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知的財産委員会報告

第16回 知的財産委員会報告

 平成24年1月30日、日本記者クラブにて、第16回の知的財産委員会(委員長:荒井寿光東京中小企業投資育成社長)を開催した。ゲスト参加の工業所有権情報・研修館理事長(INPIT)の三木俊克氏から、「オープン・イノベーション時代におけるMOT専門職大学院の人財育成プログラムに関して」と題した講演があり、意見交換を行った。

■第16回 知的財産委員会での報告

講演:「オープン・イノベーション時代におけるMOT専門職大学院の人財育成プログラムに関して」   (三木俊克工業所有権情報・研修館理事長)

 10年ほど前に経済産業省の事業に応募した。その結果、山口大学だけが採択されて取り組んだ。その頃、ブルガリアではやっていたが、日本ではどこもやっていなかった。

(1)イノベーション創出力は、そもそも何に依るのか

 成功者は、従来のやり方から何を変えたのか。そして、成功者を取り巻くポジティブな環境とは何か。
 「我が国における不足部分は何か」を教育の中で位置付けようと考えている。
 イノベーションとは、常識への挑戦である。ある意味では反逆、そして非常識による常識の征服と言える。常識の価値観を変えることができる人がキーになる。騎馬民族と農耕民族の2つに分けることができる。
 騎馬民族は、基本的に餌があるところに出かけて略奪をする。
 農耕民族は、1つの土地にコミュニティを作って、協力をし合いながら、生産活動を続ける中でカルチャーを作っていく。アグリカルチャーから、カルチャーができる。
 農耕民族の方が、カルチャーは作れる。ただし、混沌とした状態では、騎馬民族型の人が必要になる。研究者も2通りある。10年経って自分のコアを活かしながらテーマをバッサリ変える人と、30年経ってもテーマを変えない人がいる。
 もう1つの別な分け方に、虎型人間と猿型人間がある。虎は1匹で獲物を探す。それに対して猿は1匹ではなく、階層社会を作って、集団でそれを維持する。

 この分類は騎馬民族と農耕民族との分け方に似ている。若い時、多くの人は虎を目指すが、ある段階で組織に入り猿になる。組織の中で猿にならずに、スピンアウトするような人材を教育で育てられるのかが、MOT教育の根本問題である。
 常識を征服しようとする人は、世の中の変わりものである。組織の中では育てられない。非常識人もできるが、将来技術を考えながら戦略を考えるのは、情報を分析して、予測して、組み合わせてということは、猿型の組織でないとできない。

(2)不可能に見えるコンセプトを可能にする

 不可能に見えるコンセプトを可能にするには、猿のキーパーソンが必要で、シナリオ・ライターとチームも必要で、複数のシナリオを作って、選択し、融合したりするとか、融合シナリオに潜む不確実性の因子を抽出する作業、シナリオ・ドライバーの抽出など。こういうことをやるステージがある。
 不確実性を少なくなるように持って行くことが通常行われる。課題がはっきりすると、それに応じてプロジェクトを作る。プランニングと人の組み合わせのメーキング作業がある。ここでは、チームビルディングが重要で、組織をうまく動かすことが重要になる。この辺になると、教育できる部分が出てくる。
 優れた常識人は、MOT教育の中で養成できる。MOT大学院でやるフレームワークはどこか。本当に創業者のCEOを教育できるのか疑問を持っている。しかしCTOは、教育できると考えている。MOT専門職大学院が目指すのは、優れた常識人であると考えている。
 オープン・イノベーションについて、2つのIPの話が、加藤さんからあった。どこかをブラックボックス化しなければならない。儲かるのは、イノベーションシナリオが必要である。オープン・イノベーションでは、ブラックボックスの部分と、開示する部分もある。ビジョンを示す。インタフェース部分はオープン化していく。

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三木氏、「不可能に見えるコンセプトを可能にするには、猿のキーパーソンが必要、
シナリオ・ライターとチームも必要・・・」と講演する。


(3)イノベーション創出とMOT人材

 MOT専門職大学院の設置検討の時は、企業のCTO人材あるいはCTO予備軍人材の育成に焦点があてられた。山口大学では、MOT教材の開発に3年間取り組んだ。
 MOT専門職大学院が育成する人材像は、“企業で優れたMOT能力を発揮できる”常識人の範疇で、非常識人ではないということだ。文部科学省が、予算をつけてくれてMOT専門職大学院10校で協議会を設置し、標準コア・カリキュラムの開発に取り組んだ。10大学が協議会に参加した。山口大学が現在、会長を2008年から務めている。
 個の多様性、変わったところを認めないといけない。マルチカルチャーが重要である。日本の中では認めにくいので、多国籍化をする必要がある。トラ型人間のコミュニティがどうのように育っているのか。物理的な場をどう作るのかが難しい。人の流動性の問題と関係する。系統的な教育が展開できていない。
 コアカルキュラムは、大きく分けて、MOTの基礎的な知識と中核知識、その要素としては、イノベーションマネジメント、技術戦略とR&Dマネジメント、知財マネジメント、オペレーションズ・マネジメントの4つに分けられている。それを基に、事例研究をやっていくかは、各大学の裁量とした。裁量の部分がそれぞれの大学の個性になる。

