一般社団法人日本MOT振興協会

ホーム事業内容調査・研究事業知的財産委員会›コラム(米国のビジネス・知財最新情報)

米国のビジネス・知財最新情報

【第10回】 「ブランドの価値」(2010.11)

電子商取引の実態

 6月11日に経済産業省は、「消費者向け電子商取引実態調査」結果を発表した。(http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/denshi/pdf/21gaikyo.pdf参照)
 同発表によると、2009年3月末までの1年間で、インターネットを通じた消費者向けの物やサービスの売上高は、3兆1487億円となった。同省は、未回答分なども踏まえて推計すると、年間売上高は6兆円規模になると説明しており、消費低迷時代に有望なビジネス分野だと考えられている。
 商品を手に取って見ることができず、写真や説明書だけで、ネットを通じて目に見えない相手から買う商売は、これまでの日本人には不慣れな世界だった。


写真は、ショッピングモールの中のシアーズ社
(出展:Wikipedia)

米国シアーズ社はカタログ販売で成功

 他方、広大な国土の中で、なかなか店舗まで出かけて商品を手にとって見ることの難しかった米国では、通信販売は広く利用されてきた。1886年に腕時計を通信販売することでスタートしたシアーズ社は、カタログ販売を始め、大成功を収めた。「満足しなければ返金保証」の商法もシアーズ社の成功の理由の一つとして有名だ。

インターネットの時代、安心してネットサービスを利用できるかが課題

 インターネット時代に、どうやって消費者に安全で優れた品質の製品を届けられるか。どうしたら消費者は安心してネットサービスを利用できるかは、大きな課題である。
 日本では、商品を配達した時に「代引き」制度があり、壊れていない製品が配達されるのを確認してはじめて料金を支払う制度が広く利用されている。
 コンビニに配達されたものをコンビニで支払って受け取るのも、いかにも日本的な行き届いたサービスかも知れない。
 欧米では、クレジットカードがほとんどの場合使われることも知られている。
  しかし、消費者の満足は、支払の安全だけではない。期待していた性能が出ないとか、思っていたのと品質が違うとか、やはり手にとって確認しないと納得できない場合も多い。

ネット時代には、ブランドの価値が重要となる

 消費者が商品を手に取らなくとも安心して買う一つの大きなポイントは、売り手のブランドを信用するということではないか。
 あの会社のデザインが好きとか、あの会社なら品質は間違いないという実績が重なることによって、消費者はいちいち商品を手に取らずともその会社の製品やサービスをネットで買うのである。
 ネットの時代になると、今まで以上にブランドの価値が重要になると思う。
 ブランドこそ、企業にとって(前回書いた特許、著作権、トレードシークレットに続く)重要な「第4の知財」だと思う。
 ブランドは多くの場合商標として法的保護を受ける。そのため、各国で登録等の手続きが必要だ。世界レベルで、どうやって商標を知らしめ、良いブランドイメージを作っていくかは、企業の重要なマーケット戦略だと言える。それによって、企業の目に見えない価値をさらに高めることができるからだ。

ドメイン名がブランドになる

 近年、ブランドの一角にドメイン名が浮上した。ドメイン名は、実はインターネットの仕組み上は、電話番号や郵便番号のような単なる「識別子」でしかない。1980年代に、インターネットにたずさわっていた一部の技術者たちが、数字と小数点を組み合わせただけのIPアドレスという、いわゆるインターネットの電話番号に対して、人間が覚えやすいように「住所表示」を当てはめ、ドメイン名制度を作ったのだ。
 ところが90年代になって、インターネットの利用が爆発的に増加し、ドメイン名の配布が政府部門から離れ、商業化されると、例えば「Amazon.com」のように、ドメイン名が社名として世界中に知られるものが出てきた。日本でも、例えば「価格.com」は、社名であると同時に、ドメイン名であり、かつ事業を象徴的に示している。

ドメイン名は第4の知財である

 筆者は2000年から、ドメイン名を国際的に割り振り管理する国際機関(ICANN)のアジア太平洋地域代表の理事として、ドメイン名に関する活動にたずさわった経験がある。
 筆者は、国際会議の場で「ドメイン名は、識別子(identifier)から「会社や本人そのものを示すもの(identity)」になった」として、その合理的管理の重要性を説いた。
 それから10年近くが経ち、ネットの活用がさらに高まり、目に見えない相手を特定するブランドやドメイン名の役割もさらに高まった。この「第4の知財」をさらに上手にビジネスに活用することが、新しい時代のビジネスの成功の秘訣の一つだと考える。


Copyright © 2009 Japan MOT Association. All rights reserved.