【第6回】 「米国に比べ、日本は知財を経営資源にする活用が不十分」(2010.7)
米国企業と比べると、日本企業は、知財を経営資源として活用することが、まだ不十分だと感じることが多い。激しい国際競争の中で、企業は事業の買収、売却、合弁、再編というような大きな経営判断を余儀なくされることが多い。それらの判断の中で見逃されやすいのが、知財、すなわち目に見えない企業価値の側面である。
例えば、日本企業は事業の売買にあたり、工場や土地のような有形資産の評価には厳しいが、知財を詳細に分析評価して、経営判断をすることは少ない。事業の売買という場合、従業員の雇用確保は重要な問題であるが、従業員の頭の中にある知識やノウハウ、さらにはそれらが形になった特許等の知的財産権の価値を見逃しがちである。
その結果、事業取引は、有形資産をベースとした簿価が基準となることも多い。知財の価値は、簿価として顕在化していないことが多いから、通常の経理の専門家から見ると評価の仕様も無い。その結果、莫大な無形資産が安価で引き渡されるということも多いのではないか。
知財価値は、目に見えないから、経営者が常にそれを意識することは難しいのかもしれない。特許訴訟で敗訴し、大きな損害賠償金を支払うようなことがあると、途端に知財に敏感になる経営者も多い。そこで、日本で知財が経営レベルで活用されるために2つのことを提案したい。
ひとつは、知財の価値を評価する仕組みを普及して、知財が重要な資源であることを客観的に示していくことである。このために、日本弁理士会が運営する知的財産価値評価推進センター(http://www.jpaa.or.jp/about_us/organization/affiliation/ipvepc/index.html)等の外部機関をもっと積極的に活用することが必要だ。
欧米では、知財の取引も活発に行われ、「知財市場」が形成されようとしている。知財が投資の対象にもなり得る時代である。知財価値を具体的に示すことができれば、企業経営者もさらに関心を持つものと思う。
もう一つは月並みであるが、知財担当者が日ごろから経営に参画できる仕組みを作ることである。欧米では、CIPO(最高知財責任者)が役員として指名され、重要な経営事項に早い段階から参画している。CIPOが機能するためには、CIPOは知財の知識だけではなく、ビジネス感覚や技術の知見も持つことが期待される。こうした経営に資する知財人材の育成こそ日本の課題かもしれない。