一般社団法人日本MOT振興協会

ホーム事業内容調査・研究事業サービス・イノベーション研究委員会›サービス・イノべーション研究委員会報告第5回

サービス・イノベーション研究委員会報告

第5回 サービスサービス・イノベーション研究委員 (平成22年1月15日)

写真

第5回サービス・イノベーション研究委員会
(日本記者クラブ会議室)

平成22年1月15日午後6時、東京都千代田区の日本記者クラブ会議室において第5回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。
今回は「日立グループにおけるサービス・イノベーション取り組み」と題して株式会社日立製作所の平井千秋氏から、次に「施工管理サポートサービスの紹介」と題して三井住友建設株式会社の大鐘大介氏から報告があった。

■第5回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.日立グループにおけるサービス・イノベーション取り組み

写真

「ビジネスとしてどう成り立たせるかが重要」 と語る日立の平井千秋主席研究員

 日立の平井千秋氏から「日立グループにおけるサービス・イノベーション取り組み」と題して、サービス・イノベーション活動 の現状を聞いた。日立の中のグループでいろいろな取り組みを行っている。題材は沢山あって全ては紹介しきれないので、 主要なところを選んで紹介してくれた。

(1)「ビジネス顕微鏡」という技術の紹介
 − 組織の知識交流状況データを取得する −

 日立グループの中の日立ハイテクノロジーズが現在やっているサービスの一つに「ビジネス顕微鏡」という技術を使ったサービスがある。知識労働者の業務中の活動状況や組織内のコミュニケーションの実態を明らかにできるシステムで、組織の知識交流の状況を分析することで「組織改革の実現をサポートする」という目的で開発された。
●重さ33gのタグを首から下げる
 仕組みを紹介する。特定の組織を対象にして全員に重さ33gのタグを首から下げて、朝会社に来て、帰るまで身につけて貰う。赤外線ID交換による対面検出、加速度センサーによる装着者の動きを検出することで、誰と誰とが会議をしたかが分かる。「サービスにおける新しいデータを沢山集めることで、サービスの改善をする」というこの研究会の意義が、話を聞いて分かりかけてきた。センシングの対象としての人の動きをセンシングすることで、得られたデータを何らかの方法で解析することで、この組織に対する新しいサービスを提供することができる。
●情報ネットワーク
 データを図式的に表わす「組織ネットワーク」、情報伝達のひとつひとつが人を表していて、太いところは人と人とがよく会っていることを表し、細いところは余り会っていないことを表す。線が無いところは、全然会っていない。これを見ると誰と誰とがよく会話して、誰が組織のハブになっているのかがよく分かる。
●組織地形図
 組織の壁を表すことができる。組織と組織の間のどことどこが蜜に会話しているかが、等高線を使うことで確認でき、組織と組織の間に壁がある場合には谷という形で、組織と組織の間の会話が出来ていないことが分かる。
●ビジネスモデルの構築という課題
 問題は、ソリューション型のサービスをどうやってビジネスとして成立させるかである。 我々としても、企業側としても非常に重要な問題である。研究委員会の大きなテーマでもあると思う。
 ビジネスとしてサービスをどう成立させるのか。日立はモノ売りであったので、先ほどのセンサーを作って、これを大量に売るというビジネスモデルは考えられた。しかし、需要が無いと数が作れないこと、1台4万円もすることなどで、モノを売ることではなくて一定期間だけ相手先に貸し出して、データだけを取った後に回収をするというビジネスモデルを考えた。その時に何をもって値付けするかが問題となる。
 更にもう一つ問題があって、これは可視化しているだけではお金にならず、本当にやらなければならないのは中にあるモデル作りである。サイエンスというには、技術のモデル、組織論的なモデル、組織のコミュニケーショに関し、本来はどうあるべきかというモデルがないと、いくらセンサーでデータが取れて結果を綺麗に処置することが出来ても、本当の意味でどうすれば良いかの解は出てこない。

