第2回 サービス・イノべーション研究委員会(平成21年10月2日)
平成21年10月2日午後6時、東京都千代田区の学士会館310号室において第2回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。今回は、官と学の立場から、サービス・イノベーションに関する最新の取り組みについて、官については産業技術総合研究所の谷口正樹氏から、学については小坂満隆副委員長(北陸先端科学技術大学院大学教授)から、それぞれ報告があった。
産総研の谷口氏は「官」のサービス・イノベーション活動の現状を報告した。
谷口氏は、2007年の6月から2009年の5月末まで、経済産業省の商務情報政策局のサービス政策課に出向して、サービス・イノベーション政策の仕掛け作りを担当した。
経済産業省商務情報政策局のサービス政策課では、サービス産業をまずターゲットに考えている。サービス産業は第3次産業といわれるが、広い意味でサービス産業全体を指す場合と、狭義のサービス産業を指す場合がある。生産性というのは、労働投入量分の付加価値ということになる。
サービス産業の中でも通信とか金融とかは非常に生産性が改善されて良いが、狭義のサービス業は横ばいの状態である。1993年から2003年までの10年で製造業の労働生産性は1.5倍に増えているのに対し、サービス業はほぼ横ばいである。欧米では伸びているが、日本では伸びが非常に低い。
米国では「イノーベート・アメリカ」という国家イノベーション戦略報告 (2004年12月)の中でパルミサーノIBM会長が初めて「サービス・サイエンス」という概念を提起した。2007年に米国競争法でもサービス・サイエンス振興を規定している。
日米のサービス・セクターにおける研究開発費は、米国の9.3兆円(2001年)に対し、日本1.5兆円(2003年)と金額的にも差が大きい。日本は伸び率も低い。
政府の取り組みは、2005年頃始まって、新経済成長戦略大綱とか、骨太の方針2007とかの中でサービスの革新戦略を取り上げている。
2007年5月にサービス産業生産性協議会が(財)社会経済生産性本部の中に設置された。経済産業省の委託予算を取ってサービス産業の生産性の改善に取り組んでいる。
2008年4月に産総研の中にサービス工学研究センターを設置し、サービス工学の研究を始めた。産総研のサービス工学の研究部隊は常勤研究者で20数名、研究者が2,300名いることを考えると1%程度。主に人間工学の専門家やITの専門家等が研究している。
2007年5月に「サービス産業生産性協議会」が設立された。科学的・工学的アプローチ委員会、サービスプロセス委員会、人材育成委員会などを作って、それぞれが別個に活動をしている。経済産業省が音頭をとって、総務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省、農林水産省が横並びでオブザーバー省庁として参加している。
<1>人材育成、<2>ハイ・サービス日本300選、<3>第3者認証制度、<4>顧客満足度指数:CSI(Customer Satisfaction Index)に取り組んでいる。
サービス工学のロードマップ作りを経済産業省で進めていた。サービスを観測して、分析して、そこからサービスを再設計して、実際にやった。
これはPDCAサイクルである。これをサービスでもきちんとやる。 やることで氷山の一角で主に意識の上で見えている顕在的ニーズ、これの下に隠れている潜在ニーズと、潜在的なムリ・ムダを見つけられる。
産総研では、サービス工学研究センターで、サービスの生産性を高めるためにはどういうことが大切かを研究している。お客さまを観測し、大量の取得したデータを分析する。それに対して最適なサービスを設計し、それを適用するプロセスがある。それを産総研の研究者が担当する。観測・分析は人間工学とか、人の動きを設計することができる研究者が計測を担当する。ITは計算機工学の人が担当する。サービスの現場を研究している。
角委員長から「このメンバーで、最初にファンダメンタルなことを勉強しようということで、サービスの現状について、経済産業省で実際にサービス政策を推進された、谷口さんから包括的なことの報告を頂いた」とのコメントがあった。
委員の間で意見の交換をした。
質問:サービス産業の生産性が伸びていないところで、サービスが伸びていない狭義のサービス業とは、具体的にどういうところか。
回答:対個人サービスを指す。飲食業とかホテルとか塾とか、ホテルやデパート、スーパーなどの流通業、対事業所サービスというのは、B to Bビジネス。
質問:分子を増やすために、価格を上げるとか、客観性、再現姓。一連の話の中で、プライシングの話はどうか。
回答:直接プライシングの話は、経済学の中で取り組まれている。ブランドという視点は一つの切り口があると考える。ブランドに属さない一般的な話は学問になっていない。
意見:分母の研究になってしまって、分子を上げたいが分母の話になっている。プライシングの問題は、考え方を整理する必要がある。
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の小坂先生から、「学」の現状について報告があった。
報告があった『サービス・イノベーション概論』は、10月からJAISTのサービス経営コース(MOS)で講義
する概略である。
<1> 産業界全体のサービスの流れ
<2> 世界的なサービス指向
<3> ものの時代からサービスの時代へ
<4> 欧米に比較したサービスに対する取り組み姿勢
<5> 日本の強みを生かしたサービス産業の伸張
20世紀は物質文明、物の豊かさを求めた。所有欲があって自動車、パソコン、携帯電話がそうである。21世紀は、心に豊かさとか、満足感、人間らしく生活を考えていく必要がある。
人間の視点とサービスの視点を考えなければならない。人は何に対してお金を払おうとするのかを考えなければならない。20世紀は製造業でハードウェアを作ってきた。次に情報化ということで、いろいろなソフトウェアやネットワークを使ってモノの高機能化を図ってきた。そして、今、人間が満足するような新たな価値は何かという視点で、サービス・サイエンスが重要になっている。
