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知的財産委員会報告

第3回 知的財産委員会(平成21年10月22日)

10月22日、第3回の「知的財産委員会」(委員長・荒井寿光東京中小投資育成社長)を開催した。講師に芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科の児玉文雄教授を迎えて児玉教授取り組んできた「特許データベースの活用に基づく企業戦略及びイノベーション政策の分析」の研究成果を聞いた。

■第3回 知的財産委員会での報告

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特許データベースに基づく企業戦略の分析成果を報告する児玉教授(左から2番目)。左から石田副委員長、児玉教授、荒井委員長



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「複雑化する問題にも実証的に答えることが可能」と話す児玉教授

10月22日、講師に芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科の児玉文雄教授を迎えて、荒井委員長、石田副委員長、橋田専務理事、小平事務局長が参加して第3回知的財産委員会が開催した。

検索ソフトの進歩で、複雑な問題の分析が可能

児玉教授は「特許データベースの活用に基づく企業戦略及びイノベーション政策の分析」という研究課題に取り組んできた。
この研究の目的は、特許データベースの技術経営や技術政策への有用性を明らかにすることであり、「この研究により、それまでの研究開発費内訳のデータよりも特許データベースのほうが、きわめて有用であることが定量的にも実証された」と意義を語っている。報告書要約に沿って、具体例を交えながら、詳細に研究結果を説明した。

(1)エレクトロニクス化や検索ソフトの進歩

技術戦略や政策分析には、研究開発費統計データが使用され、国の科学技術政策のマクロ分析などに有効性を発揮した。ハイテク技術の進展により、研究開発、技術開発の主役が民間企業に移り、企業ごとの出願特許データベースが有用になり、しかもエレクトロニクス化や検索ソフトの進歩などから、複雑化する各種の問題提起にも実証的に答えることが可能になった。

(2)技術融合型からオープン・イノベーションヘ移行

1990年代以降、パソコン産業のモジュール化が加速し、PC4分野(CPU、IO機器、ディスプレー、メモリー)の特許について、キーワード検索して計測した結果、技術開発の主導権がアッセンブラーからモジュール・サプライヤーに移行したことが分かり、技術融合型からオープン・イノベーションヘ、アナログからデジタルヘ、といった移行が定量的に実証された。

(3)規制緩和と研究開発活動の流動化

産業連関表を用いて、繊維、造船、石油化学などの多角化計測と、特許IPC(国際特許分類)の複数項目の付加情報を用いた観測によって多角化戦略分析の普遍化が分かり、電力、ガス企業と規制緩和の対比分析を行うことで、規制緩和と研究開発活動の流動化を示すことができた。

(4)モジュール化への移行のスピード
 − 特許データベースを使用して自動車メーカーの自主開発率を分析 −

製品分野別にサプライヤーの出願シェアの時系列変化を追跡することにより、モジュール化への移行のスピードが分かり、その計測結果からプラットフォーム経営のあり方を論ずることができ、@部品レベルのモジュール化という構造変化が、PCと内蔵ハードディスクドライブ(HDD)との関係で実証された、A内外の自動車メーカーと電子部品ベンダーなどのプラットフォームとビジネスの関係性について、特許データベースを使用して自動車メーカーの自主開発率、各システム単独の技術開発率、各システム間の相互依存率を測定できた。

(5)研究開発の多様性と組織のダイナミクス

キヤノンのカメラとプリンターの関係ように、コア・コンピタンス技術が変化して持続性を確保する、技術の連続性が実証された。また、発明者間ネットワークの共同作業の変化の定量的分析により、京セラや日本電産などのケースのように、研究開発の多様性と組織のダイナミクスが分かった。

(6)飛び越え型(中抜き)ユーザー開発イノーベション

新たに必要な技術の獲得のために外部企業と連携するが、その技術が重要性を増すにつれて、内部での開発が強化される。トヨタ自動車では、最初は共同出願が多く、軌道に乗ると圧倒的に内製化が起き、松下電器産業では、最初から単独出願が多い。また、旭硝子の自動車メーカーとの直取り引きのように、サプライチェーンを飛び越えた関係間の共同出願特許を調査して、飛び越え型ユーザー開発戦略を調査した。

(7)サイエンス・リンケージ、科学と工学との関連性

バイオ、ナノテク、情報、環境関連の4分野について、特許の学術論文の引用数(サイエンス・リンケージ)を調査すると、バイオは10倍、ナノテクは数倍、情報は非常に低く、環境関連はもっと低かった。化粧品業界では、20%近い増加傾向を示し、医薬品メーカーでは、30〜50%と非常に高く、化粧品における基礎研究とのリンケージが比較的高い。ITは、ビジネス・モデル特許が多い。

(8)技術依存型モデルと科学依存型モデルの相関
 − 産学連携から生み出される発明は基礎的なものが多く、ビジネスには直結しにくい −

化学分野、医薬分野は、研究開発ダイナミクス(技術依存型モデルと科学依存型モデルの相関関係)は高い値となった。これは、技術体系で変わってくる。ブラズマテレビ産業を例にして、戦略転換を行った企業を特定し、その内容についても分析した。  経済産業研究所の発明者サーベイ(2007年)を用いて、特許の持つ技術的価値とビジネス上の価値、科学リンケージ等それらに影響を与える因子の影響を調べると、産学連携は発明の技術的な価値を高めるが、一方ではビジネス上の価値を低下させることが示唆された。これは、産学連携から生み出される発明は基礎的なものが多く、ビジネスには直結しにくいためで、技術分野によっても大きく異なることが明らかになった。

説明の後、荒井氏、石田氏、加藤氏がコメント

荒井:自己認定、自己認証などがあり、特許リコール制も考えるなど、人類の進歩を大前提にした、コピーライト、パテント国際化の中で、知的財産の国際ルールの一本化を推進すべきだ。
石田:この研究結果と企業の有価証券などとのクロスを試みるのも興味深いし、クローズドのオリジナルを尊重しつつ、制度的なオープン・イノベーション、見える化を科学技術振興予算などを使って進めるべきだ。
加藤:この調査研究から“戦略”が読み取れる。あらゆるデータを収集して分析し、特許を広く経営分析や政策立案などに活用すべきである。当社も取り組んでいるが、特許出願を基盤にすると、技術が見え、テクノロジー・ロードマップ(5年後など)も策定できる。

半年後に当委員会としての提言を出す

最後に荒井委員長が「もうしばらくの間、現在のようなやり方を進めて<1>経営者のために、<2>科学技術・文明のために、の二つを最大目標にして、ケーススタディ分析も行いながら、半年後に、当委員会としての提言を出したいと考えている」と締めくくった。


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