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サービス・イノベーション研究委員会報告

第3回 サービス・イノベーション研究委員会(平成21年11月6日)

平成21年11月6日午後6時、東京都千代田区の日本記者クラブ大会議室において第3回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。今回は、民の立場から、サービス・イノベーションに関する最新の取り組みについて、「計装機器メーカーにおけるサービス・イノベーションの事例」と題して株式会社山武の福田一成氏が、「工作機械のサービス活動の現状」と題して株式会社森精機製作所の柳原正裕氏から報告があった。

■第3回 サービス・イノベーション研究委員会での講演概要

1.計測機器メーカーにおけるサービス・イノベーションの事例

 株式会社山武の福田一成氏から、計測器メーカーにおける サービス・イノベーション活動の現状を聞いた。

(1)昔はモノづくりのメーカー、今は色々なサービスを提供
 − 社会科学的な研究も必要 −

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サービスにも「経済合理性が求められる」と語る山武の福田一成部長

 昔はモノづくりのメーカーであったが、今は色々なサービスを提供している。部屋を暖かくしたり、冷たくしたりするコントロールシステムを製造、販売している。最近は、「ライフオートメーション」といって「人を中心としたオートメーション」というキヤッチフレーズを掲げている。
 私が所属しているビルシステムは、人の温熱環境や光の具合とかを、その人の健康に応じたゾーンを作り、ゾーンをビルにしていく。人の生命のように、ビルも生命体という発想で考え、開発している。将来を見越して研究に取り組んでいる。必ずしも理工学的な開発だけでなく、社会科学的な研究も必要で、温暖化対策とか、ホスピタリー技術とか、色々な異分野のことができるのがサービスの分野である。

(2)地球環境問題が出て、省エネに取り組む
 − システムの効用そのものをビジネスとする −

 70年代、公害問題が出て、「地球全体がおかしくなる」というローマクラブの報告があった。国を挙げてエネルギーを含めて地球環境を見直すことになった。山武は計測器を使って測ることができるので、「セーブメーション」という造語を作って、営業の人間も開発の人間も機器メンテナンスをやっている人間も、販売した機器とか、システムの効用そのものがビジネスにならないか、結果として省エネにならないかに取り組み、省力化そのものを販売してビジネスに出来ないかを考えた。90年代に入ってESCO(Energy Service Company:省エネルギーサービス会社)事業を始めた。

(3)ESCOシステムを使って、省エネをリアルタイムに実現
− 自分の持っているパソコンから診断が可能 −

 モノを売るところから、モノの価値がビジネスにすることを手掛けた。顧客の現場で省エネが色々出来上がっていく。データを見て省エネをやろうとすると、チューニングしたり、設定を変えたりすることで省エネが達成できる。現場側に端末があって、データを取って加工してグラフを作り、その場でグラフを見て問題を見つけ、「対策を取りましょう」ということになる。
 ユキピタスの発想で、自分の持っているパソコンからネットに入ってプラウザを見て、建物で言えば設計事務所などのキーマンや保守をしている関係者などが診断をして「何かおかしい」と言うと、色々な専門家が検討して省エネをリアルタイムに解決する。

(4)省エネを担保するソリューションビジネス
− モノを売ることから、コトを売る −

 省エネメリットを受けながら何年後には、省エネの効果を最初に担保して、プロジェクトを組み立てる。最初の段階で高価なBEMS(Building Energy Management Systems:ビル管理システム)をリリースして、お客様に買って頂き、リース返済する。肝心なのは、7割に減ることを担保し、この3割を保証するのがESCOである。
 この開発はお客のためでもあり、自分達のためでもある。モノを売ることから、コトを売ることに移る。効用を売るのがソリューションビジネス。

(5)自社製品を中心としたソリューションの実現
 − 自社の製品を売ることが一番儲かる −

 製造業が一番儲かるのは、自社の製品を売ることだ。製品を中心としたソリューションが出来ないかを考えた。我々の製品が現場で省エネを生み出す仕組みを研究した。駄目つぶし現場の経験をベースにして、省エネができるところを見つけられる。それを分析して商品にしていく。