(2)日立の研究所で取り組んでいるサービス・イノベーション課題
 − プロダクトを作る時には、ビジネスモデルを創る −

 製造業から見た「サービスの難しさ」、「違いは何か」に関する私見を述べる。サービスの商材がプロセスであるということが大きく違う。プロダクトは一回渡した時にお金をもらえば良いが。プロセスというのは始めから終わりまでが長く、永遠と続く。そのプロセスの中で、どうお金を取るかが難しい。そのための事業企画をする手法が必要である。
●ビジネスモデルを創る
 製造業では原価がいくらで、それに対する売り方でよかったのが、サービスの場合は、どうお客様に納得してもらいながら、ビジネスモデルの設計を事業を企画する段階からしっかりと作りこんでいかなければならない。保守の例で「リモート監視」という技術がある。この故障予知を検知するような仕掛けを、お客さまに納得して貰って、利益に結び付けることができるビジネスモデルとするのは難しい。
 製品の市場がどんどん縮小していて、既に納めた製品の保守をどうやって有償化するかという課題がある。いままで無料であったところを、お金を取らないと成り立たない。技術は陳腐化していくし、サードパーティにどうやって勝って行ったら良いかというビジネスモデルや戦略が求められている。
●事業戦略を反映できるような分類を考えたい
 ビジネスモデルをどうしていくかを考えた時にサービスを分類して、それごとに本来は手を考えなければならない。サービスごとに本来は考えなければならない。ここでは、事業戦略の違いを反映する。例えば単に同じ保守といっても、自社製品を保守するサービスと、他社製品を保守するサービスでは全く考え方が違う。ただ単に保守だから同じ分類のサービスではなくて、製造業の我々がやっている立場から見て、この辺が細かく分類できる。製品を作るという場合と、製品を作らない場合。さらに製品を作る場合には、「コア製品を売り渡してしまう」場合と「コア製品を手元において置く」場合とで3分類にできる。
●ビジネスモデルをどう設計するか
 製品を作らないところでは、コンサルになるので、もうひとつは優位性をどうやって訴えるかとかという課題がある。ここはまがりなりにも何か製品を作っているので、製品の性能上の良さを言えれば、お客さまは納得してもらえるが、いくら「生産技術があります」とか「品質があります」と言っても、目に見えないものの良さをどうやって訴えて、それをお金につなげていくのか。
●ビジネスの定量化モデル作り
 ビジネスのモデルを定量的に作り、収益にどう結びつけられるのか。大きく言うと、どれくらいのコストがかかるかをモデル化して、これを例えれば設備にリモートでセンシングして、故障を予知するという技術の精度がどの程度になったらビジネスになるのか。売上高だったらこんな式で計算しているとか、作業量であったらこんな計算式で作るなどとか、今は技術が先行していて、研究者は予知精度を上げることに取り組んでいる。
 我々が目指しているのは、ビジネスに定量的なモデルを持ち込んで、ビジネスオリオンテッドなモデルをつくり、サービスの仕様を決めようということに取り組んでいる。
●サービス工学研究会:サービス設計をCAD化する
 「サービス工学研究会」というのがあって、東大の新井先生、首都大学の下村先生がやられていて、そこに日立も参加している。ここではサービスの設計をCADでやろうということに取り組んでいる。サービスに対する顧客の要求がどういうもので、サービスオペレーションをモデル化することをCADツールの上でやっている。サービスをきちんと設計しなければならないということで、サービスを定義していく概念検索機能を作っている。

角先生から「この研究会の方向とか、ゴールに近いところを研究しているということで大変興味深い内容であった」とのコメントがあり、その後、各委員から質問やコメントを聞いた。

質問:ビジネス顕微鏡の端末は、どういう仕組みで何を設定するのか。
回答:2つの端末が近寄った時に、それぞれIDがふってあって、どのIDが近づいたというデータをとる。そのデータからこの人とこの人が打ち合わせをしたかが分かる。
意見:建設現場の職長にこれをつけると、職長と現場監督とのコミュニケーションが重要なので見てみたい。
意見:作業現場もそうであるが、製造現場にもっていって、レイアウトの変更のためのデータをとって検討のための資料となるのではないか。

質問:サービスのCADとソフト開発のCADは、似て非なるもののように思える。その違いを整理していただくと、サービスとは何かが見えてくるように思える。
回答:サービスはプロセスであるというと、ソフト設計になる。特に人に対するサービスとなると、どうやって人に気持ち良さを入れるかが違いになる。このツールでは、それに対しては、最初にユーザーのペルソナを定義する部分があって、その辺がソフトウェアと異なる。
質問:このCADを使ってアウトプットは何を求めているのか。
回答:お金の話は入っていない。オペレーションの設計改善の範囲である。ビジネスモデルは不可分でサービスは切りはなせないと考えている。大学からビジネスは分からないと言われているので、配慮されていない。

