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「女性の活躍舞台づくり」委員会

第5回 「女性の活躍舞台づくり」委員会報告

 平成23年11月17日、學士會館(東京・千代田区)にて、第5回の委員会を開催した。当日は(1)「女性研究者の活躍推進とMOT」と題して林裕子山口大学大学院技術経営学科講師が、(2)『IT人材白書2011』より「ダイバーシティ対応〜女性の活躍〜について」と題して本間美賀子委員が、それぞれ講演を行った。

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林裕子氏(中央)が、米国での体験を話す。

■第5回 「女性の活躍舞台づくり」委員会での講演概要と主な意見

1.「女性研究者の活躍推進とMOT」と題する林裕子氏の講演

 林裕子氏から「女性研究者の活躍推進とMOT」と題する講演を聞いて、委員相互間での意見交換を行った。講演の概要及び出された主な意見は、以下の通りである。

1.1 米国での経験

(1)結婚して、夫がワシントンの下院議員の事務所で働くことが分かっていたので、半年ほど早めに米国に行って、留学して勉強をしてからワシントンに行く計画を立てた。私は、MITのセンター・フォア・アドバンスティングスタディという研究所で科学技術政策の研究をした。
 その時、妊娠していて、学校の中の保険室がケアをしてくれた。一番自分の時間が取れる留学の2年の間に子供を産むと良いと教えられた。論文を提出した次の日に産気づいて子供を産むことができた。米国では、働いている人の保険料は高いが、学生は保険が安い。私の出産費用は無料だった。

(2)シースパンという社員の9割が女性の会社で、インターンをしたことがある。国会内の委員会の様子をテレビ中継をする会社で、資料の整理や、委員会の開催予定などを調べる仕事をした。
 米国の働く女性を垣間見ることができた。今日にも産まれるというお腹の大きな女性が働いていたり、腕の太い力強い女性が大きな荷物を持ってくれたりした。男女が平等に働くには、ここまでしなければならないのかと思った。

1.2 議員の妻と自分のキャリア

(1)キャリアも続けていきたいので、山口大学のMOTで科学技術政策を教えている。東京では政策大学院大学でも教えていて、議員会館と山口大学を行き来している。

(2)母、妻、自分で、諦める部分はどういうところか。全部、自分で家事をするのか。良い妻であるべきなのか。家の中をどのようにマネジメントし、お手伝いさんを使うのか。

(3)家事の外部化、家事サービス、育児サービスの拡充が必要。山口の時給が700円、東京だと2,000円で、東京は需要が多いので、高くなるのは仕方ない。山口県は職が無く、働ける場所が無い。質の高い家事サービスを提供してくれる人が沢山いる。

1.3 女性の活躍の現状

(1)女性の研究者の割合は、今13%位である。職業柄は、他の仕事に比較すると女性にとってはやり易い仕事であるにも関わらず少ない。(内閣府「男女共同参画白書」2010年)

(2)日本の中で見ると、2010年に12万人の女性研究者がいて、その比率は13.6%である。日本では過去最高になっている。(総務省統計局「科学技術研究調査」2010年)

(3)国際比較で見ると、リトアニアの49.3%をトップに、ロシアの41.8%、米国の34.3%、英国の26%、韓国の13.1%に続いて日本は2009年13.0%で最低の位置にある。日本は非常に少ない。アメリカと比較しても少ない。スペインは36.7%で、非常に労働環境は日本と似ているが女性比率が高い。日本はどうして少ないのか。

(4)日本でも女性研究者の活躍を促進するための取り組みをしている。日本学術振興会では、「特別研究員事業」などで、出産・子育てのために中断された研究を再開できるように支援する事業に取り組んでいるなどがあるなど、科学技術振興調整費、JST、内閣府、産業技術研究所の事例を交えて紹介してくれた。

1.4 研究職の特徴と問題点

(1)研究職は専門性があるので、女性が入りやすい仕事である。しかし、汎用性がないために、いったん仕事を離れると仕事が無くなってしまう。日本は再雇用に対して硬直的である。

(2)研究職の時間はフレキシブルだが、賃金はそれほど高くなく、育児サービスを使えない。男性が子供の弁当を作ったり、保育園に迎えに行ったり、育児の面倒を見ている。

(3)家事・育児の外部化をするにも費用が高いため、日本ではできない。米国では、学歴と賃金との連動があり、賃金が高くなる。日本では学歴があっても、給与が高くはならない。現状では、博士の資格を持っている女性は多いが、仕事を持っていない。

(4)日本では大学にいったん就職すると、そこを辞めなければ、上に上がる仕組みである。

1.5 クォーター制

(1)クォーター制を日本で加速しなければならない。企業の取締役を増やすことが必要だ。中国では、90年に女性改革があり、女性の国会議員がすぐに増えた。全人代の比例代表の候補者を各政党とも50%としている。同じような動きが韓国にもある。

