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サービス・イノベーション研究委員会報告

第4回 サービスサービス・イノベーション研究委員会(平成21年12月18日)

平成21年12月18日午後6時、東京都千代田区の東京国際フォーラム・ガラス棟会議室G504において第4回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。今回は、産業界における、サービス・イノベーションに関する取り組みについて、「プロダクトサポート活動紹介」と題して株式会社コマツの東柳広海氏が、次に「サービス・イノベーションとは何か?」と題し日経BP社の多田和市氏から報告があった。

■第4回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.プロダクトサポート活動紹介

 コマツの東柳広海氏から「潟Rマツ プロダクトサポート活動紹介」と題して、サービス・イノベーション活動の現状を聞いた。

(1)社内および代理店の人材育成
 − グローバルエンジニアとよぶサービス駐在員の存在 −

 顧客サポートをしているのは代理店である。サービスという切り口では、代理店の教育が重要になる。我々の機械は地球と喧嘩しているので、自動車とは異なり良く壊れる。壊れた時の情報をいち早く吸い上げて、それを生産工場や開発部門にフィードバックして、製品の改良や、問題の早期解決を図っている。代理店の人材育成支援や代理店を直接サポートするために“グローバルエンジニア”とよぶサービス駐在員が海外に出ている。

(2)2つのサポート体制
 − KOMTRAXより高度なVHMSという健康管理システム −

 サービスサポート体制は、お客様によって異なる。マイニングといって、石炭鉱山などの規模の大きいユーザーで使われる車のサポートと、一般の建設・土木の会社に納めている比較的中小型の車を保有しているユーザーに対する一般建機のサポートの2つに分かれている。
KOMTRAX:一般建機のサポートツールをKOMTRAXとよぶ。主要な地域には、サポートセンターを設けて、キメ細かい顧客サポートをしている。
VHMS:マイニングはKOMTRAXより詳細に機械の状態のデータが取れるVHMS(Vehicle Health Monitoring System)とよぶ機械の健康管理システムがある。
FMCという保守契約サービス:FMC(Full Maintenance Contract)と言うサービスで、例えば5年間、3万時間のサービスにかかる費用を見積って、代理店が直接お客様とR&M(Repair and Maintenance)とよぶ契約を結び、お客様の機械を修理メンテナンスしている。契約をしていない顧客に対してもサポートセンターを配置して、お客様の現場にスタッフを派遣し、メンテナンスをしている。

(3)KOMTRAX(コムトラックス)の概略
− 一般建機サポートシステム −

 本体にKOMTRAXのコントローラーが付いていて、それにはGPSのアンテナや通信モデムが付いている。本体にある油圧ポンプを制御するコントローラー、エンジンを制御するコントローラーなどの情報を吸い上げて、GPSの衛星、通信衛星の回線または携帯電話の回線を使って、コマツのサーバーにデータを送り込む。KOMTRAX付きの車両が、現在15万台稼動している。
サービス業務の効率化・高付加価値サービス
 KOMTRAXでは、サービス業務の効率化を図るため、リモート故障診断、必要部品準備、休車時間の短縮、ユーザーからのサービス・コールの対応、故障機の位置・状況を把握、最寄りのサービスカーによる対応、突発故障の対応スピードの向上、メンテナンス・インバルを把握、計画的なユーザー訪問とメンテの確実な実施ができる。エラーコードから発生している障害の原因が分かり、部品をあらかじめ準備して、お客様のところに飛んで行ける。
緊急メールサービス
 KOMTRAXからお客様にメールを発する『緊急メールサービス』がある。機械が盗まれて保税地域に建機が入った時、深夜エンジンがかかった時、稼動中にエンジンのオイルが無くなり重大な車輌のエラーが発生した時、お客様に緊急メールが送信される。
サービスカーの状態管理
 不具合車輌に対して、すぐ行けるサービスカーの位置が分かる。この移動中の車を使おうということが、事務所の画面を見て、フロントマンが指示できる。オイル、フイルター等のメンテ部品をサービスカーに搭載して販売している。

