【第9回】 知的財産戦略ネットワーク梶iIPSN)の活動(2012.1)
IPSNは、前回ご紹介した4つのミッションを掲げて2009年7月1日に設立され、同年10月から本格的に活動を開始した。
IPSNは、国内外の大学・研究機関、企業等を結ぶネットワーク会員制度を採用し、先端技術に関する研究成果から生まれる知財の価値最大化のために、
1)グローバルな知的財産戦略支援、
2)知財の啓発、
3)人材の育成・確保、
4)アジアネットワークの構築、
を目的としたネットワークを構築している。
ネットワーク参画会員数は、現在、優先会員及び賛助会員からなる企業会員が30社、大学・研究機関からなる連携会員は70機関(海外研究機関含む)を超え、IPSNのネットワーク基盤が、確固たるものになりつつある。
以下、IPSNの具体的な4つのミッションのうち、知財サポートについては、若干詳細に、また、その他のミッションについては、簡略に紹介する。
IPSNでは、連携会員の研究成果について、会員から依頼があった場合、守秘義務のもと、相談内容及び研究内容の説明や特許、文献又は関連資料等の提供をお願いし、それらの知財価値向上のためのアドバイスを行う知財コンサルティングを無料で実施している。
また、会委員が希望すればIPSNの広い太いパイプを通じたマッチング支援あるいはライセンス支援も実施している。
これまでに実施した知財コンサルティングの主なものは、
(1)研究成果を最大限に生かしたクレームの立て方(例えば、研究段階や研究成果に応じて、標的タンパク、診断法、スクリーニング法、創薬など順次クレームを作成して特許化を進めることなど)、
(2) 出願第一国の選択、
(3)特許庁からの拒絶通知に対する反論案の作成や指令への応答対策、
(4)アメリカ仮出願又はPCT出願等のクレームの作成等の相談、
(5)アメリカ本出願やPCT出願までに行える特許補強策、
(6)新たな追加出願の要否、詳細な特許調査を含む特許性の検討や知財戦略の提案など多岐にわたる。
特に、研究成果を最大限に生かした出願については、研究の進捗状況及び今後の計画や研究成果に応じて、標的タンパク、診断法、スクリーニング法、創薬など順次クレームを作成し特許化を進めることなどを、研究者及び知財担当者、特許事務所に説明してきた。また、大学等から相談のあった研究や特許は非常に優れたものが多いことから、常にグローバルな事業展開を念頭に置き実践的な知財戦略の提案や、アメリカ仮出願の戦略的活用についてアドバイスを行っている。対象分野も、医薬全般、医療機器、診断薬、iPS細胞関連技術等再生医療分野、外科手術機器、バイオ技術等ライフサイエンス分野における広範にわたる技術をカバーして実施している。
知財コンサルティングの次に多いのが、共同研究やライセンス等のマッチングに関するコンサルティングである。
大学等が保有する知財に関し、
(1)大学と企業間での共同研究の進め方、
(2)共同研究契約の内容のチェックや留意点の指摘、
(3)ライセンス契約の契約条件等へのアドバイス、
(4)出願済の特許の事業化戦略、
(5)最適な提携先紹介の依頼も含め企業との提携案等
種々の項目について、実践的なアドバイスを行っている。
また、小規模な組織からなるベンチャー企業等においては、知的財産部門が整っていない場合も少なくない。そこでIPSNでは知財部門のアウトソーシングとして知財部関連業務の代行を行っている。社内に知財担当者がいないベンチャー企業に対しは、発明者との面談に基づく発明の把握とそれに基づく知財戦略の立案、基礎となる発明の出願に関する特許事務所との対応等について支援を行っている。
我が国における知財マインドの向上を目的として、春秋の年2回、産学官のオピニオンリーダーにお願いしてセミナーを開催している。
IPSN会員に対するデューティであるが、本セミナーは一般にもオープンされてり、毎回多数の外部の方々の参加がある。
2011年9月から3カ月間にわたり、医学系国立大学の若手知財担当者のOJT研修を行った。短い間ではあったが、医薬・ライフサイエンスに特化した知財戦略の立て方、企業の有用な研究シーズの識別、ライセンス戦略等の実践を踏まえてトレーニングを行った。
現在、古巣の大学に戻り、IPSNとの連携を保ちつつ、真の意味での知財戦略を実施している。
今年4月からは、別の国立大学の弁理士人材を受け入れて、同様のOJT教育を実施する予定である。
先端技術分野の進展が目覚ましいアジア諸国(中国・台湾・韓国・シンガポール・インド等)に対して、IPSNが積極的な役割を演じてネットワーク構築を推進しつつあり、各国における研究開発戦略・知財戦略・事業化戦略・マッチング交渉等を支援している。
2010年8月からは、新たなミッションが追加された。官民投資会社の且Y業革新機構を中心とした、日本初のライフサイエンス系知財ファンド「LSIP」の運営業務を受託することになった。
次回は、このLSIPについて紹介する予定である。