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コラム:ライフサイエンス分野における知的財産戦略

【第8回】 オールジャパン知財支援体制の動き(2011.12)

実用化で欧米の後塵を拝するのはなぜか

 日本の大学・研究機関(以下、大学等)の研究内容は、欧米で行われている研究レベルと遜色がないのにもかかわらず、研究成果の実用化という面では欧米の後塵を拝していると言っても過言ではない。その主要な原因の一つは、「知財戦略が十分でない」ということである。
 前回紹介した製薬協iPS知財支援プロジェクトの1年間の活動を通してはっきりと見えてきたことは、日本の大学等の研究内容は世界に通用する優れたものであっても、日本での知財化のみを考え、グローバルな、特に世界市場の50%比較を占める米国への知財戦略に対する意識が十分でなかった点である。このことは知財の決定的な人財(知的財産推進計画2011に合せて“財”を用いる)不足に起因すると思われる。多くの大学等には、知財管理や技術移転業務を行う部署があるが、ライフサイエンスに特化した知識と経験を有する人財はほとんど見当たらなかったのが実情であった。
 ライフサイエンスに係わるグローバルな知財戦略の展開は、高度な専門的な知識と経験を要し、製薬企業においても10年位の歳月をかけて少数精鋭を育成するため、大学等の知財関連部署で、このような人財を育成・確保することは容易ではない。そこで、オールジャパンとして、日本の英知を結集して大学等の知財をサポートする体制を早急に構築する必要があった。

IPSNはバイオ・ライフサイエンス分野の知財サポートなどを行う

 2009年6月に策定された知的財産推進計画2009においても、「重点的に講ずべき施策」の中で、「先端医療分野における大学や研究開発機関の研究者等が知的財産について相談できる体制の整備、これらの機関の知的財産専門スタッフのさらなるスキルアップ、先端医療分野の技術や海外の特許制度や知的財産の活用に詳しい知的財産の専門家の育成・確保に向け、必要な措置を2009年度から検討を開始し、早急に結論を得る」と明記されており、この年度の文部科学省の予算では、これを先取りする形で、知財支援に関する費用として、文部科学省が主管する「iPS細胞等研究ネットワーク」に参加する大学等に対する知財コンサルテーションの実施費用などが計上された。
 一方、ほぼ1年前にスタートした製薬協iPS財支援プロジェクトのメンバーが訪問した34の研究諸施設でも、知財相談に関連して、プロジェクトの終了後、知財戦略の支援継続の要望、あるいはiPS細胞関連研究以外の分野での知財支援などについて、多くの質問ならびに要望を受けた。
 このような理由から、バイオ・ライフサイエンス分野や先端医療分野における(1)知財サポート、(2)知財に関する啓発活動、知財人材の育成・確保、及びアジアネットワーク構築を使命としたナショナルプロジェクト的会社「知的財産戦略ネットワーク株式会社(Intellectual Property Strategy Network Inc. (IPSN)」が、関係省庁、製薬協・バイオインダストリー協会などの業界諸団体、各界有識者等のご支援を受けて、2009年7月1日に3人の発起人により設立された。

 IPSNは、設立に当たり、上記4つのミッションを果たすことによって社会に貢献することを決意し、知財に関する産官学オールジャパン体制による“知の結集”と“事業化”を目指して、世界を相手に実践的な知財戦略・ライセンス戦略を展開してきた大手製薬会社の経験豊富な人財を中心に、主として大学等から生まれた研究成果の知財価値の向上(知財戦略・戦術、知財評価、技術提携・紛争解決、事業化マッチングなど)に向けた活動を開始した。

【IPSNのミッション】

  • 知財サポート:大学・研究機関及びベンチャー企業などに対して多面的な知財支援を行い、知財価値を増大させること
  • 我が国における知財マインドの啓発を行うこと
  • 我が国における知財人材の育成と確保を達成すること
  • アジア諸国において知財を中心としたネットワークを構築すること

 会社設立後間もなく、上記の文科省の「iPS細胞等研究ネットワーク」から知財戦略に関するコンサルティング業務を受託することができ、2009年10月から2010年3月まで当該ネットワーク参画大学等に対して、知財コンサルティングやセミナーを行ってきた。

 次回は、IPSNの具体的な事業活動について、紹介をする。


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