【第7回】 製薬協知財支援プロジェクトの総括(2011.11)
本稿では、日本製薬工業協会(製薬協)が実施した「知財支援プロジェクト」の活動について総括する。
知財支援プロジェクトの活動は、これまでも色々な機会に紹介してきているが、とにかく、全く何もないところからのスタートであった。
最初に行ったのが、iPS細胞関連の研究を行っている大学・研究機関のリストアップで、科学技術振興機構(JST)のウエブで、「戦略的創造研究推進事業(CREST、さきがけ)のiPS細胞研究に関連した2領域における採択研究課題」に挙げられた大学・研究機関を中心としたデータ整備から始めることとなった。
このようにしてリストアップした大学の知財部門に、知財支援プロジェクトの活動をご説明し、11月中に2大学を訪問するところまで進むことができたが、「製薬協という薬の業界団体が、iPS細胞関連研究の知財支援を無償で行う」という活動の意味をご理解頂くのは容易なことではなかった。
その主たる要因は、知財支援プロジェクトの設立の経緯については前回ご紹介したが、新聞やTVなどのマスメディアが扱うニュースとはなっていなかったため、この活動自体が、大学の知財部門の方を含め、一般に認知されていなかったのが大きな原因である。
このようなこともあり、知財支援プロジェクトの活動をご説明し、訪問させて頂きたいと問い合わせた大学の知財部門の中には、「製薬企業がiPS細胞研究の知財支援にかこつけて研究情報を得ようとしている」と考えられたところもあったようで、活動当初は、「無料での知財支援ということですが、何が欲しいのですか」というような露骨なご返事をも頂いたこともある。
また、大学を訪問する際の窓口に関する適切な情報がなかなか得られなかったこともあった。公開情報やプロジェクトのメンバーの人脈をたどって知財支援プロジェクトのご説明や案内をしていくのであるが、適切なところにコンタクトできない場合もかなりあった。そのような場合、仕切り直しで別ルートをたどることになるが、ようやくたどりついた先で、「今まで方向違いのところにコンタクト連絡されていたみたいですね」と言われたこともあった。
このように、当初は、大学・研究機関の訪問にこぎつけるまでに悪戦苦闘したが、実際に訪問し、知財担当部の人とiPS細胞関連の研究者とが同席しているところで、iPS細胞関連研究のような最先端の領域では、知財戦略を意識しておく必要があることを懇切丁寧に説明し、ライフサイエンス分野における知財戦略に則した出願戦略をご提案すると、研究者と知財部門の担当者のいずれからも、「初めて聞く話だ」、「考えたこともなかった」との反応が示されるというのが一般的なパターンであり、プロジェクトメンバーとしては、苦労した甲斐があったことを実感できたというのが正直なところである。
知財支援プロジェクトの活動は、当初の予定通り2009年10月末で終了したが、2009年7月末には当初想定していた数(20研究機関)を超える34の大学・研究機関への訪問を完了、その後2009年10月末までは訪問した施設へのフォローアップ活動を行った。
1年間のプロジェクト活動を通じて、日本の大学・研究機関の知財部門は日本出願に意識が集中していること、同部門にはライフサイエンス分野出身者がほとんどいないこと等の理由から、製薬企業が行っているような、グローバルな視点での知財戦略、特に米国に対する知財戦略をほとんど意識していないことが判明した。
また、日本の特許事務所は、日本での出願・権利化についての専門家ではあるが、米国特許制度の特徴を活用した知財戦略を提案できるほどの事務所(代理人)は極めて少ないとの結論に達した。
このように、大学・研究機関の研究成果の知財戦略への対応は、日本の製薬企業と同様の認識で戦略的な対応を行っている欧米の大学・研究機関と比較すると、相当に大きな落差が存在していた。
研究の内容は、欧米の大学・研究機関で行われている研究のレベルと比較して全く遜色がない、むしろ優れていて研究のコストパフォーマンスが高いにもかかわらず、知財戦略が十分でない大学・研究機関が多いことに驚愕させられるとともに、これでは世界で戦えない、戦えないどころか日本で生み出された研究成果が他国に不当に流用されるのではないかとの危機感さえ覚えた。
早急にオールジャパンの知財支援体制を整えることが急務であると実感した次第であり、次回以降、今、我々ができることについて紹介していきたい。