(6)排出権取引を分析した
− 環境に良くてもお金で評価できないと、お客様は認めない −

 現在、1200システム以上のBEMSが私どものデータウエアセンターにネットワーク接続されている。ESCOの契約をして空調機を調整して、その間にフォローアップワーキングをお客様と一緒に行う。誰が悪いとかではなく、データで問題を検討する。「11.5%削減する」という目標を、設備を変えずにESCOの中で効果を評価する。お客様もESCOに取り組みCO2を減らす。排出量取引は有価で取引をするビジネスを検討した。環境に良くてもお金で評価できないと、お客様は認めてくれない。

(7)環境価値を提供できる会社
− 排出権取引に取り組む −

 十数年前に京都議定書の原形が作られた時から排出量の移転ができるという考えがあり、山武の子会社の大信を使って、やってみた。私どものESCOの担当が、大信の子会社の施設で半年間やった。それを第3者認証機関に認証してもらい、民間でやっている排出権取引所があるので、どんな方法で算定するのか、大信にどんな算定をすれば良いのかなどを学習した。ESCOをやっていた病院向けにクレジットを付与することに取り組み、ESCOで環境価値も含んで取引ができた。

角委員長から「山武さんは100年続く計装メ―カー。この21世紀に入ってからの10年間が大きな変革が起きたのか」との質問があり、福田氏から「98年にハネウエルとの業務提携を解消してから色々なことが起きた。それまではハネウエルの傘下にいて極東で動けば良かったのが、解消後は自分の考えで すべてやることになった。ESCO事業はハネウエルから持ち込んだ時に提携を切ったので大変であった」との回答があった。

 委員の間で活発な意見の交換をした。主要なものを紹介する。
質問:省エネによる経済合理性が考えられる。人間が持っている環境を保全するための満足感があると考える。それを含めたビジネスが出来るかが大切と思うが。
回答:タオルメーカーが、「グリーン電力でタオルを作っています」という。消費者心理は、気持ちの良さのような満足感が働く。その段階で環境ビジネスが、ダイナミックなビジネスになるとは思っていない。環境問題は解決しなければならないが、解決にあたっては、お金で解決しようとする考えが重要になる。

質問:すべてを経済合理性でやればよいのか。
回答:B2Bビジネス(会社間取引)では、環境に対する顧客の満足感は弱く、経済合理性が追求される。ESCOはB2Bビジネスである。CO2削減分のクレジットを買わなければならない。去年の今頃までは、その考え方は無かった。今は、そういうことが出来るようになってきた。

2.工作機械メーカーのサービス活動

 株式会社森精機製作所の柳原正裕氏から「工作機械の サービス活動 事例紹介」と題し、サービス・イノベーション 活動の現状を聞いた。

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「まだサービスから収益を得るのは難しい」と語る森精機の柳原正裕上席理事

(1)森精機製作所の紹介
− いかに迅速にトラブル対応できるか −

 森精機製作所は、工作機械を作っている。工作機械は資本財で、金属部品加工で使用される。大規模から中堅工作機メーカーの50人未満の鉄工所にまで納入している。お客様の機械は24時間働いて、過酷な状況で工作機は使われている。お客様に満足してもらうには、納入後のトラブルに対していかに迅速に対応出来るかだ。

(2)メンテナンスで差別化
 − 国内のサービスコールはすべて無料 −

 現状、メンテナンスに対する新しいサービスビジネスを考えていない。サービスでお金儲けをすることを現状考えていない。地域別にアフターサービスを敷いていて、サービスの基本は電話で対応してトラブルを解消している。電話で解決できない場合、国内拠点にいる170名が駆けつける。電話でのサポートをするサービスセンターを24時間365日対応体制に整えることで、お客様に安心して頂いている。フリーコールの採用により、国内のサービスコールはすべて無料にしている。