文部科学省のサービス・イノベーション人材育成教育にJAISTは「知識科学と情報科学を基盤とするサービス・イノベーション人材の育成」に応募して採択された。
次に示す4つの重要な視点で、JAISTはサービス経営コースを設計した。
<1> ビジネス科学の視点
<2> 情報科学の視点:インターネットがサービス・イノベーションを加速している。
<3> 人間の満足とか人間の価値創造
<4> 3つの要素の統合:上記の3つの要素を統合し、横断的に問題を解く。
IT(情報技術)の視点は それぞれ応用するところがあり、インタフェースは進化している。
<1>時間、空間の制約:インターネットがサービスビジネスモデルに与える影響は大きい。マーケティング
をやるときに時間や、空間の制約は大きいが、これがインターネットで取り除かれた。24時間、365日、
サービスにおける時間のファクター、空間的な広がりが取り除かれた。
<2>お客さまとサービス提供業者の間のコミュニケーション:製品(モノ)の場合はワンウエーコミュニケー
ションであったものが、インターネットではお客さまとサービス提供業者の間でウエブ上で会話ができる新
しいビジネスモデルが出てきた。
<3>新たなビジネスモデル:価格ドットコムの役割は大きい。 情報の集約によって新たなビジネス機会を
作っている。モノと情報が分離されてしまった。サービスを考える上でIT技術を無視することができない。
ビジネス価格の視点でみて、日本の教育や研究の後進性を感じる。
サービスを体系的に整理しながらサービスを勉強しながら語っている人が何人いるのか。
日本ではサービスの基本原理が体系的に整理できていないので教えていない。
プライシングに関する本が日本には無い。
サービスを議論するとき、ラブロックが書いていることを理解してから議論しようと言っている。
「サービス・マーケティング原理」(クリストファー・ラブロック他著小宮路訳(2008)白桃書房刊)に何が書
いてあるか。
<1>なぜサービスを学ぶのか、<2>サービスプロセスをどう理解するのか、<3>顧客コンタクト、顧客から見た
サービス、<4>サービスの生産性と品質をどう考えるべきか、<5>お客とのリレーションマネジメントと顧客のロ
イヤリティをどう考えるか、<6>サービスのポジショニングとサービスデザイン、<7>苦情への対処とサービスリ
カバリーが、どれだけ顧客ロイヤリティーに対して有効か、<8>モノのサービスだけでなく。顧客エデュケー
ションとプロモーション、<9>OR的には、需要と供給のマネジメント、<10>サービス劇場モデルというモデルが
ある。サービス提供業者と受ける側は協力して作り出すというモデルである、<11>行列と予約というのがある。
JAIST/MOSの科目開発の考え方は、全体として、人文系、社会系、マネジメント系のバランスに配慮するとともに、間口の広いT字型人間を育成することにある。
<1> サービス・イノベーション論:サービス・イノベーション概論、サービス創造論、マーケティングイノベーション、製造業のサービス化論、サービスリスク・マネジメントの5科目で構成される。
<2> サービス設計技術論:横断型科学技術論、サービス工学と事例分析、ネットワークとサービスイ・ノベーション論、デザインとサービス・イノベーション、ビジネスとエスノグラフィーの5科目で構成される。
<3> 情報サービス技術論:情報産業サービス化論、ITベースビジネス設計論、ITサービスアーキテクチャ
論、インタネットサービスシステム論、ITサービスマネジメント論の5科目で構成される。
製造業の日立製作所にいたが、サービス業の温泉旅館から学ぶものがある。サービス業の視点は、顧
客満足度が出発点である。提供するものが何であっても、お客様がいかに満足するかに取り組んでいる。
加賀屋の会長は
<1> サービス業はプロの技術を提供する。サービス業は全員がプロでないと駄目だ。
<2> お客様に満足を与えること。満足を与えられない限りサービスとは言えない。
<3> サービスを提供して、対価を貰えないとサービスとは言わない。
この3点セットが揃って始めてサービスという。
製造業の視点は、モノの良さとか、性能が出発点である。だから製品の価値とか、生産性だとか、客観性をもって、絶対価値を追求することになる。どうもこれからの製造業やサービス業は、お互いの視点をうまく融合していくことが、サービス・サイエンスとか、製造業のサービスを研究する上で必要だ。
意見や質疑応答は以下の通りである。
・B to BサービスとB to Cサービスがあるが、B to Bサービスでは、人に対するサービスか、モノに対するサービスかを分類すればよい。
・顧客満足度を高めることとは、顧客との間で合意形成を高めることだ。
・Webサービスをモノとモノのところに分類しているが、受け側は人間と考えられる。コンピューターのクラウドを考えると、コンピューターとコンピューターとの間でやって、アマゾンがアプリケーションベンダーの立場で考えれば、モノとモノの関係だと理解する。
・サービス価値を規定しにくい。サービスを受けて、お客がどれほど払うかを考える。飛行機の価格は様々で、サービス価値が評価されてプライスが決まっていると言える。
・今の日本は格差社会になってしまった。従来の製造業と同じようにビジネスをしていても、これからはおそらくビジネスが成り立たない。
委員長から委員会の今後の活動について以下の提案をし、取り組みの確認をした。
<1> 「産官学の間の融合」と、「理論と実践」とを議論する2つの側面がある。
<2> 今年度はメンバーから色々の立場で、この問題をどう取り組んでいるかの話を聞く。製造業の実態と現在のサービス・イノベーションの実態を明らかにできる。
<3> キーとなる問題を絞り込んで、来年度に入ったら、生産性の問題、品質の問題、プライシングの問題、ビジネスモデルの問題などの問題を討議していく。
後半の6ヶ月で種々の問題をいくつかに集約をする。
来年の後半の担当を決めて、各委員はそれぞれのグループに入って活動をする。
2011年の2月とか3月にシンポジウムを開催し、成果を公表する。