同じ発明を国ごとに特許を取る今の制度は時代遅れ!!
以下は知財関係者を批判するものではなく、明日への期待です。
2011年2月
≪筆者の紹介≫
荒井 寿光(あらい ひさみつ)
知財評論家
(初代内閣官房・知的財産戦略推進事務局長)
東京中小企業投資育成(株)社長
東京大学法学部卒業、米国ハーバード大学大学院修了。
1966年に通商産業省(現・経済産業省)に入省後、特許庁長官、
通商産業審議官等を歴任。
2001年退官後、知財立国推進活動を開始。
(知的財産国家戦略フォーラム代表)
2003年より06年まで初代内閣官房・知的財産戦略推進事務局長。
2007年、東京中小企業投資育成(株)社長に就任。
中小企業やベンチャー企業の振興を担う。
内閣知的財産戦略本部専門委員、総合科学技術会議専門委員、
東京商工会議所知的財産戦略委員長、東京理科大学客員教授を兼任。
著書に「知計革命」「知財立国」「特許戦略時代」などがある。
世界特許とは、特許の国際標準を作ること
作らなければならない
やれば出来る
日本がやらなくても誰か(どこかの国)がやる
(1)特許のDNAは国際性
“科学技術に国境なし されど我に祖国あり”
国別主義を決めているパリ条約は、はるか120年前の物語
著作権 世界著作権(ベルヌ条約のもと相互主義で相互乗入)
商標 著名商標 (事実上の世界商標)
(2)グローバル時代
特許は企業の国際化に“ 1周遅れ”(2周遅れか?)
特許はビジネスモデルの1要素に過ぎない
ビジネスモデル全体が国際標準化されている(基準・認証の相互承認等)
特許も国際標準化されるべき
(3)Patent explosion(特許爆発)
重複出願 −> 重複審査
世界の特許出願 (190万件のうち40%が外国からの出願)
国際的なムダ(同じ発明を重複して審査する、審査官増員競争)
不一致の弊害(国ごとに違う審査結果は国際ビジネスの障害)
早く第2段階の日米共同審査に移行すべき
第1段階 特許審査ハイウェイ(PPH) (実施中)
一国の特許審査結果を使って他国の早期審査を受ける
各国の特許庁の意識改革に貢献
しかし、利用率は1%に過ぎない
利用するとライバル企業に戦略がばれるのが欠点
第2段階 共同審査 (以下構想)
1.日米共同出願を日米の審査官が共同審査する
(要件) 出願人 年間100件以上の出願実績ある会社
日米に出願
(効果) 第1審の審査を共通にするもの
第2審の審判・再審査請求はそのまま残す
政府間で秘密保持協定を締結する (参考、捜査協力)
2.別々に審査しているのを一緒にやるだけ。(誰も困らない)
効率的。
同じ結果が出るので、出願人にメリット
3.欧州、韓国、中国に広げる
第3段階 相互承認
一国の特許審査結果を使って他国の早期審査を受ける
各国の特許庁の意識改革に貢献
しかし、利用率は1%に過ぎない
利用するとライバル企業に戦略がばれるのが欠点
第4段階 フォーラム特許(有志国特許)
2国間相互承認を5大特許庁(日米欧韓中)に広げる
第5段階 世界特許
米 American standardを世界に広げる(押し付ける?)
世界一の技術力と市場が背景
司法力=CAFC(知財高裁)+ ITC(国際貿易委員会)+ 弁護士
総合的な知財の司法力を活用して、世界の知財ユーザーを集めている
GATTをWTO(世界貿易機関)に拡大させた
TRIPS(知財協定)を導入
FTA(自由貿易協定)で知財が重点項目
米国はもはや世界条約を求めない
かつてのように米主導の条約交渉を待っていても取り残されるだけ
欧 欧州統合の一環として知財の統合を着実に進めている
EPO(欧州特許庁)
共同体特許の実現ヘ
統一特許訴訟制度の検討
OHIM(欧州統一商標庁)は成功
韓国 知財のハブを目指している (空港・港のハブで成功)
特許庁審査官・弁理士の国際化
特許の国際調査機関 米国発・PCT出願の国際調査の30%を引き受け
(英語出願を調査し、調査対象に目本文献も含まれ好評)
中国 世界一の知財大国を目指す
国家知的産権戦略要綱
法令はWTOに適合
ニセモノ退治が課題
(精神) 専守防衛(米欧の技術支配を排除したい)
オリンピック精神(出願することに意義がある)
(その結果は)
出願 −> 審査請求 −> 成立 外国出願
40万件 −> 26万件 −> 13万件 4万件
3分の2 3分の1 10%
90%は技術情報の無料公開
(特異性)
(1)大量出願 GDPで米の半分の日本が世界一の出願大国とは!?
