする知的財産委員会。

■第10回 知的財産委員会での報告

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「世界特許は日本がやらなければならない」
と説明する荒井委員長

1.世界特許(特許の国際標準)の時代

 世界特許とは、特許の国際標準を作ることと明確に規定し、作らねばならないし、やればできる、日本がやらなくても誰か(どこかの国)がやる、と強調した。  「特許」は、ソフトのインフラ作りである。
 それには、「特許のDNAは国際性」(“科学技術に国境なし、されど我に祖国あり”、 国別主義を決めているパリ条約は、はるか120年前の物語、著作権には世界著作権、商標には、著名商標がある)、「グローバル時代」(特許は企業の国際化に“1周遅れ”(2周遅れか?)、特許はビジネスモデルの一要素に過ぎない、ビジネスモデル全体が国際標準化されている(基準・認証の相互承認等)、特許も国際標準化されるべき)、「Patent explosion」(重複出願→重複審査、世界の特許出願の190万件のうち40%が外国からの出願、国際的なムダ(同じ発明を重複して審査する、審査官増員競争)、不一致の弊害(国ごとに違う審査結果は国際ビジネスの障害))。

2.世界特許へのステップ

(1)第1段階:「特許審査ハイウェイ(PPH)」

 利用率は1%に過ぎない(北海道の高速道路と言う人もいる)、利用するとライバル企業に戦略がばれるので、今後とも増えない。

(2)第2段階:「共同審査」

 日米共同出願を日米の審査官が共同審査する (要件)出願人は年間1 0 0件以上の出願実績ある会社が日米に出願、(効果)第1審の審査を共通にするもの、第2審の審判・再審査請求はそのまま残す、別々に審査しているのを一緒にやるだけ(誰も困らない、困るのは審査官だけ)、効率的、同じ結果が出るので、出願人にメリット、政府間で秘密保持協定を締結する(参考、捜査協力)、欧州、韓国、中国に広げる。安定的特許は、秘密保持協定で可能であり、政府もFTA拡大の中で歓迎する。韓国は、すぐに応じよう。

(3)第3段階:「相互承認」

 共同審査を5年行い、その後、相互承認に発展させる、日米の審査結果を相手国がそのまま受け入れる、第2審の審判・再審査請求は残す。第1審は共通。

(4)第4段階:「フォーラム特許」

 2国間相互承認を5大特許庁に広げる。世界の特許の8割は可能。

3.世界の制度間競争は激化している

 特許システムは国家・知財集団によるサービス提供(サービス産業)、良いサービスを提供する国が選ばれる、企業は国家を選ぶ。

(1) 「米国」では、American standardを世界に広げる(押し付ける?)、世界一の技術力と市場が背景、司法力=CAFC(知財高裁)+ITC(国際貿易委員会)+弁護士、総合的な知財の司法力を活用して、世界の知財ユーザーを集めている、GATTをWTO(世界貿易機関)に拡大させた、TRIPS(知財協定)を導入、FTA(自由貿易協定)で知財が重点項目、もはや世界条約は作らない、かつてのように米主導の条約交渉を待っていても取り残されるだけ。
 米国では、数兆円のビジネスの取り合いであり、GATTには、サービスを加える動きがある。日本は、米国の対外交渉力を信じている。

(2) 「欧州」では、欧州統合の一環として知財の統合を着実に進めている、EPO (欧州特許庁)、共同体特許の実現へ、統一特許訴訟制度の検討、OHIM(欧州統一商標庁)は成功。中南米、アジアに働きかけている。

(3) 「韓国」では、知財のパブを目指している(空港・港のハブで成功)、特許庁審査官・弁理士の国際化、特許の国際調査機関−米国発・PCT出願の国際調査の30%を引き受け(英語出願を調査し、調査対象に日本文献も含まれ好評)。 日本の特許庁は、英語を話す人や、博士が少ない。
 韓国はハブ化を目指しており、英語も、日本語もできる。日本は世界一の特許出願数と言われるが、実は1周遅れが実情である。

(4) 「中国」では、世界一を目指す、国家知財戦略、法令にWTO適応した。

4.なぜ世界特許は実現しないのか?