■第16回 知的財産委員会での意見交換

 三木氏の講演の後、各委員との意見交換の内容を整理すると、以下の通りである。

(1)秋元氏から「『優れた常識人をつくる』ことはMOTでできると思うし、大事なことだ。しかし、優れた常識人がいると、スティーブ・ジョブスのようなCEOが何かをやろうとすると、必ずネガティブな意見を発することになる。グローバルな戦略に対して、『やめろ』と言う。ここが問題だ」「多様性や人の流動性は大事である。グローバルな対応をどうするかが大事だ」と発言。三木氏は「言うだけでなく、変わった部分を作りたい。どのようなやり方で変えるのかという具体論に落さなくてはならない」と答えた。秋元氏は「今まで不可能だと言われていることを、どのようにして乗り越えるのかの教育を徹底的にやるべきだと思う。『ダメだけでなく、どう乗り越えるかを言えなければ言うな』と言った。新しい事をやろうとすると、常識では考えられない」と指摘した。

(2)石田氏から「東京理科大では、MOTと知財を別々なコースとして設けていたが、知財の問題は、MOT的なセンスで、実務的に実行ある形で見ていくのが良いのか。MOTで教える基本的な理念、科目、何の目的での整理が重要である。どういう科目を、どういう目的でどのように教えるか。講演はできるが講義ができない人、講義はできるが授業ができない人、授業ができる人に分けられ、先生には3段階ある。自分の経験をパワーポイントで話し、何の疑問を持たずに終わるのは講演である。講演は専門職大学院では評価できない。2つ目は講義。『大体こういうニーズがある』『こういうことを聞きたい』を想定して、しかし一方的に話してしまう。授業とは、院生の一人ひとりを考えながら、90分のうち、先生が話すのが30分で、発表するのに30分、それを踏まえてディスカスに30分、これが授業だと信じている」「『MOT教育コア・カリキュラム』で基本的な整理はできているが、どういう目的で、どういう科目内容を、どういう方法でという整理をプラスしたい」と意見が出された。

(3)加藤氏から「日本にバランスの取れたトラがいるのか心配している。できればMOTもトラに教育をする。さらにはトラを作り出す教育が必要だ。知財とは、こういうことをやってはいけないと書いてある法律ではなくて、ここまではやって良いという、ここからは白黒がはっきりしていなくて灰色だ。もう少しサルを育てられるのかと思う。日本の教育では、常識人ばかりが増えてしまう。日本のカルチャーをどう変えるかが重要である」、さらに「CTOとCEOで、常識人をCTOと言われたが疑問で、むしろCEOの方が常識人で、CTOは『いくらお金を使ってもやらせて下さい』と全技術者のトップに立って主張する一面がないとCTOとしては尊敬されないし、会社がおかしくなってしまう」と意見が出された。

(4)鮫島氏は「知財屋さんは、経営用語を使えない。使えないと、会社の中で相手にされない。MOTと知財は違うものとしていた時代があったが、ビジネスとして捉えると一緒に考えないといけない」との意見を述べた。三木氏は「学問には、変革のための学問か、解釈のための学問かの2つある。知財と事業と技術をトータルとして教育しようとMOTで8年前にデザインした。トラ型人間には、カリキュラムを学生自身がデザインできるようにしようという発想を持っていた」と答えた。

(5)妹尾氏から「『解釈の学問か、変革の学問か』は昔、マルクスが言ったことである。東京大学イノベーションマネジメントスクール(TIMS)でも、教えないと宣言している。一橋MBAでも『教えない』と宣言している。『気付け』『学べ』『考え』。素材は提供する。
 定石を学べ、定石を越えろ。世界の定石が多様化している。MOTとイノベーションマネジメントとはイコールであると考えている。MOTというとR&Dをいかに効率的にやるかととらえていたので、異議を唱えた。『R&Dを効果的、効率的になる教育』と『R&Dをビジネスにどう有効に使うかではフェーズが異なる』と申し上げた。それはレイヤーの異なる話である。
 イノベーションとインベンションとが、イコールになってきた。日本経済新聞は、まだイノベーションを『技術革新』と訳している。『イノベーターは育てられるのか』と聞かれると、『育てられる』と答えてしまう。育成は、工業モデルで考えたらできないが、農業モデルであるからできる」「人材育成。石田先生と同じことを5段階にして、高等教育論文を書いている。
 それは、講談はできるが講演できない人、講演はできるが講義はできない人、講義はできるが授業ができない人、授業ができるが指導ができない人と5段階にして、教育審議会のモデルにして頂いた」「今のMOTのモデルは、80年代をモデルにしている。80年代のモデルは100害あって1利なしだ。
 それをMOTの教材に使っているのは問題だ」「『知財マネジメントは権利化することだ』とあるが、それは80年代モデルである。そこにはビジネスモデル論がない。  現代のMOT教育ができるか疑問である」。


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