角委員長:サービスとソフトウェアは、非常に表裏一体である。ソフトウェアがかなり先行している。CADの問題も、クオリティーの問題も、プライシングの問題もある。サービスに置きなおしてみたら良い。

2.施工管理サポートサービスのご紹介:三井住友建設

写真

「超スピード施工法」を開発した
三井住友建設 の大鐘大介企画部・課長

 三井住友建設の大鐘大介氏から「施工管理サポートサービスのご紹介」と題して、サービス・イノベーション 活動の現状を聞いた。我々ゼネコンの分野では、アフターサービスといった保守サービスが中心で、サービス・ビジネスとして成立しているものは未だ少ないのが現状である。数年前から社内で展開し始めた「施工管理プラットフォーム」という管理環境をご紹介する。

(1)集合住宅の超スピード施工法
 − トヨタの生産管理方式を建物の施工法に応用 −

 弊社で開発した「集合住宅の超スピード施工法」を紹介する。
 良いものを安く・早く・安全に「最短の限界を打ち破る集合住宅の超スピード施工法」は、弊社が得意とする施工マネジメント手法で、「DOC工法」とよんでいる。これは1日(one Day)単位で実施できる躯体作業(コンクリート工事)を工区割りにし(One Cycle)、それを毎日繰り返し実施するという工業化工法(システム施工法)である。品質の均一化と、工期短縮化を同時に実現しようとするものである。
●トヨタの生産ラインは商材を流すが、我々は職人が移動する
 A工区、B工区、C工区、D工区と、各施工階を工区割りして、職人の組が毎日1日単位で移動する。
 これを繰り返す。トヨタの生産ラインは商材を流すが、我々は職人(人)を流す。例えば、作業1日目は梁を建てる。梁を建てる作業員は、毎日こればかりを繰り返す。
 早く組み立てるために、梁や柱などはPC(Precast Concrete)部材として工場生産し、現場では部材を搬入して組み立てるだけという形式にする。それによって品質を安定させ、スピードも上がった。
●施工管理サポートサービス」を開発し、サービス・ビジネスにつなげる
 この施工法を開発し、「生産技術」をどんどん高度化していくと、それを管理する技術が必要となり、従来型のマネジメント手法に限界を感じるようになった。そこで、IT技術を活用した「施工管理サポートサービス」を開発し、社内にて展開し始めた。これを将来の「サービス・ビジネス化」へつげていけないか考えている。

(2)施工管理プラットフォーム
 − 現場経営というプロジェクトマネジメント −

 「施工管理プラットフォーム」という統合管理環境を、業界として初めて開発し、展開し始めた。
 現場を「現場経営」というプロジェクトマネジメントの視点で考えてみる。着工から竣工まで、現場所長が現場経営をするにあたり、コスト、タイム(工期)、品質、リスクの目標達成に向けて、どういった管理が必要になるか。
 ●工期については、特に都心部のマンションでは大規模化、短工期化してきており、お客さまも多種多様化する中、設計仕様も複雑化し、ますます工程管理が難しくなっている。
 ●品質については、耐震偽装問題を契機に、また一部の施工会社による施工不良問題の発覚・報道もあり、いまだにゼネコン業界の品質管理体制を問われている。
 ●職人はといえば、熟練作業員ばかりではない。職人をどう管理するかが問題になる。仕様は複雑化し、大規模化している。現地を目配りする現場監督は、非常に少ない。比率として現場監督1対職人100以上の現場だってある。指示系統が軍隊のように訓練されていれば良いが、実際にはそうはいかない。

ゼネコンが事業価値を高めて勝ち残るには
 ゼネコンが今後事業価値を高めて勝ち残るには、どういうアプローチが必要か。私は2つあると思う。
 一つは高付加価値、もう一つは高品質化。
 ●高付加価値化
 受注単価を引き上げることである。これは同業他社との技術開発による「知恵比べ」である。
 ●高品質化
 品質の高安定化は技術だけでなく、相応の仕組みが必要である。技術的な側面では、職人の質に依存しない工法の開発、例えば工場のPC化がある。建材開発もそうで、溶接しなければならないところを、溶接しなくてもよいような建材、組み立て方の開発がある。