(3)顧客サービスを充実させる
− 24時間以内に部品がお客様に届く −

 現在は、新しいコールシステムを導入してレスポンスをしている。インターネットで納入製品の12,000台を現状接続できていて、稼動状況、トラブルを瞬時にサービスセンターに届くシステムを構築していて、電話での問い合わせの7割のトラブルについては電話だけで解決できている。電話での対応が出来なかった場合は、携帯電話を持っているサービス担当が現地に駆けつける。パーツセンターが千葉にあり、24時間以内に部品がお客様に届く対応を目標にしてやっていて、94%以上実現できている。

(4)海外の保守体制
 − 世界にサービス拠点を置く −

 米州ではシカゴにサービスセンターを置いて、アメリカは広いが対応している。欧州では、ドイツのシュツットガルトに、アジアでは、上海、アユタヤ、シンガポールに拠点を持つ。サービスコール対応は、24時間、365日対応している。

(5)「モリネット」という機械監視システム
 − あらゆる地域から自社の工作機械の稼動が分かる −

 モリネットとは、インターネットを使った機械監視サービスを行うためのシステムである。インターネット上で自社のマシンを遠隔監視する。KDDI通信モジュールが工作機械に埋め込まれていて、無線基地局を経由して稼働情報が送られてくる。スピード、コストともにパフォーマンスの高い遠隔監視システムの構築が可能である。世界中のあらゆる地域からインターネット上で自社の工作機械の稼働実績を閲覧可能となっている。「稼働実績モニターサービス」や「レポート配信サービス」を顧客に提供している。

(6)2年間の機械保証期間
 − サービスを単独でビジネスにするのは難しい −

 2007年4月より、国内納入の機械の保証期間を、従来の1年から2年に延ばすことにした。1年保証から2年保証に変えて、お客様の信頼を得た。サービスを単独でビジネスにするのは難しい。保守サービスを充実させることの一環として、モリネットのバージョンアップに取り組み、お客さまに満足してもらうことに取り組んでいる。



 委員相互間で活発な質疑が行われた。

質問:保証期間は無償か。
回答:無償である。2年の保証期間後は、保守契約に入って頂く。保証期間を2年にしても思ったよりコストアップにつながらなかった。国内で10万台稼動している。平均寿命10年で、長いものは20年稼働している。30年でも保守サービスをしようとしている。

質問:新製品すべてに入れているのか。将来的にはすべての機器に入れていくのか。稼働状況も把握できるようになっているのか。稼働状況が見えると生産調整にも使えるのか。
回答:古い機械は廃棄されていくので、いずれはそうなる。お客さまの中には見ないでくれというお客様もいる。現状納入した機械の稼働率は40%位である。生産見通しにも使える。稼働率が上がってくると、導入も計画をしているのではないかということで、営業を送りこむなどの対策を取っている。

質問:電話での対応での率を上げるためにご苦労されていると思うが、オペレーターがしっかりしやすくすることと、オペレーターの対応能力を高めることが大事だと思うが、工夫されている点があったら教えて欲しい。
回答:電話を取るエンジニアのスキルは、森精機ユニバーシティを設置して、社員教育ということでやっていて、そこでサービス関係のトレーニングを定期的に受講させている。

質問:サービスセンターで受けた色々なクレーム情報は、どういうタイミングで川上側の設計部門や新商品開発部門に流れているのか。
回答:デイリーベースで製造と開発担当には、その日に受信したサービスコールの内容が流れている。中には設計変更が必要な内容や安全という切り口の問題が含まれることもあり、すべてパラで流すようにしている。品質部門にも流している。

角委員長から「森精機の機械は、屋内で稼働している。屋内の機械に対するメンテナンスでは、工作機械業界で森精機がトップランナーだろうと思う。来月お話頂くコマツは、屋外に機械を設置したものに対して、グローバルにどうサービスしているかをお話頂く予定である。屋内と屋外では違いがある。建物も装置などの動いている機械に対するサービスに対する取り組みでも違ってくる」とのコメントがあった。


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