第9回 サービスイノベーション研究委員会(平成22年5月14日)
平成22年5月14日午後6時、東京都千代田区の日本工業倶楽部第5会議室において第9回サービス・イノベーション研究委員会を開催した。今回の委員会では、日立製作所システム開発研究所の平井千秋氏から「製造業サービスシフトのビジネス類型」についての報告があった。
サービスビジネスモデルの類型について、整理し、委員会で提案してくれた日立の平井氏
日立製作所の平井千秋氏から、「今日のプレゼンの視点は、ビジネスモデルの類型を検討するためのたたき台を小坂満隆先生に4月に相談に乗っていただいた結論をもとに今日はまとめてきた。あくまでも叩き台として議論していただきたい」との説明があり、次の報告がされた。
1.ビジネスモデルの類型
ビジネスモデル類型とはどういうものかを、きちんと考えなければならない。これを一度にまとめて整理するのは大変であり、今日はまずビジネス(形態)類型に限ることとした。
製造業がサービスシフトに移る時にどんな類型があるのかを扱う文献があるので紹介する。
<Baumgartner, Peter and Wise, Richard著、有賀訳、ハーバード・ビジネス・レビュー、December 2000>
製造業が川下へのサービスシフトで勝つための4つのビジネスモデル類型で、収益には触れずビジネス形態の類型として、4つのモデル類型を提示している。
a1 ITによる製品とサービスの一体化
例として飛行機に乗せる航法システムのように人が手作業でやっていたようなことを自動化するもの。
a2 総合サービスの提供
GEの製品売りとファイナンスのサービスを一体化する。製品をベースにサービスを乗せていくもの。
a3 統合ソリューションの提供
製品とサービスを大きくまとめて、お客志向のソリューションとしてまとめる。エレベーターを売っていた会社がビル全体を管理するようなサービス。
a4 流通チャネルの支配力強化 コカコーラで、製品を流通させるとこを自社で持つようにする。
本来製造業では、やっていないようなところまで手を広げていく事例としてこの4つのタイプを挙げている。
<小森哲郎、名和高司、ダイヤモンド社、2001年>
もう1つ、文献を見つけた。10年前の本で、10年前にはこのようなことがいわれていた。この人はプラットフォームといっている。製造業がサービス事業に参入するための5つのプラットフォーム、やり方がある。
b1 自社製品向けのサービス 保守が一番分かり易い事例である。
b2 基本サービスのバンドル化 例として、トヨタなどが行うリースサービスがある。
b3 他社製品向けのサービスの提供 本来自社向けの製品の保守をやっていたものを、他社製品にもサービスを広げる。
b4 アウトソーシングサービスの提供 一括請負、IBMの情報システムの一括請負の事例。
b5 製品関連以外のサービスの提供 製品関連以外、例としてキャタピラーが機械部品の出荷・流通サービスを独立の事業として、キャタピラーが自分の部品を管理するのではなく、他社の部品の流通を管理するサービス。
以上の2つを取っ掛りとして、類型化を考えた。
a1〜a4あるいはb1〜b5をみても、網羅性や相互の関係性といったところで整理軸が分かりにくい。一方で、両方に共通するようなところもある。
もう一つは、2つの文献のうちの1つのタイトルは“Gone down stream”、製造業は下流にいくべきだと言っている。必ずしも下流だけではない。前回の東レさんの話からは、「素材産業のサービスはビフォアサービスだ」とあったように必ずしも下流だけではない。さらに、a1にAIが登場するが、「AIをどのくらい特殊なものとして考えたらよいのか」と思う。
そもそも純粋な製造業やサービス業は存在しない
マーケティングの世界で古典的な話しがあって、ショスタック(Shostack)が言うように、「そもそも純粋な製造業やサービス業は存在せず、製造業も何らかの形でサービスを行っているし、サービス業もなんらかの形で製造をしている」という。ディズニーランドに行くとそこでいろいろな商品を作ってモノを売っている。
両者は連続体であって、二次元平面(商材の物財化軸−商材のサービス財化軸)の中のどこかに位置付けられていて、製造業のサービスシフトは右側に行くときに、サービスシフトと見ることができる。
ITとは単なるモノではなくてサービスを実現できる手段の1つだ
その次にはモノとサービスに加えてITをここでどうからめていくか。「ITはモノかサービスか」という問題がある。
ラブロック(Lovelock)の『サービス・マーケティング原理』をもう一度読むと、「サービスのデリバリシステムには、物理的なものと電子的なものがある」という。2チャネルあると書いてある。「ITとは単なるモノではなくてサービスを実現できる手段の1つだ」と捉えることができる。
私の個人的な見解では、「サービスの本質はプロダクトではなくて、プロセスだと考えるが、そのプロセスをうまく実行できるものは人と計算機だ」と言う風に見ると物理的。物理的なものには、人とか設備が入る。
サービスは物理的なものとICTによって実現
サービスは物理的なものと、計算機を代表するようなICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)によって実現できる。3軸(ICTによるサービス化軸の追加)にしてみるほうが良いのではないかと考えた。純粋な製造業をプロダクト化軸の上に置いて、どちらかの方向に移動するのがサービスシフトであると考えた。
ビジネス類型はこのような感じでまとめていけるのではないかと考えたが、さらに詳細に考える上での補足として、サービスシフトの方向性について小分類をシステマティックな視点を導入して分解すると網羅性が確保できるのではないかと考える。網羅性を出したあとで、意味があるものだけをいくつか集めて構成するのが良いと考えた。
製品+サービス(製品にサービスを付加、あるいはサービスに製品を付加)は、製品と顧客との接点にあるはずなので、製品に関わる顧客の行為で細分化すれば網羅的に抽出できる。
製造業のスキルをサービス化するものについては、製造業の業務の中にスキルがあるので、バリューチェーン、製造業の業務の中でどのようなことをやっているかで細分化できる。
日立の例でみると、物理調査のマーケットプレースを行っており、いろいろなものを作っているために持っている自分たちの購買経験を生かし、それを標準プロセスにまとめることで世界一の製造メーカー向けの調達システムを立ち上げている。それもスキルのサービス化ではないかと考える。
統合ソリューションについては、いきなりそこに行く話ではなく、サービスシフトした後に事業運営で得られた資産をもとに転換を図ると考えられる。
ビルケアで言えば、一度顧客チャネルを築くとそこの顧客へのワンストップソリューションに展開が可能になる。
調達で言えば、ほかより有利な条件で調達できるようになると、それを使って何ができるかを考えることができるようになる。
協業チャネルでは、水ビジネスのように日本連合で海外に持っていくなど事業展開が考えられる。