【第3回】 知財の覇権争いが激化
● “企業は国家を選ぶ”
日本人は、特許は国家による独占権の付与という古い考えにとらわれがちだ。しかし特許システムは、国家によるサービス提供であり、「サービス産業」としての性格を持っている。企業は、国際化が進むにつれ、良いサービスを提供する国を選ぶように変わっている。特許システムも国際的なサービス競争が始まっている。
● 米 アメリカン・スタンダードで世界支配をねらう
米国は、世界一の技術力と市場を背景に、知財分野も世界のセンターであり続ける方針だ。米国の知財スタンダードを、世界のデ・ファクト・スタンダード(事実上の標準)にしようとしている。
米国の知財力の源泉は、司法力にある。司法力は、CAFC(知財高裁)とITC(国際貿易委員会)という知財専門の国家機関に加え、膨大な数の知財専門の弁護士が作り上げる。CAFC(知財高裁)の首席判事は国際活動に熱心であり、日本に毎年、数回来て、講演するほか、ミュンヘン、北京、台北、ニューデリーなど、毎月のように海外出張している。これは結果として、アメリカの知財司法のセールス活動になっており、総合的な知財の司法力を活用して、世界の知財ユーザーを集める。2010年11月の首席判事の就任式には、世界中から数百人のゲストが参加した。日本の知財高裁の所長就任に、このような風景は見られない。
米国は、GATT(関税および貿易に関する一般協定)をWTO(世界貿易機関)に拡大させ、TRIPS(知財協定)を導入し、自由貿易をしたい国は知財を守らなければならないという国際ルールを入れるのに成功した。さらに、スペシャル301条(知的財産に対する対外制裁)を活用。その後、世界180カ国が合意しなければまとまらない世界交渉に見切りをつけ、2カ国間や数カ国間のFTA(自由貿易協定)交渉に移行。そこでは、知財が交渉の重点項目だ。日本では世界ルールができるのを待っている人も多いが、米主導の条約交渉を待っていても取り残されるだけだ。
● 欧州 知財も欧州統合を推進
EPO(欧州特許庁)は、すでに30年以上の歴史を持っており、EU全加盟国で効力を有する単一の特許である「共同体特許」の実現に向けて議論中。
また、欧州統一特許訴訟制度についても、2009年12月には、EU競争力理事会は、EU特許裁判所の設置形態について、部分合意したと発表した。
商標や意匠についてはOHIM(欧州共同体商標意匠庁)が設立され、統一商標や統一意匠が誕生。
● 韓国 知財の国際ハブが目標
韓国では空港や港で国際ハブとして成功しており、知財についても国際ハブになることを目標にしている。2009年に大統領の指示のもと、知的財産政策協議会を設立し、製造業強国から知財強国へ跳躍しようとしている。2010年7月には、知財基本法も成立した。
特許庁の審査官や弁理士も英語が得意な人が増えており、特許の国際調査機関として、米国発・PCT出願の国際調査の30%を引き受けるに至っている。調査対象には、英語・韓国語文献だけでなく、日本文献も含まれて好評だ。
● 中国 世界一の知財大国を目指す
中国は、知財に関する法律はWTO(世界貿易機関)に適応するものになっているが、運用が問題で、「世界のニセモノ工場」と非難されている。2008年に国家知的産権戦略要綱を作り、「ニセモノ国家」から知財国家への脱皮を目指す。
2010年の特許出願数は、米国に次いで2位に浮上した。実用新案、意匠、商標の出願件数はすでに世界トップであり、2015年には、特許・実用新案・意匠の出願を合計で200万件に増やす知財計画を推進中。(2008年の特許出願件数 29万件)