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コラム:知財革命のすすめ   −知財の国際競争を勝ち抜く−

【第7回】 企業の知財戦略を国際化する

(1)戦略は変わる、古い戦略にこだわるな

 21世紀になり、企業の事業環境は大転換している。
 知識経済が進行し、知財戦略・標準戦略の果たす役割が決定的に重要になっている。企業の特許・標準戦略をどんどんグローバル化しなければならない。


● 事業戦略・技術戦略・知財戦略・標準戦略の一体化

 従来、事業戦略、技術戦略、知財戦略、標準戦略は、会社の中の担当部が独立して作っているケースが多かった。知識経済が進行する21世紀は、全社的に協力して、相互連携のある形で作らないと、国際競争に負けてしまう。
 企業の国際的な営業戦略に先行する形で外国特許を取得すること。中国の新幹線特許問題の教訓は、中国をはじめ、新興国は世界中のメーカーに競争させ、できるだけ技術を移転させ、その後自由に使おうとすることだ。「1号機輸入、2号機国産、やがて輸出」は、日本も戦後取った戦略だ。技術は移転先でも成長し、やがては国際市場で競争相手となる。それを先取りする形で、色々な国で特許を取得しておくことが肝心だ。


● 知財戦略の総合化

 今まで特許・営業秘密・商標・意匠・著作権をバラバラに管理していた企業が多い。
 技術開発に成功すれば何でも出願する企業もあった。特定の発明や技術はブラックボックス化して、ノウハウとして秘匿しなければならない。事業化と特許性を見据えて出願を厳選する。審査請求する価値あるものだけ、出願する。そうでないとライバル企業に情報が公開される。
 企業の事業戦略を考えて、商標や意匠との連携、ソフトウエアについては著作権保護との組み合せを図る。


(2) 何よりも知財戦略を国際化すること

● 知財も国内試合から国際試合へ

 第2次大戦後、日本企業は国内市場を米欧の企業から守ることに力を入れ、国内出願中心で来た。そのため、しばらく前までは海外に出願するのは10分の1で、最近やっと25%まで上がってきたが、欧米に比べて依然低い。国内だけで使われる技術や商品はほとんどないにもかかわらず、海外で出願しないことは、海外で真似されても文句を言わないということ。特許は出願後18カ月すれば、すべて技術情報が無料公開される。海外のライバル企業は、それを読んで勉強する。海外に出願しないことは、敵に塩を贈ることだ。
 従来、日本企業は国内のライバル企業との特許競争に明け暮れしてきたが、スポーツのオリンピックやワールドカップと同じように国際試合に力を入れる時代が来た。


● 知財部門をグローバル化する

 日本のほか米国、欧州に自前の知財センターを設置し、代理人を通さない現地出願体制を作り、3極同時出願を進める。
 米欧の研究開発センターと連携し、現地発明の発掘、早期出願、早期権利化を進める。
 外国企業との技術提携や国際的な特許紛争に迅速に対応する。
 業種によっては中国に自前の知財センターを作ること。


● 米国の特許制度を活用する

 米国の方が、日本より広い特許が早く取れる。
 日本の特許改革を待っていては国際競争に負けてしまう。
 日本国内の出願にこだわらず、先端技術の主戦場である米国での特許取得に力を入れている日本企業が増えている。


● 特許明細書の原文は日本語ではなく英語とする

 日本では技術を説明する特許明細書は「明細書文学」と言われ、読んでも分かりにくい。
 しかも、日本語は主語があいまいなので、英語、中国語などに翻訳されたものは違った意味に変わっていることも多い。


● 特許の出願は外国にも出願するものに絞り、国内だけの出願はやめる

 日本の特許文化の特色は、「大量出願」にある。日本では、企業の出願件数が技術力の指数とみなされ、出願競争を行った。企業は、「ノルマ特許」「出しとけ特許」と言われるほど、研究者・技術者に特許出願を奨励し、1社で年に2〜3万件出願する電機メーカーもあった。かつて日本企業は売上高競争、シェア争いをしていたので、その風土が特許出願にも及んでいたためだ。その結果、GDPで米国の半分の日本が世界一の出願大国となった。
 日本企業の出願は件数(枚数)が多くても価値は低く、米国の特許は1万円札で、日本の特許は千円札だと比喩されることもある。日本企業は特許の出願件数が多いにもかかわらず、最近まで特許料の支払いと受取の収支が赤字の企業が多かった。
 売上の半分以上は、海外という企業も増えている。国内だけで使われる技術は今やない。会社は世界でどのように技術開発し、どこで製造し、どこで販売するか、国際的に考えている。特許の出願も国内だけの出願は意味がなくなってきた。まず国際出願を考え、特別なものだけ国内出願するように発想を逆転する。
 もちろん、最近は企業も国際出願を増やしている。日本人による特許出願は過去15年間で、約10万件増えているが、そのすべてが外国への出願だ。
  1995年 40万件(うち日本特許庁へ33万件、外国へ7万件)
  2008年 50万件(うち日本33万件、外国17万件)



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