(4)VHMSの概要
− 鉱山機械、健康管理システム −

 鉱山機械に付けているVHMSの概要を説明する。
 車載にセンサーが付いていてVHMSのコントローラーに情報が行く。衛星を使って、日本のデータベースに自動転送するやり方と、PCを車のところに持っていって、自分で情報をダウンロードして、インターネット経由でデータベースに入れる方法がある。
コンポーネントの状態を把握
 ウェブケアというソフトウェアで、見やすいレポートがすぐ出来る解析ツールがある。コマツがサポートして、現地の代理店がデータを使って、お客様の機械の状況を定期的に報告する。車輌の稼動時間、20時間毎の湯温、水温、油圧の平均値、最小値、最大値などのデータの推移から、コンポーネントの状態を把握できる。
発生原因を特定できる機能
 スナップショットといって、エラー、不具合が起きてしまった前後のデータから、エラー発生前後の連続データから発生原因を特定できる機能を持つ。
燃費低減活動
 ライフサイクルコストの低減に繋がる燃費低減活動にも取り組んでいる。VHMSデータから「不要な加速」とか、「アイドリングが長すぎる」などが分かるので、リコメンデーションをお客様に出している。

(5)サービス売上で代理店の経費をカバーする
 − 代理店のサービス力を向上させる −

 代理店のサービス力を上げるには売り上げを上げなければならない。その売り上げの指標として、サービス売り上げとか、請求比率、サービス契約件数などKPI(Key Performance Index)と呼ぶ管理指標を出している。
 代表的なものに、部品売上やサービス売上で代理店のコストをカバーすることを目標に、売り上げに対するコスト率を代理店と一緒になって解析している。ユーザー満足度の向上に関するものに「修理リードタイムの短縮」データがある。

以下のように委員間で活発な質疑が行われた。代表的なものを報告する。

質問:KOMTRAX搭載を前提で販売しているのか。
回答:国内はKOMTRAX搭載を標準仕様にして出荷している。
 世界に15万台KOMTRAXの販売実績がある。

質問:国土交通省の動きで、災害対策の一環で、重機がどこに配置しているかを災害復旧に活用できるかを把握するシステムを開発しようとしている。KOMTRAXならそのまま活用できるのでは。
回答:画面上で配置が分かるので、それは可能である。(国土交通省からの問い合わせはない)

質問:KOMTRAXと高度のサービスをするVHMSの2つのインフラを持っているが、理由は。
回答:VHMSは鉱山機械のサービスシステムである。鉱山機械は壊れてしまうと、鉄が掘れない、石炭が掘れない。休車していることを嫌う。
 一方、コマツの機械は、圧倒的にコンストラクションの機械が多い。センシングポイントも絞って、普及を図ることを目的にしたシステムがKOMTRAXである。

質問:クラウドのように、所有するより、使った時間だけを支払うというようなビジネスモデルは考えられるのか。そのあたりの検討をしているのか。
回答:アメリカでは、電気で動く超大型のダンプトラックを作っていて、稼働時間をトラックが使った電気代で把握して契約する考えがあると聞いている。

質問:サービスビジネスの取り組み状況を聞きたい。
回答:代理店には、サービスで収益を上げるように指導している。昨年のリーマンショック以降、急激に販売台数が伸びない。代理店は部品とサービスで売り上げを立てて、何とか収益を上げている。リーマンショック以降でも鉱山関係の稼動時間は減っていない。

2.サービス・イノベーションとは何か

 日経BP社の多田和市氏から、編集委員として取り組んでいるサービス・イノベーションの現状について説明があった。取り上げられた事例は、ビジネスホテルの「スーパーホテル」と中古車の販売と買い取りをやっている「ガリバーインターナショナル」などである。

