【第5回】 日本は知財革命を起こせ
● 知財はサービス産業だ!
知財は独占権を付与する国家権力の行使と言う発想をやめて、発明家をはじめとする利用者に対する「サービス産業だ」と発想を切り替えなければならない。“早く 安く うまい”サービスを提供し、顧客満足度(CS)をあげる国際競争が始まっている。
知財システムの顧客は特許権者などのユーザーだけでなく、その後ろにいる世界市民であり、彼らの顧客満足度を高めることが重要だ。
日本の特許改革は待ったなしだ。
● 特許法の理念を変える
(1)特許法の目的を「国内産業の保護」から「世界文明の発展」に拡大する
(2)特許の定義については、「自然法則を利用した技術的思想の創作」から「自然法則を利用した」を削除し、IT関連技術やバイオ技術など、広く対象にする
(3)特許の要件の「産業利用可能性」を削除して、米国のように医療特許を広く認める
● 審査請求制度を廃止して特許審査を早くする
(1)出願したら即時審査が本来の姿
先端技術は5年もすれば時代遅れ、10年したら古色蒼然、20年経ったら前世紀の遺物だ。(元東工大教授今野浩著「工学部ヒラノ教授」)特許は他人の権利を排除するものであり、早く決めないと他人の迷惑になる。特許は科学技術の進歩に寄与することを目的にしているので、特許になるかどうか早く決めて技術競争を加速すべきだ。
このため、審査請求制度を廃止して、出願したら即時に審査されるようにする。
(2) 滞貨一掃、即時審査の目途がついた
特許庁の大変な努力と500人の任期付き審査官の効果により、2009年度には、滞貨件数は69万件まで下がった。審査請求件数(IN)25万件に対し、一次審査件数(OUT)は37万件だから、毎年12万件の滞貨を取り崩しているので、あと6年で滞貨がゼロとなる。そうすれば、出願すれば待たずに即時審査となる。
● 審査の質の向上
審査は、ルールとデータベースと審査官の3要素からなる。
まず何が特許になるかのルール。ルールとしての審査基準は現在、特許庁の内規だ。経産大臣が特許法に基づくものとして責任を持って決めて経産省令として公開すべきだ。そうすれば、裁判所も有効・無効の判断をその省令に基づいて行うようになる。
次にデータベース。特許の審査は、出願の内容が、従来の科学技術や発明に比べ、新規性・進歩性があるか判断するもの。そのデータベースが検索されやすい形で全面的に公開されれば、出願人も事前に予測できるようになる。
何よりも審査官。日本の審査官のレベルは高い。しかし科学技術は目覚しく進歩し、国際化が進んでいる。審査官もたゆまぬ努力が必要。一番有効なのは、スポーツの審判と同じように、国際交流をすることだ。そのためにも、他国との共同審査が有効だ。
● 審判制度を準司法機関らしくする
特許庁の審査結果に不満な人は、特許庁に審判請求する。特許が認められなくて不満な人と、他人の特許がおかしいと不満な人がいる。争いごとだから、手続が重要だ。特許庁の審判に対して、遅いことに加え、手続きが乱暴だという批判が強い。
審判官は技術に詳しいだけでなく、訴訟手続きにも詳しくなければならない。国民の信頼を高まめるために、審判官を任用する際は、訴訟手続きについて研修や試験をもっと厳格にする。審判に弁護士にも出来るだけ参加してもらう。
● ダブルトラック(特許庁と裁判所の二重路線)の廃止
以前は、特許の有効・無効は特許庁の審判が判断し、裁判所はその結果を尊重していた。しかし、特許庁の審判が数年かかり、特許の侵害訴訟が遅れる原因となっていた。そこで、特許の有効性を特許庁の審判だけでなく、裁判所でも争えるようにした。これがダブルトラックだ。(特許法104条の3)。
特許の侵害訴訟を早くするという意図に反し、特許権者が侵害した者を訴えても、被告側は特許の無効が認められるまで、色々なルートで無効を訴え続けることができるので、かえって時間がかかり、結果として被告に有利な制度となってしまった。
特許権者は、すべてのルートの戦いに「全勝」しなければならないので、実際に大変で、「特許は侵害し得、侵害され損」の状態になっている。
また裁判所で特許が無効と判断される事件が続き、特許権者が裁判を国内で起こさない機運が生じた。
従って、審判制度の改革と合わせ、ダブルトラックを廃止すべきだ。裁判所の約40名の調査官に対し、特許庁には約2千人の技術の専門家集団がいるので、その有効活用を図るように制度を直すことは国家的な利益だ。
● 知財高裁の機能回復
知財は権利を取得するだけでは意味がなく、裁判所によって保護されて初めて意味がある。国際化の進展により、多くの製品は世界中で売られており、特許や商標の侵害は世界中で起きている。知財裁判は他の裁判と異なり、世界中で提起し得る。このため知財裁判所は国際競争にさらされている。
米国では1982年にCAFC(知財高裁)が設立され、プロパテントを明確にした。特許権侵害訴訟の件数は900件(1976年)だったものが、1,000件(1983年)、3,000件(2004年)と増加した。CAFCが大きな役割を果たしている。
これに比べ、日本の特許権侵害訴訟件数は2004年度に217件あったものが、2007年度には156件に減少しており、知財裁判の空洞化が懸念されている。
機能回復のためには、訴訟当事者から見て判事が技術が分かる専門家として認められることが必要だ。
それから知財訴訟に関する国際センターになることが必要だ。日本で毎年、主要国の判事、弁護士、弁理士、企業関係者、学者の参加を求め、国際シンポジウムを開催したらどうか。