 出願人・世界経済が困っているのであって、世界の特許関係者(特許庁・弁理士・企業知財部)にとっては快適な状態?
 企業経営者−−第1グループ 隠語(専門用語)の壁にぶつかり、知財部に丸投げ、第2グループ 政府に改革を求める暇はない、黙って外国に事務所を置き、外国に出願する (日本脱出)。世界の知財−−3分類される、先進国、新興国、発展途上国(100カ国)、発展途上国を入れた世界特許は出来ないし、作る必要もない。

 アジア特許庁は? 米国では、マイクロソフトやIBMなどのように、力を入れて世界制覇を狙う。日本の大手企業は、第2グループで、米国に出先を置いて、米国に先に出願する傾向が強い。
 世界特許は先進国だけで作るべきである。アジア特許庁の可能性は、アセアン、米、欧など、使いやすいものを使って実現を目指す。

5.前提となる日本の改革

 日本は世界特許(特許の国際標準)をリードすべき、そのため、制度も運用も変えること。

 現状は、「遅く、狭く、弱い」−−
 「遅く」は、出願から最終処分まで62月(米42月、EP042月)、“3時間待って3分治療” (60分の1)より悪い、審査は1件平均1日、“ 3年待って1日審査”(1,000分の1)、なぜ3年も特たなければならないのか?
 「狭く」は、権利の範囲が狭い、基本特許を認めない、企業は広い権利の取れる国を目指す。
 「弱い」は、特許が裁判で無効になるケースが多い、最近は知財高裁は運用を変えたと言われているが、逃げた客は戻らない。

 その結果は、「特許審査の空洞化」と「特許裁判の空洞化」(知財高裁は機能しているのか?)。
 審査は遅い方が良いという論理には、
 (1)出願してから特許を取るか考える(本気で出願していない)
 (2)出願してから実質上、請求範囲を直す(知財部の腕の見せ所)
 (3)米国で特許を取れたら、日本で権利の範囲を狭まくしたくない(審査請求廃止に反対の本音)
 (4)特許になっても厚労省の審査があるので特許料がもったいない
   (研究開発費に比べたらわずかな金、それを考える人件費の方が高い)。

 「出願したら即時審査が本来の姿」−−特許は他人の権利を排除するもの一早く決めないと他人の迷惑、特許は科学技術の進歩に寄与一早く決めて技術競争を加速すべき。
 企業の特許部は、待っている期間が大事と言うが、間違いで、待っている期間は意味がない。かつて富士通は、プラズマTV特許を米国に出願して、日本ではしなかった。日本では、仮出願してから、本出願か審査請求か考える。 ESPTOは、実質的に世界特許になっている。
 特許は、排除するのだから、早く決めるべきだ。

6.改革の方向

 「早く、広く、強く」で、特許は3審制であり、システム全体を改革すること。

 第1審は「審査」で、審査基準の省令化、データベースの公開、審査請求制度の廃止、
 第2審は「審判」で、審判官の試験制度、弁護士の参加、
 第3審は「裁判」で、知財高裁の機能回復、技術判事の導入、国際センター化、ダブルトラックの廃止
  (特許法104条の3)。

 審査が60日もかかるのはおかしい。
 審判は、日本の弱い点だ。弁護士、弁理士も加わって、手続き法を修正すべきだ。

 裁判では、日本では、特許庁3,000人、その周辺1,700人に対し、裁判所は50人、調査官は20人である。本来の正攻法へ進むべきである。技術判事の導入や、国際センター化を推進し、世界からマークされるようになるべきだ。
 昨年11月に米国レーダー判事が来日したが、同判事は何回も来日して、日本市場で知財マーケティングをしていると言える。

7.日本の特許文化の特異生を変える時が来た!!