(1)サービス・イノベーショの源流
 − いかに迅速にトラブル対応できるか −

  「情報ストラテジー」の編集長をしていた頃、元セブン・イレブンのCIOをしていた碓井氏(フューチャーアーキテクト副社長)が寄稿連載の中で「サービス・イノベーション」ということを言い出した。
編集長をしている「経営とIT新潮流(http://202.214.174.88/a/biz/index.html)」の中に、『サービス・イノベーションの世紀』というコーナーを作り、そこでサービス・イノベーションを扱っている。

(2)サービス・イノベーションの定義
 − 品質と経営効率を同時に向上してビジネスになる −

 「サービス・イノベーションとは何か?」、立場によって見解が異なるので、私の中でも収拾がつかない。私が「日経情報ストラテジー」の編集長の時に、サービス・イノベーションの特集(2009年5月号)をした。その時サービス品質と経営効率とを両立させるサービスをサービス・イノベーションであると考えた。サービス品質と経営効率は、放って置くと、二律相反というか、品質を上げようとするとお金がかかり、経営効率を上げようとすると品質に問題が出る。「品質も上げながら、経営効率も追求する」が両立して初めてビジネスになる。サービス・イノベーション企業は、その両方を実現していると定義した。

(3)スーパーホテルの事例紹介
 − 熟睡できる部屋作り −

 スーパーホテルは、大阪を中心に発展してきた5千円以下で泊まれるビジネスホテルである。客室稼動率90%、リピーター率70%である。これはビジネスホテルとしては、群を抜く数値を出している。
 スーパーホテルは、徹底的に熟睡できる部屋作りを実現している。「泊まるということは、ベッドで眠ることが一番長い時間を費やす」を徹底的に強化している。照明のあり方、壁を普通のビジネスホテルよりも厚くする、ベッドを広めにする、6種類の枕を選べる、あるいは「熟睡できなければ料金を返金する」こともしている。
経営効率とサービスの両立
 フロントの人件費を普通のホテルより30%削減している。ノーキー・ノーチェックアウトシステムで、暗証番号で部屋に入る。自動チェックインで、朝に集中するチェックアウト業務を省略している。お客は楽にホテルを出ることができる。ネット予約率を増やすことで、フロントの電話応対を減らしている。極力無駄と思われるものをいかに省くかを研究し、それが顧客満足度の低下につながらないようにいかに進めることがポイントである。
水周りなどの修理を自分たちで対応する
 色々な合理化をしているが、なおかつそれが満足度の低下にならないように、従業員の人材育成に取り組んでいる。GEの「ワークアウト」を導入して、人材育成をしている。改善計画書を作って、それを社長の前で発表する。昨年のワークアウト大賞は、外部に出していた客室修理業務37百万円を従業員がドアとか水回りの仕事を自分で覚えて外部に依頼するのを止めた。客から連絡があったら自分たちで対応する。フロント係がすぐ行けばお客様も満足してくれる。

(4)サービス業の生産性向上に休日の分散化がある
 − ホテルは在庫を持てない −

リゾートホテルの経営をしている星野社長に最近お会いした。「サービス産業の生産性を根本的に高める決め手は?」という質問をしたら、「年休の分散化を図ろう」という。それには理由があって「サービス産業というのは、特にホテルの場合は在庫を持てない」という。満室になった以後の注文を受けられない。その在庫を持てない産業が、どのようにして効率を高めるか。
 「フランスのリゾートは、シーズンが来ると毎日稼動率が高い。日本の場合は、平日はがらがらの状態だ」という。県によって休みを変えることを提案したい。フランスでは、実際そのような取り組みをしていて、スキーシーズンは県によって祭日が異なる。日本の現行の制度は、製造業の効率化のために作った制度である。サービス生産性の向上のためには、見直すべきである。