(2)導入に若い人達に抵抗感は無い。意識を変える上で教育やメディアの役割は大きい。

(3)米国では、政府と契約する時、女性の比率に関するポシティブ・アクションをとっている会社としか契約しないと言われる。積極的な是正策として使えるのではないか。

1.6 女性の技術者を増やす取り組み

(1)技術立国日本にも関らず、女性の研究者に対するデータはあるが、女性の技術者のデータは無い。政府に担当するところが無い。

(2)ドクターを取った時にどこで働くかを考えると、企業の技術者であると考える。分析する上で、女性の技術者の管理者数が分かるデータが欲しい。

(3)ある高校の事例だが、入学時点で6割が理系に行くという希望を持っていても、先生が「本当に大丈夫か」と何度も聞くので、1〜2割しか理系希望者は残らないと聞いた。お父さんとかお母さんが理系の人で、サポートがあって理系の大学に入ることが可能だという。出前授業で出かけても聞いた。進路指導の先生を何とかしないと変わらない。

(4)日本には、技術者を大事にする風土が無い。

2.「『IT人材白書2011』ダイバーシティ対応〜女性の活躍〜について」と題する

本間美賀子氏の講演

 本間美賀子氏から「『IT人材白書2011』より「ダイバーシティ対応〜女性の活躍〜について」と題する講演を聞いた。講演の概要及び出された主な意見は、以下の通りである。

2.1 IPA女性技術者キャリア改革検討委員会報告書の概要

 情報処理が企業戦略になっており、少子高齢化などの背景がある。ダイバーシティの中でも女性の問題に取り組んだ。満足度、管理職指向などに関する意識調査、企業側との課題認識の違い、男女の違い、他業種女性との違いなどを調査した。実態、女性自身の意識、職場の傾向と取り巻く環境、女性への課題の4点に絞って報告した。

2.2 女性技術者の実態

(1)女性の採用比率  533社中の4割は女性を全然採っていない。従業員規模別でも統計を取った。1000名以上の企業では、女性を全然採っていないのは7%で、30%以上採用している企業は、3割強あるというデータとなった。100名以上の中小企業では、全然採らないという企業は3割程度になっている。
 女性のブランド志向にも関係があるのではないか。中小の経営者も言っていたが、中小企業には応募してこないと言っていた。

(2)10年後の在職率  10年後、全然残っていないという企業が男性の8.6%に対して、女性の場合は26%になっている。その差は大きい。

(3)管理職比率  管理職0%という企業が、49.2%。いても10%と答えたのが3割弱。規模別で1000名以上の企業の場合でも、10%未満が約8割を占めていて大企業でも少ない。

2.3 女性自身の意識

(1)管理職指向  今回の白書では、男女との違いが無かった。IT系は専門職志向の男性が多いことも影響していないか。この質問では、「分からない」を外している。

(2)仕事に対する意欲  組織業務に関する意識、男性のほうが高い。業績を伸ばす部門に女性はつかないことが多いのが影響していないか。

(3)グローバル化に関する意識  グローバル化に関しては、女性の方が男性よりも有利になると回答している。

2.4 職場の傾向と取り巻く環境

(1)「女性にしかさせない仕事がある」とは、具体的にどのような仕事なのかという質問が出た。「重要度の低い仕事」、「メインではない仕事」、「小さい仕事」などと回答。

(2)「クライアントとのコミュニケーションは女性にさせる」と聞く。ポジティブ、ネガティブ両方あって、顧客対応は女性の方か有利だとか、顧客との対応で無駄な時間を使いたくないなどが理由である。

(3)妊娠期にかかっている女性には、最前線の仕事はさせられないとか。出産後は現場に戻れないとか、やらせても責任の余りない仕事につけるとかになる。

(4)日本の企業では男性にしかさせない仕事がある。例えば、金融関係のお客さんのプロジェクト責任者に女性をアサインしない。しかし、IBMの曽我さんは、金融部門の部門長で、それは凄いことである。

2.5 女性が活躍するための課題

(1)女性と経営層の比較で顕著なのは、女性は「経営層の意識」に問題がある(38%)と言っている。それに対して経営層は、自分達に問題は無い(11.6%)と言っている。

(2)「女性自身の意識・能力」に問題があると言っているのは、企業側が7割に対して、女性は34%である。女性に経験させていないことも大きいのではないか。

(3)「女性自身の意識・能力」に対する男性の年齢別意識の変化を見ると、20代が34.7%であるのに50代が57.7%となっており、年代が上がるにつれて差が出てきている。

(4)経営者でもお嬢さんがいると、女性に対する理解が違う。マネジメントが全然違う。

(5)IBMの取り組みが良いのは、米国ではダイバーシティをやらないと訴訟が起きたりするので、女性問題を含めてマネジメントをしているのだと思う。


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