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米国のビジネス・知財最新情報

【第9回】 「三位一体の知財」(2010.10)

特許に加え、著作権とトレードシークレットを活用する

 研究者や技術者は、知財と言うと、まず特許のことを思い浮かべることが多いと思う。研究や開発を実践する中で、新しいアイデアが生まれれば、それは特許として出願できる。特許が成立すれば、多くの国で出願から20年間、そのアイデアを独占的に使用できる。もちろん、特許をライセンスしてライセンス料を得ることもできる。その特許がいわゆる基本特許と言われるような、全く新しい分野の基礎をなすような特許であれば、ライセンス料も莫大な金額になる。
 しかし、知財は特許だけではないことも忘れてはならない。特許に加え、著作権やトレードシークレットを状況に応じて三位一体で活用することが、これからの知財戦略には必須である。

技術の内容を表現する多くの書類やデータが著作権で保護される

 著作権は、「自らの思想・感情を創作的に表現した」ものであり、絵画や文芸、彫刻等、芸術的世界を保護することが多かった。しかし、コンピュータプログラムが、著作権で保護される表現の一つであることが確認され、技術工芸のような機能的なものも、それが「創作的に表現」されれば著作権で保護されることが分かった。
 また、著作権では、データも保護される可能性がある。例えば、タウンページのような職業別電話帳は、その分類方法に創作性があれば、そのページをそのままコピーできず、著作権で保護される。つまり、企業や技術者にとってみると、技術の内容を表現する多くの書類やデータが著作権で保護される可能性があるということである。

技術上、営業上の情報であって、公然と知られていないものを「営業秘密」と定義

 近年、不正競争防止法が改正され、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有利な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもの」を「営業秘密」と定義し、法的保護が与えられることとなった。これが日本におけるトレードシークレット保護の制度である。
 注意しなければならないのは、営業秘密保護のためには、(1)秘密として管理すること、(2)有用な情報であること、(3)公知になっていないこと、の3つの要件が必要なことである。
 企業にとって実務上特に重要なことは、最初の、秘密管理の要件である。これには、当該情報が秘密であることを認識できるようにしていることと、情報へのアクセスが適切に制限されていることの両方が必要だとされている。
 会社にとって重要な秘密は、必要最小限の関係者のみが知り、それ以外の人間はアクセスできないように、例えばコンピュータならパスワードで管理するとか、書面は鍵のかかった金庫に入れるというような形で管理するということである。

 前回の「契約社会」のコラムでも書いたが、従業員と守秘契約を徹底し、情報管理に関してきちんとした規則を作り実践することも重要である。

3つの知財制度を活用し、事業を有利に展開する

 特許と著作権は、例えば同じコンピュータソフトのようなものに関して両立し得るので、権利をどう確保するかは、重要なことである。
 また、ソフトウエアを顧客のために開発するような企業の場合、特許や著作権を留保し顧客に自動的に移転しないように契約で規定しないと、その後類似のソフト開発を継続できなくなる恐れがある。知財が将来のビジネスを拘束することにならないよう、注意が必要である。
 特許と営業秘密は両立しないことが多い。営業秘密は非公知性が要求されるが、特許は、出願後(日本では)18カ月で公表されるからである。
 そこで、新しいアイデアや情報があれば、特許を出願するか、それとも営業秘密として「門外不出とするか」という重要な選択をする必要がある。
 発明の中には、製造技術とかいわゆる「匠の世界」のように、アイデアの内容を明細書として特定しにくかったり、第三者が侵害していたとしても侵害を立証しにくいものも多い。そういう場合は、特許出願はあきらめ、はじめから「ブラックボックス」にして真似されないことを目指すべきである。

 発明や創作の内容や、技術分野に応じて、臨機応変にこれら3つの知財制度を活用し、事業を有利に展開することこそ、知財担当者の腕の見せ所である。


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