一般社団法人日本MOT振興協会

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知的財産委員会報告

第2回 知的財産委員会(平成21年9月16日)

9月16日、第2回の「知的財産委員会」(委員長・荒井寿光東京中小企業投資育成社長)を開催。米国駐在から帰国したばかりの富士通研究所の加藤幹之常務を講師に招き、「米国の最新ビジネス事情と、知財動向のポイント」のテーマで、生々しい米国の現状報告を聞き、質疑応答や意見交換を行った。

■第2回 知的財産委員会の報告

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荒井委員長(右から2番目)「MOTらしく、経営者のためになる知財を研究したい」と運営方針を示す。右から加藤委員、荒井委員長、石田副委員長、橋田専務理事

9月16日、知的財産問題の国際通の加藤幹之富士通研究所常務を講師として招き、荒井委員長、石田副委員長、橋田専務理事に、今回から小平事務局長が加わり、第2回知的財産委員会を開催した。

専門家の最先端の話を伺いながら委員会を編成していく

初めに荒井委員長から「当協会の知的財産委員会は、『MOTらしい、経営者のためになる知財とは何か』を主題に、各界最高レベルの専門家を招き、知財問題についての最先端の話を伺い、お互いに意見交換を進めながら、委員会を編成していくやり方を取る」と説明、「そうした勉強を重ねながら、大学の出前講義のように、シンポジウムやセミナー開催、新聞・雑誌等への記事掲載、経営者への啓発、特許庁など政策当局に対する要望など、広くアウトプットを世の中に訴えていきたい」と委員会運営の趣旨を述べた。

米国の最新ビジネス事情を踏まえた知財問題を聞く
 − 富士通研究所の加藤幹之常務から聞く −

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国際的な知財問題に精通している加藤委員(右)から報告を聞く。中央に荒井委員長、左に石田副委員長


本日は、かつて米国ワシントンに13年駐在、昨年から富士通米国法人があるシリコンバレーに駐在し、今年7月に帰国したばかりの、国際的な知財問題に最も精通している加藤常務から当委員会のため作成した「米国の最新ビジネス事情を踏まえた知財問題についての一般的所感」と題するレジメに沿って説明を聞いた。

(1)不況下の研究開発と知財、今こそイノベーションが必要

米国は、現在、大規模な財政出動を展開しており、米国企業で占められる大手30社が電力開発分野の研究費補助を享受している。オバマ政権の<1>スマート・グリッドで電力向けに、<2>グリーン政策で巨大エネルギー予算を投入を注目すべきだが、米国だけでなく、諸外国は競って5年先、10年先の基礎技術研究、国プロの財政投資、税制措置等を実行中だ。日本は危機感を持つべきだ。

(2)産業構造の変化と国際環境の変化
 − 座視していると日本は遅れる −

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報告を聞く橋田専務理事(左)、石田副委員長(右)


「日本技術の相対的地位に変化」「結果として、知財制度をどう見るか」という視点で世界の技術がどう変わるか。これまでイノベーションから遠かった部分が注目される。富士通でも、農業をITでどう効率化するかを研究している。BRICs諸国は、この1年で完全に浮上した。さらに、米国の最前線では、<1>中国よりインド圏が強くなるとの見方が出ている<2>新しい「北北問題」が注目されている。イノベーション・エコ格差が起因しており、座視していると日本が遅れるかも知れない恐れがある。

(3)自然科学と社会科学の融合領域でのイノベーション
 − 人間行動の分析、研究が重要 −

富士通グループを例に取ると、現在の技術研究の中心は、まさにこの点にある。まず<1>「ものづくり」+「社会科学系」と言え、「社会科学系」の研究は、日本が遅れている。人間社会を変えていく技術をどうとらえるか。人間行動の分析、研究が重要である。<2>さらに、医療制度もからんでくる。<3>また、人間行動と社会システムを考えた場合、情報を交換する手段である、センサー技術、ICタグ、IPv6なども注視すべきであり、米国では、すでに半分は実用化されている。イノベーションも複合型になる。<4>IT、コンピューターは世界のエネルギー消費全体の2%を占めているが、例えば、グーグルの動きを見ても分かるように、ITが環境問題の解決に貢献する度合は、はるかに大きい。余談だが、コンピューターやチップのエネルギー消費のうち、50%以上は冷やすためのエネルギー、つまり冷却装置に使われる。電源部分の効率化にカギがある。

(4)クラウド・コンピューティングの到来
 − まだ雲の中にある状態だが、「何かある」 −

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荒井委員長(左)と加藤委員(右)の間で活発な質疑が進む

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「米国のイノベーションを座視していると、日本はまた遅れる」と指摘する加藤委員


まず、クラウド・コンピューティングの到来は、「素晴らしい革命」である。米国では、シリコンバレーを中心に広がっており、まだ雲の中にある状態だが、「何かある」との確信がある。ソフトウエアやインフラストラクチャー・アズ・ア・サービスが確立すると、アプリケーションは要らず、自分は端末器を持ちさえすれば自由に活動ができる。米国では、巨大コンピューターセンターを基盤に、あらゆる種類のソフトやデーターを企業ユーザー対象に提供することが始まっている。グーグルはすでに全米4位のコンピュータ企業だという言い方もある。米国北部や北西部、カナダなどの寒冷で水力発電所の近くに、サーバーが10万台規模の巨大なセンターを作り始めている。クラウド時代は、個人ユーザーが圧倒的であり、この人達は、コンピューターを見たことがなく、ソフトがどこにあるか分からなくとも、課題を打ち込むと、瞬時に回答が得られ、お金の決済もできる。シリコンバレーのベンチャービジネスでは、クラウドを利用すると、設備投資を必要としないし、コストは安く済むので、ユーザーが急増しでいる。



