【第8回】 5段階アプローチで世界特許を実現する
(1)世界特許の必然性
現在、発明をすれば、日本だけでなく色々な国の特許庁に出願して特許を取らなければならない(各国特許独立の原則)。これは工業所有権に関するパリ条約が、はるか120年前の1883年に作成されたものであり、当時は今ほど貿易も海外投資も盛んでなく、各国の法制度がマチマチだったためだ。
特許は世界で最初の発明に与えられるものであり、スポーツで言えば世界記録の認定だ。それを国ごとに行っているようなもの。パリ条約から120年以上経っており、今や次の3つの事情から、世界特許を早急に実現すべきだ。
● 特許のDNAは国際性
“科学技術に国境なし、されど我に祖国あり”
科学技術の成果を保護する特許は、本来、国境がないハズ。
ちなみに著作権は、ベルヌ条約や万国著作権条約のもと、相互主義で相互乗入を認めているので、世界著作権と言える。商標も国ごとに登録が必要であるが、世界で売られている商品については著名商標として、事前の登録が無くても保護しており、事実上の世界商標が始まった。
● グローバル経済の到来
インターネットの進歩、航空便や輸送船の発達などにより、経済のグローバル化、ボーダーレス化が進んでいる。企業戦略も国際化しており、アップルやグーグルに見られるようにビジネスモデル全体が国際化されている。
WTOやFTAにより、貿易や海外投資の自由化が進み、企業活動に関するルールも国際標準化が進んでいる。かつては、各国の主権といわれていた安全に関する基準・認証も相互承認されている。銀行活動や会計基準の国際標準化も着々と進んでいる。
特許はビジネスモデルの一要素に過ぎないが、その国際化は、企業活動やビジネスモデル全体の国際化に比べ、日本は“1周遅れ”だ。
● 特許爆発(Patent explosion)
世界の特許出願は毎年増加しており、2008年には190万件になり、そのうち40%が外国からの出願で重複している。特許を国別に出願しなければならないため、同じ発明を色々な国に重複出願し、同じ発明を各国の特許審査官が重複して審査しており、「特許爆発」と呼ばれる現象が起きた。
同じ発明を重複して審査することは、国際的なムダである。各国は審査官を増員する予算と人員の確保に苦労している。また、国ごとに審査をするから、特許が認められる国と認められない国が生じたり、権利の範囲が異なったり、国際ビジネスの障害だ。
(2) 世界特許への5段階
世界特許は、WIPO(世界知的所有権機関)に180ヶ国の加盟国が集まって交渉してもまとまらない。日本は世界一の知財大国として、世界特許を次の5段階のステップで実現するようリードすべきだ。
第1段階 特許審査ハイウェイ(PPH)
日本のリードのもと、一国の審査結果を他の国が活用するという特許審査ハイウェイが進められている。特許庁が国際的に審査結果を利用し合うという意識をもたらす効果が大きい。ただし、これを利用するとライバル企業に戦略がばれることもあり、その利用率は1%に過ぎない(日本から米国へのPPH利用件数は2006年7月から2009年7月までの3年間で累計1,375件。年平均で500件。一方、日本から米国への出願は8.2万件で、うち特許付与されるものは年平均3.3万件。従って利用率は1.5%)
第2段階 共同審査
例えば、日米の年間100件以上の出願実績ある会社(特許出願のレベルが一定の水準に達している)が、日米に共通に出願したものを、日米の審査官が共同審査する。別々に審査しているのを一緒にやるので、英語の文献も日本語の文献も広くチェックでき効率的で、審査の質も上がる。特許庁にとっても、出願人にとってもメリットが大きい。
これは第1審の審査を共通にするものであり、両国の審査基準は現行のままとし、第2審の審判・再審査請求はそのまま残すので、第3者の利害は従前と変わらない。誰も困る人はいない。これを欧州、韓国、中国にも広げる。必要ならば捜査協力を参考にして政府間で秘密保持協定を締結する。
第3段階 相互承認
共同審査を5年行えば、審査基準、データベース、審査官の判断の違いが具体的に分かり、必要な調整を行うことが可能となる。その調和を踏まえて、日米の審査結果を相手国がそのまま受け入れる相互承認に発展させる。基準認証の相互承認と同じ考えだ。第2審の審判・再審査請求は残すので、第3者の利害は損なわれない。
第4段階 フォーラム特許(有志国間特許)
2国間の相互承認を日・米・欧州・韓国・中国の5大特許庁に広げると、フォーラム特許となる。これで世界の出願の80%はカバーできる。
第5段階 世界特許
特に情報技術分野では5大特許庁以外の国もカバーすることが必要なので、世界特許に発展させる。少なくとも模倣品・海賊版が出回らないようにする。