 米欧の技術支配を排除したいという専守防衛、出陣することに意義があるとするオリンピック精神が特徴で、その結果は、40万件の出願→26万件の請求(3分の2)→13万件の成立(3分の1)→4万件の外国出願(10%)で、90%は技術情報の無料公開と言える。

 特異性は、
 (1) 大量出願(件数主義は売上高競争の反映)
 (2) 内国出願中心(国内だけで使う技術はない)
 (3) 成立を目指さない(出願の3分の1しか成立しない)
 (4) 使わない(成立特許の3分の1、出願の9分の1しか使わない)
 (5) 外国からの出願が少ない(米国2 2.6万件、中国9.5万件、EP07.4万件、日本6.1万件、韓国4.4万件:2008年データ)。

 改革に反対する論理としては、
 (1) 日本の法体系に合わない
 (2) 日本には日本の良さがある
 (3) 産業業政策だ
 (4) 国家による独占権の付与
  −−などである。

 成立と外国出願が同数なのは、企業の特許部、知財部がしっかりしている証明でもある。特許出願でも、シェア競争をしている。日本企業の特許収支は赤字である。
 出願数が毎年3月に増えるという季節性は日本だけの特徴で、“出しとけ特許”の最たるものだ。米国では特許40万件中、国内20万件、海外20万件の割合である。

8.企業の特許戦略を考える

 事業戦略・技術戦略・知財戦略の一体化と出願=審査請求=外国出願の実現を目指すことである。
 「弁理士の受け止め」の例として、平成22年度第1回臨時総会(平成22年12月3日)での、特許等出願件数激減に対する緊急対応策を講じることに関する決議文を挙げている。弁理士をはじめ特許関係者の意識を変えるべきだ。量より質を目指すべきである。仮出願的な考えはやめるべきだ。免許をもらう時の“代書人”に似ており、“ビジネス集団”に生まれ変わるべきである。

【質疑応答と意見交換】

 この後、荒井委員長が提唱した「世界特許への道」をめぐって、質疑応答と意見交換を行なった。

秋元氏:「武田薬品でも、特許は米国、欧州で取った後、日本で取る。グロ−バル企業は米欧で取れれば問題ないと考えている。 1993年に武田とアステラスは米国を主戦場として特許係争を戦い、最後は和解した」と企業の最前線の実情を披歴した。

加藤氏:「全く同感だ。知財ファンドの体験から言えることは、(1) 日本は米国レベルを目標に、“強い特許”は何か、どう作るべきかを考えるべきだ、(2) 特許は5カ国で全体の80%を占め、世界特許への道では先進国を対象にすべきだが、クラウドの普及などで、それ以外の国の模倣をどう押さえるかも課題−−などだ」と述べた。

鮫島氏:「広いと強いは全く異なり、“強い特許”は事業計画でどう取っていくか、ビジネスツールと深く関連する問題だと思う」と指摘した。

石田副委員長:「特許は出願するものではなく、ビジネスと権利、つまりパテントを作り出すものだ。最近の情勢では、裁判所は特許権を守る方向にあり、公取委は審判は廃止すべきだとの方向に進みそうだ」と日本の法制度の変化についても指摘した。

橋田専務理事:「産業界の最近の傾向として、例えば、大手商社は、これまで意思決定の速さでは群を技いていたが、トップ達は法務部門での審査が1,2ヵ月かかり、迅速な意思決定ができなくなっていると嘆いている。日本の特許の特異生か企業に内攻しているのではないか」と特許や知財の日本的仕組みの遅れが国際競争に敏感に影響し始めている点を指摘した。

妹尾氏:「“強い特許”は事業戦略の両面を兼ね備えている。つまり、攻めの事業戦略は、アライアンスの組み安さや市場形成のし安さを言い、守りの事業戦略は、参入障壁、などである。
 問題は、今後の“倒幕運動”をどう進めるかにあり、私は、知財関係者向けと事業関係者向けの双方に強力に働きかける必要があると思う」と今後の進め方についても提案した。

 こうした意見、提案に対し、
荒井委員長:「現在は、審査官と審判官の仕事が重複しており、明確化すべきだ。商標や特許の審判でも、弁理士だけでなく、弁護士が入るべきだと思う。“右手に技術、左手に法律”の体勢が重要である。この提唱が正しいかどうか冷静にチェックして、よい良いとなったら、国と企業を中心に、実現に向かって改革運動を急ぐ必要がある」と締めくくった。


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