(5)プロパー・パテント プロイノベーションの視点
 − 権利制限の動き、トロール問題 −

皆が情報を使いやすくするためには、保護と利用のバランスを考えたプロパー・パテントは絶対に必要である。また、米国では、クリエイティブ・コモンズの考え方が、普通のことになっている。
さらに、米国では、昨年暮にFTCが知財公聴会を開いたが、特許は権利制限の方向に動いている。また、トロール問題も注目しておくべきである。

(6)知財の経営資源として活用、米国に比べ不十分
 − 10年後のビジネス、技術のビジョンの実現 −

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議論が進む委員会。荒井委員長(右)から左に石田副委員長、橋田専務理事、加藤委員


今夏、日本に帰国して、「知財」がまだまだ経営に活用されていないことを痛感する。例えば、IBMは、「スマーター・プラネット」を大々的に打ち出しているが、これは、同社の将来のビジネス、技術のビジョンを社会に訴えて、そのビジョンを実現していく経営戦略である。オラクルとサンや、EDSなど大手コンピューターメーカーも同じ方向に動いている。富士通も、挑戦すべきだと思っている。また、別の話だが、米国では、大手企業の中で、有望な発明家に投資する「インテレクチュアル・ベンチャー」という企業が成長しようとしている。私も、機会があれば、是非ともベンチャー設立を試みてみたいと考えている。

(7)イノベーション・エコシステム、日米に大きな違い
 − シリコンバレーには、目利きが揃っている −

米欧企業では、インテル・キャピタル社のように、ビジネスのスピンオフや外部技術に対する投資が活発化している。こうした動きは、イノベーションギャップを解消して、健全な方向に進んでいると言え、エコシステムの活用によって、経営者の仕事を助けることができる。
また、グーグルでは、グーグル・ブックやグーグル・マップが爆発的な普及を示しているが、例えば、グーグル・マップの例を見ると、3次元インターネット画像の個人の利用率は50%を超えている。技術者は会社に出社しなくても良く、定期的に審査するだけであり、勤務の自由度が高い。

(8)イノベーション・エコシステムを使う側の意識改革
 − グーグル・ブックなどが爆発的に普及 −

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報告をする加藤委員(右)。中央に荒井委員長、石田副委員長(左)


米欧企業では、インテル・キャピタル社のように、ビジネスのスピンオフや外部技術に対する投資が活発化している。こうした動きは、イノベーションギャップを解消して、健全な方向に進んでいると言え、エコシステムの活用によって、経営者の仕事を助けることができる。
また、グーグルでは、グーグル・ブックやグーグル・マップが爆発的な普及を示しているが、例えば、グーグル・マップの例を見ると、3次元インターネット画像の個人の利用率は50%を超えている。技術者は会社に出社しなくても良く、定期的に審査するだけであり、勤務の自由度が高い。

(9)弁護士や弁理士の業務の拡大

米国などと比較して、日本の弁護士や弁理士は、仕事の範囲が狭すぎる。シリコンバレーでは、弁護士達は、契約からアドバイスまで、クライアントの真に求めるサービスに沿って、すべての業務をこなすことができる。意識改革は必要である。

(10)契約社会の形成

契約社会の遅れは、特に、国際的な場面で不利になる。守秘契約の徹底や、ライセンス契約の保護など、取り組むべき課題は少なくない。

加藤常務の説明の後、石田、荒井両氏がコメント
 − 知的人材と知財を経営に活用する −

石田:行動の見える化が必要である。「MOTと知財」を考えた場合、日本では、まだ成熟化していない。企業経営のための知財の観点から、本気で整理する必要がある。加藤氏の骨格から考えると、<1>制度的に、経営者の把握が不十分である。<2>それとトレード・オフの関係にあるが、特許などのオープン・イノベーションが必要であり、その際、イノベーションを「技術革新」とすると間違う。著作権権利団体がブレーキをかけている。権利の本質は、無制限、絶対的ではなく、革新の必要がある。<3>技術知財と非技術知財があるが、特に、「技術知財」は、国際競争力を考える上でも、経営レベルに引き上げる必要がある。技術移転や、技術に基づいた影響などを考えると、「知財人材」と「知財」は、経営に活用すべきであり、MOTには知財は不可欠である。「知財」を、オープン・イノベーションとして、企業経営に総合政策的に活用すべきであり、また、当協会は、そうした観点から日本企業に対して、影響を与えるべきである。

法律、制度などを変える必要がある
− 経営者の観点から、知財にアプローチする −

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「アウトプットを社会に訴える」と方針を説明する荒井委員長(右)。左に石田副委員長


荒井:加藤氏の説明で、特に、国際的な視野からの厳しいご指摘と、弁護士等についての比較と提言が大変参考になった。講演では触れなかったが、レジメ後半(6年前のメモ)のご指摘では、(2)三位一体が重要(特許、著作権、トレードシークレット)、(5)技術を作ることの重要性、(7)商品に加え、商標、プランドがさらに重要となってくるが、貴重なご指摘だと思う。そして、私は2点あり、第1は経営、つまり経営者の観点から、役に立つ知財アプローチが今こそ重要であり、そのために法律、制度などを変える必要があると思っている。第2は、特許の問題である。特許は「広い知的な活動の成果」であり、知的資産、知的財産として、前回の石田教授の作業と説明、皆の議論による体系的整理を中心に、今後具体的な検討を進める。

広くアウトプットを社会に訴える

今後は荒井委員長の提案などを基に、社会的なムーブメントを期待するためにも、現在の勉強会方式による委員会編成の作業を続ける。出版や、日経本紙「経済教室」面への寄稿を実施する。


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