かつて電機メーカーは年2−3万作出願
米の特許は1万円札、日本の特許は千円札 と言われる
枚数(出願件数)が多くても価値は低い
“出しとけ特許”“ノルマ特許”
件数主義は日本企業の売上高競争の反映
(2)内国出願中心 (⇔国内だけで使う技術はない)
(3)成立を目指さない (出願の3分の1しか成立しない)
(4)使わない(成立特許の3分の1しか使わない。出願の9分の1しか使わない)
(5)外国からの出願が少ない 日本市場の魅力が少ない?
他国の特許庁には外国人の出願が多い
米 22.6万件、中国 9.5万件、EP0 7.4万件、日本 6.1万件、
(2008年デーク)
<改革に反対する論理>
「日本の法体系に合わない」
⇔ 日本の法体系は100年前に欧米から輸入したもの
「日本には日本の良さがある(尊王攘夷論?)」
⇔ 国際化時代にやっていけない
「産業業政策だ 日本の産業を保護せよ」
⇔ 日本企業は世界で稼げ
「国家による独占権の付与
外国の特許をそのまま享け入れる訳にはいかない」
⇔ ルールの調和・相互受入が時代の流れ
日本は世界特許(特許の国際標準)をリードすべき
そのため、制度も運用も変えること
現状は 遅く 狭く 弱い
出願から最終処分まで 62カ月(米 42カ月、EPO 42カ月)
“3時間待って3分診療”(60分の1)より悪い
審査は1件平均1目
“1目審査のために5年かかる”(2,000分の1)
なぜ5年も特たなければいけないのか?
権利の範囲が狭い
基本特許を認めない
企業は広い権利の取れる国を目指す
特許が裁判で無効になるケースが多い
最近は知財高裁は運用を変えたと言われているが、
逃げた客は戻らない
その結果は?
特許審査の空洞化
特許裁判の空洞化 (知財高裁は機能しているのか?)
<審査は遅い方が良いという論理>
「出願してから特許を取るか(審査請求するか)考える」
⇔本気で出願していない
「出願してから実質上、請求範囲を直す(これが知財部の腕の見せ所)」
「アメリカで特許が取れたら、日本で権利の範囲を狭くしたくない」
⇔これが審査請求廃止に反対する本音
「特許になっても厚労省の審査があるので特許料がもったいない」
⇔研究開発費に比べたらわずかな金
それを考える人件費も方が商い
出願したら即時審査が本来の姿
特許は他人の権利を排除するもの 早く決めないと他人の迷惑
特許は科学技術の進歩に寄与 早く決めて技術競争を加速すべき
早く 広く 強く
特許は3審制
システム全体を改革すること
(第1審) 審査 (特許庁)
審査基準の省令化
デークベースの公開
審査請求制度の廃止
(第2審)審判(特許庁)
審判官の試験制度
弁護士の参加
(第3審)裁判(裁判所)
知財高裁の機能回復
技術専門家の導入
国際センター化
ダフルトラックの廃止 (特許庁と裁判所の二重路線)
「戦略は変わる 戦略を変える」
知財戦略は、戦後の技術導入時代とはすっかり変えるべき
(1) 事業戦略・技術戦略・知財戦略の一体化
経営者は知財戦略を知財部に丸投げせずに、自ら考える
(2) 知財戦略の総合化
特許・営業秘密・商標・意匠・著作権を一体的に考える
(3) 企業の国際戦略に追いつけ
原則、すべて国際出願する
日本国内だけで使う技術はなくなった
国内出願=審査請求=国際出願 にする
(4) 知財戦略をベースにしたMOT経営
知財で稼ぐ
知財人材・技術人材が国際的に活躍するチャンス