(5)ガリバーインターナショナルの事例
 − 画像情報だけで中古車を販売し、在庫を持たない −

 ガリバーインターナショナルは、国内自動車販売が低迷する中で、業績を伸ばしている。ガリバーは、全国一律の買い取り価格を実現している。通常は地域で値段が異なるが、どこのガリバーに行っても、いち早く一律の価格を導入している。買い取りで伸びてきて、ある段階から小売りにも進出した。小売りでも全国一律の小売価格を導入していて、10年間は引き取ってくれる保証も付けている。
 画像情報だけで中古車を販売している。普通の中古車販売店だと、中古車が並んでいる。地方とか、ロードサイドに行くと、すごい大きな駐車場に中古車が並んでいて、その中からお客様は選ぶ仕組みである。今でこそインターネットが普及してきていて、画像情報だけで中古車を販売するのが理解された。しかし当時は、非常識だと言われて「皆に馬鹿にされた」という。

 産業セクター間の相互交流を通じて、新しいビジネスモデル作りに役立てる
 角委員長から「この研究会は、サービス・イノベーション、主として製造業におけるサービスの研究に取り組んでいるが、サービス・イノベーションを進めることによって、産業セクター間の相互交流・合い乗りがやりやすくなるのではないか。第2次セクターから第3次セクター、第3次産業から第2次産業にという、ここのところを今日は、2社で第3次産業の成功モデルをお伺いして、これを製造業に適用するならどうかが、メインストリームであった。「GEのワークアウト」というのは、ジャック・ウエルチが20世紀に20年間彼が社長に在任中に、マネージャーを鍛え上げた手法である。製造業の良いところをサービス産業に適用した事例を聞いた。逆にお伺いした第3次産業の良いところは第2次産業に適用したら良いかと思う。今後のビジネスにどう生かしていくのか。そこに、ここでの研究の大きな意義である」とのコメントがあった。

 このほか、委員間で、数多くの意見交換がなされたが、省略する。

WhatとHowが融合したら、結局ビジネスモデルが生きる

 角委員長:多田さんの話でも最後は、ビジネスモデルに帰着するようなところがある。ビジネスモデルがWhatであり、経営者が従業員と対話し、相談するというのはHowである。WhatとHowが融合したら、結局ビジネスモデルが生きる。このWhatがはっきりして、ターゲットが明確になって、差別化が出来なければ、Howは出来ない。サービス・イノベーションをやると、どうもここに帰着する。皆さんのそれぞれのビジネスドメインで、どういうクリアなWhatができるかを、色々なケースを聞きながら勉強して欲しい。

お客さまの分かる言葉で話す能力を高める
 − この委員会でディスカッションのトレーニングをする −

 角委員長:多田さんは、現在マスコミのリーダー媒体の会社で、苦労なさって今のポジション、今の見識を持っている。広報の業務が必要になるのはトップに登りつめた時である。事業部長とか、役員とか、社長が一番そうであるが、多田さんの話を聞いて分かるように、マスコミがインタビューをする相手はトップである。エクゼクティブになっても、取材されても話が通じないことが多い。トップになるまでの間に、トレーニングをしておく必要がある。出世した時になって、急にやれと言っても間に合わない。こういう異業種交流の場は貴重である。こういう方々にエッセンスを伝えて、ディスカッションをするトレーニングをされることは、非常に良い。多田さんがこの委員会に入っているので、毎回多田さんの試験を受けているようなものである。
 社内では通じても、社会では通用しない。製造業は作ることは得意であるが、物を作ることと売ることは次元が異なる。20世紀は作れば売れた時代であったが、21世紀はそうではない。まさにサービスソリューションを売ろうとするとプレゼンテーション能力がないと駄目である。
 お客様の目線に合った、お客様の分かる言葉で、お客様の関心のあることを、是非、1年間の会合の中でそれぞれが学んで欲しい。プレゼンテーションは、そういうことを意識してやると、良い勉強になる。


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