【第7回】 「ビジネスの分かる弁護士や弁理士を育成しよう」(2010.8)
本コラム第1回で、「ベンチャービジネスを創出するために、イノベーション・エコシステムを作るべきだ」と述べた。これは知財の世界に限ったことではないが、日本の弁護士や弁理士は、米国の弁護士に比べ活動範囲が狭いように思える。日本の弁護士や弁理士は、法律の知識や技術の理解を背景に、もっと広く、深く、ビジネスに参加すべきだと思う。
スタンフォード大学の構内、この大学から多くのベンチャービジネスが巣立った
昨年夏に駐日米国大使に任命されたジョン・ルース氏は、シリコンバレーで最も老舗の弁護士事務所のひとつであるウイルソン・ソンシニ事務所の幹部をされていた。
同事務所は、シリコンバレーのベンチャー企業の社外法務部(Outside General Counsel Office)とまで言われるように、ベンチャー企業の起業時からビジネス立ち上げに深く貢献している弁護士事務所の典型である。大使もスタンフォード大学の学部を卒業し、同じくスタンフォード大学のロースクール卒業という、シリコンバレーのエリートコースの経歴をお持ちである。
ベンチャー立ち上げにあたって、資金の確保や許認可を含め法的サービスを提供する法律家は必須である。シリコンバレーでは新しい技術開発をバックに起業する場合が多いので、技術に対する理解も必須である。シリコンバレーの弁護士や弁理士は、時には技術の目利きをし、(通常の時間給による報酬請求ではなく)自分自身もリスクを負って、成功報酬や株式による支払い等の形で起業に参加する場合まである。企業家と一緒に事業を立ち上げ、ある程度成功した会社にそのまま社内弁護士として移って行くようなケースも多い。
残念ながら、日本ではこうした弁護士や弁理士がまだ十分育っていない。一方、知財分野だけを見ても、知財の発掘、権利化、経営資源としての広い活用のすべての面で、ビジネスの分かる弁護士や弁理士への期待値は高い。
例えば、特許の権利化の例を考えてみよう。起業家にとって一番の関心事は、当該技術がどうやってビジネスに結びつくかであり、特許が取れること自体が究極の目的だという人は少ない。
しかし、日本の弁理士の多くは、明細書を書き、出願が成立するかどうかが自分の仕事と思っているのではないか?
「事業成功のためには、この技術は門外不出にして、出願しない方が良い。情報管理制度も整備する必要がある」とか、「早い段階で大手企業とライセンス契約を結び、技術を生かす道を見つけるべきだ」とか、「某大学と共同研究し、技術を磨くべきだ」とか、「まずは某ファンドに話して、資金提供を受けよう」というようないろいろなアドバイスが得られ、それらの具体化まで手伝ってもらえるとしたら、個人の企業家には大いに役に立つ。
弁理士がこうした広い活動をするには、いろいろな制約もある。特に、「特許を出願していくら」というような報酬制度に基づいていると、どうしても特許出願、成立が究極の目的になってしまう。
いろいろなビジネスアドバイスを受け、サービスの内容やかかった時間に応じて報酬を払うというような大きな制度改定も必要である。
日本でイノベーション・エコシステムを整備するために、日本の弁護士、弁理士もさらに努力していただくことを切望する。