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米国のビジネス・知財最新情報

【第11回】 「オンラインでの簡単な紛争解決手段」(2010.12)

目に見えない相手との紛争は極めて厄介

 インターネットやクラウドコンピューティングの時代になって、新しい技術やビジネスの負の側面が指摘されることが多くなった。

・ 「オンラインショッピングで注文したが、物が届かない。注文違いや粗悪品であったが、代金が帰ってこない」というような取引に関するもの。
・ 「ネットで自分の名前や著作物が勝手に使われている」というような知財に関するもの。
・ 「青少年に不健全なサイトがあるが、苦情を伝えても取り消されない」というような犯罪的なもの。

 互いに顔を合わせ、意思が確認しやすい場合と異なり、目に見えない相手との紛争は極めて厄介だ。しかも外国にいる相手となると、裁判など素人ではありえないことである。当然、泣き寝入りせざるを得なくなる。
 こうしたインターネット時代の紛争解決手段として注目すべきものとして、UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)を紹介したい。

統一ドメイン名紛争処理方針( UDRP )

 ドットCOM、ドットNETというようなドメイン名は、一般的には、先に登録した人や会社が早い者勝ちで取得できる。そのため、有名人や有名企業の名前を登録し、それらの人々や企業に後で高く売りつける者が出てきた。こうした行為をサイバースクワッティング(ネット上の居座りのような意味の造語)と呼ぶ。
 1999年にインターネットのドメイン名の管理団体であるICANNにより採択されたUDRPは、
(1)申立の対象となっているドメイン名が、申立人の有する商標と同一または混同を引き起こすほど類似していること、
(2)登録者が、そのドメイン名登録について権利または正当な理由がないこと、
(3)登録者のドメイン名が悪意で登録かつ使用されていること、
の3点が立証されれば、申立人は、相手方に対してドメイン名の抹消や移転を求めることができるとしている。

 UDRPの手続きは、すべてオンラインで行われる。
 しかも、申請書を裁定機関(世界知的所有権機関等、現在4機関)が受け取ってから通常45から50日で最終的判断を得られる。
 また費用も、裁定人(裁判官に相当)が1人の場合は1,500ドル、(当事者の希望により)3人の場合は4,000ドル(いずれも紛争対象のドメイン名が5つまでの場合)というように、比較的安価に抑えられている。
 裁定に不満がある当事者は、裁判所に申し出ることにより、再審査を受けることができるが、多くの場合は、UDRPの裁定結果だけで紛争が解決している。これまで既に数万件の紛争を処理している。
 日本でも、ドットJPについて、UDRPと類似した手続きが存在し、日本知的財産仲裁センター(http://www.ip-adr.gr.jp/)が、紛争処理にあたっている。
 松坂屋の事例では、matsuzakaya.co.jp はアダルトサイトだったが、最終的に松坂屋が同ドメイン名を回復した。

UDRPのような安価で効果的な紛争解決手段をもっと整備、普及すべき

 ドメイン名の紛争は、ドメイン名取得の時に、将来の紛争はUDRP等の手続きに委ねることを合意していることから、法的手続きが取りやすいという面もある。
 一方、ネット上の違法行為などは、相手の所在が分からないとか、法的に強制力が無いと言うように、手続きが難しい場合も多い。

 しかし、今後、国際的なネットワーク社会がますます発展する可能性を考えると、UDRPのような安価で効果的な紛争解決手段をもっと整備、普及すべきである。


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