【第12回】 「国際標準化」(2011.01)
日本で、知財戦略と並んで、国際標準化の重要性が指摘されてから久しい。
数年前に、中国で知的財産の大きなシンポジウムが開催され、パネリストとして出席する機会があった。
聴衆から、「中国では、『技術開発が重要だ。その技術を権利化するための知財戦略がもっと重要だ。しかし、最も重要なのは標準化だ。』と言われているがどう思うか?」という質問があった。
それに対して、私は「そのどれもが重要だ。日本では、技術開発戦略、知財戦略、標準化戦略が三位一体として事業戦略と結合することが必要だと常に指摘されている」と答えた。
今考えてみると、その頃から中国では官民挙げて、知財戦略、国際標準化戦略に取り組み始めていたのだろう。
過去数年間の中国の特許出願数の伸びを見ると、目を見張るものがある。
同時に、ITU(国際電気通信連合)等の標準化組織における中国、韓国勢の進出には、驚かされることが多い。 日本経団連が2004年1月に発表した「戦略的な国際標準化の推進に関する提言」(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/007.html)では、国際標準化活動の重要性を指摘したうえで、企業が標準化に携わる部署を設け、人材を育成すべきと提言している。その後7年が経った。 日本経団連の機関紙「経済Trend」2010年11月号(http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/trend/201011.html)を見ると、国際標準化が特集されている。
この間、日本企業が国際標準化で大成功を収め、大きなビジネス機会を創出した例は少ないように思う。これだけ国際標準化の重要性を指摘しながら、十分な成果が得られないのはなぜだろうか?
それは、やはり企業幹部が国際標準化の真の価値を評価し、ビジネス戦略として最大の活用をコミットしていないからだと考えざるをえない。
企業の中で、優秀な技術者は目先の開発に追われ、国際標準化活動のために出張したり、意見をまとめたりする余裕がない。
たまに標準化団体の国際会議に出張しようものなら、暇者扱いされ、肩身が狭いというのが、まだ現実なのではないか。
本当に国際標準化を推進するには、大変な努力が必要だ。
定期的に諸外国で行われる会議に出席し、自社や自陣営の技術を紹介し、会議をリードする。実際の活動はそうした会議の場だけではなく、むしろ日常の電子メールや電話会議でのやり取りによるところが多い。
私は、インターネットの制度にかかわる国際議論にかかわり続け、現在でもほとんどライフワークのように継続している。
例えば、インターネットのドメイン名に英語のアルファベット以外を用いることができるようにする(「国際化ドメイン名」という)ための国際ワーキンググループの議長を引き受けていた時代は、睡眠時間を削って夜中の電話会議に付き合わされた。
週末はほとんど電子メールのやり取りに費やしたことも多かった。クリスマス休暇から戻った世界中の仲間から一斉にメールが届いた結果、元旦の一日中、メールの返事に追われた時は、さすがにつらい気持がした。
世界を大きく変えるような基礎技術の場合も同じであるが、ビジネスモデルを大きく変えるような国際標準化は、目先の自社技術を外国に売り込むというような近視眼的な活動だけでは成功しない。
中長期的に見て、それが相手にとってもメリットがあるということを説得できない限り、相手は標準に同意しない。それができてこそ、大きなビジネスを生むのである。
日本が本当に国際標準化活動で成功したいなら、最も優秀な若い技術者たちを、積極的に標準化活動に参加させ、中長期の大きな目標を時間をかけて実現させるような経営的視点が不可欠である。
<連載:おわり>