施工管理プラットフォームの開発
 「施工管理プラットフォーム」を構想・企画をして、開発するまでに3年かかった。最初は一人で始めて、今は専門の運用部門もでき、これが弊社のシステムとして2008年から動いている。インターネットに接続すれば、いつでも、誰でも、どこからでも利用可能な総合施工管理のWebシステムである。
 ●RFIDで現場作業員を管理する
 作業所中の職人の現在の状況、協力会社の状況、どういう資格を持っている人なのか、過去弊社作業所に出入りした実績、会社の情報、保有資格の期限切れが来ていないか等を管理している。各個々人が現場でどういった作業をしているか、どういう経験をしているか、それらが自動的に更新される。入退場カード(RFID)を持っていないと現場に入れない。
 ●人員入れ替え率を管理し、品質管理や安全管理に生かす
 「人員入れ替え率」という言葉を作って、こういう指標で管理することを社内に提案した。人の入れ換わりは品質管理上重要で、人員入れ替え率を見る習慣をつけるよう社内で徹底している。管理の目を増やすということで、内勤の品質管理部門が労務投入状況を管理している。労災を起こした協力会社の入れ替わり率を見てみたところ、当該現場平均と比較して高い入れ替わり率であった。品質だけでなく、安全管理にも役立つ指標であることが分かってきた。
●ヘルメットに若葉マーク
 入場10日未満の作業員は新規作業員とし、ヘルメットに若葉マークを付けさせた。入場10日未満の人が労災を起こす確率が高い。安全マネジメントの観点から、「新規入場者率」を管理し始めた。
 例えば、熟練者を経験10年以上とする。非熟練者は経験10年未満の人と定義する。関東エリアのデータを調べたら、概ね半々であった。住宅だけでなく、ショッピングセンター工事であったり、解体現場であったりしても、おおむね半分くらいは10年以上の職人が従事している一方で、1年未満も数%いるし、5年未満の人間も30%程度いる。そういう中で高い品質を維持しなければならない。我々が技術開発した新しい工法を理解し、教育し、馴染んで貰わなければなければならない。


写真

「施工管理サービスをビジネスに出来ないか 検討している」と語る、
三井住友建設の大鐘 大介企画部課長

施工管理サービスをビジネスに出来ないか
 「施工管理サービス」をビジネスに出来ないかを検討している。トレーサビリティ体制を実現する管理環境ということで、対価をいただく。施工記録を一元管理できる仕組みであればお客様も納得するのではないか。また職人を一人ひとり管理することができる。
 それから新興国、特に中国では同じような超高層マンションをどんどん建てているが、品質管理の技術者が少なく物件ごとの品質のばらつきが大きいという、こういう管理環境を使ってもらえないか。
 職人のデータを見始めて思ったが、これをゼネコン間で共有すると戦略的な情報にもなる。どこの会社がどこの業者・職人を使っているのか見えるようになると、職人をよこせ、よこさないなどといった問題になるケースも考えられる。しかし、業界として今後必要なシステムだと思う。

 委員間で活発な質疑が行われた。代表的なものを一部報告する。

質問:清水とか、鹿島とかに、同じようなシステムはあるのか。
回答:機能の類似システムは作られている。Web上で統合管理しているのは弊社が始めてだ。

サービスを正攻法で取り組んだ良いケース
角委員長:技術者と技能者とがあって、今日の話は、おおむね技能者の話である。技術者の管理と技能者の管理があって、製造業においては、技術者は個の管理、技能者はマスの管理、という管理の考え方で20世紀は行われてきた。入れ替え率とか、ようやくコンピュータシステムを入れることで、マスの管理が出来てきた。技能者においてもマスの管理から個の管理に移っていかなければならない。職長などに対しても個の管理をすることで、作業所の品質の問題とかを解決できる可能性がある。現場の管理は、工場の中の管理より難しい。この事例はサービスを正攻法で取り組んだ良いケースである。


Copyright © 2009 Japan MOT Association. All rights reserved.