【第5回】 「プロパテント:プロイノベーションの視点」(2010.6)
ここ数年の米国の特許関連重要判例を見ると、特許権の強化――いわゆるプロパテント政策が軌道修正されているように思える。
例えば、2008年末にFTC( Federal Trade Commission:連邦取引委員会)が知財の関連市場に関して行った公聴会の開催通知(官報)の中に、最近の特許システムの変化を説明するくだりがあり、最高裁と連邦高裁(CAFC:Court of Appeals for the Federal Circuit)の5つの判例が引用されている。
これらは、FTCが政策的に選んだとも考えられるが、最近の有名判例を網羅しており、いずれも権利制限方向と言える。
2006年に米国最高裁は、2006年eBay対MercExchange判決において、特許侵害があった場合に、自動的に恒久的差止命令を発行するという20世紀初頭からの判例を変更し、通常の民事訴訟同様、「損害賠償では損害を填補するのに不十分か」等の4要件を検討し、要件を満たす場合にのみ命令発行可とした。
また、2007年のシーゲート(Seagate)判決において、連邦高裁(CAFC)は、故意侵害認定基準を高め、三倍賠償を認められにくくした。
同年のKSR International対Teleflex判決で、最高裁は、自明性の要件を緩和している。
同じく同年、Medimmune対Genentechで、最高裁は、特許のライセンシに、ライセンス契約を解約せずに、対象特許の無効確認訴訟を提起することを認めた。
2008年には、Quanta対LG判決で、最高裁は特許消尽が方法クレームにも及ぶことを判示するとともに、契約で特許消尽を限定することを従来より難しくした。
この流れの変化は、米国では既に特許制度をイノベーション促進の観点から軌道修正しようとする動きと捉えられると思う。 筆者は以前から、知財権の保護の側面と、技術や情報が広く利用されるという側面の2つのバランスが必要だと主張し、プロパテントに対して「プロパーパテント」の考えを提案してきた。(月刊Keidanren、1999年3月号、等)違法な侵害行為には厳しく応じる一方で、発明者や創作者がある程度自由に活動できる環境をどうやって作っていくかが重要な時代になっている。
日本経団連も今年(2010年)の3月16日付けで、「イノベーション立国に向けた今後の知財政策・制度のあり方」と題する提言を発表している。(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/014/index.html)
ここでは、上記のeBay判決等、海外の動きを意識しながら、現在の知財制度に修正を加えることを提案している。
制度の一貫性や、利害関係の調整という制約から、すべての改革を直ちに行うことは難しいにしても、大きな国際的に潮流に乗り遅れることなく、イノベーション促進に資する知財制度を積極的に議論していくべきである。